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第九章
人間と王、アルフェンとジャガーノート
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アルフェンとドレッドノートの戦いは佳境に入っていた。
アルフェンは、両の拳に『硬化』と『終焉世界』を載せてひたすら殴る。ジャガーノートと完全に融合した今のアルフェンは、これまでにないくらい力がみなぎっていた。
対して、ドレッドノートは。ニュクスを完全に取り込み肉体の主導権を得た。今振るっている力は間違いなく『ドレッドノート』の力。それでも、アルフェンには届かない。
アルフェンは、今まで習った全てを出していた。
「ぜりゃぁぁぁぁぁっ!!」
『っがぁぁぁぁぁっ!?』
右の強烈なボディブローがドレッドノートの腹……人間でいう肝臓の位置に入る。
強烈なブローにダメージが入る。
どんな『能力』も無効化できる。だが、内臓は違った。
単純な『痛み』こそが、ニュクスを、ドレッドノートを倒せる唯一の方法だった。
「もう誰にも、止められねぇぇぇーーーッ!!」
アルフェンは、全身全霊で拳を振るう。
全力の右ストレートがドレッドノートの顔面へ。だが、ドレッドノートは両手を交差し防御───だが、パンチが飛んでこない。
『!?』
「へ、甘いっての!!」
フェイント。
いつの間にか、アルフェンはドレッドノートの背後へ。
ドレッドノートの背中を蹴って登り、生えていた四本の腕を引きちぎった。
『っがぁぁぁっ!? この、ガキィィ!!』
「これで邪魔な腕はツブした!! さぁ、あとはテメェをぶちのめすだけだ!!」
激しすぎる攻撃に『我儘な女王』を使う暇がない。
そもそも、この馬鹿みたいに突進してくるアルフェンに何を使えばいいのか。
『───』
プチンと、ドレッドノートの中で何かが切れた。
キレた。目の前にいるアルフェンに、猛烈に腹が立つ。
気が付くと、防御を解いていた。
『舐めんじゃねぇぞガキィィィィィィィィ!! っこのドレッドノートを、世界の女王を殴り飛ばすたぁ何事じゃァァァァァ!?』
「っが!?」
アルフェンは、ドレッドノートの迫力に一瞬押され、その隙に殴られた。
今度は、ドレッドノートの追撃が始まる。
転がったアルフェンは体制を立て直そうとするが、『能力』を使うことを放棄したドレッドノートが拳を振り上げて迫ってくる。
アルフェンは防御───ではなく、拳を振りかぶりながら立ちあがった。
『っっごぁっが!?』
「ぶがっ!?」
互いに拳が顔面に突き刺さる。
お互いに吹っ飛び地面を転がり、同時に立ちあがった。
すると、ドレッドノートに変化が現れる。
『ッぺ……もういい。もういい。テメェだけは私がツブす!!』
身長が少し縮み、スカートのように広がった下半身の一部を引きちぎる。ドレスのようになっていた上半身の外殻も自ら砕き、長い髪を適当にまとめた。
そして、拳がダイヤモンドのように硬く輝く。まるで、近接戦闘をするためにこの場で進化したようにアルフェンは感じた。
「ぶっ潰す!!」
『こっちのセリフじゃワレぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!』
ドレッドノートの口調が変わるくらいキレていた。
互いに拳を握り、超近接戦闘が始まる。
アルフェンの右フックがドレッドノートのボディに突き刺さり、ドレッドノートの左アッパーがアルフェンの顎をカチ上げる。
互いにガクガク震えるが止まらない。
今度は、アルフェンのアッパーがドレッドノートの顎をカチ上げ、そのまま左フックがボディに突き刺さる。腰が落ちたところで右ストレートが顔面に突き刺さった。
『おぶっがぁ!? ぐ、ギギギ……っがぁぁぁぁ!!』
「ブガッ!?」
だが、ドレッドノートは叫ぶ。
叫び、アルフェンの顔面に左ストレートを叩き込んだ。
アルフェンの顔が千切れんばかりに弾かれ、鼻血だけでなく口からも血を吐いた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
『ブハッ……ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ』
互いに、息も絶え絶えだった。
