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第八章
ホットケーキ
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魔帝ニュクス・アースガルズの襲来から、時間は少しだけ巻き戻る───。
◇◇◇◇◇◇
ガーネットの葬儀、墓参りを終えたS級たち。
奇跡的に、学園は無傷だった。生徒たちが迫りくる肉塊魔獣相手に戦ったのだ。
しばらく、学園内はその話でもちきりだった。
「オレ、あの肉塊魔獣を二十体倒したぜ!」
「あたしは校舎を守ったわ」「ぼくの召喚獣だって肉塊魔獣を倒した!」
「へへ、聞いてくれよ。あの肉塊魔獣が襲って来た時───」
と、どこもかしこも魔人戦での英雄譚を語りたがる。
確かに。野外演習で戦う魔獣とは違い、完全な戦争行為だった。生徒たちの胸に熱い火が灯り、興奮冷めやらぬというのがよくわかる。
だが、意外と知られていないのが、テュポーンの本体と戦い、もう一体の魔人フロレンティアを討伐したS級たち。
それとは別に、死亡したガーネットの後継者として、先の戦いで優れた統率力と戦闘力を見せたA級召喚士リリーシャが新たな『女教皇』に任命されたこと。これらのニュースが学園をにぎわせ、号外として新聞まで発行され国中をにぎわせた。
そんな中。授業が再開されるまで待機を命じられていたS級たちは、寮の談話室でおやつの時間───……ウィル特製のホットケーキを食べていた。
「うまい! おかわりー!」
「ったく、もっとゆっくり食えっての」
レイヴィニアに五枚目のホットケーキを焼きながら、ウィルはフライパンを巧みに操る。
女性陣も満足そうにホットケーキを食べていた。
レイヴィニアもホットケーキをガツガツ食べ、ホットケーキを三枚食べたニスロクは、床でグースカ昼寝をしていた。
「ん~おいひぃ……ウィル、あんたお母さんの才能ある!」
フェニアがそう言うと、ウィルは「ハッ」と鼻で笑った。
サフィーとアネルもすでに三枚目だ。おかわりを要求したいのだが、恥ずかしいのかウィルをチラチラ見るだけ……だが、ウィルは言う。
「チッ……失敗した。お前ら、食え」
「は、はい!」
「た、食べるよ。残しちゃ悪いしね!」
焼き過ぎたという割に、焦げ目などないし、形もまんまるで綺麗なものだ。
こういう気遣いがウィルらしい。そして、メルは皿を突き出す。
「お代わりを」
「腹黒王女サマは遠慮がないねぇ……」
「何か言いまして?」
「いーえ別に。不敬罪でクビ撥ねられたくないんで黙りますよ、っと」
ウィルはホットケーキを焼く。そして、チラッとアルフェンを見た。
すでに四枚完食したアルフェンは、紅茶を飲みながら新聞を読んでいた。
「おい」
「……」
「おい、お前」
「……ん? ああ、俺?」
「お前以外に誰がいんだよ。もう食わねぇのか?」
「ああ。お腹いっぱいだ……サンキュな、ウィル」
「フン……」
ウィルは、アルフェンを名前で呼ぶことはなかった。
やはり、あの時聞こえたのは気のせい……アルフェンはそう思いたかったが、なんとなくもう一度呼ばれてみたくなってしまう。やや期待を込めてウィルを見ると。
「んだよ。いらねぇっつっただろ。もう作んねーぞ」
「……ああ、わかった」
期待しても無駄そうだ。
紅茶を飲み欲し、新聞を読む。すると、メルが身体をねじ込んできた。
「おっ、リリーシャが新しい『女教皇』に、ダオームとキリアスがA級に昇格した記事があるわね」
「お、おい。あんまりくっつくなよ」
「なに、照れてるのかしら?」
メルはアルフェンの腕を抱き、胸を押し付けてくる。
すると、フェニアとサフィーがムスっとした。
「アルフェン、ニヤニヤすんな! あとメル、寮でそういうのは禁止!!」
「そうです!! 離れて離れて!!」
「あら怖い。刺される前に離れましょっと……ふふ、可愛いのね」
メルはスッと離れ、隣に座った。
