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第五章 氷礫の国ウォフマナフ
いざ王都へ
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俺とエルサは、絵画物語をたっぷり堪能した。
異世界でまさか漫画に出会えるとは思わず、俺はいろんな絵画物語に没頭……恋愛、ファンタジー、冒険譚の絵画物語を一日ずっと読み漁った。
特に、冒険譚は面白かった。活字ばかり読んでいた俺にとって、異世界の漫画はいい刺激になった。
氷華祭でも、絵画物語のブースがある……これは買うしかないだろ。
俺とエルサは図書館を出て、満足そうに言う。
「いや~、最高だった」
「はい。絵画物語……活字にはない面白さです!!」
「ああ、氷華祭で専用ブースあるみたいだし、楽しみだ」
「はい。ふふ、これも芸術なんですね」
絵画物語は芸術です!!
実は、けっこう過激な絵画物語もあった……エルサがじっくり読んでいたけど、あえて俺は知らないフリ。ふふふ、いろいろ『勉強』になったようだし、楽しみが増えた。
宿に戻る途中、俺とエルサはムサシとコロンちゃんを召喚した。
「悪い、ずっと紋章の中じゃ退屈だったろ?」
「コロンちゃんもゴメンね。今日は一緒に寝ようね」
『きゅい~』
『もあぁ~』
ムサシとコロンちゃんは、ウンウン頷きながら鳴いた。
うん、しばらく外に出して一緒に行動しますかね。
◇◇◇◇◇◇
宿に戻ると、やや顔色の悪いファウードさんが、ラウンジでお茶を飲んでいた。
「……ブツブツブツブツ」
なんか口が小刻みに動いてる。
目が虚ろだし……ど、どうしたのかな。
エルサと顔を見合わせ、近づいてみた。
「あ、あの~……ファウードさん?」
「……ん、ああ。おかえり、二人とも」
疲れ切った笑顔ってこういう笑顔なんだな……と、俺は思った。
心配したエルサは、魔法でファウードさんを癒す。ついでに、コロンちゃんがファウードさんの太ももに乗り、ムサシも肩に乗って甘えだした。
ファウードさんは癒されるのか、ほっこりした表情へ。
「すまない。アトリエに戻ってから制作する作品を、脳内で想像していた」
「だ、大丈夫なんですか?」
「ああ……七日ほどあれば完成する。シミュレーション通りだ」
その七日に、睡眠とか食事は含まれてるのだろうか。
この人、めちゃくちゃ無理しそうな気がする。
「さて、明日にはウォフマナフ本国に向けて出発しよう。オスクール街道を一本道で、乗合馬車なら半日で到着する……もう、絵画物語は堪能したかな?」
「「はい!!」」
『きゅるる!!』
『もあぁ~』
ファウードさんはニッコリ笑い、コロンちゃんとムサシを撫でた。
絵画物語……ウォフマナフに来て一番の収穫だ。異世界の漫画、買えるだけ買っておくのも悪くない。
◇◇◇◇◇◇
翌日。
俺、エルサ、ファウードさんは、乗合馬車に乗ってウォフマナフ本国へ。
デカい馬が三頭で引く、大型バスみたいな荷車だ。室内には暖房もあり、三角屋根なので雪も積もらない。しかも驚いたことに車輪ではなく、ソリなので揺れも少ない。
ウォフマナフ本国に向かうためのオスクール街道も、ソリで滑る用の道に慣らされているところが、いかにもオスクール街道っぽい……いいな。
現在俺たちは、揺れのない乗合馬車の中で、大量に買った絵画物語を読んでいた。
「「…………」」
『きゅるる……』
『もぁぁ』
俺、エルサは無言。
ムサシが呆れたように首を傾げ、コロンちゃんはファウードさんの太ももで大人しく座っていた。ファウードさんはというと、コロンちゃんを撫でていたのだが今は寝ている。
「ふぁ……」
俺は欠伸をする。
本当に、手抜きみたいな移動だ。いつもなら景色を堪能したり、歩きながらおしゃべりしたり、たまに現れる魔獣を前に警戒したり、野営地を探しながら歩いて、エルサと野営するんだが。
「…………ああ、うん」
これ、あれだ。
『たるんでる』ってヤツ。
俺もエルサも、ここ最近は『旅』じゃなくて、ただ『移動』してるだけ。
世界を見て回ろうって張り切ってたのに、これじゃ冒険じゃない気がする。
「……うん、そうだな」
「レクス?」
「エルサ。ちょっと最近たるんでたかも……次のアムルタートでは、もうちょい冒険者っぽくいこう」
「え、え? えっと」
俺は絵画物語を閉じ、ムサシに指を差し出す。
「なんか最近、刺激というか……楽ばかりしてる気がする。これ、冒険とはいえないよな……」
「…………」
エルサも、少し思うことがありそうだ。
絵画物語を閉じ、椅子に寄りかかる。
「……確かに、最近少しのんびりしすぎな気がしますね」
「ああ。冒険者ギルドも行ってないし、依頼も受けてないし……」
「町に行って、有名どころを見学して、あとはのんびり……って感じですね」
「芸術に触れるのは楽しいけどな。でも、それだけだ」
少し反省。
でも、気付けてよかった。
「よし。ウォフマナフ本国で氷華祭を楽しんだら、アムルタートでは自分たちの足で歩こう」
「はい。そっちのが、わたしたちらしいかもです」
こうして、俺とエルサは大事なことに気付かされた。
ウォフマナフ……芸術の国はいいところだけど、俺たちはもう少し刺激が欲しいぜ!!
