手乗りドラゴンと行く異世界ゆるり旅  落ちこぼれ公爵令息ともふもふ竜の絆の物語

さとう

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第四章 炎砂の国アシャ

サンドゴブリン

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 サンドゴブリン。
 黄土色の肌を持つゴブリンで、これまで見てきたゴブリンと肌の色が違うくらいの強さだった。
 持っている武器は、魔獣の骨に岩をくっつけたハンマー、肌が黄土色なのは砂地に潜って奇襲を仕掛けるための進化とか……ふむ、土地ごとに適応した姿があるのは興味深い。

『グァァ!!』

 ムサシは燃える体験を振るい、サンドゴブリンを薙ぎ払う。
 俺も負けじと双剣を振り、ゴブリンを倒していく……やばい、久しぶりの『冒険者らしい戦い』は爽快だ。
 エルサも、水魔法を駆使してゴブリンを倒していく。水の弾丸、大砲、槍と様々な形状に変えては放ち、ロッドに水を纏わせて剣のように振ったりと多彩だ。
 俺はハンマーを出し、サンドゴブリンの頭を叩き潰す。
 だが、けっこうな数が砂地から出てきてきりがない。

「ムサシ!! 羽翼形態に変形、上空からブレスで見える範囲を焼き尽くせ!!」
『ガウ!!』

 ムサシは羽翼形態へ。
 すごい。炎の翼を持つ、赤い表皮のいかにも『ドラゴン』って感じの姿だ。
 一気に上昇し、俺たちを捲き込まない威力のブレスで、ゴブリンの集団を焼き払う。

「あちちちっ!? 離れても熱いなおい!?」

 ブレスの余波でも熱い。
 さすが火属性。攻撃力はこれまででも一番高い。
 ようやくゴブリンを殲滅……ゾランさん、ラシャさんを呼ぶ。

「いやあ、お強い……さすが冒険者ですな!!」
「わあ……ドラゴン? あれ、レクスくんは竜滅士なのですか?」
「あ、いえ、ちょっと違うというか」
『きゅいっ』

 ポンと、ムサシは手乗りサイズになり、ラシャさんの肩に乗って甘えだす。
 可愛いのか、ラシャさんは人差し指でムサシを構いはじめ、それ以上の追及は終わった。
 すると、エルサがゴブリンの死骸を見て言う。

「かなりの数でしたね。ゴブリンは群れを形成するっていうのは知っていましたけど……」
「砂漠の小型魔獣は基本、二十ほどの群れを形成して動きます。過酷な環境なので、狩りでの成功率を上げるためでしょうね」

 ゾランさんが言い、エルサも「なるほど……」と納得する。
 死骸に引き寄せられ、別な魔獣が現れるかもしれないので、俺たちは早々にその場を離れた。
 
 ◇◇◇◇◇◇

 この日は野営。
 地図によると、明日はオスクール街道沿いの宿に泊まり、明後日は野営をして、その次の日はアサドの町に到着するらしい。
 この日は、岩場の近くで野営。

「ご存じとは思いますが、夜の砂漠は寒いです。しっかりと着こんだ方がいいでしょう」

 ゾランさん、頼りになるお兄さんって感じだ。
 二人は護衛対象なので見張りはせず、俺とエルサが交代で見張ることに。
 テントの準備をしていると、エルサがラシャさんのテントを見て言う。

「わあ、不思議なテントですね」
「動物の皮と木の枝で作った簡易テントなの。寒さに強いし、補修は容易だし、軽くて荷物にならないからすごく便利よ」

 山奥にいる民族が使うようなテントだ。裏起毛みたいな、外側はツルツルしているのに裏には毛が生えている。これは確かに暖かそう。
 
「レクス。砂漠のこともですけど、文化のことも知りたいですね」
「ああ。なんだかおもしろいな」

 この日、ラシャさんが「温まる食事を用意する」と、スパイスたっぷりの野菜鍋を作ってくれた。
 ラシャさん曰く「アシャ王国は豪快な肉料理が多くて野菜が不足するから」とのこと。その意見、全面的に同意します!!
 食事が終わると、俺はすぐテントへ。
 夜の十二時くらいに置き、エルサと交代……これからはソロの時間。

「さて、みんな寝てるし……」

 耳を澄ませば寝息が聞こえてくる。
 俺は焚火の傍で、薪を足しながら実験をしていた。

「ふふふ……まさか、こいつをアールマティ王国で見つけるとはな」

 アールマティ王国ではキワ物部類に入り、薬膳として飲まれるお茶。
 白い豆を煎り香りを出し、粉にしてお湯で溶かす飲み物。
 色は黒、香りはまあいいが、味は苦くて最悪なことから、一部の愛好家がいるかいないか……という飲み物。

