召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~

さとう

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第八章

告白

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 夕食はユイシス手製の豪華な料理だった。
 その中でも特に驚いたのが、子豚の丸焼きだった。飴のようにテカテカと輝き、香ばしいく食欲をそそる。もちろん、全員で完食した。
 その後。女性陣は再び温泉へ。バーソロミューは執務、ウィルは一人で酒を飲んでいた。
 アルフェンは、一人外へ……心地よい風を浴び、満天の星空を眺めていた。

「奪え、『ジャガーノート』」

 右手を変化させる。
 ニュクスとドレッドノートの分離。モグが言いだしたということは、ジャガーノートの右手になにか可能性があるのかもしれない。
 アルフェンは、十メートルほど離れた場所に落ちていた石を、右手を伸ばして拾う。
 
「巨大化、伸縮……そして『硬化』か」

 自身の右腕にできること。
 もう一度、見つめなおす。
 腕は最大で五十メートルは伸びる。巨大化も、五指を開いた状態で直径三メートルくらいは大きくなる。アルフェンには感じないが、重さは数百キロ~数トンまで変わるそうだ。以前、ウィルとアネルに持ってもらったら「ふざけんなこのデブ」とキレられた。
 そして、『硬化』だ。

「石……硬いな」

 アルフェンの右手が触れたモノは、極限まで硬くなる。
 今は石を硬化させた。液体、気体はもちろん、空間も硬化できる。空間を硬化させた場合、その空間内の時間も硬化する。
 ヒトや召喚獣を『硬化』させれば、命を硬化……つまり、死だ。
 だが、これまでの戦いで、硬化させても死なない敵も多かった。それに、この右手は万能ではない。

「……どうやって、ヒトと召喚獣を分離できる」

 少なくとも、今のままでは不可能だ。
 『完全侵食』か。それとも、モグが言い淀んだ【何か】なのか。
 アルフェンは右手を元に戻し、今度は『第三の瞳マクスウェル』を開眼する。

「見える……」

 セピア色の世界。そして、生気と生気の通り道である『経絡糸』だ。
 視力も爆発的に向上し、遠くの木に止まるフクロウや、藪の葉で寝ている蟲も見える。昆虫ですら経絡糸が巡り、生気が循環している。
 ニュクス曰く、『第三の瞳マクスウェル』はこの生気を操れる。だが、生身の肉体で生気を操作するのは相当な消耗をする。
 アルフェンは、ニュクスの生気操作を妨害した。だが、その結果高熱を出し寝込んでしまった。
 
「はぁ~……どうすりゃいいんだ」

 アルフェンは星空を見上げ、ため息を吐く。
 すると、屋敷のドアが開き、サフィーが出てきた。
 風呂上りなのかほんのり上気し、長く青みがかった銀髪が月光で輝いてみえた。
 厚手のストールを着たサフィーは、アルフェンを見てにっこり笑う。

「アルフェン、見つけました」
「サフィー……」
「ふぅ~……風が気持ちいいです。温泉の後の夜風、最高です」

 サフィーはアルフェンの隣に立ち、空を見上げる。

「わぁ……すっごい綺麗な星空です」
「だなぁ。吸い込まれそうだ」
「ふふ、なんだかこうして二人でお話するの、久しぶりですね」
「ああ。最初は二人だったS級も、今や大所帯だ。なんだか懐かしいな」
「はい……楽しかったです」

 サフィーは、少しだけモジモジしていた。
 そして……ぽつり、ぽつりと言う。

「あの、アルフェン……聞いて欲しいことがあります」
「ん?」
「私、婚約者がいないって話、しましたよね?」
「ああ。覚えてる」
「今まではおばあ様がいたから、両親も強く言えませんでした。でも……おばあ様が亡くなって、私にいくつか縁談の話が来るようになったんです」
「…………」
「お相手は、他国の貴族だったり、同じ公爵家の長男次男だったり……私の感情なんて入る余地のない、政略結婚ばかりです。もちろん、貴族ですから、そういうのも受け入れないといけないってわかっています……でも、私……こんな結婚、したくないです」
「…………」

 サフィーは、アルフェンの目を見た。
 アルフェンも、反らすべきではないと感じた。

「アルフェン、私を……もらっていただけませんか?」
「えっ……お、俺が?」
「はい。私、あなたとなら……あなたなら、きっと」
「…………」

 アルフェンは男爵だ。公爵令嬢のサフィーとは釣り合いが取れない。
 だが、アルフェンは爵位だけじゃない『功績』がある。幾度も魔人を退け、英雄であり『愚者』という称号まで持っている。知らない国民はいない英雄だ。アルフェンとサフィーは同じS級というのは知れ渡っている。互いに婚約してもなんら不思議はない。
 アルフェンは、迷った。

