婚約破棄された悪役令嬢は自由に生きようかと。~気分転換に冒険者になったら指導担当が最強冒険者で学園のイケメン先輩だった件~

三月べに

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二章・多忙な学園の始まりは、恋人と。

91 『流浪の賢者』セレヴィアス。




 お昼休みの時間に、再び集まったら今朝よりも生徒が増えていた。
 同じ症状に悩む生徒同士で声をかけてきたのだろう。

 そんな彼らをぞろぞろと連れていき、私とルクトさんは学園長室へ訪ねた。

 学園長ことディベッド大叔父様には、予め担任に伝言をお願いしていたので、すんなりと中へ通してくれる。

 連れてきた生徒達の説明もすると、ディベッド大叔父様は険しい顔を曇らせた。
 これほど多いとは、予想外なのだろう。そして問題だと考えているはずだ。
 ここまで神殿やポーションに拒絶反応を出す生徒がいるとは、問題である。
 そんな大叔父様に、ネクロマンサーに頼って『賢者』を呼び出すことを話した。

「『賢者』に聖女のことを尋ねるつもりかい?」
「はい、その通りです」

 そう。私は『賢者』を交霊術で召喚して、聖女について、尋ねるつもりだ。

 放課後。
 ルクトさんと合流をして、向かった先はとある部室。
 『交霊部』という貼り紙がされていた。そのままだ。

「ソーシャン、『交霊部』の部長だよ。こちらが、リガッティー」
「四年生のソーシャン・エトラです」
「三年生のリガッティー・ファマスです。今回はよろしくお願いいたします」

 ソーシャン先輩は、少し目の下に隈が目立つ陰湿な雰囲気の黒髪の男子生徒だった。ちなみに、彼は昼休みにもいた生徒だ。黒のローブを揺らして、奥の部屋まで案内してくれる。

「『賢者』なら去年、交霊で召喚したが……オレでは『賢者』のお眼鏡に敵わなくて、ロクに話をしてもらえなかったんですよね。あ、ご存知ですよね? 『流浪の賢者』セレヴィアス・オーティンは、魂を留めて交霊術で召喚する許可を、生前公表しました。”自分の持てる知識を、後世に語る賢者”です。ただし、条件があって……初心者でも交霊術は成功しますが、話をしてくれるかどうかは『流浪の賢者』が興味を示した場合のみです」
「存じています。500年前の人間と魔族のいがみ合いを止めた功労者のお一人、『流浪の賢者』セレヴィアス・オーティン様は、自身の膨大な知恵を授けると生前告げましたが、興味を引く召喚者のみという話だそうですね」

 この世界の創造主、女神キュアフローラ様。万人を愛して、癒す女神。
 そんな女神が、光属性の持ちの少女に強い力を与えて、万人を癒す聖女として、地上を託したという伝承。
 このハルヴェアル王国では、800年の歴史の中で、三人だけ。

 一代目は、女神キュアフローラ様の分身とまで言わしめた大変美しい少女だったそうだ。約800年前。

 二代目は、強力な光魔法で、争いが絶えない人間と魔族にいがみ合うことをやめさせた功労者の一人。それが約500年前。

 三代目は、まだまだ幼い少女らしかった。それでも、強力な光魔法の癒しで、多くの命を救った最年少の聖女。それが100年前。

 二代目の聖女の名前は、ベアシリアン。
 その二代目聖女の仲間は、ハルヴェアル王国の勇者と呼ばれた方、他国の王女、王子、そして、流浪の賢者、最後に魔族の女王だった。
 その『流浪の賢者』は、死者を呼び起こすネクロマンサーが起こすことがある。
 しかし、一筋縄ではいかない。

 ネクロマンサーが呼び起こせるようにこの世界に魂を留めてくれているが、興味のあることを話す召喚者だけに知恵を与えるのだ。

「『賢者』の興味を引く勝算があるんだよね? リガティ」
「どれが賢者様の興味を引くかは賭けですが、私から提供出来る話題はいくつかありますよ」

 ルクトさんが首を傾げて確認してくるので、私はウインクしてそれだけを答える。
 まぁ、婚約破棄をされて冒険者になった侯爵令嬢ってだけでも、興味深いと思うけれど、他にも提供出来る話はあるのだ。

 部室の奥には、交霊術のための魔法陣が描かれていた。
 交霊術は、一人で十分に行使は可能だ。今回、ネクロマンサーのソーシャン先輩が務めてくれる。

 ネクロマンサーの交霊術も、闇属性だけれど、私は専門外だ。それくらい、特殊である。

 ソーシャン先輩は、早速始めてくれた。私とルクトさんも、彼の後ろに立って見守る。

「セレヴィアス・オーティンの魂よ。我が召喚に応じよ」

 長い呪文の末、部屋は薄暗くなって、魔法陣の真ん中には周囲の光を集めたかのように光が灯った。それが人の形になっていき、ローブをまとい片眼鏡をかけた美しい青年が姿を現す。