「そう、コーヒーだ!!」

 リューグベルン帝国では紅茶、ハルワタートでは玄米茶、アールマティ王国では緑茶みたいな飲み物がメインだったが……このコーヒーを見つけた時は驚いた。
 すでに焙煎してあり、豆の種類とかは不明だが……とりあえず、俺はアイテムボックスから薬研を取り出して豆を粉にする。この薬研、わざわざ薬屋で買ってきた物なんだよな。

「……こんな感じかな」

 いい感じの粉になった。
 コーヒー用のフィルターはないので、武器屋でいい感じの金属メッシュを見つけたので、それを煮沸消毒し、漏斗のように形を整える。
 マグカップを出しフィルターをセット。沸騰したお湯を注ぐと……うん、いい感じにコーヒーが出てきた。
 真っ黒なコーヒーをマグカップの三分の二ほど注ぎ、国境の町を出る前に買ったミルクを少し入れる。

「完成……」

 なんちゃってカフェオレの完成。
 香りはまさにカフェオレ。さて、味は……。

「……おおぅ」

 う、うまい。
 苦味の強いカフェオレ。だが、しぼりたてミルクのまろやかさがブレンドされ、なんともいえない味わい。
 ぶるっと震えると、ムサシが紋章から飛び出してきた。

『きゅるるる!!』
「うわっ、おい静かに。なんだお前……飲みたいのか?」
『きゅい!!』
「……まあいいけど」

 俺はムサシに少しだけ飲ませてやると。

『ぶへっ!!』
「あ、吐くな!! ああもう、もったいない……」

 ムサシはぺっぺと吐き出し、俺を非難するように耳を噛み、紋章に飛び込んだ。
 まあ、子供にはこの味はわからんね。

「……いい香りがすると思ったら、アールマティ王国の黒薬茶とはね」

 すると、テントからゾランさんが出てきた。
 これ、黒薬茶っていうのか。
 ゾランさんは俺の元へ。

「どうしたんですか?」
「いや、いい香りがしてね。黒薬茶は知っていたが、ミルクと合わせるなんて聞いたことがない」
「飲んでみますか? 美味しいですよ」
「……うむ。いただこう」

 誰かにコーヒーを作るのってなんか楽しいかも。
 俺はコーヒーを淹れ、ミルクを注いでゾランさんへ。

「……ほう、これは」
「美味しいですよね。ブラックのままだと苦いですけど、ミルクを入れるとまろやかになるんです」

 というかこれ、異世界では薬なんだよな。
 このまま飲んだら胃が荒れそうだけど……まあいいか。
 するとゾランさん、俺を見て言う。

「レクスくん。これは、きみが考えたのかね?」
「考えたというか、まあ……苦いと思ったんで、ミルク入れただけです」
「ははは。すごいな……これはアールマティ王国では薬の一つでね。まさか『ミルクを入れよう』なんて考えをする人はいなかった」

 まあそうだよな。
 俺だって、『この粉薬マズいから、砂糖加えて飲みやすくしよう』なんて思わない。

「ふむ、これは面白いな……レクスくん。これ、商品にしないかい?」
「商品?」
「ああ。私の店の隣はカフェをやっていてね、この黒薬茶を売り込んでみる。もし商品になったら、きみに売り上げの一部を入るようにしよう」
「えーと……ありがたいんですけど、俺たちは旅をするんで、定期的に売り上げをチェックするとかは……あ、そうだ。なら、ゾランさんがこの権利を買い取ってくれませんか?」
「ほう?」
「ゾランさんの言い値で構わないんで、この……『カフェオレ』の権利、売りますよ」
「カフェオレ……いい名前だ。それに言い値とは。私がとんでもなく低い金額で買い、高値で売るとは考えないのかね?」
「ま、そこは商売人であるゾランさんを信じます。というか……俺、自分で旅先に呑めれば、それでいいんで」
「ははは。わかった。じゃあ、この権利を買い取ろう」

 と、ゾランさんはポケットから白金貨を二枚……って、白金貨!?

「こ、こんなに!?」
「飲んでわかった。この飲み物には可能性がある……ふふ、先行投資ってやつだ」

 なんとまあ、気前のいい。
 なんか惜しいことしたかな。でもまあいいか。

「あ、ゾランさん。これミルクの割合を変えたり、キンキンに冷やして飲むのも美味しいと思います」
「ほう、それはいいことを聞いた。ふふ、試してみるか」

 この日、俺はカフェオレを開発、その権利をゾランさんに譲った。

 まあ、アシャ王国を出てしばらくしてから気付くことになる……この『カフェオレ』がアシャ王国で大人気となり、ゾランさんたちの商会が王国で一番の商会になることを。
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