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ベルゼブブワイン・テイスティング
第551話、ベルゼブブワインの試飲会(前編)
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「ワインの試飲会?」
「うん」
ある日。
俺は、村に遊びにきたルシファーがそう言ったのを聞いた。
ルシファーは、村で栽培した緑茶を美味しそうに啜る。
「魔界都市ベルゼブブの郊外に大きなブドウ農園があってね。それと、ベルゼブブ周辺にある農村でもブドウがいっぱい栽培されている。そのブドウ農家たちが丹精込めて育てたブドウで作ったワインが、そろそろお披露目になる時期なんだ。その試飲会に、アシュトも招待しようと思ってね」
「なるほど。そりゃ美味そうだ」
ルシファーは、湯呑をテーブルに置く。
ちなみに、ルシファーの後ろにはデーモンオーガのダイドさんがいる。ダイドさんにも緑茶を出したが、未だに一口も飲んでいない。
ルシファーは、ソファに深く腰掛けた……くそ、なんか様になってて悔しい。
「もしよかったら、アシュトもワインを出さない? 緑龍の村で作ったワイン、あるだろ?」
「一応あるけど……ここで熟成させたワインはまだ三年モノだぞ。魔法で一気に熟成させた樽もあるけど、試飲会には相応しくないと思う」
「真面目だね。ちなみに、今度の試飲会で出るワインは、全部百年モノだよ」
「百年……」
「うん。悪魔族の生は長いしね。毎年ワインを仕込んでいるし、試飲会は毎年行われてる。たまには魔法で熟成させたワインを出すのも、いいんじゃない?」
「そういうもんかね……」
俺は緑茶を一気に飲み干す。
壁際に待機しているオードリーに、おかわりを頼んだ。
「ま、お前がいいって言うなら、参加しようかな」
「ありがとう。それと、アシュトの魔法で熟成させてるんだよね? それ、どのくらいまで熟成できるんだい?」
「制限はないけど……やりすぎると、さすがに飲めたもんじゃない。最高でも三十年くらいかな。百年寝かせたからって、美味いワインができるわけじゃないし」
「あはは。一応、ベルゼブブのブドウは千年以上寝かせても十分美味しいよ。ボクのコレクションに、二千年寝かせたヴィンテージワインがあるけど、すごく美味しいよ」
「二千……うーん、桁が違うな」
「熟せば熟すほど、いい味が出る。ベルゼブブのブドウはすごいよ」
おっと。いつの間にかブドウについて語っていた。
俺はおかわりのお茶を飲む。
「とりあえず、緑龍の村で収穫したブドウで作ってみるよ」
「うん。頼むよ」
さて、さっそくワインを仕込んでみるか。
◇◇◇◇◇◇
アウグストさんから新しい樽をもらい、メージュから収穫したてのブドウをもらった。
ワインの作り方は簡単。樽の中でブドウを潰して発酵させるだけ。
そこに魔法をかけ、熟成させるのだ。
「じゃ、やろうか」
「にゃあー」
「みゃう」
「わん」
「まんどれーいく」
「あるらうねー」
『ワイン、ワイン!』
俺は、手伝いの子供たちの頭をそれぞれ撫でた。
一人では大変なのでウッドを呼び、それを見ていたルミナが付いてきて、ミュアちゃんが混ざり、ミュアちゃんがライラちゃんを呼び、ウッドがマンドレイクとアルラウネを呼んだというわけだ。
まず、大きなたらいにブドウをいっぱい入れた。
「これを踏んで潰していく。みんな、専用の靴を履いたかい?」
「にゃあ!」
ブドウ潰し用の靴をはいたミュアちゃんが足を上げる。こらこら、女の子がはしたない。
子供たちは、たらいの上でブドウを精一杯踏み潰し始めた。
「にゃう。プチプチ潰れる!」
「みゃあ。ブドウ、いい匂いしてきた」
「わぅぅん。ジュースみたい」
「まんどれーいく」
「あるらうねー」
『タノシイー!』
ぶっちゅぶっちゅとブドウが潰れていく。
ブドウが潰れたら、皮や種と一緒に発酵させる。発酵後は種や皮を取り除き、残った汁を樽に入れればおしまいだ。これが緑龍の村で行われているワインの作り方。
専用の道具とかもあるようだが、とりあえず手作業でやる。
