手乗りドラゴンと行く異世界ゆるり旅  落ちこぼれ公爵令息ともふもふ竜の絆の物語

さとう

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第四章 炎砂の国アシャ

迷子のレクス

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「参ったな……」

 俺は一人、バザールをウロウロしていた。
 シャクラ、エルサとはぐれてしまった。
 周りを見るが、人、人、人……商人はもちろん、大地の民、アシャワンっぽい集団、子供の集団もいれば家族連れ、そして観光客も多い。
 迷子になったらその場を動くな……って言葉があった気がしたが、その言葉を思い出した時、すでにかなり動いたあと。というか、人混みがすごくて動くなってのが無理。
 俺はなんとか人込みから出た。いつの間にか、ピラミッドが遠くに見える。

「まずいな。かなり離れちまった……よし、このさい」

 俺は周囲を見回し、あえてバザール……いや、この『シャハラ墓地』から離れる。
 距離を取り、人が少なくなったところで、ムサシを召喚した。

「ムサシ、風属性シューマッハで羽翼形態。エルサたちとはぐれちまった……上空から探してみよう」
『きゅいい~!!』
「もしかしたら、飛んでるお前の姿を見て、合図をくれるかも」

 現在地は、ピラミッドとバザールから離れたところ。
 往来もまばらだし、近くに小さなオアシスがあった。馬車っぽいのが止まっているし、休憩所なのかも。
 ムサシに命令し、風属性の羽翼形態へ変身した時だった。

「ん? おい貴様、その魔獣……お前の獣魔か?」
「げっ」

 オアシスの傍にいた兵士っぽい人が俺の方へ。
 やばいな。面倒ごとになるか? 
 でも、ムサシは小さいし姿は見られていない。俺の紋章から直接召喚したように見えるはずだし、それならただの『獣魔士』にしか見えないはず。
 兵士は、羽翼形態のムサシをジロジロ見る。

「ほう、ワイバーンか……立派なものだ」
『ぎゅるるる!!』

 ムサシが鳴く。
 「誰がワイバーンだこの野郎!!』と叫んでいるような気がしたのは気のせいじゃない。
 兵士はやや驚きつつ言う。

「まあいい。お前、仕事しないか?」
「仕事?」
「ああ。あちらにいる、貴族のお嬢様の護衛だ」

 よく見ると、オアシスに少女がいた。
 水に素足を付け涼んでいるが、どうも不機嫌なのかムスッとしている。
 ツインテールがよく揺れているのが見える。
 兵士さんは言う。

「リューグベルン帝国から遥々来たんだが、仕事がどうもうまく進んでなくてなあ……急用とかで婚約者は逃げるように帰っちまうし、一緒に来た竜滅士もみんな帰っちまった。今いるのは現地で雇ったアシャワンの護衛数人と、リューグベルン帝国から来たオレだけってわけよ」
「そ、そりゃ災難……」
「あんた、ナリを見るに観光か、冒険者だろ? あのお嬢さん、貴族だし金払いはいいぞ。どうだ?」
「あー……」

 エルサやシャクラがいれば、相談して決めるんだが。
 俺だけ受けるわけにもいかん。というか……俺、迷子なんだよな。
 
「ま、あのお嬢さんの話相手になるだけでもいい。オレみたいなオッサンと、無口で無愛想なアシャワンだけじゃ、お嬢さんも参っちまう。まだ行く村が三つもあるし、アシャ王国にも行かなきゃならんしな」
「えーと……」

 断り辛いな……でも、ちょっと気になった。
 あのムスッとした少女、どこかで見た記憶がある。

「ま、話すだけでも。な?」
「わ、わかりました……俺も用事あるんで、気分転換に話すくらいなら」

 押しに弱い俺……ムサシもジト目で見ながら、一度俺の紋章に戻るのだった。

 ◇◇◇◇◇◇

「……なにあなた。何か用?」

 近付くなり、睨まれました!!
 オアシスにあるちょうどいいサイズの岩に座り、足を浸している。
 この世界、一般的に貴族令嬢は素足を見せるのはご法度なのだが……この少女、膝上まで素足を見せ、パチャパチャと水を蹴っていた。
 早くも「関わらなきゃよかったかも」と思う俺だが、とりあえず仕事は果たす。

