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徐州の場合
だから怪しい賊だといっただろ
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中国はまさに戦国乱世だった。
けど、徐州はまた平穏を取り戻しつつあった。まぁ、ほんの一瞬なんだろうけど。一瞬でも平和を謳歌できるに越したことはない。
……平和な時は、主君がクソだろうが何だろうが変わらないもんだな。
ああ、そうそう。ちょっと事件があったんだ。
呂範ってやつが来てさ、孫策軍を迎え入れて欲しいって。孫策といえばちょっと前に協力した孫堅の子供じゃん。孫堅軍ってやっぱ強いわけだし、迎え入れればいいものをさ、陶謙は呂範を捕らえて拷問したんよ。
「お前は袁術の間者だろ!」
って。みすみす孫策軍を逃しちゃったんだよね。まぁ狂犬孫策を手元に置くよりはよかったのかなって思う今日この頃だわ。
そんなこんなで、平穏無事だった俺の日常終わりを告げる事件が起こった。
謎の武装集団の発生だ。
若者ら1000人余りが諸県を荒らしまわっている。至急増援送られたし。
だってさ。先の黄巾討伐で陶謙に目をつけられて俺は、許耽と一緒に現場へ急行した。
「な、なぁ……」
「何です?」
「ああ、いやぁ、あの、な? 今回の賊? のことなんだが」
「……ええ」
「黄巾ではない? んだよな?」
「そのようですね」
「じゃあなんでこんなことに……」
「糜芳殿が言いたいのは、黄巾でもないのに我らが出陣するほど強い賊とは何か、と言うことですね」
「ああ、うん。そう」
「まどろっこしいですね……」
ああああああ! 分かっちゃいるけど! ……しゃーないじゃん喋るの得意じゃないんだから。
まぁ許耽が悪いやつじゃないってのはよくわかった。
この許耽、陶謙と同郷の誼で重用されている。率いるのは「丹陽兵」。気性が荒いが勇猛で、恐れを知らない天下の強兵っていう評判だ。そいつらを淡々と率いてるのは結構すごいんじゃないか? まぁそいつらと打ち解けてるうちの兵士もなかなかのもんだが。
今回の討伐軍は俺の糜家兵300余と許耽の丹陽兵700余を中核として、他に1000程度が陶謙から預けられた。賊に倍する兵力だ。
賊軍は県に乱入して食料衣類を奪うと、旧城に籠るそうだ。今はそのオンボロ城に賊兵はいないらしい。まったく、兄上が空の城は野盗のねぐらになるから壊せとさんざん進言してたのに。
斥候が戻ってくる。
「右側から土煙が上がっています。小勢です」
「ようし。糜家兵と丹陽兵200は先鋒に。中軍は私が率いて糜芳殿を援護する。残った丹陽兵は二手に分かれて挟撃しろ」
許耽はてきぱきと指示を下す。
っていうかまた俺が先鋒かよ。ふざけんな。次は俺が指示だそうかな。
「出撃せよ!」
「おおっ!」
兵士の気合がこだまする。腹に響くなぁ。許耽は俺のもとに来て
「先鋒はお譲りいたす。ご武運を」
なんて言いやがった。お譲り、じゃねぇんだよ。いらねぇわ。
程なく敵兵が視認できるくらいまで近づいた。ここまで来て兵は止められない。
おろ? 敵が反転して逃げ出した。やった! 背中を見せた敵なら怖くない!
「追え! 追え!」
思わず考えなしに叫んでたが、これが最適解だろう。兵士の士気はさらに上がる。後ろのほうで許耽も何か絶叫してる。
賊兵は地散り散りになっていった。兵士たちは狂乱して追うので、それぞれに気をとられて統率を欠いた。それが運の尽きだった。
誘われてバラバラになった兵士たちの合間を縫って一騎、風のように突撃してきたものがいた。あっという間に迫られてしまう。悪鬼だった。
「将軍、いざ給え!」
そういいながら戟をあり得ない速さで降り下してきた。左手に持っていた戟でそれを受ける。幸い、兄上との剣術稽古のおかげで反射はできた。でもその威力たるや兄上の比じゃない。肩までじんじんする。指先なんか力が入らない。
怯む俺に、敵は容赦なく追撃する。……ああ、死んだ。先鋒なんかやるんじゃなかった。途中で逃げ出せばよかった……。…………あれ、攻撃がこない。
「間に合った!」
後ろから許耽が馬を飛ばしてくる。悪鬼は落馬して苦痛にゆがむ顔で俺を見上げており、その脾腹は赤に滲んでいた。近くを見やると少し血に汚れた剣が転がっていた。……誰かが剣を投げつけたのだろうか。
「賊め、観念しろ」
そういう許耽の腰の剣がない。彼が助けてくれたのだ。悪鬼は何もせず黙りこくっていたが、不意に砂を投げつけてて来た。俺たちがひるんだすきにヒラリと馬に飛び乗って逃げた。