「お、俺はその……」
「私のこと、お嫌いですか?」
「そんなわけない。お前は頼りになる仲間だ。これまで何度も助けられたし、マルコシアスにだって感謝してるし……でも、結婚なんて」

 正直、サフィーのことは好きだった。
 友達以上の感覚もある。だが、それがまだ『恋』だと思っていない。
 戦いや魔人、魔帝のことばかりで、そういう気持ちになれなかった。
 サフィーは、くすっと笑う。

「戦いの前にこんなこと言うなんてズルいですよね……でも、覚えていてくださいね。アルフェン、私はあなたと結婚したい。あなたが治めるこの地で、共に過ごしたいです」
「……っ」

 顔が赤くなる。
 サフィーの真っすぐな好意が突き刺さった。
 ニュクスとドレッドノートをどう引きはがすか、そんなことばかり考えていたアルフェンには不意打ちもいいところだ。
 アルフェンは、男として答えた。

「わ、わかった……その、考えさせてくれ」
「はい。待ってます……では」

 サフィーは一礼し、家の中へ戻っていった。
 その耳が真っ赤になっていることに、アルフェンは気付かなった。

「……マジかぁ」

 アルフェンは頬を押さえ、サフィーの告白について考えていた。
 だから気付かなかった……エメラルドグリーンの髪の少女が、そっと家の裏に消えたのを。

 ◇◇◇◇◇◇

 サフィーの告白の翌日。
 今日は、ユイシスが町案内をするそうだ。
 女性陣は着替え、うきうき気分でユイシスの待つ屋敷前へ。
 ウィルは町の酒場に行こうとしたが、荷物持ちとしてアネルに捕まった。ニスロクは眠そうにしていたが、レイヴィニアに尻を蹴られ悶絶していた。
 アルフェンは、バーソロミューからいろいろ領主について話を聞いていた。お昼に合流する手はずとなっている。
 バーソロミューは、煙管をふかしながら言う。

「別に、こんな話は今日じゃなくてもよかろうに」
「いや、まぁ……」

 正直、サフィーと顔を合わせにくかった。
 なので、バーソロミューから領主についての心得を習うと言って町散歩を辞退。食事程度ならなんとか大丈夫ということで、お昼から参加することにしたのだ。
 もちろん、いずれ答えは出さなければならない。

「若いねぇ……」
「う、いや」
「ふふ。昨夜、何かあったね?」
「!?」
「図星かい。あっはっは、最強の召喚士といってもまだ子供か」
「~~~っ」

 アルフェンは赤くなる。
 恋愛経験が全くないアルフェンは、サフィーのまっすぐな好意を持て余していた。なので、答えを出すといいつつも、どうすればいいかわからない。
 バーソロミューは、煙を吐きだす。

「あたしの場合、相棒だった傭兵と寝てユイシスができちまったからねぇ……恋愛っていうのはよくわかんないのさ。ユイシスを産んで、夫は戦場に行っちまって行方知れず。んで、あの子が十歳のころにメル様に出会った。それまでは苦労の連続だったよ」
「はぁ……」

 正直、アルフェンの役には立ちそうにない経験談だ。
 だが、領主についての心得を聞くより面白い。

「ってか、メルは十歳のころから部下を集めてたのか……すごいな」
「ユイシスと同い年とは思えないほど達観してた子だったねぇ……あたしとユイシスの召喚獣の力が欲しいから仲間になれって。んで、王族の息のかかっていない領地の管理を任せたいってね」
「ってことは、ここには五年前から?」
「ああ。そうさ」
「…………」
「おっと。あたしはこの地に愛着こそあるけど、領主なんてまっぴらごめんさね。小さな酒場でも開いて、生きてるか死んでるかわからない夫をのんびり待つような暮らしがしたいのさ」