「えーと、きみの護衛をやらないかって頼まれてな。ちょっと用事あるから無理だけど、気分転換にきみの話聞くくらいならできると思って」
「はあ? あんた、この私が誰だか知らないの? ただの冒険者が話できるような身分とでも?」
「まあ、そうだよな……悪かった」

 依頼完了。
 さて、エルサたちを探すか。

「……婚約者と喧嘩したのよ」
「結局話すのかよ!?」

 しまった。思わず本気でツッコんでしまった。
 少女がギロッと睨むので口を閉じる。

「毎日毎日退屈なのよ。欲しかったものを手に入れたけど、それが思った以上につまらないもので、今じゃ後悔しっぱなし……」
「……後悔?」
「ええ。今思えば、なんであんなことしちゃったのかな……自分で選んだことだけど、もう馬鹿みたい」
「……何をしたんだ?」
「馬鹿なことよ。本当に……後悔しても意味のない、馬鹿なこと。過去に戻れるなら、馬鹿だった私を思いっきりブン殴ってやりたいわ」

 過激だな……いいとこのお嬢様なんだろうけど『ブン殴る』なんて言うとは思わなかった。
 少女は汗を拭うと、思い切りため息を吐く。

「あんた、冒険者なのよね? どこから来たの?」
「お前と同じ、リューグベルン帝国だ」
「ええ? どういうルートでここまで来たの?」
「クシャスラ王国、ハルワタート王国、アールマティ王国を観光しながら来たんだ。世界を見て回る旅をしてるんだ」
「……いいなあ。ね、話を聞かせてよ。どうせラキューダ馬車出るまでヒマだし」
「いいぞ。何が聞きたい?」
「あのさ、ハルワタート王国って海の国なんだよね?」
「ああ。すごかったぞ……」

 俺は、少女がキラキラした目をしながらウンウン頷くので、話すのが楽しかった。
 
 ◇◇◇◇◇◇

 三十分ほど話をしていると、兵士さんが来た。

「休憩は終わりです。そろそろ、次の村に行きませんと」
「え、もう? ……わかった」

 少女は立ち上がる。
 俺も立ち上がり、少女をジッと見た。
 ……やっぱり、どこかで見たことある。というか……この既視感。

「なに? あなた、私に惚れたの? 悪いけど、冒険者と恋なんてしないからね」
「そりゃどうも。なあ、お前……」

 確認しようと声をかけた時だった。

「──……ドルグワント!!」

 近くにいたアシャワンの戦士が叫び、近くの藪から人間が飛び出してきた。
 
「アシャワン!! 森の贄となれ!!」
「「「「贄となれ!!」」」」」

 こっわ、贄となれって……って、そんな場合じゃない。
 アシャワンたちが骨の剣を抜いて戦闘態勢に。ドルグワントは石の槍や木の弓を手に襲い掛かってくる。あっちは木や石で作った装備がメインで、アシャワンは骨……鉄の装備はないみたいだ。
 兵士さんは、剣を抜いて少女に叫ぶ。

