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第三章 地歴の国アールマティ
女祭り
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翌日、宿屋で目を覚ますと、玄徳は椅子に座って何かを書いていた。
「ふぁ……おはよ。早いな」
「ああ、おはよう。ちょっと『符』を書いてるんだ」
玄徳は、短冊みたいな紙に筆で文字を書いていた。
いや文字だけじゃない。模様みたいな柄も書いている。
眺めていると、玄徳が言う。
「僕の『符』は少し特殊でね。六魔のチャクラ……えっと、六属性の魔力を流すことを想定しているから、印字……えっと、魔力を通す文字が複雑なんだ。だから、こんな柄になる」
「わざわざわかりやすい言葉に置き換えてくれてありがとう」
テーブルには、すでに百枚以上の符があった。
「日課でね。一日百枚は書かないと落ち着かないんだ」
「ひゃ、百枚……」
「ま、武器でもあるし、いざって時に足りなくなると困るから」
「ちなみに……アイテムボックスには何枚あるんだ?」
「魔収納……えっと、アイテムボックスには……三万枚を超えたあたりから数えてない。あはは」
あはは、じゃねぇよ……戦闘中に「しまった!! 符がなくなった!!」なんてことにはならないってことだ。
俺は着替えを済ませる。玄徳もノルマを終え、習字道具をしまった。
二人で部屋を出ると、女子たちも隣の部屋から出てきた。
「あ、レクスに玄徳さん。おはようございます」
「おはよ、二人とも。いいタイミングだね」
「おはよう」
エルサ、愛沙にリーンベル。
愛沙は……昨日の話で何か変化があると思ったけど、特に変わってなさそうだ。
「さて、朝食食べたら町に出よっか。今日から『女祭り』が始まるよ!!」
愛沙は楽しそうに言う。
そう、今日から『女子』の町では、お祭りが開催されるのだ。
◇◇◇◇◇◇
町に出ると、すでに祭りは始まっていた。
「わぁ~……なんだかすごいですね」
エルサが驚く。
宿の外では大勢の人が闊歩し、わいわいと賑わいを見せている。
道ではすでに露店が多く開き、流れの商人だろうか、男女関係なく多くの店が出店している。
人の流れが一定なところに気付くと、玄徳が言う。
「目玉は、『女拳闘』だね。腕自慢の女性闘士たちが、優勝を目指して戦うのさ。賭けもやってるみたいだよ」
「面白そうだな。みんな、見に行ってみるか?」
というわけで、みんなで『女拳闘』の会場へ。
会場は町で一番広い公園をそのまま使い、観客席を囲うように設置した特別製だ。
控室っぽい建物もあり、そこから拳闘士たちが現れる。
ちょうど、第一試合が始まるところだった。
『それでは第一試合ぃぃ!! 理社対楼記!! 理社は食堂のコックで、楼記は二児のお母さん!! さぁさぁ、恨みっこなしの拳闘が始まります!!』
って、理社って人……食堂で観たコックじゃん。
対する楼記さんも、ガチムチというよりはややぽっちゃり系。だが、素手で鉄パイプみたいな棒をグニャグニャに曲げてブン投げるパフォーマンスをした。
「あっちでは賭けもやってるよ」
「本当だ。レクスくん、賭ける?」
「いや、俺はいいや。ギャンブルは苦手」
リーンベル、やりたいのかな。
エルサと愛沙はワクワクしながら会場を見てるし、玄徳も腕組みして「拳闘、戦闘の参考になるかな」なんて呟いている。
そして、試合が始まった。
「オォォォォォ!!」
なんと、楼記さんが理社さんに掴みかかる。拳闘っていうから殴り合いかと思ったが、まさか掴み……いや、プロレス、レスリングっぽい動きをした。
そして理社さん。冷静にジャブで楼記さんの顔を突き、動きが鈍ったところでアッパーカット。
顎にいいのが入り、がくがく揺れたところで……とどめのスマッシュ。
「──……フン!!」
「ッ!!」
だがなんと、楼記さんが耐えた。
口から血を流しながらも、スマッシュを受けたと同時に腕を掴み、力任せにブン投げた。
「がっ!?」
地面に叩き付けられる理社さん。まずい、楼記さんがそのまま馬乗りになろうとしている。
体重差は歴然……乗られたら敗北必死!!