二人とも、なぜか足技を使わない。ただ純粋な殴り合いだった。
これがこの世界の命運を決める戦いなのか。その問いに「はい」と答えるには、あまりにも泥臭い戦いだ。
アルフェンは大きく息を吸い、ずるずると歩きだす。
ドレッドノートも、足にキているのか、ずるずると歩いた。
互いの距離がほぼゼロになる。
無言で構え───アルフェンは歯を食いしばった。
「っぎぃぃぃぃぃっがぁぁぁぁっ!!」
『おぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!』
ズドン!! と、互いの右がボディに突き刺さる。
アルフェンは血を吐いた。ドレッドノートも吐血した。
アルフェンは歯を食いしばる。ドレッドノートも食いしばった。
『───がんばれ、アルフェン』
聞こえてきたのは、誰の声か。
「ガァァァァァァーーーーーーッ!!」
アルフェンの両目が黄金に輝き、今度はドレッドノートのボディに左フックを叩き込む。
『お、っが……!?』
「おぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
ドレッドノートの顎が落ちてきたところに、強烈な右アッパーが入った。
ドレッドノートの顔が跳ねあがり、盛大に血を吐く。
そして……アルフェンは全ての力を右拳に込める。
真っ黒な右腕がビキビキと音を立てて盛り上がる。
ドレッドノートは朦朧としながら、フラフラと顔が下がってきた。
そこに───アルフェンの渾身、究極の一撃が放たれる。
「『究極の一撃・全身全霊《フルインパクト》』!!」
ズッドォン!! と、恐るべき衝撃音が半径数キロまで響いた。
ドレッドノートの顔面は陥没……そのまま、ずるずると倒れた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……はぁ、はぁぁ、っは、ははははは!!」
アルフェンは、両拳を高く突き上げ叫ぶ。
「俺の勝ちだァァァァァァァァァァーーーーーーッ!!」
この瞬間───王と女王、そして人間の戦いに終止符が打たれた。
◇◇◇◇◇◇
アルフェンは、ドレッドノートを見下ろしていた。
ドレッドノートは、静かに目を開ける。
『負けたわ。もう、身体が動かない……』
「ニュクスは?」
『今は寝ている。もうすぐ、私の意識が消えるわ。そうすればまた出てこれる』
「……お前はどうなる?」
『……消える。いえ、魂だけ『あちらの世界』に還るわ。魂が分離した瞬間、ほとんどの力を使ってニュクスの魂ごとこの身体を包み込んで、意識を掌握するなんて無茶な真似したからね……もう、身体もボロボロだし、私の魂もだいぶ消耗した。しばらく、『あちらの世界』でもろくに動けないでしょうね』
「じゃあ、ニュクスは───……」
そこまで言い、アルフェンは吐血した。
肉体のダメージだけじゃない。ジャガーノートとアルフェンの魂にかなりの負荷をかけたせいで、急激に寿命を消費したのである。
アルフェンは、四肢が冷たくなる感覚を感じていた。
『やっぱりね。ただの人間と召喚獣の王の魂が完全に一つになるなんて無茶だったのよ。ジャガーノートの魂が『完全侵食』で進化したならなおさらね』
「っが、っがっは……はは、まぁ仕方ないや」
アルフェンは、ドレッドノートの傍にしゃがみ込む。
「なぁ……ジャガーノートの意識は完全に消えちまったと思う。俺が死んだら、この魂はどうなるんだ?……また、モグの魂が……」
『……無理ね。完全侵食に至った召喚獣の魂は完全に消える。意思もなく、力の塊になる。宿主が死んだら、『あちらの世界』に行くのは意志のない無垢な魂……そもそも、ジャガーノートの意識が残っていただけ奇跡なんだから』
「そっか……」
急激に眠気が襲ってきた。
『究極合身』の代償が、アルフェンを襲っていた。
だが、後悔はない。
「なぁ……お前が消えたら、能力は?」
『失われるわ。肉体変化も、召喚もできない。この身体もボロボロだから、百年程度しか生きられない……つまり、この子は普通の人間として、残りの一生を過ごすでしょうね』
「そっか……じゃあ、今度は、幸せに、生きられる……か、な?」
『……さぁね。でも、もう私のために生きることはないでしょうね。最後の最後、私はこの子を裏切ったし……完全侵食を使った時、意識を奪われるなんてこの子も想定してなかった。私は、この子の身体を乗っ取るつもりだったし』