 バーソロミューは本気のようだ。
 やはり、ここはアルフェンが引き継ぐべき領地のようだ。
 アルフェンは、バーソロミューと一緒に読んでいた書類を置く。

「あの、バーソロミューさん……俺、頑張りますから」
「ああ、期待してるよ」
「俺……頑張ります」

 アルフェンは、もう一度呟いた。
 全てを終えて、ここに戻るために、口に出した。

 ◇◇◇◇◇◇

 お昼前になり、屋敷を出ると……上空からグリフォンが降りてきた。
 
「アルフェン、乗って」
「ああ。悪いな、迎えに来てくれたのか」
「ん、まぁね」

 アルフェンもすっかり慣れたようにグリフォンの背に乗る。
 フェニアと隣合わせだ。サフィーなら緊張したかもしれないが、幼馴染のフェニアなら気が楽だ。
 グリフォンはゆっくり上昇し、空を舞う。

「ん~、やっぱ空は気持ちいいな」

 グリフォンは『飛行型』だ。
 空を飛ぶ召喚獣は多くいるが、人を載せて飛べるのはそう多くない。なので、人を載せて飛ぶことのできる召喚獣を『飛行型』という。
 フェニアは、なびくエメラルドグリーンの髪を押さえた。

「風、気持ちいいね……あたし、グリフォンの背中とこの空が大好き」
「俺もだ。そういやさ、初めてグリフォンに乗ったのって十二歳だっけ? 最初は怖かったよな」
「うん。グリフォン、最初は小鳥みたいなサイズでモグと仲良しだったよね。モグが空を怖がってさ」
「ああ、懐かしいな。そういや、キリアス兄さんが乗せてって言ったことあったよな」
「あったあった。まぁ、途中で怖くなってやめたけどね」

 二人は昔話で盛り上がる。
 アルフェンも、フェニアと話をして落ち着いてきた。
 そんな時だった。

「ねぇアルフェン。約束、覚えてる?」
「約束?……なんだっけ」
「あたしのこと、お嫁さんにしてくれるって」
「…………え」

 フェニアは、真剣な表情でアルフェンを見ていた。
 アルフェンは気付く。フェニアの眼は、昨夜のサフィーとまったく同じ輝きだった。

「あたしは貴族でもなんでもない、リグヴェータ家の使用人の家系。でも……小さいころからずっと一緒だったアルフェンが好き。大好き」
「お、おま……」
「アルフェン、あたしをお嫁さんにして」

 いきなりだった。
 フェニアは真剣な表情から一遍、涙目で顔と耳を真っ赤にしていた。
 
「サフィーのこともあるし、急にこんなこというのも変だよね……でも、嫌なの。アルフェンがあたしを置いて行っちゃう気がして……お願い」
「……フェニア」
「ぐすっ……ごめんね、変なこと言って。でも……ぜんぶホントだから」

 それだけ言って、フェニアは前を向いた。

『…………キュゥゥ』

 グリフォンがアルフェンに顔を向けた……その眼は『ヘタれるなよ』と言っているように見えた。

 ◇◇◇◇◇◇

 フェニア、サフィーの告白に頭を悩ませるアルフェン。
 その後、どうしたのかよく覚えていない。気が付くと夜で、領主邸の自室ベッドで寝転んでいた。
 すると、ドアがノックされ、返事する間もなく開かれる。

「邪魔すんぞ」
「ウィル……なんだよ」
「お前、ずっと上の空だったろ。アネルは何か勘づいたようだが教えちゃくれねぇ……いいか、考え事あんなら吐きだせ。戦い前にくだらねぇモンしょい込むな」
「…………」

 ウィルの手には酒瓶が。
 そのままずかずか部屋に入り、椅子を引いてドカッと座る。
 酒をグラスに注ぎ一気に飲み干すと、アルフェンに言う。

「で、なんだお前。ニュクスを倒す方法でも見つかったのか?」
「あ、ああ。まぁ……うん」
「煮え切らねぇな。言えよ、方法」

 ウィルは、アルフェンがニュクスを倒す方法を思いついたと考えているようだ。だが、実際はフェニアとサフィーの告白で頭を悩ませている。なぜか気恥ずかしく、言い出しにくかった。
 ウィルは酒を注ぐ……ウィスキーの香りが部屋に満たされる。
 とりあえず、ニュクスを倒す方法を話した。

「……なるほどな。召喚獣を引き剝がすか」
「ああ。たぶんそれしかない」
「逆に言えば、それはオレらにも当てはまるってことだ。そのあたり、ちゃんと考えてんのか?」
「あ……」
「ったく……オレら寄生型が召喚獣を引き剥がされたらどうなるか、フン……考えたくもねぇ」
「…………」
「とりあえず、今はその『引き剝がし』に賭けるしかねぇのか。方法を考えねぇとな」
「お、おう」
「…………まーだ煮え切らねぇな」
「…………」