「知ってると思うけど、リリーシャが特A級に昇格。それに伴い、リリーシャを隊長とした新たな戦闘部隊が新設されたわ。リリーシャに選抜された王国最強の戦闘部隊ってやつね」
すると、エプロンで手を拭ったウィルがキッチンから来た。そのしぐさが完全な『お母さん』であり、見ていた全員が噴き出しそうになった……が、堪えた。
そんなことにも気付かず、ウィルは言う。
「『女教皇』か……あの生意気なクソ生徒会長にそんな権力預けていいのかね」
「もちろん、よくないわ。というか……わたしの見解だと、リリーシャを任命した『審判』ガブリエルは、『仮面舞踏会』と繋がっている可能性が高い。A級の顧問になったヒルクライム叔父様、ユウグレナ叔母様も、部隊に任命されたみたいだしね」
「はぁ……そんな部隊作ってどうすんだよ」
「もちろん。この国を乗っ取るためよ」
メルはあっけらかんと言った。
あまりにも突然だったので、全員が絶句する。
「リリーシャはガブリエルの傀儡になったわ。戦力をリリーシャに集中させて、二十一人の召喚士ですら敵わない特殊部隊を設立。その総指揮権を持つガブリエル……二十一人の英雄は確かに強いけど、能力を知り尽くしているガブリエルなら対処できるはず」
「ちょ、ちょっと待てよ……そ、それって」
「そう。わたしの考え。ガブリエルは、この国を乗っ取る……クーデターを起こす可能性がある。S級に魔帝、魔人を討伐、相打ちに持ち込んで互いに消えてもらい、疲弊した国を乗っ取る……可能性は少なくない」
「マジかよ……」
「ま、可能性が高いだけ。前々からガブリエルは怪しいって思ってたの。枢機卿って立場に満足してないようだし、政治にも口挟んでくるし……っと、今のは内密にね」
メルは紅茶を一気に飲み干した。
アルフェンは新聞をもう一度見て言う。
「敵は魔帝だけじゃないのかよ……」
「今は魔帝だけでいいわ。内々のことはわたしに任せなさい。この国を牛耳るのはわたしよ。英雄だか何だか知らないけど、好きにはさせないわ」
「…………」
アルフェンは言わなかったが、メルの方がなぜか恐ろしく見えた。
◇◇◇◇◇◇
ガーネットの葬儀、墓参りを終えたS級たち。
奇跡的に、学園は無傷だった。生徒たちが迫りくる肉塊魔獣相手に戦ったのだ。
しばらく、学園内はその話でもちきりだった。
「オレ、あの肉塊魔獣を二十体倒したぜ!」
「あたしは校舎を守ったわ」「ぼくの召喚獣だって肉塊魔獣を倒した!」
「へへ、聞いてくれよ。あの肉塊魔獣が襲って来た時───」
と、どこもかしこも魔人戦での英雄譚を語りたがる。
確かに。野外演習で戦う魔獣とは違い、完全な戦争行為だった。生徒たちの胸に熱い火が灯り、興奮冷めやらぬというのがよくわかる。
だが、意外と知られていないのが、テュポーンの本体と戦い、もう一体の魔人フロレンティアを討伐したS級たち。
それとは別に、死亡したガーネットの後継者として、先の戦いで優れた統率力と戦闘力を見せたA級召喚士リリーシャが新たな『女教皇』に任命されたこと。これらのニュースが学園をにぎわせ、号外として新聞まで発行され国中をにぎわせた。
そんな中。授業が再開されるまで待機を命じられていたS級たちは、寮の談話室でおやつの時間───……ウィル特製のホットケーキを食べていた。
「うまい! おかわりー!」
「ったく、もっとゆっくり食えっての」
レイヴィニアに五枚目のホットケーキを焼きながら、ウィルはフライパンを巧みに操る。
女性陣も満足そうにホットケーキを食べていた。
レイヴィニアもホットケーキをガツガツ食べ、ホットケーキを三枚食べたニスロクは、床でグースカ昼寝をしていた。
「ん~おいひぃ……ウィル、あんたお母さんの才能ある!」
フェニアがそう言うと、ウィルは「ハッ」と鼻で笑った。
サフィーとアネルもすでに三枚目だ。おかわりを要求したいのだが、恥ずかしいのかウィルをチラチラ見るだけ……だが、ウィルは言う。
「チッ……失敗した。お前ら、食え」
