手乗りドラゴンと行く異世界ゆるり旅  落ちこぼれ公爵令息ともふもふ竜の絆の物語

さとう

文字の大きさ
92 / 129
第四章 炎砂の国アシャ

末期魔竜ドゥルジ①

しおりを挟む
 あまりにも歪な、そして凶悪で強大な魔竜。
 二首、二頭。フシャエータとホルシードの頭がある歪なドラゴンは、身体のあちこちに外殻や体毛が生えている。翼は四枚あり全てメチャクチャな形をしている。よく見ると尻尾は七本あり、長さや形状もそれぞれ違った。
 つまり、生物としてあり得ない姿。
 俺は叫ぶ。

「シャクラ!! ヴァルナ!! そいつはもう命が終わりかけているはずだ!! その変貌も、残りの命を燃やして互いを貪り合った結果に過ぎない!! ……と、思う」

 恐らく、残りの寿命は数時間……いや、一時間あるかないかもしれない。
 でも、間違いなくこいつは死ぬ。魔竜の末期、そして互いを貪り融合するなんて、魔竜の残り命が燃え上がりでもしない限り、絶対にありえない。

『きゅい!!』
「え……?」
『きゅい、きゅるる!!』

 ムサシが俺の頭に乗り、べしべしと尻尾で叩く。
 すると……何か、見えた。
 魔竜の身体を包む、真っ黒いモヤが。

「な、なんだ……あれ?」
「レクス? ど、どうしたんですか?」
「いや、あの黒いモヤ……」
「モヤ?」

 エルサが首を傾げていた。
 まさか、見えていない? あんなにはっきりと纏わりついているのに。
 
『『バオオオオオオオオオ!!』』

 すると、魔竜は地団駄を踏み、首や尻尾をメチャクチャに動かして暴れる。
 もうドラゴンの知性なんてない。メチャクチャに暴れるくらいの知能しかない。
 でも、あの巨体で地団駄を踏むだけで、それは破壊の嵐となる。

「うおおお!!」「離れろ!!」「手を貸す、こっちだ!!」「す、すまない」

 奇しくも、アシャワンとドルグワントの戦士たちが、互いに手を取り合っていた。
 同じなんだ。アシャワンもドルグワントも、根幹にあるのは『アシャを守る』ということ。それが森か砂漠かだけの違いで、目の前の脅威に対していがみ合うほど愚かじゃない。
 俺はムサシに言う。

「ムサシ、火属性の羽翼形態……地上は戦士たちに任せて、俺たちは上空から攻撃する!! エルサ、お前は距離を取って、負傷者の治療を頼む!!」
「わ、わかりました!! レクス、ムサシ……気を付けて」
「ん……」

 と、エルサがきゅっと抱きついて、俺にキスしてきた。
 ついでにムサシにも……いや、これ死ねないし、やる気出まくりだろ。

『きゅいいいいい!!』
「おま、メチャクチャ興奮しているな……気持ちわかるけど。じゃあ行くぞ!!」
『シャガアアア!!』

 ムサシは不死鳥のような羽翼形態へ変わる。 
 俺は銃を抜き、ムサシの背に乗って飛び立った。

「さあ、アシャ王国で最後のバトル……気合入れるぞ!!」
『シャア!!』

 敵は、融合した魔竜。
 なんだかんだで、国を守るために戦う俺とムサシであった。

 ◇◇◇◇◇

 さて、意気揚々と上空に飛び上がった瞬間。

「だらあああああああああ!!」
「へ?」

 物凄い勢いで、砂煙を巻き上げながら誰かが走ってくるのが見えた。
 
「うげぇぇぇえええええ!!」
「ぐおおおおおおおぉぉ!!」

 その誰か、人を掴んで走ってる……しかも二人。
 近付くにつれ姿が見え、俺は開いた口が塞がらなかった。

「え、あ、アミュア……? げっ、ディアブレイズ様!? と、誰だ? うわ、見ない方がいいかも……」

 見ない方がいいのは、アミュアともう一人の女の子だ。
 腕を掴まれ、ブンブン振り回されながら引っ張られているせいか、女の子にあるまじき叫び声に、とんでもなく悪い顔色……あれ、死ぬんじゃないか?
 そっか。六滅竜『炎』の付き人とかにアミュアとあの女の子が選ばれ……。

「んん?」
「う」

 やべ、数百メートル離れているはずなのに、ディアブレイズ様と目が合った。

「まさか、レクスの坊主? おいおい、追放……まあいいや!! おうアミュア、行ってこい!!」
「うっぶ……え、れぐず? ──っでぇぇぇ!?」
「ちょ!?」

 なんとディアブレイズ様、アミュアをブン投げた。
 どういう腕力なのか、アミュアは上空をきりもみ回転しながら俺の方へ飛んでくる。
 ムサシに位置を調整してもらい、俺はアミュアをキャッチした。

