手乗りドラゴンと行く異世界ゆるり旅  落ちこぼれ公爵令息ともふもふ竜の絆の物語

さとう

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第五章 氷礫の国ウォフマナフ

エルサとコロンちゃんと遭難者

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「……んあ」

 俺が目を覚ますと、妙な重さがあった。
 現在、日が昇ったばかりなのか、太陽の光が眩しい……しかも、周囲の雪が太陽光でキラキラ光り、まるで鏡のように俺の周囲を輝かせる。
 俺は野営番で、見張りをしていたのだが……寒くて毛布にくるまり、焚火の前で温かいコーヒーを飲んで、ゆっくり読書をしていたはずなのだが、いつの間にか寝ていたようだ。
 そして、妙なあったかさの正体。

『きゅるる~』
『もあぁぁ』

 ムサシはわかる。
 だがなぜ、俺の毛布の中に、エルサの『コロンちゃん』がいるのか。

「……」
『もあぁ』

 真っ白なウォンバット……が、この生物を表現するのにピッタリだ。
 エルサが風呂に入れたせいか、フワフワ度がかなり増している。抱っこするといい香りがして、フワフワなクッションを抱いているような気持ちになる。
 しかも、あったけえ……なんだこの温かさ。

「レクス!! こ、コロンちゃんがいません……って」
「あ、エルサ」
『きゅうう』

 テントから飛び出してきたエルサは、俺に甘えるコロンちゃんを見てムッとした。

「……どうしてレクスのところに」
「い、いや……なんでだろうな?」
『きゅい』
『もぁぁ』

 コロンちゃんは俺の下から降りると、のそのそと歩いてエルサの方へ。
 エルサはコロンちゃんを抱っこすると、頬ずりした。

「もう、心配させないでくださいね。コロンちゃん」
『もあー』

 うーん……コロンちゃん、マジでエルサの獣魔になるつもりなのかな。

 ◇◇◇◇◇

 さて、朝食を食べて片付けをして、俺たちは出発した。
 俺は地図を開き、ムサシを肩に乗せて言う。

「まずは、一番近くにある『フェセの街』を目指そう」
「フェセの街……どんなところですか?」
「パンフレットによると、ウォフマナフにある町や村のほとんどは、なんらかの芸術を収めているらしい」

 氷礫の国ウォフマナフは、一言で表現するなら『芸術の国』だ。
 絵画・彫刻・工芸・建築・詩・音楽・舞踏……いろいろジャンルはあるが、この国に住む人たちの多くは、それらの芸術を修めているそうだ。
 
「氷華祭っていう祭りが近いから、今はどの街でもいろんな芸術家たちが作品を作っているらしいぞ」
「そういえば、氷彫刻がどうとか言ってましたね」
「ああ。氷華祭のメインは『氷彫刻』らしいけど、他にもいろんな芸術発表があるらしい。そして、審査員の一人が六滅竜『氷』のイスベルグ様とか……」

 氷華祭で優秀な成績を修めると、ウォフマナフ王家の専属芸術家になれるらしい。
 俺には芸術とかよくわからんが、見て楽しいなら見てみたい。

「なんだか楽しみですね」
「ああ。エルサ、今度こそ……今度こそ!! 余計なゴタゴタに巻き込まれないようにしよう!!」
「は、はい」
『きゅうう……』
『もぁ』

 ムサシが「なんか無理っぽそうだな……」と言い、コロンちゃんが「確かに」と鳴いたような気がした……頼む、マジで普通の観光させてくれ!!

 ◇◇◇◇◇

 さて、地図を見て俺はエルサに言う。

「今日は、フェセの街に行く前にオスクール街道を出て、この先にある『万年氷滝』に行こう。ここ、世にも珍しい『凍った流れる滝』がある場所なんだってさ」

 マップとパンフレットを見比べながら言う……自分で言ってなんだが、凍った流れる滝って何だ?
 すると、コロンちゃんにスカーフを巻いていたエルサが言う。

「久しぶりの観光ですね。凍った滝……どんなところなのかな?」
『もあー』
「……なあ、なんでスカーフを?」
「ふふ、可愛いからです」
「そ、そうか……ずっと抱いてるの大変だろ? 町に行ったら獣魔登録するか。エルサの手にも紋章が刻まれることになるけど」
「問題ありません。コロンちゃん……わたしの獣魔になってくれるかな?」
『もあぁ』

 任せな、ベイビー……と言ったような気がした。いやこんな喋り方じゃないな。
 さて、オスクール街道を出て『万年氷滝』に向かう横道に入り、しばらく歩いていると。

『きゅいっ!!』
「ん……エルサ!! 魔獣だ!!」
「はい!!」

 オスクール街道がいかに整備されているかわかる。
 横道に入った途端、藪から青い毛の狼が飛び出してきた。
 アイスウルフ。俺たちを見てヨダレを垂らし、今にも飛び掛かってきそうだ。
 俺は双剣を、エルサがロッドを抜く。

「コロンちゃん、わたしの後ろに!!」
『もあ~』

 なんともまあ、言っちゃ悪いが危機感のない鳴き声だ。
 俺はムサシに言う。

「ムサシ、ウォフマナフに入ったけど……どうだ? 新しい属性は得たか?」
『きゅいっ!!』
「よし、じゃあ……行くぞ!! 『氷属性グラキエース』!!」

 俺の右手の紋章、氷属性のマークが輝き、さらに人型形態のマークも輝く。
 俺の隣に現れたのは……って、え。

『ッシャア!!』
「……お、おお」

 全長二メートル未満、背中に氷の結晶みたいな翼を持ち、両手に氷のダガーを握る、全体的にスタイリッシュな『氷属性グラキエース』の『人型形態』のムサシだった。
 俺とほぼ同じ身長で、さらに両手に氷のダガーを持つムサシ。
 同じ目線なのは初めてだ。少し驚いたけど、不思議と喜びが湧いてきた。
 俺は双剣をクルクル回転させると、ムサシも真似をする。

「よし!! ムサシ、一緒にやるぞ!!」
『シャウ!!』
「レクス、わたしは援護します!!」

 俺は頷き、ムサシと一緒に飛び出す。
 同時に、アイスウルフが一体飛び掛かってきたが、俺より前に出たムサシが氷のダガーを投げると、頭部に突き刺さって絶命……ムサシは一瞬でダガーを作る。
 そして、ムサシの真横から飛び掛かってきたアイスウルフを俺は両断。ムサシとアイコンタクトをすると、ムサシはダガーを投げ、俺に飛び掛かってきたアイスウルフを倒す。
 エルサは、水の玉をいくつも作り、アイスウルフにぶつけていた。

「ここ、わたしと相性最高かもしれません!! ムサシ!!」
『シャウ!!』

 ムサシは『羽翼形態』へ。
 その姿は、なんと細い蛇のような身体に、アクアマリンのような結晶が散りばめられ、さらにコウモリのような羽が生えた姿だ。
 長さも三メートルくらいで、蜷局を巻いた状態で浮かぶと、口から氷のブレスを吐く。
 エルサの水で濡れたアイスウルフは一瞬で凍る。
 そして、俺はアイテムボックスからハンマーを出すと、回転して一気に凍ったアイスウルフを叩き割った。
 アイスウルフは全滅……すげえ、なんか会心の出来って感じだった!!

「っしゃ!! すげえ、なんか連携って感じだったな!!」
「はい!! コロンちゃん、大丈夫?」
『もあぁ』
『きゅいっ!!』

 ムサシは手乗りドラゴンに戻ると、嬉しそうに俺の耳をガジガジ噛んだ。
 コロンちゃんも、エルサの足下でゴロゴロ転がって喜んでいる。

『きゅうう』
「ムサシ、これで五つ目の属性だな!! お前、ホントに強くなってるぞ」
『きゅいっ!!』

 風、水、地、炎、そして氷……残るは雷属性か。
 全部集めたらどうなるのかな……まさか、最終形態とかあるのか? ははは、漫画の読み過ぎか。この世界に漫画はないけどね。
 
「さて、魔獣も倒したし、先に進むか」

 そう言って、先に進もうと歩き出した時だった。
 
『もあぁ~』
「ん、どうしたの、コロンちゃん」

 コロンちゃんが、近くの藪に向かって歩き出した。
 そして、木から落ちた雪が山になったところで止まり、エルサに向かって鳴く。

『もああ~』
「どうしたの? そこに何かあるの?」
『もあぁ』
『きゅいっ!!』
「ムサシ、お前もか……まさか、お宝か?」

 雪山をアイテムボックスから出したスコップで掘ってみる……すると。

「「……え」」

 なんと、『手』が出てきた。
 いきなり出てきた『手』に驚く俺とエルサ。すると、その手がピクリと動いた。

「ぅ、ぅぅぅ……た、たすけ」
「れ、レクス……この手、いえ、この人……この雪山に埋まってるみたいです!!」
「ま、マジか!! い、今助ける!!」

 俺はスコップで雪山を掘ると……やっぱり、人が埋まっていた。
 ボロボロのコート、帽子を被った三十代くらいの男性だった。顔立ちは整っており、水色の長い髪をゴムで縛っている。身長は高く、体格もよさそうだが……雪に埋まっていたせいか顔色が悪い。

「え、エルサ!! 魔法、回復、できるか!?」
「は、はい!!」

 こうして、俺とエルサは、雪山に埋まっていた男性を助けるため、慌てて治療を開始するのだった。
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