でも、氷華祭は楽しむ。今は寝ているファウードさんのために、しっかりモデルをこなさないとな!!
異世界でまさか漫画に出会えるとは思わず、俺はいろんな絵画物語に没頭……恋愛、ファンタジー、冒険譚の絵画物語を一日ずっと読み漁った。
特に、冒険譚は面白かった。活字ばかり読んでいた俺にとって、異世界の漫画はいい刺激になった。
氷華祭でも、絵画物語のブースがある……これは買うしかないだろ。
俺とエルサは図書館を出て、満足そうに言う。
「いや~、最高だった」
「はい。絵画物語……活字にはない面白さです!!」
「ああ、氷華祭で専用ブースあるみたいだし、楽しみだ」
「はい。ふふ、これも芸術なんですね」
絵画物語は芸術です!!
実は、けっこう過激な絵画物語もあった……エルサがじっくり読んでいたけど、あえて俺は知らないフリ。ふふふ、いろいろ『勉強』になったようだし、楽しみが増えた。
宿に戻る途中、俺とエルサはムサシとコロンちゃんを召喚した。
「悪い、ずっと紋章の中じゃ退屈だったろ?」
「コロンちゃんもゴメンね。今日は一緒に寝ようね」
『きゅい~』
『もあぁ~』
ムサシとコロンちゃんは、ウンウン頷きながら鳴いた。
うん、しばらく外に出して一緒に行動しますかね。
◇◇◇◇◇◇
宿に戻ると、やや顔色の悪いファウードさんが、ラウンジでお茶を飲んでいた。
「……ブツブツブツブツ」
なんか口が小刻みに動いてる。
目が虚ろだし……ど、どうしたのかな。
エルサと顔を見合わせ、近づいてみた。
「あ、あの~……ファウードさん?」
「……ん、ああ。おかえり、二人とも」
疲れ切った笑顔ってこういう笑顔なんだな……と、俺は思った。
心配したエルサは、魔法でファウードさんを癒す。ついでに、コロンちゃんがファウードさんの太ももに乗り、ムサシも肩に乗って甘えだした。
ファウードさんは癒されるのか、ほっこりした表情へ。
「すまない。アトリエに戻ってから制作する作品を、脳内で想像していた」
「だ、大丈夫なんですか?」
「ああ……七日ほどあれば完成する。シミュレーション通りだ」
その七日に、睡眠とか食事は含まれてるのだろうか。
この人、めちゃくちゃ無理しそうな気がする。
「さて、明日にはウォフマナフ本国に向けて出発しよう。オスクール街道を一本道で、乗合馬車なら半日で到着する……もう、絵画物語は堪能したかな?」
「「はい!!」」
『きゅるる!!』
『もあぁ~』
ファウードさんはニッコリ笑い、コロンちゃんとムサシを撫でた。
絵画物語……ウォフマナフに来て一番の収穫だ。異世界の漫画、買えるだけ買っておくのも悪くない。
◇◇◇◇◇◇
翌日。
俺、エルサ、ファウードさんは、乗合馬車に乗ってウォフマナフ本国へ。
デカい馬が三頭で引く、大型バスみたいな荷車だ。室内には暖房もあり、三角屋根なので雪も積もらない。しかも驚いたことに車輪ではなく、ソリなので揺れも少ない。
ウォフマナフ本国に向かうためのオスクール街道も、ソリで滑る用の道に慣らされているところが、いかにもオスクール街道っぽい……いいな。
現在俺たちは、揺れのない乗合馬車の中で、大量に買った絵画物語を読んでいた。
「「…………」」
『きゅるる……』
『もぁぁ』
俺、エルサは無言。
ムサシが呆れたように首を傾げ、コロンちゃんはファウードさんの太ももで大人しく座っていた。ファウードさんはというと、コロンちゃんを撫でていたのだが今は寝ている。
「ふぁ……」
俺は欠伸をする。
本当に、手抜きみたいな移動だ。いつもなら景色を堪能したり、歩きながらおしゃべりしたり、たまに現れる魔獣を前に警戒したり、野営地を探しながら歩いて、エルサと野営するんだが。
「…………ああ、うん」
これ、あれだ。
『たるんでる』ってヤツ。
俺もエルサも、ここ最近は『旅』じゃなくて、ただ『移動』してるだけ。
世界を見て回ろうって張り切ってたのに、これじゃ冒険じゃない気がする。
「……うん、そうだな」
「レクス?」
「エルサ。ちょっと最近たるんでたかも……次のアムルタートでは、もうちょい冒険者っぽくいこう」
「え、え? えっと」
俺は絵画物語を閉じ、ムサシに指を差し出す。
「なんか最近、刺激というか……楽ばかりしてる気がする。これ、冒険とはいえないよな……」
「…………」
エルサも、少し思うことがありそうだ。
絵画物語を閉じ、椅子に寄りかかる。
「……確かに、最近少しのんびりしすぎな気がしますね」
「ああ。冒険者ギルドも行ってないし、依頼も受けてないし……」
「町に行って、有名どころを見学して、あとはのんびり……って感じですね」
「芸術に触れるのは楽しいけどな。でも、それだけだ」
少し反省。
でも、気付けてよかった。
「よし。ウォフマナフ本国で氷華祭を楽しんだら、アムルタートでは自分たちの足で歩こう」
「はい。そっちのが、わたしたちらしいかもです」
こうして、俺とエルサは大事なことに気付かされた。
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