大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

文字の大きさ
357 / 474
ベルゼブブワイン・テイスティング

第551話、ベルゼブブワインの試飲会(前編)

しおりを挟む
「ワインの試飲会?」
「うん」

 ある日。
 俺は、村に遊びにきたルシファーがそう言ったのを聞いた。
 ルシファーは、村で栽培した緑茶を美味しそうに啜る。

「魔界都市ベルゼブブの郊外に大きなブドウ農園があってね。それと、ベルゼブブ周辺にある農村でもブドウがいっぱい栽培されている。そのブドウ農家たちが丹精込めて育てたブドウで作ったワインが、そろそろお披露目になる時期なんだ。その試飲会に、アシュトも招待しようと思ってね」
「なるほど。そりゃ美味そうだ」

 ルシファーは、湯呑をテーブルに置く。
 ちなみに、ルシファーの後ろにはデーモンオーガのダイドさんがいる。ダイドさんにも緑茶を出したが、未だに一口も飲んでいない。
 ルシファーは、ソファに深く腰掛けた……くそ、なんか様になってて悔しい。

「もしよかったら、アシュトもワインを出さない? 緑龍の村で作ったワイン、あるだろ?」
「一応あるけど……ここで熟成させたワインはまだ三年モノだぞ。魔法で一気に熟成させた樽もあるけど、試飲会には相応しくないと思う」
「真面目だね。ちなみに、今度の試飲会で出るワインは、全部百年モノだよ」
「百年……」
「うん。悪魔族の生は長いしね。毎年ワインを仕込んでいるし、試飲会は毎年行われてる。たまには魔法で熟成させたワインを出すのも、いいんじゃない?」
「そういうもんかね……」

 俺は緑茶を一気に飲み干す。
 壁際に待機しているオードリーに、おかわりを頼んだ。

「ま、お前がいいって言うなら、参加しようかな」
「ありがとう。それと、アシュトの魔法で熟成させてるんだよね? それ、どのくらいまで熟成できるんだい?」
「制限はないけど……やりすぎると、さすがに飲めたもんじゃない。最高でも三十年くらいかな。百年寝かせたからって、美味いワインができるわけじゃないし」
「あはは。一応、ベルゼブブのブドウは千年以上寝かせても十分美味しいよ。ボクのコレクションに、二千年寝かせたヴィンテージワインがあるけど、すごく美味しいよ」
「二千……うーん、桁が違うな」
「熟せば熟すほど、いい味が出る。ベルゼブブのブドウはすごいよ」

 おっと。いつの間にかブドウについて語っていた。
 俺はおかわりのお茶を飲む。

「とりあえず、緑龍の村で収穫したブドウで作ってみるよ」
「うん。頼むよ」

 さて、さっそくワインを仕込んでみるか。

 ◇◇◇◇◇◇

 アウグストさんから新しい樽をもらい、メージュから収穫したてのブドウをもらった。
 ワインの作り方は簡単。樽の中でブドウを潰して発酵させるだけ。
 そこに魔法をかけ、熟成させるのだ。

「じゃ、やろうか」
「にゃあー」
「みゃう」
「わん」
「まんどれーいく」
「あるらうねー」
『ワイン、ワイン!』

 俺は、手伝いの子供たちの頭をそれぞれ撫でた。
 一人では大変なのでウッドを呼び、それを見ていたルミナが付いてきて、ミュアちゃんが混ざり、ミュアちゃんがライラちゃんを呼び、ウッドがマンドレイクとアルラウネを呼んだというわけだ。
 まず、大きなたらいにブドウをいっぱい入れた。

「これを踏んで潰していく。みんな、専用の靴を履いたかい?」
「にゃあ!」

 ブドウ潰し用の靴をはいたミュアちゃんが足を上げる。こらこら、女の子がはしたない。
 子供たちは、たらいの上でブドウを精一杯踏み潰し始めた。

「にゃう。プチプチ潰れる!」
「みゃあ。ブドウ、いい匂いしてきた」
「わぅぅん。ジュースみたい」
「まんどれーいく」
「あるらうねー」
『タノシイー!』

 ぶっちゅぶっちゅとブドウが潰れていく。
 ブドウが潰れたら、皮や種と一緒に発酵させる。発酵後は種や皮を取り除き、残った汁を樽に入れればおしまいだ。これが緑龍の村で行われているワインの作り方。
 専用の道具とかもあるようだが、とりあえず手作業でやる。

