23 / 29
23 植物使い。
しおりを挟む名前もわからない植物使いの妖を怒らせてしまい、今襲撃に遭っている。
いばらがいつまでも私を追いかけて、抱えて逃げてくれるみやちゃん。
狼くんはスピードで勝負に出た。
瞬きの間に間合いを詰めて、鋭利な爪で引き裂こうとする。
「どんなスピードであっても、無駄だ」
いばらが彼を守って、狼くんに棘を向けた。
狼くんは後ろに飛び退いて、回避する。
やはりなす術がない。
「おい!? どうした!?」
神宮先生の声。見れば、正面玄関に姿を見付けた。
でもその玄関にはいつの間にか蔦が伸びていて、出れなくしているようだ。
「ラチがあかない! みやちゃん! 彼のところに戻って!」
「狙いは小紅芽ちゃんだよ!?」
「考えがあるから行って!!」
「ううーわかったよ!」
私を横抱きにしているみやちゃんは一度躓きかけたが、いばらを躱しながら緑の髪の妖の元に戻ってくれる。
「……」
彼が無言で返り討つと腕を振り、一度戻ったいばらをまた放つ。
私は両手を突き出した。霊気をボールのように固められるなら、壁のようにすることも可能なはず。一か八かの勝負。
バシン!!
いばらと霊気の壁がぶつかり合い、いばらは弾け飛んだ。
「! ……」
彼の顔が歪む。そのまま腕を振った彼に従い、再びいばらが伸びてきた。
十分近付けた私は、みやちゃんに下ろしてもらって、また壁で弾く。
間合いを詰めた。
「ごめんなさい、ね」
「!?」
霊気を込めて、拳を固めて腹を殴る。
殴るなんていう行為をやったのは初めてだから、不格好になったかもしれない。霊力は爆発したように、彼を吹っ飛ばした。
ひぃい! そんなつもりはなかったのに!
私は驚愕してしまう。ちょっと拳がヒリヒリする。爆発の反動だろうか。
「っ……」
一度は倒れた彼が、お腹を押さえて立ち上がる。
「もうやめましょう。何故そんなに怒るのですか? 悲しそうな目をして……」
「俺を視るな……。そんな同情した目で視るなっ!」
いばらが彼の背後でまた伸びる。
「俺はいい妖なんかじゃないっ! 怖がれっ!!」
何が彼をそうさせるのか、わからなかった。
理解出来ないけれども、私は襲いかかるいばらを弾き飛ばして言う。
「ごめんなさい。あなたのことは怖くありません」
「っ……俺を、視るなっ……」
片手で顔を覆う彼は、よろめいた。
次の瞬間、肌が植物のように若緑色になり、白目部分が黒に染まった赤い瞳がギロリと私を睨み付ける。禍々しい妖気を感じた。
「これでもか!?」
ビクッと私は震え上がった。その妖気を肌にひしひしと感じる。
彼の身体には、いばらが絡み付く。鎧のように、いばらをまとった。
その彼の後ろをとった狼くんが踵落としを決めるけれど、通じていないようだ。いばらが伸びて、狼くんを吹っ飛ばす。
「狼くんっ!!」
校庭に狼くんの身体が転がる。
「小紅芽、前!!」
みやちゃんに呼び捨てにされたかと思えば、目の前にいばらが迫っていた。私はまた霊気の壁を作って、弾く。
「小紅芽ちゃん、もう一回パンチして!」
「えっ!? あ、うん!!」
和真くんの声がしたかと思えば、腰を持ち上げられた。
和真くんのスピードで間合いを詰める、という意味だと受け取り頷く。
いばらが阻むけれど、霊力でぶつかって弾き、懐に入った。
彼の腹部をパンチというより、突き飛ばすようにして霊力を力を込めて放つ。
「ぐあっ!!」
バンッとまた爆発したようになり、彼が飛ぶ。
掌がヒリヒリした。
微かに動いたけれど、いばらが引いてなくなり、彼は倒れたまま。
「やった……か?」
「……うん」
禍々しい妖気が、ぱったりと途切れた。気を失ったみたい。
「大丈夫か!? お前ら!」
やっと玄関から出れた神宮先生が問い詰める。
「遅いよ神宮先生!」
「元はと言えば、雅がいけないのですよ」
「ええ!?」
文句を言うみやちゃんを、真っ先に咎めるのは狼くん。
そんな狼くんと和真くんの手当てをしようと、手招きをする。
「手当てするよ」
「大丈夫ですか? 二発も霊気を放っていたようですが」
「うん? 私は大丈夫」
別に疲れてもいない。私よりも、怪我だ。
痛々しく抉られたような怪我が手にある。いばらを殴ったりしたからだ。
和真くんの方は、腕に引っ掻かれたような傷が出来ている。
両方に手を翳して、霊力を注いで熱をイメージした。
「おっ。あったけー……」
「そうですね……」
ポッと熱が灯る掌。
暫くそうしていれば、傷が塞がった。
「あ、れ……?」
「小紅芽ちゃん!?」
クラッとくると、真後ろで傍観していたみやちゃんに受け止められる。
「さすがに疲弊してしまいましたか。保健室に休みましょう」
「よっと!」
「うん……みやちゃん、力持ちだね」
「これでも男の子だからね!」
またみやちゃんに横抱きにされた。
私を抱えて走れていた辺り、かなりの力持ち。男の子の範囲を超えている力持ちだと思う。
「あの妖はどうするのですか?」
「あー……目ぇ覚ましたら、魔界に帰ってもらう」
「そうですか……」
