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02 神に拾われた転生者。

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 気付けば、そこにいた。
 床や天井があるかも疑わしくなる純白の空間。
 でも立っていたのだ。私は立っていた。
 目の前には、とても紳士的という印象の白いスーツを着た老人が、同じく立っている。シワがあって、整えられた髭があって、温かな微笑みを浮かべていた。

「ここは天国……ですか?」

 地獄と思うには、あまりにも純白すぎる。
 目の前のスーツの老人も、なんだか天国の案内人っぽい。

「ある意味、天国ですよ」

 老人は優しく穏やかな声で答えた。

「……死んだのですか。私」
「残念ながら」
「そうですか……」

 冷静に受け止めるけれど、死んだ時のことを覚えていない。
 少し不幸な人生だった。
 調和の取れてない家庭に育ち、ブラックでもホワイトでもないグレーな職場で働いて、他人に特別愛されることなく愛することなく、幕を閉じた人生。
 どうして、こんな人生なんだろう。
 生きている時、何度か自分が自分であることに疑問を覚えていた。
 どうして、私は私なのだろう。
 自分の視点が、不思議でしょうがなくなる時があった。
 それは暗に他の生き方があるかもしれないと思っていたからなのかも。
 なんて今更遅いか。

「死因を知りたいですかな?」
「いえ、このまま忘れていた方がいいです。嫌なことなんて、忘れていた方がいいでしょう」

 多分、私は微笑んだ。なんだか、ぽやぽやしている気がする。
 老人は気の毒そうな目で私を見た。

「それでは生まれ変わっても、記憶はない方がいいですか? これからあなたを転生させようと思ったのですが……」
「転生!」

 転生という単語で思い出すのは、私自身、転生もののラノベが好きだったこと。
 始まりはそう。超がつくほど夢中になった少年漫画に転生するという二次創作こと夢小説だ。大好きな少年漫画の中に入るような話。思春期を、それで乗り越えた。
 その後、転生もののラノベに夢中となる。
 異世界で最強無双の転生ものから、架空の乙女ゲームの世界に転生するものまで、読み尽くした。好みじゃないものは途中で読まなくなったから、読み尽くしたは言い過ぎかも。

「記憶ありで、転生したいです!」

 別の人生を歩む。それを自覚しておきたい。

「そうですか。よかったです。実はですね……あなたは地球の輪廻の輪から零れ落ちてしまった魂なのです。地球の神が見落としてしまったので、私が拾った次第です」
「え、もしかして、神様ですか?」
「はい、こう見えて、神です」
「あ、それは失礼しました。てっきり紳士的な案内人かと……なんで余計なことを」

 何故か正直に話してしまう。

「いいのですよ。この空間では嘘がつけません」
「そうでしたか」

 別に嘘なんかつかないけれども。

「じゃあ地球とは違う、異世界に転生してもらえるのですね?」
「ええ、そうです。どんな世界がいいですか? 地球に酷似した世界、少し後退した中世風の魔法の世界」
「中世風の魔法の世界がいいです! 魔法好きです!」
「それはよかったです。他に要望は?」
「あっ、えっと、出来れば悪役令嬢もどきが幸せになるような人生がいいです! ってワガママですかね?」

 最後に読んだラノベが、悪役令嬢に転生したけれど愛されてハッピーエンドを迎える内容だった。そんな人生がいいと思ってしまったら、口にしていたのだ。
 紳士な神様は、相変わらず温かい笑みを浮かべていた。

「そんなことはないですよ。では伯爵令嬢なんてどうでしょう。それなりに力ある伯爵家の生まれにしましょうか。大丈夫ですよ、愛情深い夫婦を見付けてあげます」
「ありがとうございます! 両親から愛情を受けて育つだけでも幸せです!」
「それはそれは……。そうだ、魔力でステータスが表示出来る世界なのですよ」
「ステータスってゲームみたいな?」

 ラノベでもあったな。ゲームみたいなそんな設定もの。

「はい。基本的には、自分自身しか見れないのですがね。そこに表示される魔法レベルをどれほど高めるか、決めておきましょう」
「魔法レベル! ……色んな魔法を使いたいですけれど、一番は召喚獣や召喚魔が召喚出来る魔法がいいです」
「それなら召喚士という職業に適してますね。ですが、まずは契約をしなくてはいけません。合意がなければ、成立しない少々難しいものですね。では好かれやすいように加護を与えておきましょう」

 そこまでしてくれるの?
 特に徳を積んだ覚えがないのに、本当にここまでしてもらっていいのだろうか。私の死因はそこまで残酷だったのだろうか、と悪い想像をしてしまいそうになった。

「これは神の気まぐれにすぎませんよ。拾った魂にあれやこれやと世話を焼きたい、ワガママにすぎません」

 声に出してしまったのか、柔和な笑みで神様は答えてくれる。

「それでは、ありがたく受け取りますね」

 私は心から安心をした。

「そうだ、賢者だった者が同じ世界で転生を望んでいるようなので、その者を従魔にしたらどうでしょう。色々、指南してくれて役に立つでしょう」
「あーそれはとても助かりますが、その人がそう望んでくれるなら」
「私から頼んでみましょう」

 元賢者が従魔なんて、異世界でも心強い。

「名乗り忘れていました、私は創造の神シヴァミネです」
「あ、私は……あれ、ど忘れしてしまいました」
「いいんです、これから新しい名で生きるのですから」
「それもそうですね」

 自分の名前を忘れるなんておかしいけれど、前世から来世に変わるのだ。
 そんなにおかしくはないのかもしれない。

「魔法は全能的に使えるように、召喚士としての能力は上。身体能力の方も、不便のないように上げておきましょうか」
「何から何までありがとうございます、神様」
「いいんですよ。そうだ、他に何か困った時は教会で祈ってください。そこでお話が出来ます」
「教会ですね、覚えておきます」

 私はワクワクしていた。
 これから始まるであろう新たな人生に、興奮さえ覚えていたのだ。
 好んで読んでいたラノベのような人生が、幕を開けるのだと。
 楽しみにしていたのにーーーー。



 神様に散々恵まれたと言うのに。
 悪役令嬢のごとく婚約破棄をされ。
 ハーレム勇者パーティーを追放され。
 今頃になって、やっと思い出した。


 
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