「あ、アミュア!? おい、しっかりしろ!!」
「はっはー!! なんかデカくなってやがるな!! さあ、テメエの相手はこの六滅竜『炎』のディアブレイズと、相棒の『炎獄神竜』スルトだ!! いくぜえええええええ!!」
『いくぜ相棒おおおおおおお!!』

 地上では、ディアブレイズ様がバカでかい叫びを上げながら、魔竜に飛び掛かった。
 いやいいんだが……俺のやる気、空回りしそう。
 ま、まあいい。

「おいアミュア、おい!! しっかりしろ!!」
「しぬ、しぬ……」
「ひでえ顔色……う、くせえ」

 こいつ、何回か吐いたな? 振り回されながらここまで来たのか、メチャクチャひどい乗り物酔いしたみたいになっている。
 ええい、荒療治だ。
 俺はアイテムボックスから水のボトルを出し、アミュアの頭にぶっかける。

「うう……きもちいい」
「ほら、飲め。ゆっくりでいいから」
「ううう……ん」

 アミュアは水を少しずつ飲むと、ぷはーと息を吐いた。
 そして、ゆっくり目を開けると、俺の顔をジッと見る。

「……レクス?」
「ああ、大丈夫か?」
「…………夢?」
「本物だ。ほれほれ」
「いたた、いたい」

 アミュアの頬を引っ張り、俺はニカッと笑う……すると、アミュアはポロっと涙を流し、俺にしがみついた。

「うう、レクス……」
「大丈夫大丈夫。よしよし」

 アミュアを落ち着かせ、俺はディアブレイズ様を見た。

「スルトを身体に纏って戦うスタイルだっけ……相変わらず豪快だ」

 スルトは、かなり小さいドラゴンだ。甲殻種で、ムスペル侯爵家の人間は代々、スルトを纏って戦うために、強靭な肉体を作るって聞いたけど。
 ディアブレイズ様は、ホルシードの方の顔面を豪快に殴って吹っ飛ばしていた。
 
「レクス……あんた、やっぱりアシャ王国にいたんだ」
「ああ。お前の方は?」
「えっとね……」

 アミュアは、アシャ王国から要請を受け、魔竜討伐に来たことを説明……そして、地上にある岩陰に放置されている女の子を見て言った。

「あの子、新しい六滅竜『地』のヘルっていうの。へレイア様が亡くなって、ミドガルズオルムに選ばれた子でね……今回は、ディアブレイズ様に六滅竜の使い方を学ぶために一緒に来たんだけど……」
「……完全に放置されてるな。よしムサシ、あの子の傍へ」
『シャウ』

 ムサシは地上へ。
 岩陰に放置されている女の子……ヘルを介抱した。
 眼を覚ますと、青い顔で俺を見る。

「……え、だれ」
「ども。レクスです」
「……どうも」
「ヘル。レクスは私の幼馴染。今はもう一般人だけどね」
「……はあ。うう、あたまいたい」
「まあそのへんのくだりは適当に。それより、あの魔竜を何とかするぞ。アミュア、いけるか?」
「いけるけど……ディアブレイズ様だけで十分じゃ?」

 ディアブレイズ様を見ると、ホルシードとフシャエータの混合魔竜相手に渡り合っていた。
 あまりの業火に、アシャワンもドルグワントも近づけない。シャクラ、ヴァルナは『手を出さないように!!』と命令を出していた。
 俺は言う。

「なんとなくだけど……あの魔竜、普通じゃない。お前は見えるか? あの魔竜に纏わりつく黒いモヤ」
「……モヤ? 見えないけど」
「私も……」

 アミュアもヘルも、目を凝らしているが見えていない。
 俺は、手乗りドラゴンのムサシに聞く。

「ムサシ、お前には見えるよな?」
『きゅう』
「……俺とムサシにしか見えていないのか?」
『きゅい!!』

 ムサシは俺の肩から飛ぶと、俺たち三人の周りをクルクル飛ぶ。

『きゅるる、きゅいい!! きゅい!!』
「……みんなで、戦うって?」
『きゅいいい!!』
「……ディアブレイズ様だけじゃ、勝てない?」
「レクス、ムサシの言葉、わかるの?」
「なんとなく。ムサシは、ディアブレイズ様だけじゃ、あの魔竜は倒せないって言ってる」

 するとムサシ、火属性の人型形態になり、鱗を大剣に変えて肩に担ぐ。

『ガロロロ!!』
「……わかった。よし!! アミュア、やるぞ!!」
「理由はともかく、戦うのは竜滅士として当然!! アグニベルト!!」

 アミュアはアグニベルトを召喚、今のムサシと同じくらい大きい甲殻種のドラゴンは、並ぶと壮観だ。

「わ、わたしも……きて、ミドガルズオルム」

 そして、俺たちの背後に巨大な亀……ではなく、ミドガルズオルムが現れた。

「よし、ディアブレイズ様に加勢するぞ!!」

 魔竜討伐……これは、竜滅士の仕事だ!!
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。