「……そ、っか」
アルフェンの身体から、力が抜ける。
心に問いかけても、誰もいない。
もう、ジャガーノートの意識は完全に消えていた。
『少しずつ、能力が薄れてきたわ……召喚した魔獣の洗脳も解けていく。おめでとう、人間の勝利ね』
「……ああ」
『ねぇ、ジャガーノートはいる?』
「……いない。もう、消えた」
『そう。こんなことを言っても信じてもらえないかもしれないけど……ジャガーノート、私ね……あなたのこと、今も愛してるわ』
「───……」
そして、アルフェンの意識が消失した。
◇◇◇◇◇◇
それはきっと、都合のいい夢に違いなかった。
『アルフェン』
「……モグ?」
『ありがとう』
小さなモグラが、アルフェンに向かって微笑んでいた。
そこに、メスのモグラが寄り添い、互いの身体をこすり合わせる。
『私は、アルフェンに会えて幸せだった……本当にありがとう』
「モグ……」
そして、メスのモグラが言った。
『私もジャガーノートと行くわ……ニュクスのこと、よろしくね』
「え……お前」
『あなたの拳、すごく効いたわ。じゃあね』
「……ドレッドノート」
ジャガーノートとドレッドノートは、寄り添いながら歩きだした。
アルフェンは、その後姿を見送り───涙を流した。
「───さよなら、ジャガーノート。さよなら……モグ」
そして───どこからか、声が聞こえてきた。
◇◇◇◇◇◇
「アルフェン!!」
「アルフェン、起きてください!!」
「…………ぅ」
目を覚ますと、フェニアとサフィーが涙を流しながら抱き着いていた。
アルフェンは、ぼんやりと周りを見回す。
ウィル、アネル、フェニア、サフィー。そしてレイヴィニアとニスロクがいた。
アルフェンは起き上がる……なぜか生きていた。
「あれ……俺」
怪我が消えていた。
それだけじゃない。ジャガーノートの力が残っている。
だが、残っているのは力だけ。モグのぬくもりは感じなかった。
そして、気付いた。
「……ドレッドノート」
ほんのわずかに感じた、ドレッドノートのぬくもり。
そう。ドレッドノートは、残った全ての力をアルフェンに注ぎ込み、アルフェンの命を救ったのだ。
ドレッドノートの意志は、ジャガーノートと共に旅立った……もう、『あちらの世界』にもいないだろう。
そして、ウィルが言う。
「おい。コイツをどうする?」
ウィルは、左手の『ヘッズマン』を地面に───そこに横たわる少女に向けていた。
それは、ニュクス・アースガルズ。
全裸だった。だが、陶器のような白い肌に傷一つ付いていない。
本当なら、シーツか何かをかけるべきなのだが、敵ということもあり近づけない。
だが、アルフェンは自分の制服を掴み、ニュクスに近づく。
「……ニュクス」
「ぅ……あれ」
「よう」
「……アルフェン?」
「ああ。おはよう」
「ん……ああ、負けたのかぁ。ドレッドノート、やってくれちゃって……」
「もう、お前に『力』はない。ドレッドノートが使っちまったからな」
「……ほんとだ」
アルフェンは、ニュクスの身体に制服をかけてやる。
身体が動かないのか、ニュクスは身じろぎすらしない。
「あたしの負け。もういいよ……殺すなり好きにして」
「そんなことしない。ドレッドノートに頼まれたからな……お前はここで死んで、新しいお前に」
「え……?」
「とりあえず、今は……戦いの終わりを告げに行こうか」
アルフェンは、ニュクスに向かって微笑んだ。
こうして、歴史に残る『魔帝大戦』は終わりを告げた。
アルフェンは、両の拳に『硬化』と『終焉世界』を載せてひたすら殴る。ジャガーノートと完全に融合した今のアルフェンは、これまでにないくらい力がみなぎっていた。
対して、ドレッドノートは。ニュクスを完全に取り込み肉体の主導権を得た。今振るっている力は間違いなく『ドレッドノート』の力。それでも、アルフェンには届かない。
アルフェンは、今まで習った全てを出していた。
「ぜりゃぁぁぁぁぁっ!!」
『っがぁぁぁぁぁっ!?』
右の強烈なボディブローがドレッドノートの腹……人間でいう肝臓の位置に入る。
強烈なブローにダメージが入る。
どんな『能力』も無効化できる。だが、内臓は違った。
単純な『痛み』こそが、ニュクスを、ドレッドノートを倒せる唯一の方法だった。
「もう誰にも、止められねぇぇぇーーーッ!!」