 アルフェンはそっぽ向く。
 ウィルは煙管を取り出し煙草をふかし始めた。
 煙草の煙は臭いはずなのだが、ウィルの吸う煙草は甘く、フルーティーな香りがした。
 ウィルはアルフェンをじーっと睨む。

「女だな」
「ッ!?」
「図星か……」
「な、な、な、なんで……」
「わかりやすいんだよ、お前。そうだな……フェニアとサフィー、あと腹黒お姫様あたりか」
「メルは違う!!」
「じゃあフェニアとサフィーか」
「あ」
「くっくっく……なるほどねぇ。求婚でもされたか?」
「…………」

 ウィルは煙を吐きだし、灰を携帯灰皿に落とす。
 残った酒を一気に飲み干し、ニヤニヤ笑う。

「ま、いいことじゃねぇの? お前はアースガルズ王国じゃ英雄だし、爵位も貰える。公爵家のお嬢様が嫁さんに来ても不思議じゃねぇ。それに、貴族は一夫多妻制。側室がいる貴族なんてごまんといる。お前が嫁さん何人もらおうと文句言う奴はいないだろうさ」
「…………そんな、簡単に」
「お前はどう思ってんだよ」
「そりゃ、二人は大事な仲間だし……でも、恋愛とか考えたことなかった」
「じゃ、考えろ。後悔のないようにな」
「…………」
「考えるのが面倒なら抱いちまえ。そうすりゃ腹も据わるだろうぜ」
「はぁ!? だだ、抱くって」

 ウィルは酒瓶を持って立ち上がり、軽く手を振って部屋を出た。
 アルフェンは顔を赤くしたまま、頭を抱えて俯いてしまった。

 ◇◇◇◇◇◇

 気が付くと、深夜を過ぎていた。
 アルフェンは着替えを持って温泉へ。
 服を脱ぎ、身体を洗い、湯船に浸かる……少しぬめり気のある湯は気持ちよく、肌がスベスベになる。
 これは女性陣が気に入るはずだ。そう思い、お湯を掬って顔を洗う。

「ふぅ……」

 空を見上げると、満天の星空が見えた。
 領主邸の裏に作られた温泉は、ほぼ野外に作られている。大きな壁に囲まれ、浴槽の上には東屋が建てられていた。
 考えるのは、フェニアとサフィー。

「側室、かぁ」

 ウィルの言う通りだ。
 アルフェンは男爵。そしてアースガルズ王国を魔人から救った英雄だ。公爵令嬢のサフィーが嫁にきても、不平不満を言う連中は少ないだろう。
 そしてフェニア。平民のフェニアは側室へ。フェニアも嫌がらないとアルフェンも思う。
 だが、それでいいのだろうか。

「わっかんねぇ……」
「なにが?」
「ああ。フェニアとサフィーだよ……あの二人、俺のこと好き。え?」
「そう、やっぱりね。二人の様子がおかしかったから、あなたが絡んでると思ったけど」
「…………なんでいるの?」
「ふふ。身も心も裸でお話したくて」

 メルがいた。
 アルフェンの隣に。
 裸だった。タオルも巻いておらず、長い桃髪は丁寧にまとめられている。
 少し濁りのある湯だったので身体はあまり見えない。だが、輪郭はなんとなくわかってしまうのが、逆に煽情的だった。
 アルフェンは硬直。メルは言う。

「ちょうどいいからわたしも言うわ。アルフェン、わたしと子を作るわよ」
「……………………」
「計画は順調。わたしの支持者は集まりつつあるわ。わたしが王位に就くのは二十歳の予定。つまりあと五年……その間に、私の後継者を作らないといけない。名目上は養子ということにするけど、実際にはわたしとあなたの子供よ。わたしと結婚したらあなたは王城で過ごさなきゃいけないし、そういう堅苦しいの大嫌いでしょ? 生まれた子供とたまに遊んでくれたらいい。もちろん、わたしの相手もしてくれたら……」
「……………………」
「アルフェン。あなたはわたしが今まで出会った男性の中で、とっても素敵な人。愛のない政略結婚を覚悟していたけど……やっぱり、愛する人の子供は欲しい。子供が大きくなったら、あなたとわたしの子だってちゃんと言うわ。だからお願い、アルフェン……わたしと子供を」
「……………………」
「……? アルフェン、どうし───」

 アルフェンは情報過多で気を失い、ウィルに介抱してもらい気付いたら朝になっていた。
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