「やべえ、逃げろ!!」
思わず叫んでしまう俺。周りの客も同じように叫んでいた。
すると理社さん……なんと、身体を丸めて転がり、馬乗りを阻止した。
再び距離を取るが……楼記さんが両手を交差して向かって来る。
理社さんのジャブをガードし、再び掴もうとする。もうジャブじゃ止まらない。
「オォォォォォ!!」
「──……シュッ」
そして、ガードを開き腕を掴もうとした瞬間、カウンターで右ストレートが顎をかすめた。
速い……なんて右だ。
「…………」
楼記さんが白目を剥き、そのままズズンと倒れた。
完全に気を失っていた……すげえ。
審判が近づき首を振り、理社さんの手を掲げた。
『勝者、理社!!』
歓声が響き渡り、理社さんが勝利した。
いつの間にか俺たちは、手に汗を握って試合を魅入っていたのだった。
◇◇◇◇◇◇
「すごかった……!!」
リーンベルは日傘を差し、クルクル回しながら目を輝かせていた。
現在、俺たちは拳闘場を離れて歩いている。
拳闘は面白いが、見ているだけで一日が終わってしまう。なので、別の場所を一通り見て、それから自由行動にしようと俺が提案したのだ。
リーンベルは言う。
「格闘術も習ったけど、私には合わなくて……でもでも、見てると面白い!!」
「リーンベル、興奮してますね。わたしもですけど」
「二人とも格闘技好きなんだねっ、私もだよー」
女子たちは血の気多いな。
まあ、俺も興奮した。ボクシングとプロレスの異種格闘技戦……あれで燃えなきゃ男じゃねえ!!
さて……次に向かったのは、別の公園。
そこにはステージがあり、剣を持った女性が伝統的なドレスを着て踊っていた。
エルサは見入っている。
「わあ……綺麗」
音楽は生演奏。
太鼓、笛、弦楽器……どの楽器も伝統的っぽく、音もやや古めかしい。
剣を持つ女性は踊り、剣を振る。
ドレスの裾やヴェールが跳ねるように動き、魔法の力なのかキラキラ光っている。
「これ、魔法だ……」
リーンベルが気付いた。
愛沙が言う。
「炎の巫術……魔法だね。火の粉を上手く飛ばして光に見立ててる。さすが一流の『舞踊士』だね」
そういうジョブなのかな。
でも……演奏に合わせて踊る姿は、戦いとは別の意味ですごかった。
◇◇◇◇◇◇
さて、いろいろな出し物を見た。
演劇はよくわからなかったが、舞は美しかった。剣舞とは違い、美しいドレスを着た女性グループが、生演奏に合わせて舞う……いやはや、伝統的だった。
半日ほど出し物を見て歩き、お昼は屋台で食べた。
そして午後は自由行動。俺はみんなに聞いてみた。
「みんな、午後はどうする?」
「僕は岩月劇をもう一度見に行こうかな」
「私はお買い物!! ね、エルサにリーンベルも一緒に行かない? 北の広場にいろんな露店あってさ、面白そうなのいっぱいあったよ!!」
「わあ、行ってみたいです!!」
「わ、私も……」
玄徳は岩月劇、エルサ、リーンベル、愛沙はショッピングか。
「レクスはどうする? 僕と劇を見に行くかい?」
「んー……あんま内容わからなかったし、俺はもう一度拳闘を見に行くよ」
「わかった。じゃあ、夜に宿屋に集合して、みんなで夕食に行こうか」
というわけで、解散。
さっそく俺はムサシと共に、拳闘場へ。
だが……すでに拳闘は終わっており、表彰式の真っ最中だった。
「なんだ、終わりか……って、優勝は理社さんかよ。あのコックさんマジすげえな」
『きゅるる~』
優勝者はコックの理社さんだった。
木製のトロフィーみたいなのを掲げ、周囲に優勝をアピールしている。
『さあ、これで三年連続優勝となった理社拳闘士!! あまりにも強い!! なので……ここで、特別試合を行いたいと思います!! 理社拳闘士、辞退もできますが……どうしますか?』