「気を失ったまま帰すのは酷だ。村田先生に診てもらうか」
「そうですね」
危険らしい魔界に、このまま帰すことはしない。
狼くん達が肩を貸して保健室に運んだ。
「ほら、飴でも食べていなさい」
「ありがとうございます」
私と彼は並んだベッドに横たわる。
村田先生に押し付けられた飴玉を黙って口の中に入れた。
ちょっと眠くなる。飴をかじって食べた。
少しだけ、眠ろう……。
そう意識を静かに沈めた。
夢を見る。
いや、記憶を見た。そう言った方が正しい。
緑の髪をした彼の記憶。
昔、とても昔。ある女性の美しい庭に、彼は佇んでいた。
毎日のように手入れする女性を見つめていたのだ。
ーー例え視えていなくても。
ーー俺は君を……。
ーー愛している。
そう彼の声を聞く。
その女性を愛しているのだ。彼が視えていなくても。
けれども別れがくる。女性は老いて亡くなったのだ。
魔界に戻った彼は、酷く荒れた。悲しみが、私を襲う。
愛していた人を亡くした気持ちは、わかる。私も両親を亡くして、たくさん泣いた。
荒れて暴れる彼が、酷く悲しく感じられた。悲しみに胸が引き裂かれそうだ。
ーー醜くなった。
ーー例え君に視えていても。
ーー俺は酷く恐ろしいものだろう。
彼は悪名高い妖となってしまった。
姿が恐ろしい妖となってしまった。
嫌悪するほどの妖になってしまった。
ああ、だからだろう。
私と和真くんの会話を聞いていた彼は、人間と妖は相容れないと思ったのだろう。自分はいい妖ではないと寂しさを感じたのだろうか。
羨ましさを感じたのだろうか。
悲しさをより一層深く感じたのだろうか。
「……」
目を開くと、涙が頬を濡らしていた。
彼ーーーー名前を翠(みどり)は、起き上がっている。
「……見たな」
私を一瞥する彼から、敵意は感じない。
「ごめんなさい。盗み見るつもりはなかったのですが……」
「……」
「なんか気に障ることばかりしているみたいで、すみません」
私も起き上がって、深々と頭を下げた。
0
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ
さら
恋愛
会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。
ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。
けれど、測定された“能力値”は最低。
「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。
そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。
優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。
彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。
人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。
やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。
不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
捨てられた地味な王宮修復師(実は有能)、強面辺境伯の栄養管理で溺愛され、辺境を改革する ~王都の貴重な物が失われても知りませんよ?~
水上
恋愛
「カビ臭い地味女」と王太子に婚約破棄された王宮修復師のリディア。
彼女の芸術に関する知識と修復師としての技術は、誰からも必要性を理解されていなかった。
失意の中、嫁がされたのは皆から恐れられる強面辺境伯ジェラルドだった!
しかし恐ろしい噂とは裏腹に、彼はリディアの不健康を見逃せない超・過保護で!?
絶品手料理と徹底的な体調管理で、リディアは心身ともに美しく再生していく。
一方、彼女を追放した王都では、貴重な物が失われたり、贋作騒動が起きたりとパニックになり始めて……。
婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される
さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。
慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。
だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。
「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」
そう言って真剣な瞳で求婚してきて!?
王妃も兄王子たちも立ちはだかる。
「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる