手乗りドラゴンと行く異世界ゆるり旅  落ちこぼれ公爵令息ともふもふ竜の絆の物語

さとう

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第四章 炎砂の国アシャ

砂漠の墓地……と、言いますか

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 それから数日間、たっぷりとアサドの町を満喫した。
 美味しい飲み物を出す店を巡ったり、冒険者ギルドを覗いたり、オアシスの傍で涼んだり……砂漠の町は暑いし夜は寒いけど、やはり文化の違いを味わうのは楽しい。
 まあ……肉料理ばかりで、たまに俺が野菜スープ作ったりもしてる。あんま食べ過ぎるとメタボリックになっちゃうしな……それに健康にもよくないし。
 そして数日過ごし、いよいよ出発の日。
 俺たちは宿を引き払い、ゾランさんたちの店に挨拶へ。
 店のオープン前に向かったので、四人とも出てきてくれた。

「ゾランさん、ミリアさん、ラシャさん、へクスさん。いろいろお世話になりました」

 そう言い、頭を下げる俺。
 この数日間、皆さんには世話になった。
 ゾランさんは俺に握手を求める。

「道中の安全を祈ってるよ」
「はい。また来ます」

 ゾランさんと握手。
 エルサは、ミリアさんやラシャさんと握手し、へクスさんが手土産にと美容品を渡している。
 シャクラも、ミリアさんに抱きしめられていた。

「気を付けてね」
「ふん。アタシがいれば道中の安全は約束されたようなもんだ」
「それでもよ。旅ってのは、何が起こるかわからないんだから」
「まあ、わかった……うん」

 ちょっと照れているのか、シャクラはそっぽ向いた。
 あまり心配されるのに慣れていないように見えた。
 ゾランさんたちと別れ、俺たちはアサドの町からオスクール街道へ向かう。
 踏み固められた砂の道を進み、シャクラが言った。

「予定通り、半日ほど進んだらオスクール街道を出て、まずは『シャハラ墓地』に行くぞ。砂の戦士たちが眠る遺跡墓地……そこで、旅の安全を祈るんだ!!」
「ああ。そこ、観光地でもあるんだよな?」
「うむ。でも、道中に魔獣やサンドバイト、ドルグワントたちも出るかもしれんぞ。気は抜くなよ」
「わかった。エルサ、大丈夫か?」
「はい。なんだか、冒険って感じがしてきましたね」

 俺たちは砂漠を歩き始めた。

 ◇◇◇◇◇◇

 砂漠を歩き始めて半日。オスクール街道は砂を踏み固めて通りやすくした道だが、それでも砂漠の道は大変だ。
 そして、大きな木製の立て看板があるところまで到着し、シャクラが指をさす。

「あっちが、シャハラ墓地だ。オスクール街道はここまで」

 普通の砂道しかない方向だ。
 所々に岩場や枯草みたいなのが生えているが、よくわからない。
 それに……暑い。そろそろ出番かな。

「ムサシ、来てくれ」
『きゅいい~』

 ムサシを召喚。
 ムサシは、暑さを感じさせない元気さで飛び回る……暑さのせいかエルサは口数が少なくなり、傍を飛ぶムサシにも構えないほどだ。
 シャクラは元気だ。地元パワーというか、この程度の暑さなんて気にしないのだろう。

「さて、火属性アグニ……は、砂漠じゃ暑いな。とりあえず大きいし地属性ワースティータスの陸走形態へ」
『グロロロッ』

 地属性の陸走形態は、動物のサイをめちゃくちゃゴツゴツにしたようなデザインだ。
 大きいし、三人乗ってもまだ座れる。跨るというか、背中にそのまま座れた。
 ムサシに命じると、砂漠をのっしのっしと歩きはじめる。

「はは、乗り心地いいな。ムサシ、辛くなったら言えよ」
『ゴルゥ』

 ふん、屁でもねえぜ……と、鳴いたような気がした。
 砂漠の移動手段は、地属性の陸走形態で決まりになりそうだ。

「……ふう」
「エルサ、大丈夫か? 水飲んでおけよ」
「はい……」

 エルサは、水筒に口をつけてゴクゴク飲む。
 俺も自分の水筒を飲む……というか、暑い。

「あっついな……すげえ日差しだ」

 雲一つない青空だ。
 太陽の熱が半端じゃなく、まるでフライパンの上にいるみたいに暑い。
 空気も乾燥しているし、いくら水を飲んでも満たされない。
 これが砂漠の暑さ……本当に、アシャ王国の気候を実感している。

「今日は涼しい方だぞ?」

 シャクラが言う……地元人め。汗一つ流していない。
 シャクラは、ムサシの大きさや形態が変わったことに驚き、背中をさする。

「すっごいな。アタシが感じた強者のニオイ、間違っていなかった!! ふっふっふ……レクス、ムサシ、オマエたちと戦うのが本当に楽しみだぞ!!」

 ……忘れてなかったか。
 この数日、戦いとは無縁の観光して、けっこう仲良くなった気がしたんだけどな。
 とりあえず、話を逸らすか。

「エルサ。今日の晩飯だけど……俺、考えてたんだ」
「?」
「アシャ王国はスパイスの国だろ? そして……ハルワタートの海鮮、クシャスラの野菜、アールマティの麺を合わせたラーメンを作ってみるというのは……!!」
「──……!!」

 エルサの目が見開かれる。
 そう、これまで巡ってきた国の素材を合わせたラーメンを作る!! 
 海鮮野菜スパイスラーメン!! これは美味いだろう……まあ、作ったことないけど。
 エルサは元気を取りもどし、俺を見てニヤリと笑うのだった。

 ◇◇◇◇◇◇

 その日の夕方前。

「レクス。野営の準備するぞ」
「まだ早くないか?」

 まだお昼を過ぎた頃だ。時間にして十四時くらいかな。
 これまでは、早くても十五時半くらいに野営準備をしていたが。

「町と砂漠じゃ時間の流れが違う。砂漠では、あっという間に夜になるぞ」
「そ、そうなのか? わかった、ガイドを信じよう……エルサ、いいか?」
「はい……わたしも、休みたいです」
「ちょうど、あそこに岩場がある」

 シャクラが指差した方向に、大きな岩場があった。
 デカい岩が二つ並び、風除け、日よけとしていい感じの場所だ。
 そこに移動し、シャクラは周囲を観察する。

「……うん。罠はない、人の気配もない、魔獣の気配もないな」
「わかるのか?」
「ああ。ドルグワントやサンドバイトが罠を仕掛けてる場合もあるし、魔獣の寝床だったら深夜に戦闘開始なんてのもある。砂漠で野営するなら、痕跡を見破るのは必須技能だ。アタシは親父に習った」
「へえ……」

 頼りになるな。
 ガイドとして優秀だ。アシャワン最強の戦士でもあるし、心強い。
 さっそくテントを組み立て、岩場の傍で焚火の用意をする。
 岩がいい感じに日よけになり、暑さもかなり和らいだ。
 すると、エルサが水桶を出し、魔法で桶いっぱいに水で満たす。

「ムサシくん。今日はご苦労様。暑い中大変だったよね? さ、水浴びでもどう?」
『きゅいい~!!』

 なんと、ムサシ用に水浴びの桶を用意していた。
 ムサシは水浴びを楽しみ、エルサも嬉しそうに眺めている。

「レクス。エルサっていいヤツだな」
「ああ。考えもしなかった……ムサシのために」
「あと、ラーメンってなんだ? うまいのか?」
「話飛びすぎだろ……まあ、期待していろ」

 俺は寸胴を出し、さっそくスープ用に出汁を取り始めるのだった。

 ◇◇◇◇◇◇

 さて、結論から言おう……ラーメン、微妙だった。

「う~ん……海鮮、野菜、スパイスの味がぶつかりすぎて、よくわからんな」
「お、美味しいは美味しいですけど……」
「美味いぞ!! このメンとかいう食い物、アシャにはない!!」

 シャクラは大満足で麺を啜っていたが、俺とエルサは微妙な顔だった。
 海鮮野菜スパイスラーメン……なんか、大味というか、出汁が混ざりまくってあまりおいしくないというか、美味いの混ぜりゃめちゃくちゃ美味くなるだろ!! みたいな味というか……ぶっちゃけ、あまりおいしくない。
 とりあえず食べたが……うん、改良の余地が大いにある。

「エルサ、シャクラ……これよりもっと美味いラーメンを作ってみせる。しばらく時間をくれ……!!」

 料理人としてのプライドだ。これは改良せねば……って、俺は別に料理人じゃない。

「レクス。わたし……信じています!!」
「アタシは美味かったけど、もっとうまくなるなら応援するぞ」

 こうして、俺の『ラーメン道』に火が灯るのだった。

 ◇◇◇◇◇◇

 夜。
 いつも通り、俺が朝まで警護をするつもりだったが、シャクラが。

「レクス。夜番するならアタシもする。オマエに、夜の番について教えてやる」

 そう言い、シャクラと二人で火を囲んでいた。
 岩壁を背にテントを張っているので包囲されることはないとは思うが。
 シャクラは、周囲を警戒しながら言う。

「夜ってのは、一番警戒しつつも、一番狙われる時間だ」
『きゅるる~』

 シャクラは、ムサシを頭に載せながら言う……なんだかんだでムサシもシャクラに慣れた。
 シャクラは髪を払いつつ言う。

「……見られてるな」
「え」
「数は十人くらいか。サンドバイトだろうな」
「……う、嘘だよな?」

 あまりにもいきなり言うので、嘘かと思った。
 だがシャクラは続ける。

「数は三人、女子供、二人は他国からの観光。しかも一人は寝ている……獲物としては最高だ。リスクを冒してでも狙う価値はあるぞ」
「お、おい!! くそ、ムサシこっち来い。やるなら……」
「待て。せっかくだ、アタシの強さ、見せてやる」

 と、シャクラは立ち上がる。
 そして、傍にあった大剣を掴む。

「アイツらの最大のミスは……このアシャワン最強の戦士シャクラに気付かなかったことだ」

 そう言い、シャクラはニヤリと笑うのだった。
 なんだろう……相手を見てもいないし、いるのかどうかもわからないけど、これからシャクラの『獲物』となる相手が少し不憫だった。
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