「フン、ここで辞退なんかしたら白けちまう。やってやるさ!!」
大歓声だ。
たぶん、特別試合はシナリオにあるんだろう。
どんな人が来るのかと思って見ていると、運ばれてきたのはデカい檻だった。
布が掛けられ中身は見えない。だが。
『きゅるるるる!!』
「お、おいムサシ……どうした?」
ムサシが興奮していた。
なんだ、この予感……嫌な予感がする。
『さあ、理社拳闘士との特別試合の相手は──コイツだ!!』
布が外され、見えたのは……檻にいた『魔獣』だった。
周囲がどよめく。というか、デカい。
全長十メートルほどの『牛』だった。いや……普通の牛じゃない。
牛だが、全身にハリネズミのような『毛』が生えていた。そして水牛のようなツノが二本生えている。
「な、なんだ、こいつ……」
『きゅるるるるる!! きゅいい!!』
ムサシが警戒していた。
だが、檻の中の魔獣は嫌に大人しい。弱っているのか、ふらふらしていた。
『こいつは昨日、町の外で弱っていた魔獣で、退魔士が捕獲した正体不明の魔獣だ!! あまり強そうには見えないが……特別試合の相手として引き取ったのさ!! さぁさぁ理社拳闘士!! こいつに止めを刺す役目、任せていいかい?』
「任せな!! さあ、檻を開けろ!!」
バン!! と、檻が開いた。
俺は、猛烈に嫌な予感がした。
「──ダメだ!! そいつは危険だ!!」
第六感というのか、ムサシの警戒はこれまで何度かあった。
サルワの時も、タルウィの時も、ムサシが警戒した時、必ず何かが起きた。
だが、俺の叫びは届かない。歓声のが遥かに大きかったから。
「フン、そんな針ごとき、アタシの鋼の肌を傷付け──」
ズドン、と……牛の針が伸び、理社さんの腹を貫通した。
「……ごぶっ」
『……え?』
針が抜けると、理社さんが倒れた。
歓声が止まる。そして、ハリネズミのような牛がゆっくり立ち上がり……咆哮を上げる。
『ブモォォォォォォォォ!!』
後になって知ったことだった。
この『ハリネズミのような牛』の正体。
それが……四凶の一体である『窮奇』ということに。
「ふぁ……おはよ。早いな」
「ああ、おはよう。ちょっと『符』を書いてるんだ」
玄徳は、短冊みたいな紙に筆で文字を書いていた。
いや文字だけじゃない。模様みたいな柄も書いている。
眺めていると、玄徳が言う。
「僕の『符』は少し特殊でね。六魔のチャクラ……えっと、六属性の魔力を流すことを想定しているから、印字……えっと、魔力を通す文字が複雑なんだ。だから、こんな柄になる」
「わざわざわかりやすい言葉に置き換えてくれてありがとう」
テーブルには、すでに百枚以上の符があった。
「日課でね。一日百枚は書かないと落ち着かないんだ」
「ひゃ、百枚……」
「ま、武器でもあるし、いざって時に足りなくなると困るから」
「ちなみに……アイテムボックスには何枚あるんだ?」
「魔収納……えっと、アイテムボックスには……三万枚を超えたあたりから数えてない。あはは」
あはは、じゃねぇよ……戦闘中に「しまった!! 符がなくなった!!」なんてことにはならないってことだ。
俺は着替えを済ませる。玄徳もノルマを終え、習字道具をしまった。
二人で部屋を出ると、女子たちも隣の部屋から出てきた。
「あ、レクスに玄徳さん。おはようございます」
「おはよ、二人とも。いいタイミングだね」
「おはよう」
エルサ、愛沙にリーンベル。
愛沙は……昨日の話で何か変化があると思ったけど、特に変わってなさそうだ。
「さて、朝食食べたら町に出よっか。今日から『女祭り』が始まるよ!!」
愛沙は楽しそうに言う。
そう、今日から『女子』の町では、お祭りが開催されるのだ。
◇◇◇◇◇◇