アルフェンは、全身全霊で拳を振るう。
全力の右ストレートがドレッドノートの顔面へ。だが、ドレッドノートは両手を交差し防御───だが、パンチが飛んでこない。
『!?』
「へ、甘いっての!!」
フェイント。
いつの間にか、アルフェンはドレッドノートの背後へ。
ドレッドノートの背中を蹴って登り、生えていた四本の腕を引きちぎった。
『っがぁぁぁっ!? この、ガキィィ!!』
「これで邪魔な腕はツブした!! さぁ、あとはテメェをぶちのめすだけだ!!」
激しすぎる攻撃に『我儘な女王』を使う暇がない。
そもそも、この馬鹿みたいに突進してくるアルフェンに何を使えばいいのか。
『───』
プチンと、ドレッドノートの中で何かが切れた。
キレた。目の前にいるアルフェンに、猛烈に腹が立つ。
気が付くと、防御を解いていた。
『舐めんじゃねぇぞガキィィィィィィィィ!! っこのドレッドノートを、世界の女王を殴り飛ばすたぁ何事じゃァァァァァ!?』
「っが!?」
アルフェンは、ドレッドノートの迫力に一瞬押され、その隙に殴られた。
今度は、ドレッドノートの追撃が始まる。
転がったアルフェンは体制を立て直そうとするが、『能力』を使うことを放棄したドレッドノートが拳を振り上げて迫ってくる。
アルフェンは防御───ではなく、拳を振りかぶりながら立ちあがった。
『っっごぁっが!?』
「ぶがっ!?」
互いに拳が顔面に突き刺さる。
お互いに吹っ飛び地面を転がり、同時に立ちあがった。
すると、ドレッドノートに変化が現れる。
『ッぺ……もういい。もういい。テメェだけは私がツブす!!』
身長が少し縮み、スカートのように広がった下半身の一部を引きちぎる。ドレスのようになっていた上半身の外殻も自ら砕き、長い髪を適当にまとめた。
そして、拳がダイヤモンドのように硬く輝く。まるで、近接戦闘をするためにこの場で進化したようにアルフェンは感じた。
「ぶっ潰す!!」
『こっちのセリフじゃワレぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!』
ドレッドノートの口調が変わるくらいキレていた。
互いに拳を握り、超近接戦闘が始まる。
アルフェンの右フックがドレッドノートのボディに突き刺さり、ドレッドノートの左アッパーがアルフェンの顎をカチ上げる。
互いにガクガク震えるが止まらない。
今度は、アルフェンのアッパーがドレッドノートの顎をカチ上げ、そのまま左フックがボディに突き刺さる。腰が落ちたところで右ストレートが顔面に突き刺さった。
『おぶっがぁ!? ぐ、ギギギ……っがぁぁぁぁ!!』
「ブガッ!?」
だが、ドレッドノートは叫ぶ。
叫び、アルフェンの顔面に左ストレートを叩き込んだ。
アルフェンの顔が千切れんばかりに弾かれ、鼻血だけでなく口からも血を吐いた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
『ブハッ……ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ』
互いに、息も絶え絶えだった。
二人とも、なぜか足技を使わない。ただ純粋な殴り合いだった。
これがこの世界の命運を決める戦いなのか。その問いに「はい」と答えるには、あまりにも泥臭い戦いだ。
アルフェンは大きく息を吸い、ずるずると歩きだす。
ドレッドノートも、足にキているのか、ずるずると歩いた。
互いの距離がほぼゼロになる。
無言で構え───アルフェンは歯を食いしばった。
「っぎぃぃぃぃぃっがぁぁぁぁっ!!」
『おぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!』
ズドン!! と、互いの右がボディに突き刺さる。
アルフェンは血を吐いた。ドレッドノートも吐血した。
アルフェンは歯を食いしばる。ドレッドノートも食いしばった。
『───がんばれ、アルフェン』
聞こえてきたのは、誰の声か。
「ガァァァァァァーーーーーーッ!!」
アルフェンの両目が黄金に輝き、今度はドレッドノートのボディに左フックを叩き込む。
『お、っが……!?』
「おぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
