手乗りドラゴンと行く異世界ゆるり旅  落ちこぼれ公爵令息ともふもふ竜の絆の物語

さとう

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第四章 炎砂の国アシャ

森神ホルシード改め、『森魔竜』ホルシード

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 魔竜。
 竜滅士との契約が崩れたドラゴン。
 見た目は巨大な『ゾウ』……恐らく、陸走種が暴走し、あんな姿になったんだろう。
 魔竜化したドラゴンの寿命は一年くらいだけど……この魔竜、姿を見せたのはいつ頃だ? そもそも、契約が崩れた竜滅士は? アシャ王国に常駐の竜滅士が暴走したのか?
 考えることはあるが……それは俺の仕事じゃない。

「ムサシ、あいつを倒す!! サルワの時とは違う、今の俺たちならやれる!!」
『グォォォン!!』
「え、ちょ……」

 ムサシは急降下。
 俺はフリーナを抱き寄せ、銃を抜く。
 
『パォォォォォォォン!!』
「マジでゾウじゃねぇか!! くらえ!!」
『ブガァ!!』

 俺は銃を連射、ムサシは炎弾を連射。
 ホルシードの身体に命中するが、大したダメージは与えられない。

「ホルシード様!! おのれ、貴様らあああああ!!」

 キレるヴァルナ。だが、関係ないね。
 再び上空へ。ヒット&アウェイ戦法は有効なようだ。

「ね、ねえ!! 逃げよ!!」
「え?」
「こ、怖い……」

 上空にて。
 フリーナは震えていた。
 涙を流し、震えながら俺の足にしがみつく姿を見て、俺はハッとなる。
 そうだ……こいつ、普通の女の子だった。
 エルサならともかく、さっきまでホルシードに食われるかもしれなかったんだ。助かったとはいえ、こんな上空での大立ち回り……さすがに、精神がもたない。
 俺はフリーナを抱き寄せる。

「悪かった……よし、ホルシードは後回しにして、今はここから離脱しよう」
『キュゥゥ……』

 ムサシも「ごめん」って鳴いている。
 俺はムサシに命じ、ホルシードのいる祭壇から急速離脱するのだった。

 ◇◇◇◇◇

 ◇◇◇◇◇

「おのれ、生贄どもめ……!!」

 ヴァルナは、レクスたちが消えた上空を、そして焼けた木々を見て恨みを吐く。
 森の木々はドルグワントにとっての至宝。そして森神ホルシードはドルグワントの神。
 生贄を奪われ、森を焼かれた。
 これは、許されることではない。

「ドルグワントの戦士たち!! 奴らを追え!! 捕え、ホルシード様の前へ!!」
「「「「「オオオオオオオ!!」」」」」

 ヴァルナは、ホルシードの前に跪く。

「ホルシード様。必ずや、奴らを捕え献上いたしますので……」
『…………』

 森神ホルシード……改め、『森魔竜』ホルシードは、無言で上空を眺めていた。

 ◇◇◇◇◇

 ◇◇◇◇◇

 このまま森を出ようと思ったが、フリーナの震えが尋常ではないため、ドルグワントたちのいた場所からかなり離れた場所へ。
 ちょうどいい泉があったので着陸すると、ムサシは『風属性』の羽翼形態へ。

『キュゥゥ』
「え? 上空で警戒する? わかった、何かあったら頼むぞ」

 ムサシは上空へ。
 地上からではない、上空から俺たちに近づく人影を探知するようだ。
 風属性のムサシは目が非常にいい。たとえ森に紛れても発見するだろう。
 俺はフリーナに言う。

「まずは、その樹液みたいなの落とすといい。着替えは出しておくから」
「……ぅ、ぅん」

 フリーナの顔は青い。
 無理もない……死を実感したばかりだもんな。
 その場から離れようとすると、フリーナが俺の袖を掴む。

「ま、まって……い、行かないで」
「大丈夫。ちゃんと傍にいるから、な?」
「……いやだ。傍にいて!! み、見てもいいから……それに、背中、届かないし」
「は?」
「あ、あらって……」