 透けた身体だが、深緑色の髪は波打っていて長めで、後ろに一つに束ねている。やや吊り目の目元。涼やかな顔立ちの青年は、不遜な態度で腕を組んで周囲を見回した。

「またお前か、ソーシャン・エトラ。お前に知識を与えることは拒否したはずだ」
「わかっておりますよ、自分がフラれたことは。今回の相手は自分ではありません」

 召喚された魂の『流浪の賢者』セレヴィアス・オーティンが、つまらなそうな表情でソーシャン先輩を見やる。そんな反応をされても、ソーシャン先輩は肩を竦めて流すだけで、私に場所を譲ってくれた。
 セレヴィアス様の前に出た私は、スカートを摘まみ上げて淑女の礼を取る。

「初めまして、お会い出来て光栄です。私はファマス侯爵家の長女リガッティーと申します。『流浪の賢者』セレヴィアス様」
「侯爵令嬢だからと言っても、私は私の知識の対価になるような話が聞けないならば、眠らせてもらうぞ」

 フン、と鼻を鳴らす幽霊。侯爵令嬢でも臆さない。そこら辺の貴族相手に、こびへつらう必要のない英雄だもの。
 眠らせてもらう。それは交霊術を終えるという意味かしら。

「私はつい先日まで、第一王子殿下と婚約をしておりました。けれども、公衆の面前で婚約破棄を言い渡されました」
「ふむ。とんでもないゴシップではあるが、私はゴシップに興味はないのだ」

 王子との婚約破棄。重大なものだが、ゴシップには興味はないとセレヴィアス様は言い切った。
 けれども、ただのゴシップではないので、私は微笑みを保って続ける。

「婚約破棄の理由は、とある令嬢に嫌がらせをしていたという罪からでした。それは冤罪だと証明出来ましたし、その令嬢が私を嵌めようとしたことも明らかになりました。例の令嬢は、王族殺害未遂の罪の疑いもあり、裁判にかけられました」
「ほう……なかなか悪女のようだな」
「その悪女が、いざ裁判が始まろうとした時、神殿長に聖女判定されて神殿が保護してしまったのです」
「……なるほど。それは面白い話だな」

 婚約破棄に始めり、王族殺害未遂の罪にも問われるはずだった令嬢が、一転。聖女として神殿に保護された。
 つまらなそうな無表情は、ニヤリと口角を上げる笑みに変わる。

「私がセレヴィアス様の知恵をお借りしたいのは、ズバリ『聖女』に関するものです。この件を詳しくお話いたします」

 ニコリと笑みを深めた私は、セレヴィアス様の興味を引けたと確信した。
「流石、リガティ」とルクトさんが褒めてくれたが、十分な興味深い話題だっただろう。

「面白い話だと思っただけだ。まぁ、『聖女』に関して情報を話してやろう」
「『賢者』であるセレヴィアス様の知識から『聖女』の情報をいただけたら、それで。ああ、でも……もっと面白いと思っていただけるなら……私が冒険者になった話でも聞きますか? さらにはつい先日下級ドラゴンも討伐しました。あ、こちらのルクト先輩と共闘して、です」
「あ、オレがリガッティーの指導担当の先輩。Aランク冒険者のルクト・ヴィアンズです」

 流れでルクトさんも名乗って挨拶をした。

「王妃候補だった貴族令嬢が冒険者? しかも下級ドラゴンを討伐か」

 下級ドラゴンもピンキリはあれど、私のような肩書きの令嬢が討伐するのは、珍しい話だろう。

「ただの下級ドラゴンではないですよ。上級ドラゴンも目じゃないほどの巨大なドラゴンでした。しかも属性は闇です。自分もリガッティーも、光属性は持っていなかったので少しは手こずりました」

 へらりと笑って見せるルクトさんだが、彼は合計十一体のドラゴン討伐をしている。謙遜だ。
 むしろ、その功績を話した方が、面白いと食いついてくれる気がする。最速最年少Aランク冒険者の話。

「婚約破棄を宣言されなければ、冒険者になることもなかったでしょう。王族殺害未遂の罪を被せられそうでしたが、冒険者活動をしていたおかげで、アリバイになりました」
「それは詳しく聞いてみたいものだな」
「ええ、話しましょう」