町に出ると、すでに祭りは始まっていた。
「わぁ~……なんだかすごいですね」
エルサが驚く。
宿の外では大勢の人が闊歩し、わいわいと賑わいを見せている。
道ではすでに露店が多く開き、流れの商人だろうか、男女関係なく多くの店が出店している。
人の流れが一定なところに気付くと、玄徳が言う。
「目玉は、『女拳闘』だね。腕自慢の女性闘士たちが、優勝を目指して戦うのさ。賭けもやってるみたいだよ」
「面白そうだな。みんな、見に行ってみるか?」
というわけで、みんなで『女拳闘』の会場へ。
会場は町で一番広い公園をそのまま使い、観客席を囲うように設置した特別製だ。
控室っぽい建物もあり、そこから拳闘士たちが現れる。
ちょうど、第一試合が始まるところだった。
『それでは第一試合ぃぃ!! 理社対楼記!! 理社は食堂のコックで、楼記は二児のお母さん!! さぁさぁ、恨みっこなしの拳闘が始まります!!』
って、理社って人……食堂で観たコックじゃん。
対する楼記さんも、ガチムチというよりはややぽっちゃり系。だが、素手で鉄パイプみたいな棒をグニャグニャに曲げてブン投げるパフォーマンスをした。
「あっちでは賭けもやってるよ」
「本当だ。レクスくん、賭ける?」
「いや、俺はいいや。ギャンブルは苦手」
リーンベル、やりたいのかな。
エルサと愛沙はワクワクしながら会場を見てるし、玄徳も腕組みして「拳闘、戦闘の参考になるかな」なんて呟いている。
そして、試合が始まった。
「オォォォォォ!!」
なんと、楼記さんが理社さんに掴みかかる。拳闘っていうから殴り合いかと思ったが、まさか掴み……いや、プロレス、レスリングっぽい動きをした。
そして理社さん。冷静にジャブで楼記さんの顔を突き、動きが鈍ったところでアッパーカット。
顎にいいのが入り、がくがく揺れたところで……とどめのスマッシュ。
「──……フン!!」
「ッ!!」
だがなんと、楼記さんが耐えた。
口から血を流しながらも、スマッシュを受けたと同時に腕を掴み、力任せにブン投げた。
「がっ!?」
地面に叩き付けられる理社さん。まずい、楼記さんがそのまま馬乗りになろうとしている。
体重差は歴然……乗られたら敗北必死!!
「やべえ、逃げろ!!」
思わず叫んでしまう俺。周りの客も同じように叫んでいた。
すると理社さん……なんと、身体を丸めて転がり、馬乗りを阻止した。
再び距離を取るが……楼記さんが両手を交差して向かって来る。
理社さんのジャブをガードし、再び掴もうとする。もうジャブじゃ止まらない。
「オォォォォォ!!」
「──……シュッ」
そして、ガードを開き腕を掴もうとした瞬間、カウンターで右ストレートが顎をかすめた。
速い……なんて右だ。
「…………」
楼記さんが白目を剥き、そのままズズンと倒れた。
完全に気を失っていた……すげえ。
審判が近づき首を振り、理社さんの手を掲げた。
『勝者、理社!!』
歓声が響き渡り、理社さんが勝利した。
いつの間にか俺たちは、手に汗を握って試合を魅入っていたのだった。
◇◇◇◇◇◇
「すごかった……!!」
リーンベルは日傘を差し、クルクル回しながら目を輝かせていた。
現在、俺たちは拳闘場を離れて歩いている。
拳闘は面白いが、見ているだけで一日が終わってしまう。なので、別の場所を一通り見て、それから自由行動にしようと俺が提案したのだ。
リーンベルは言う。
「格闘術も習ったけど、私には合わなくて……でもでも、見てると面白い!!」
「リーンベル、興奮してますね。わたしもですけど」
「二人とも格闘技好きなんだねっ、私もだよー」
女子たちは血の気多いな。
まあ、俺も興奮した。ボクシングとプロレスの異種格闘技戦……あれで燃えなきゃ男じゃねえ!!