「よし。だいたい潰れたら、俺の魔法の番だな」

 俺は杖を取りだし、『成長促進グロウアップ』の魔法をかける。
 すると、たらいのブドウ汁がジュワジュワと発酵していく。

「わぅぅ……お、お酒の匂い」
「発酵してきたんだ。もう立派なワインだね」
「くぅぅん。やっぱり苦手」

 ライラちゃんは鼻を押さえて部屋の隅っこへ。
 子供たちと協力し、ブドウの皮や種を取り除いて、絞り汁を樽の中へ。
 さて。ここでもう一度、今度は樽に『成長促進グロウアップ』の魔法をかける。

「にゃあ。樽に?」
「うん。真新しい樽だしね……少しは、熟成した風にしないと」

 樽に魔法をかけると、真新しい樽はみるみる色が変わっていく。
 色に深みが出ていい感じだ。まるで五十年熟成させたような、いい樽に。
 もちろん、中身も熟成してる。
 たらいの状態での熟成は抑えめにして、樽に入れてさらに熟成させた。
 俺は、持参したワイングラスに、熟成させたばかりのワインを柄杓で入れる。

「では、味見……」

 いつもの熟成より、さらに深く熟成させてみた。
 お味は……ん。

「……うん、うまい! いつもより少し渋みがあるけど、後味はすごくスッキリしてる。それに、度数も高い……これはいいワインかも」
「にゃあ。飲みたいー」
「ずるいぞ。あたいも飲みたい」
「待て待て。二人はもっと大きくなったらな」

 ミュアちゃんとルミナを撫でる。
 俺は、ワインを瓶に入れてコルクで蓋をする。そして、焼き印の入った木箱に入れた。
 これはお土産用だ。ルシファーにあげよう。

「よし。試飲会用のワインができた。みんな、ありがとう」
「にゃうー」
「みゃあ。お礼はいいから、甘いもの食べさせろ」
「はいはい。あれ? マンドレイクとアルラウネ、ウッドは……」

 薬草幼女たちがいない。
 と、部屋の隅に置いてあったたらいに、マンドレイクとアルラウネ、ウッドがいた。
 何をやってるのかと思いきや。

「まんどれーいく……もぐもぐ」
「あるらうねー……もぐもぐ」
『ウマイー!』
「お、おいおい……そんなの食べて平気なのかよ」

 マンドレイクとアルラウネ、ウッドは……絞り終わった皮や種を食べていた。
 ま、まぁ……うまいなら別にいいか。
しおりを挟む
感想 1,145

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

魔物に嫌われる「レベル0」の魔物使い。命懸けで仔犬を助けたら―実は神域クラスしかテイムできない規格外でした

たつき
ファンタジー
魔物使いでありながらスライム一匹従えられないカイルは、3年間尽くしたギルドを「無能」として追放される。 同世代のエリートたちに「魔物避けの道具」として危険な遺跡に連れ出され、最後は森の主(ヌシ)を前に囮として見捨てられた。 死を覚悟したカイルが崩落した壁の先で見つけたのは、今にも息絶えそうな一匹の白い仔犬。 「自分と同じように、理不尽に見捨てられたこの子だけは助けたい」 自分の命を顧みず、カイルが全魔力を込めて「テイム」を試みた瞬間、眠っていた真の才能が目覚める。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

転生幼子は生きのびたい

えぞぎんぎつね
ファンタジー
 大貴族の次男として生まれたノエルは、生後八か月で誘拐されて、凶悪な魔物が跋扈する死の山に捨てられてしまった。  だが、ノエルには前世の記憶がある。それに優れた魔法の才能も。  神獣の猫シルヴァに拾われたノエルは、親を亡くした赤ちゃんの聖獣犬と一緒に、神獣のお乳を飲んで大きくなる。  たくましく育ったノエルはでかい赤ちゃん犬と一緒に、元気に楽しく暮らしていくのだった。  一方、ノエルの生存を信じている両親はノエルを救出するために様々な手段を講じていくのだった。 ※ネオページ、カクヨムにも掲載しています

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  二月から週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。