ドレッドノートの顎が落ちてきたところに、強烈な右アッパーが入った。
ドレッドノートの顔が跳ねあがり、盛大に血を吐く。
そして……アルフェンは全ての力を右拳に込める。
真っ黒な右腕がビキビキと音を立てて盛り上がる。
ドレッドノートは朦朧としながら、フラフラと顔が下がってきた。
そこに───アルフェンの渾身、究極の一撃が放たれる。
「『究極の一撃・全身全霊《フルインパクト》』!!」
ズッドォン!! と、恐るべき衝撃音が半径数キロまで響いた。
ドレッドノートの顔面は陥没……そのまま、ずるずると倒れた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……はぁ、はぁぁ、っは、ははははは!!」
アルフェンは、両拳を高く突き上げ叫ぶ。
「俺の勝ちだァァァァァァァァァァーーーーーーッ!!」
この瞬間───王と女王、そして人間の戦いに終止符が打たれた。
◇◇◇◇◇◇
アルフェンは、ドレッドノートを見下ろしていた。
ドレッドノートは、静かに目を開ける。
『負けたわ。もう、身体が動かない……』
「ニュクスは?」
『今は寝ている。もうすぐ、私の意識が消えるわ。そうすればまた出てこれる』
「……お前はどうなる?」
『……消える。いえ、魂だけ『あちらの世界』に還るわ。魂が分離した瞬間、ほとんどの力を使ってニュクスの魂ごとこの身体を包み込んで、意識を掌握するなんて無茶な真似したからね……もう、身体もボロボロだし、私の魂もだいぶ消耗した。しばらく、『あちらの世界』でもろくに動けないでしょうね』
「じゃあ、ニュクスは───……」
そこまで言い、アルフェンは吐血した。
肉体のダメージだけじゃない。ジャガーノートとアルフェンの魂にかなりの負荷をかけたせいで、急激に寿命を消費したのである。
アルフェンは、四肢が冷たくなる感覚を感じていた。
『やっぱりね。ただの人間と召喚獣の王の魂が完全に一つになるなんて無茶だったのよ。ジャガーノートの魂が『完全侵食』で進化したならなおさらね』
「っが、っがっは……はは、まぁ仕方ないや」
アルフェンは、ドレッドノートの傍にしゃがみ込む。
「なぁ……ジャガーノートの意識は完全に消えちまったと思う。俺が死んだら、この魂はどうなるんだ?……また、モグの魂が……」
『……無理ね。完全侵食に至った召喚獣の魂は完全に消える。意思もなく、力の塊になる。宿主が死んだら、『あちらの世界』に行くのは意志のない無垢な魂……そもそも、ジャガーノートの意識が残っていただけ奇跡なんだから』
「そっか……」
急激に眠気が襲ってきた。
『究極合身』の代償が、アルフェンを襲っていた。
だが、後悔はない。
「なぁ……お前が消えたら、能力は?」
『失われるわ。肉体変化も、召喚もできない。この身体もボロボロだから、百年程度しか生きられない……つまり、この子は普通の人間として、残りの一生を過ごすでしょうね』
「そっか……じゃあ、今度は、幸せに、生きられる……か、な?」
『……さぁね。でも、もう私のために生きることはないでしょうね。最後の最後、私はこの子を裏切ったし……完全侵食を使った時、意識を奪われるなんてこの子も想定してなかった。私は、この子の身体を乗っ取るつもりだったし』
「……そ、っか」
アルフェンの身体から、力が抜ける。
心に問いかけても、誰もいない。
もう、ジャガーノートの意識は完全に消えていた。
『少しずつ、能力が薄れてきたわ……召喚した魔獣の洗脳も解けていく。おめでとう、人間の勝利ね』
「……ああ」
『ねぇ、ジャガーノートはいる?』
「……いない。もう、消えた」
『そう。こんなことを言っても信じてもらえないかもしれないけど……ジャガーノート、私ね……あなたのこと、今も愛してるわ』
「───……」
そして、アルフェンの意識が消失した。
◇◇◇◇◇◇
それはきっと、都合のいい夢に違いなかった。
『アルフェン』
「……モグ?」
『ありがとう』
小さなモグラが、アルフェンに向かって微笑んでいた。
そこに、メスのモグラが寄り添い、互いの身体をこすり合わせる。
『私は、アルフェンに会えて幸せだった……本当にありがとう』
「モグ……」
そして、メスのモグラが言った。
『私もジャガーノートと行くわ……ニュクスのこと、よろしくね』
「え……お前」
『あなたの拳、すごく効いたわ。じゃあね』