 いやいやいやいや、何言ってんのこの子?
 するとフリーナ、泉に入ると毛布を捨て、俺に背中を晒す。
 そのまま肩まで水に浸かり、立ち上がった。

「せ、背中……洗って」
「……わ、わかったよ」

 俺はアイテムボックスからスポンジを出し、フリーナに近づく。
 そして、背中の樹液を落とすために洗い始めた。

「うわ、なんだこの樹液……べったべただな。そうだ、ハルワタート王国で買った石鹸使っていいかな……植物から造った石鹸らしいし、水に溶けても平気だと思うけど」
「……それ、ちょうだい」
「お、おう」

 フリーナに石鹸を渡すと、ゴシゴシ泡立て身体を洗う。
 俺も、フリーナの背中を泡まみれにした。うん、キレイになったぞ。

「よし終わり。樹液、落ちたか?」
「……うん」
「じゃあ、着替えて森から離れよう。ムサシに乗って飛べば、砂漠の街まで行けると思う」

 飛ばなかった理由が、砂漠で飛ぶと直射日光がヤバすぎて焼けるからだ。でも、今は逃げるためにそんなこと言ってられない……日焼け止めいっぱい塗って、急いでいくしかない。
 フリーナの傍から離れようとした時だった。

「あ、あの!!」
「ん? ってこっち向くなよ!?」

 裸のフリーナを見そうになり、顔を背ける。
 
「あの……レクス」
「な、なんだ? こっち向くなって、な?」
「その、ちゃんとお礼言わなきゃって思って。その……私、あなたに救われた。だから、ちゃんとお礼言わなきゃって思って……」
「あ、ああ。うん、お礼は受け取った。うん」
「その……あなた、カッコよかった。アスワン王子よりも……カッコよかった」
「……まあ、うん」
「レクス。私……お礼、したい」
「え」
「……その、私ならいいよ」

 な、なにが? とは言えない。
 フリーナを見ると、覚悟を決めたような目をしていた。
 こ、これって……そういうことだよな? いやまあ、経験ないわけじゃない。すでに二人ほど……じゃなくて!! 
 これ、大丈夫なのか? いや俺としては嬉しいけど、エルサの妹ってのはその。

「レクス……」
「…………」

 これは、拒否しちゃまずいかな……うん。
 そう思い、まっすぐフリーナを見た。

 ◇◇◇◇◇

「…………レクス?」

 ◇◇◇◇◇

 ふと、そんな声が聞こえて来た。
 声の方を見ると、なぜかエルサ、そしてシャクラがいた。

「んー? オマエ、何してるんだ? そっちの女がフリーナってやつか?」
「え、あ……あれ? なんで二人がここに?」
「そりゃ、オマエたちを探しに来たからだ。上空にムサシが飛んでて、ここまで案内してくれたんだぞ!!」

 そ、そっか。ムサシが。
 そう思ってムサシを見ると、エルサの後ろで「な、なんかすまん」みたいな感じで、手乗りサイズで浮いていた。
 エルサを見る……妙にニコニコしている。

「え、エルサ」
「レクス。後でお話があります」
「あ、はい」
「そして……」
「あ……」

 エルサは、フリーナを見た。
 フリーナはビクッと震える。
 だが、エルサは泉に飛び込み、フリーナを優しく抱きしめた。

「よかった、無事で……!!」
「……お、お姉様。なんで」
「あなたを探しに来たの。大丈夫だった?」
「…………なんで」
「助けたかったから。妹だもの」

 エルサは優しく微笑み、フリーナの顔が歪み、涙が流れた。

「うぁぁぁぁん!! ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいぃぃぃぃ……!!」
「いいの。大丈夫、大丈夫……」

 エルサはフリーナを抱きしめ、優しく撫で続けるのだった。
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