さて……次に向かったのは、別の公園。
そこにはステージがあり、剣を持った女性が伝統的なドレスを着て踊っていた。
エルサは見入っている。
「わあ……綺麗」
音楽は生演奏。
太鼓、笛、弦楽器……どの楽器も伝統的っぽく、音もやや古めかしい。
剣を持つ女性は踊り、剣を振る。
ドレスの裾やヴェールが跳ねるように動き、魔法の力なのかキラキラ光っている。
「これ、魔法だ……」
リーンベルが気付いた。
愛沙が言う。
「炎の巫術……魔法だね。火の粉を上手く飛ばして光に見立ててる。さすが一流の『舞踊士』だね」
そういうジョブなのかな。
でも……演奏に合わせて踊る姿は、戦いとは別の意味ですごかった。
◇◇◇◇◇◇
さて、いろいろな出し物を見た。
演劇はよくわからなかったが、舞は美しかった。剣舞とは違い、美しいドレスを着た女性グループが、生演奏に合わせて舞う……いやはや、伝統的だった。
半日ほど出し物を見て歩き、お昼は屋台で食べた。
そして午後は自由行動。俺はみんなに聞いてみた。
「みんな、午後はどうする?」
「僕は岩月劇をもう一度見に行こうかな」
「私はお買い物!! ね、エルサにリーンベルも一緒に行かない? 北の広場にいろんな露店あってさ、面白そうなのいっぱいあったよ!!」
「わあ、行ってみたいです!!」
「わ、私も……」
玄徳は岩月劇、エルサ、リーンベル、愛沙はショッピングか。
「レクスはどうする? 僕と劇を見に行くかい?」
「んー……あんま内容わからなかったし、俺はもう一度拳闘を見に行くよ」
「わかった。じゃあ、夜に宿屋に集合して、みんなで夕食に行こうか」
というわけで、解散。
さっそく俺はムサシと共に、拳闘場へ。
だが……すでに拳闘は終わっており、表彰式の真っ最中だった。
「なんだ、終わりか……って、優勝は理社さんかよ。あのコックさんマジすげえな」
『きゅるる~』
優勝者はコックの理社さんだった。
木製のトロフィーみたいなのを掲げ、周囲に優勝をアピールしている。
『さあ、これで三年連続優勝となった理社拳闘士!! あまりにも強い!! なので……ここで、特別試合を行いたいと思います!! 理社拳闘士、辞退もできますが……どうしますか?』
「フン、ここで辞退なんかしたら白けちまう。やってやるさ!!」
大歓声だ。
たぶん、特別試合はシナリオにあるんだろう。
どんな人が来るのかと思って見ていると、運ばれてきたのはデカい檻だった。
布が掛けられ中身は見えない。だが。
『きゅるるるる!!』
「お、おいムサシ……どうした?」
ムサシが興奮していた。
なんだ、この予感……嫌な予感がする。
『さあ、理社拳闘士との特別試合の相手は──コイツだ!!』
布が外され、見えたのは……檻にいた『魔獣』だった。
周囲がどよめく。というか、デカい。
全長十メートルほどの『牛』だった。いや……普通の牛じゃない。
牛だが、全身にハリネズミのような『毛』が生えていた。そして水牛のようなツノが二本生えている。
「な、なんだ、こいつ……」
『きゅるるるるる!! きゅいい!!』
ムサシが警戒していた。
だが、檻の中の魔獣は嫌に大人しい。弱っているのか、ふらふらしていた。
『こいつは昨日、町の外で弱っていた魔獣で、退魔士が捕獲した正体不明の魔獣だ!! あまり強そうには見えないが……特別試合の相手として引き取ったのさ!! さぁさぁ理社拳闘士!! こいつに止めを刺す役目、任せていいかい?』
「任せな!! さあ、檻を開けろ!!」
バン!! と、檻が開いた。
俺は、猛烈に嫌な予感がした。
「──ダメだ!! そいつは危険だ!!」
第六感というのか、ムサシの警戒はこれまで何度かあった。
サルワの時も、タルウィの時も、ムサシが警戒した時、必ず何かが起きた。
だが、俺の叫びは届かない。歓声のが遥かに大きかったから。
「フン、そんな針ごとき、アタシの鋼の肌を傷付け──」
ズドン、と……牛の針が伸び、理社さんの腹を貫通した。
「……ごぶっ」
『……え?』
針が抜けると、理社さんが倒れた。
歓声が止まる。そして、ハリネズミのような牛がゆっくり立ち上がり……咆哮を上げる。
『ブモォォォォォォォォ!!』
後になって知ったことだった。
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