「……ドレッドノート」
ジャガーノートとドレッドノートは、寄り添いながら歩きだした。
アルフェンは、その後姿を見送り───涙を流した。
「───さよなら、ジャガーノート。さよなら……モグ」
そして───どこからか、声が聞こえてきた。
◇◇◇◇◇◇
「アルフェン!!」
「アルフェン、起きてください!!」
「…………ぅ」
目を覚ますと、フェニアとサフィーが涙を流しながら抱き着いていた。
アルフェンは、ぼんやりと周りを見回す。
ウィル、アネル、フェニア、サフィー。そしてレイヴィニアとニスロクがいた。
アルフェンは起き上がる……なぜか生きていた。
「あれ……俺」
怪我が消えていた。
それだけじゃない。ジャガーノートの力が残っている。
だが、残っているのは力だけ。モグのぬくもりは感じなかった。
そして、気付いた。
「……ドレッドノート」
ほんのわずかに感じた、ドレッドノートのぬくもり。
そう。ドレッドノートは、残った全ての力をアルフェンに注ぎ込み、アルフェンの命を救ったのだ。
ドレッドノートの意志は、ジャガーノートと共に旅立った……もう、『あちらの世界』にもいないだろう。
そして、ウィルが言う。
「おい。コイツをどうする?」
ウィルは、左手の『ヘッズマン』を地面に───そこに横たわる少女に向けていた。
それは、ニュクス・アースガルズ。
全裸だった。だが、陶器のような白い肌に傷一つ付いていない。
本当なら、シーツか何かをかけるべきなのだが、敵ということもあり近づけない。
だが、アルフェンは自分の制服を掴み、ニュクスに近づく。
「……ニュクス」
「ぅ……あれ」
「よう」
「……アルフェン?」
「ああ。おはよう」
「ん……ああ、負けたのかぁ。ドレッドノート、やってくれちゃって……」
「もう、お前に『力』はない。ドレッドノートが使っちまったからな」
「……ほんとだ」
アルフェンは、ニュクスの身体に制服をかけてやる。
身体が動かないのか、ニュクスは身じろぎすらしない。
「あたしの負け。もういいよ……殺すなり好きにして」
「そんなことしない。ドレッドノートに頼まれたからな……お前はここで死んで、新しいお前に」
「え……?」
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ここは、地球とはまた別の世界――
田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。
暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。
仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン>
「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。
最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。
しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。
ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと――
――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。
しかもその姿は、
血まみれ。
右手には討伐したモンスターの首。
左手にはモンスターのドロップアイテム。
そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。
「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」
ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。
タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。
――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――
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