「よし。だいたい潰れたら、俺の魔法の番だな」
俺は杖を取りだし、『成長促進』の魔法をかける。
すると、たらいのブドウ汁がジュワジュワと発酵していく。
「わぅぅ……お、お酒の匂い」
「発酵してきたんだ。もう立派なワインだね」
「くぅぅん。やっぱり苦手」
ライラちゃんは鼻を押さえて部屋の隅っこへ。
子供たちと協力し、ブドウの皮や種を取り除いて、絞り汁を樽の中へ。
さて。ここでもう一度、今度は樽に『成長促進』の魔法をかける。
「にゃあ。樽に?」
「うん。真新しい樽だしね……少しは、熟成した風にしないと」
樽に魔法をかけると、真新しい樽はみるみる色が変わっていく。
色に深みが出ていい感じだ。まるで五十年熟成させたような、いい樽に。
もちろん、中身も熟成してる。
たらいの状態での熟成は抑えめにして、樽に入れてさらに熟成させた。
俺は、持参したワイングラスに、熟成させたばかりのワインを柄杓で入れる。
「では、味見……」
いつもの熟成より、さらに深く熟成させてみた。
お味は……ん。
「……うん、うまい! いつもより少し渋みがあるけど、後味はすごくスッキリしてる。それに、度数も高い……これはいいワインかも」
「にゃあ。飲みたいー」
「ずるいぞ。あたいも飲みたい」
「待て待て。二人はもっと大きくなったらな」
ミュアちゃんとルミナを撫でる。
俺は、ワインを瓶に入れてコルクで蓋をする。そして、焼き印の入った木箱に入れた。
これはお土産用だ。ルシファーにあげよう。
「よし。試飲会用のワインができた。みんな、ありがとう」
「にゃうー」
「みゃあ。お礼はいいから、甘いもの食べさせろ」
「はいはい。あれ? マンドレイクとアルラウネ、ウッドは……」
薬草幼女たちがいない。
と、部屋の隅に置いてあったたらいに、マンドレイクとアルラウネ、ウッドがいた。
何をやってるのかと思いきや。
「まんどれーいく……もぐもぐ」
「あるらうねー……もぐもぐ」
『ウマイー!』
「お、おいおい……そんなの食べて平気なのかよ」
マンドレイクとアルラウネ、ウッドは……絞り終わった皮や種を食べていた。
ま、まぁ……うまいなら別にいいか。
「うん」
ある日。
俺は、村に遊びにきたルシファーがそう言ったのを聞いた。
ルシファーは、村で栽培した緑茶を美味しそうに啜る。
「魔界都市ベルゼブブの郊外に大きなブドウ農園があってね。それと、ベルゼブブ周辺にある農村でもブドウがいっぱい栽培されている。そのブドウ農家たちが丹精込めて育てたブドウで作ったワインが、そろそろお披露目になる時期なんだ。その試飲会に、アシュトも招待しようと思ってね」
「なるほど。そりゃ美味そうだ」
ルシファーは、湯呑をテーブルに置く。
ちなみに、ルシファーの後ろにはデーモンオーガのダイドさんがいる。ダイドさんにも緑茶を出したが、未だに一口も飲んでいない。
ルシファーは、ソファに深く腰掛けた……くそ、なんか様になってて悔しい。
「もしよかったら、アシュトもワインを出さない? 緑龍の村で作ったワイン、あるだろ?」
「一応あるけど……ここで熟成させたワインはまだ三年モノだぞ。魔法で一気に熟成させた樽もあるけど、試飲会には相応しくないと思う」
「真面目だね。ちなみに、今度の試飲会で出るワインは、全部百年モノだよ」
「百年……」
「うん。悪魔族の生は長いしね。毎年ワインを仕込んでいるし、試飲会は毎年行われてる。たまには魔法で熟成させたワインを出すのも、いいんじゃない?」
「そういうもんかね……」
俺は緑茶を一気に飲み干す。
壁際に待機しているオードリーに、おかわりを頼んだ。
「ま、お前がいいって言うなら、参加しようかな」
「ありがとう。それと、アシュトの魔法で熟成させてるんだよね? それ、どのくらいまで熟成できるんだい?」
「制限はないけど……やりすぎると、さすがに飲めたもんじゃない。最高でも三十年くらいかな。百年寝かせたからって、美味いワインができるわけじゃないし」
「あはは。一応、ベルゼブブのブドウは千年以上寝かせても十分美味しいよ。ボクのコレクションに、二千年寝かせたヴィンテージワインがあるけど、すごく美味しいよ」