 これで交渉は成立かと思ったが、ダメ押しをしてみようと思った。

「ダメ押しで提供出来るお話もあります。セレヴィアス様は魂をこの世界に留めているということですが、『転生』についてはどうお考えですか?」

 それを口にすると、セレヴィアス様のやや吊り目が細められる。反応が明らかに違った。

「『異世界転生』について、私はお話しすることも出来ます」
「……それは、興味深い」

 セレヴィアス様の声のトーンも低くなる。本心のようだ。
 転生を拒むように、この世界に魂を留めている『賢者』は、異世界転生に興味を持っている。
 それならば、異世界転生者である私との交渉は、確実に成立だろう。

「リガティ?」

 ルクトさんはなんのことかわからず、不思議そうに私を見つめた。
 そんな彼にも、私は話そうと思うのだ。あの乙女ゲームヒロインの件を片付けたあとに。

 そんなルクトさんの反応で、彼は『異世界転生』について知らないと理解したようで、薄っすら透けたセレヴィアス様は宙で足を組んで浮遊。しかし、魔法陣からは出ない。

「話はファマス侯爵令嬢のみとする」

 そう条件をつけてきた。私一人と話す。
 交霊術で呼び出したのは、ネクロマンサーのソーシャン先輩だけれど、呼び出された魂は魔法陣から出れない。話すだけなら、ソーシャン先輩が席を外すのは可能だ。
 ルクトさんは少し心配そうに私に視線を送るけれど、大丈夫と込めて微笑んでおく。

「ルクトさんにも、そのうちお話しますから」
「……わかった」

 そういうことで、交霊術の魔法陣の部屋には、セレヴィアス様と私が残された。

「転生者なのか?」
「はい」

 率直に尋ねられて、私はすんなりと頷く。

「ほう……一番興味深いが、とりあえず婚約破棄から話を聞こうか」
「そうですね。第一王子殿下と婚約した話から」

 私は簡潔に婚約をして第一王子のミカエル殿下を支えてきたことから話す。
 件の令嬢、ジュリエット・エトセト子爵令嬢は、ミカエル殿下達にすり寄った。
 私を嵌めようと、なりすましをさせたが、アリバイがしっかりあったので冤罪は全て晴らした。
 国王陛下を始め、国の重鎮達の前で、私の潔白は証明は完了した。
 ミカエル殿下以外にも、重鎮の息子達がジュリエットにたぶらかされた。

「そうですね……この際ですから、転生についてお話します」
「このタイミングで?」
「はい。私も、ジュリエットも、『異世界転生者』なのです」

 こうして他人に話すのは、初めてだ。
 ピクリと片眉を上げたセレヴィアス様は、浮遊しながらも足を組み直した。

「前世では、ジュリエットが主人公の『物語』がありました。『物語』の中では、私は悪役令嬢……悪役です。婚約破棄は『物語』のメインイベントでした。『物語』の中では、悪役のリガッティー・ファマスは婚約破棄の場で、断罪されました。しかし、現実では違いました。私の考えでは、『転生者』なので魂が違うから前世にあった『物語』と違ったのだと推測しております」
「『転生者』はその『物語』にとってはイレギュラーか。実際、『物語』の配役通りではなかったのだろう?」
「ええ、そうです。根本的に違うので、悪役のリガッティー・ファマスのような悪行は、私は行わなかった。けれども、『物語』に執着しているジュリエットが悪行を再現して、結果自滅」

 それが『転生者』のジュリエットの結末――――のはずだった。

「しかし、ジュリエットとやらは、『聖女』と認定されて神殿に保護された。それは『物語』には?」

 セレヴィアス様は先回りをして質問してきたので、私は首を左右に振る。

「いいえ。『物語』の中のジュリエットは、光属性持ちではあっても聖女認定されてはいませんでした。ジュリエットの魅力を表現するように”聖女のよう”と表現されてはいましたが……」

 『異世界転生』の話もしたし、本題を聞き出すことにした。

「セレヴィアス様は、生前二代目聖女様とともに人と魔族のいがみ合いを止めたお方」

 聖女本人と知り合っているのだ。詳しいのではないか。

 そう尋ねようとしたが。

「ベアシリアン、あの女か」

 セレヴィアス様はげんなりとして顔を歪めた。
 どう考えても、聖女に対する反応ではない。

 まぁ、しかし。ジュリエットが聖女と崇められれば、私も似たような反応をするかもしれない。

 何はともあれ、図書館では調べられない『聖女』について。
 ようやく知ることが出来るだろう。




※※※


書籍化までもう少し!
ヒロインとの第二ラウンドまでもう少し!


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