「俺の名は曹仁! 覚えておくといい!」
そう叫ぶ後ろ姿を見送る。俺はその名に愕然としていた。
けど、徐州はまた平穏を取り戻しつつあった。まぁ、ほんの一瞬なんだろうけど。一瞬でも平和を謳歌できるに越したことはない。
……平和な時は、主君がクソだろうが何だろうが変わらないもんだな。
ああ、そうそう。ちょっと事件があったんだ。
呂範ってやつが来てさ、孫策軍を迎え入れて欲しいって。孫策といえばちょっと前に協力した孫堅の子供じゃん。孫堅軍ってやっぱ強いわけだし、迎え入れればいいものをさ、陶謙は呂範を捕らえて拷問したんよ。
「お前は袁術の間者だろ!」
って。みすみす孫策軍を逃しちゃったんだよね。まぁ狂犬孫策を手元に置くよりはよかったのかなって思う今日この頃だわ。
そんなこんなで、平穏無事だった俺の日常終わりを告げる事件が起こった。
謎の武装集団の発生だ。
若者ら1000人余りが諸県を荒らしまわっている。至急増援送られたし。
だってさ。先の黄巾討伐で陶謙に目をつけられて俺は、許耽と一緒に現場へ急行した。
「な、なぁ……」
「何です?」
「ああ、いやぁ、あの、な? 今回の賊? のことなんだが」
「……ええ」
「黄巾ではない? んだよな?」
「そのようですね」
「じゃあなんでこんなことに……」
「糜芳殿が言いたいのは、黄巾でもないのに我らが出陣するほど強い賊とは何か、と言うことですね」
「ああ、うん。そう」
「まどろっこしいですね……」
ああああああ! 分かっちゃいるけど! ……しゃーないじゃん喋るの得意じゃないんだから。
まぁ許耽が悪いやつじゃないってのはよくわかった。
この許耽、陶謙と同郷の誼で重用されている。率いるのは「丹陽兵」。気性が荒いが勇猛で、恐れを知らない天下の強兵っていう評判だ。そいつらを淡々と率いてるのは結構すごいんじゃないか? まぁそいつらと打ち解けてるうちの兵士もなかなかのもんだが。
今回の討伐軍は俺の糜家兵300余と許耽の丹陽兵700余を中核として、他に1000程度が陶謙から預けられた。賊に倍する兵力だ。
賊軍は県に乱入して食料衣類を奪うと、旧城に籠るそうだ。今はそのオンボロ城に賊兵はいないらしい。まったく、兄上が空の城は野盗のねぐらになるから壊せとさんざん進言してたのに。
斥候が戻ってくる。
「右側から土煙が上がっています。小勢です」
「ようし。糜家兵と丹陽兵200は先鋒に。中軍は私が率いて糜芳殿を援護する。残った丹陽兵は二手に分かれて挟撃しろ」
許耽はてきぱきと指示を下す。
っていうかまた俺が先鋒かよ。ふざけんな。次は俺が指示だそうかな。
「出撃せよ!」
「おおっ!」
兵士の気合がこだまする。腹に響くなぁ。許耽は俺のもとに来て
「先鋒はお譲りいたす。ご武運を」
なんて言いやがった。お譲り、じゃねぇんだよ。いらねぇわ。
程なく敵兵が視認できるくらいまで近づいた。ここまで来て兵は止められない。
おろ? 敵が反転して逃げ出した。やった! 背中を見せた敵なら怖くない!
「追え! 追え!」
思わず考えなしに叫んでたが、これが最適解だろう。兵士の士気はさらに上がる。後ろのほうで許耽も何か絶叫してる。
賊兵は地散り散りになっていった。兵士たちは狂乱して追うので、それぞれに気をとられて統率を欠いた。それが運の尽きだった。
誘われてバラバラになった兵士たちの合間を縫って一騎、風のように突撃してきたものがいた。あっという間に迫られてしまう。悪鬼だった。
「将軍、いざ給え!」
そういいながら戟をあり得ない速さで降り下してきた。左手に持っていた戟でそれを受ける。幸い、兄上との剣術稽古のおかげで反射はできた。でもその威力たるや兄上の比じゃない。肩までじんじんする。指先なんか力が入らない。
怯む俺に、敵は容赦なく追撃する。……ああ、死んだ。先鋒なんかやるんじゃなかった。途中で逃げ出せばよかった……。…………あれ、攻撃がこない。
「間に合った!」
後ろから許耽が馬を飛ばしてくる。悪鬼は落馬して苦痛にゆがむ顔で俺を見上げており、その脾腹は赤に滲んでいた。近くを見やると少し血に汚れた剣が転がっていた。……誰かが剣を投げつけたのだろうか。
「賊め、観念しろ」
そういう許耽の腰の剣がない。彼が助けてくれたのだ。悪鬼は何もせず黙りこくっていたが、不意に砂を投げつけてて来た。俺たちがひるんだすきにヒラリと馬に飛び乗って逃げた。
「俺の名は曹仁! 覚えておくといい!」
そう叫ぶ後ろ姿を見送る。俺はその名に愕然としていた。
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