「二千……うーん、桁が違うな」
「熟せば熟すほど、いい味が出る。ベルゼブブのブドウはすごいよ」
おっと。いつの間にかブドウについて語っていた。
俺はおかわりのお茶を飲む。
「とりあえず、緑龍の村で収穫したブドウで作ってみるよ」
「うん。頼むよ」
さて、さっそくワインを仕込んでみるか。
◇◇◇◇◇◇
アウグストさんから新しい樽をもらい、メージュから収穫したてのブドウをもらった。
ワインの作り方は簡単。樽の中でブドウを潰して発酵させるだけ。
そこに魔法をかけ、熟成させるのだ。
「じゃ、やろうか」
「にゃあー」
「みゃう」
「わん」
「まんどれーいく」
「あるらうねー」
『ワイン、ワイン!』
俺は、手伝いの子供たちの頭をそれぞれ撫でた。
一人では大変なのでウッドを呼び、それを見ていたルミナが付いてきて、ミュアちゃんが混ざり、ミュアちゃんがライラちゃんを呼び、ウッドがマンドレイクとアルラウネを呼んだというわけだ。
まず、大きなたらいにブドウをいっぱい入れた。
「これを踏んで潰していく。みんな、専用の靴を履いたかい?」
「にゃあ!」
ブドウ潰し用の靴をはいたミュアちゃんが足を上げる。こらこら、女の子がはしたない。
子供たちは、たらいの上でブドウを精一杯踏み潰し始めた。
「にゃう。プチプチ潰れる!」
「みゃあ。ブドウ、いい匂いしてきた」
「わぅぅん。ジュースみたい」
「まんどれーいく」
「あるらうねー」
『タノシイー!』
ぶっちゅぶっちゅとブドウが潰れていく。
ブドウが潰れたら、皮や種と一緒に発酵させる。発酵後は種や皮を取り除き、残った汁を樽に入れればおしまいだ。これが緑龍の村で行われているワインの作り方。
専用の道具とかもあるようだが、とりあえず手作業でやる。
「よし。だいたい潰れたら、俺の魔法の番だな」
俺は杖を取りだし、『成長促進』の魔法をかける。
すると、たらいのブドウ汁がジュワジュワと発酵していく。
「わぅぅ……お、お酒の匂い」
「発酵してきたんだ。もう立派なワインだね」
「くぅぅん。やっぱり苦手」
ライラちゃんは鼻を押さえて部屋の隅っこへ。
子供たちと協力し、ブドウの皮や種を取り除いて、絞り汁を樽の中へ。
さて。ここでもう一度、今度は樽に『成長促進』の魔法をかける。
「にゃあ。樽に?」
「うん。真新しい樽だしね……少しは、熟成した風にしないと」
樽に魔法をかけると、真新しい樽はみるみる色が変わっていく。
色に深みが出ていい感じだ。まるで五十年熟成させたような、いい樽に。
もちろん、中身も熟成してる。
たらいの状態での熟成は抑えめにして、樽に入れてさらに熟成させた。
俺は、持参したワイングラスに、熟成させたばかりのワインを柄杓で入れる。
「では、味見……」
いつもの熟成より、さらに深く熟成させてみた。
お味は……ん。
「……うん、うまい! いつもより少し渋みがあるけど、後味はすごくスッキリしてる。それに、度数も高い……これはいいワインかも」
「にゃあ。飲みたいー」
「ずるいぞ。あたいも飲みたい」
「待て待て。二人はもっと大きくなったらな」
ミュアちゃんとルミナを撫でる。
俺は、ワインを瓶に入れてコルクで蓋をする。そして、焼き印の入った木箱に入れた。
これはお土産用だ。ルシファーにあげよう。
「よし。試飲会用のワインができた。みんな、ありがとう」
「にゃうー」
「みゃあ。お礼はいいから、甘いもの食べさせろ」
「はいはい。あれ? マンドレイクとアルラウネ、ウッドは……」
薬草幼女たちがいない。
と、部屋の隅に置いてあったたらいに、マンドレイクとアルラウネ、ウッドがいた。
何をやってるのかと思いきや。
「まんどれーいく……もぐもぐ」
「あるらうねー……もぐもぐ」
『ウマイー!』
「お、おいおい……そんなの食べて平気なのかよ」
マンドレイクとアルラウネ、ウッドは……絞り終わった皮や種を食べていた。
ま、まぁ……うまいなら別にいいか。
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