「お嬢様、馬車へ!! 冒険者、今だけ守ってやってくれ!!」
「あ、ああ!!」

 俺は少女の手を掴み、水を飲んで一休みしているラキューダ馬車へ。
 少女は怯えていた。俺は少女を馬車に押し込み──……見た。

「──……やべえ!!」

 ドルグワントが、こちらに弓を向けていた。
 俺は双剣を抜き、飛んで来る矢を弾き落とす。
 だが、一本の矢がラキューダの足に刺さる。

『ブギィィィィ!!』
「しまっ」

 驚いてラキューダが跳ねあがり、なんと全力で走り出した。
 俺は瞬間的に馬車に飛び乗り、御者席へ。

「おい止まれ!! 落ち着け、どうどう、どうどう!!」
『ギィィィィィ!!』

 この馬車、高級仕様なのかラキューダが三匹も繋がれている。
 一頭のラキューダが痛みで驚き走り出し、他の二頭も釣られて走り出した感じだ。
 
「ってか……は、速すぎだろ!?」

 砂漠、砂地なのに時速六十、七十キロ以上出ている気がした。
 あっという間に遠ざかっていくピラミッド。やばい、マジでヤバいぞ。
 すると──……ラキューダは、近くの森に突っ込み、大木に激突しながら走る。

「きゃああああああああ!!」
「くっ……!!」

 俺は手綱を握って操作する……ってか、御者なんてやったことねえ!!
 荷車の屋根が吹っ飛び、俺はもう決めた。
 手綱を離し、屋根の吹っ飛んだ荷車へ。少女が怯えて蹲っているのを見て、少女を抱き寄せる。

「へ!? あんた、何を──……」
「掴まってろ!!」

 目の前にあるのは大木。
 激突する前に、俺は思い切り飛んだ。
 同時に、馬車が砕け散り、ラキューダたちも手綱から解放され、一目散に逃げる。
 俺と少女は華麗に着地──……。

「「え」」

 するかと思ったが。
 なんと、飛んだ先にあったのは、横幅がめちゃくちゃ広い『川』だった。
 ドボンと水にダイブし、そのまま流される。

「うっぶぉぉぉ!? なな、なんで、こんな、かわ」
「がぼぼぼ!?」

 やばい、少女が溺れそうだ。
 そして、ようやく俺は思い出した。

「──……ムサシ!! 水属性アニマ、陸走形態!!」

 紋章から飛び出したムサシが『シャチ』となり、俺と少女を乗せて激流を逆らって泳ぎ……なんとか、川の対岸にやってきた。
 川から上がり、ムサシは手乗りサイズへ。
 俺と少女はずぶ濡れになり、なんとか陸へ。
 へとへとになりながら、その場に倒れ込んだ。

「ぶは……ぁ、な、何がどう、なってんだ」
「こ、ここ……なに?」

 そして気付いた。
 周りは森。そして、目の前にあるのは横幅がかなりある川。
 やけに蒸す……まるでジャングルだ。
 ジャングル? まて、砂漠から森って、まさか。

「……まさかここ、ドルグワントの縄張りじゃないだろうな」
「……うそ」

 少女と顔を見合わせ、顔を青くする俺たち二人。
 俺は周囲を警戒するが、何も感じない。
 すると、ムサシが少女の胸に飛び込んだ。

『きゅるる~』
「きゃあ!? なな、なにこの子」
「命の恩人」
「はあ?」
「とにかく、えっと……そういや、お前の名前は? 俺はレクス、冒険者だ。そっちはムサシで俺の相棒」

 今更だが、少女の名前を聞いた。
 少女はムサシを追い払いながら、嫌々言う。

「フリーナ。フリーナ・セレコックス。リューグベルン帝国、セレコックス伯爵家の『聖女』様よ!! 覚えておきなさい、冒険者!!」
「……せ、セレコックス?」
「なによ。文句ある?」

 セレコックス。
 セレコックス伯爵家。
 うそだろ。まさかこの子……せ、セレコックス伯爵家の『聖女』?
 つまり、エルサの妹。

『妹と婚約者、二人で共謀し……私に無実の罪を着せて、婚約破棄に追い込み……勘当されました』

 俺の眼の前にいたのは、エルサを嵌めて婚約破棄に追い込み、家を追放されることになった元凶だった。
 マジか……もう、展開に追いつけないんだが。
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