「は、はい!」
「た、食べるよ。残しちゃ悪いしね!」
焼き過ぎたという割に、焦げ目などないし、形もまんまるで綺麗なものだ。
こういう気遣いがウィルらしい。そして、メルは皿を突き出す。
「お代わりを」
「腹黒王女サマは遠慮がないねぇ……」
「何か言いまして?」
「いーえ別に。不敬罪でクビ撥ねられたくないんで黙りますよ、っと」
ウィルはホットケーキを焼く。そして、チラッとアルフェンを見た。
すでに四枚完食したアルフェンは、紅茶を飲みながら新聞を読んでいた。
「おい」
「……」
「おい、お前」
「……ん? ああ、俺?」
「お前以外に誰がいんだよ。もう食わねぇのか?」
「ああ。お腹いっぱいだ……サンキュな、ウィル」
「フン……」
ウィルは、アルフェンを名前で呼ぶことはなかった。
やはり、あの時聞こえたのは気のせい……アルフェンはそう思いたかったが、なんとなくもう一度呼ばれてみたくなってしまう。やや期待を込めてウィルを見ると。
「んだよ。いらねぇっつっただろ。もう作んねーぞ」
「……ああ、わかった」
期待しても無駄そうだ。
紅茶を飲み欲し、新聞を読む。すると、メルが身体をねじ込んできた。
「おっ、リリーシャが新しい『女教皇』に、ダオームとキリアスがA級に昇格した記事があるわね」
「お、おい。あんまりくっつくなよ」
「なに、照れてるのかしら?」
メルはアルフェンの腕を抱き、胸を押し付けてくる。
すると、フェニアとサフィーがムスっとした。
「アルフェン、ニヤニヤすんな! あとメル、寮でそういうのは禁止!!」
「そうです!! 離れて離れて!!」
「あら怖い。刺される前に離れましょっと……ふふ、可愛いのね」
メルはスッと離れ、隣に座った。
「知ってると思うけど、リリーシャが特A級に昇格。それに伴い、リリーシャを隊長とした新たな戦闘部隊が新設されたわ。リリーシャに選抜された王国最強の戦闘部隊ってやつね」
すると、エプロンで手を拭ったウィルがキッチンから来た。そのしぐさが完全な『お母さん』であり、見ていた全員が噴き出しそうになった……が、堪えた。
そんなことにも気付かず、ウィルは言う。
「『女教皇』か……あの生意気なクソ生徒会長にそんな権力預けていいのかね」
「もちろん、よくないわ。というか……わたしの見解だと、リリーシャを任命した『審判』ガブリエルは、『仮面舞踏会』と繋がっている可能性が高い。A級の顧問になったヒルクライム叔父様、ユウグレナ叔母様も、部隊に任命されたみたいだしね」
「はぁ……そんな部隊作ってどうすんだよ」
「もちろん。この国を乗っ取るためよ」
メルはあっけらかんと言った。
あまりにも突然だったので、全員が絶句する。
「リリーシャはガブリエルの傀儡になったわ。戦力をリリーシャに集中させて、二十一人の召喚士ですら敵わない特殊部隊を設立。その総指揮権を持つガブリエル……二十一人の英雄は確かに強いけど、能力を知り尽くしているガブリエルなら対処できるはず」
「ちょ、ちょっと待てよ……そ、それって」
「そう。わたしの考え。ガブリエルは、この国を乗っ取る……クーデターを起こす可能性がある。S級に魔帝、魔人を討伐、相打ちに持ち込んで互いに消えてもらい、疲弊した国を乗っ取る……可能性は少なくない」
「マジかよ……」
「ま、可能性が高いだけ。前々からガブリエルは怪しいって思ってたの。枢機卿って立場に満足してないようだし、政治にも口挟んでくるし……っと、今のは内密にね」
メルは紅茶を一気に飲み干した。
アルフェンは新聞をもう一度見て言う。
「敵は魔帝だけじゃないのかよ……」
「今は魔帝だけでいいわ。内々のことはわたしに任せなさい。この国を牛耳るのはわたしよ。英雄だか何だか知らないけど、好きにはさせないわ」
「…………」
アルフェンは言わなかったが、メルの方がなぜか恐ろしく見えた。
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