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ネルガルを倒せ

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「すまんなぁ……ユノ」
「おとうさん……大丈夫。大丈夫だから」

 大きなベッドに、ユノの父であるベアルドが横になっている。
 大汗を掻きながらも、ユノを安心させようと微笑んでいた。
 ユノは、そんな父親に寄り添い、額のタオルを変えたり水を飲ませたりしている。
 治癒系聖剣士による治療が一通り済み、すぐにどうにかなるわけではないだろう……だが、このままでは、一月持たない。
 ロイとエレノアは、ユノとベアルドを二人きりにするためリビングへ。

「デスゲイズ、本当に大丈夫なんだよな」
『恐らくな。楽観視はできんが、すぐに死ぬことはない』
「でも、最後のワクチンサンプルを手に入れないと……」

 エレノアは、椅子に座ってため息を吐いた。

「サリオスたちが魔界貴族を倒してワクチンサンプルを手に入れたのは驚いたけど、残り一つ……ネルガルだっけ? そいつを倒さないとダメなのよね」
「ああ。しかも、強い」
「うーん……問題は、あいつの『核』が硬すぎることよね。今のあたしならどうかな?」

 炎聖剣フェニキア。
 ロングソード、バーナーブレード、熱線砲、そして突撃槍ランス。四つの形態まで使いこなせるようになったエレノア。
 だが、デスゲイズは言う。

『厳しいな。エレノアお前はまだ『能力』を覚醒させていないだろう? 変形だけでは、ネルガルを倒すことはできん。それと……トリステッツァが出てくることも想定して、今この地にいる聖剣士たちの手も借りたい』
「殿下たちか。確か、負傷してコールドイーストにいるんだっけ」
「ええ。ロセ先輩がけっこう重症みたい」
『だが、トリステッツァの侯爵級を倒したのはかなりの成果だ。はっきり言うが、今のお前たち七聖剣士では無理だと思っていたぞ』
「ふふふん。あたしたちも成長してるのよん」

 エレノアが胸を張る。
 さっきまで酔っ払い全裸で蒸し風呂にいたことを忘れているようだ。余計なことを言うとロイにも被害が出そうなので、エレノアの裸を脳内保存だけしておくロイ。
 すると、ユノがベアルドの部屋から出て来た。

「ユノ……」
「……おとうさん、寝た」
「……ユノ。お前はベアルドさんに付いてろよ。俺とエレノアは王都に戻る」
「え……」
「公爵級は、俺たちが倒す。な、エレノア」
「うん。ユノはここにいて、お父さんを励ましてあげてね」
「あ……」

 ロイとエレノアはコートを着て外へ出た。
 ユノは、そんな二人に何か言おうとしたが、言う前に二人は行ってしまった。

 ◇◇◇◇◇

 王城に向かうと、マリアが出迎えてくれた。

「ユノは……やはり、来ないか」
「ごめんなさい。あたしが来なくていい、って言いました」
「……まぁ、仕方ないだろう。それより、嬉しい情報が二つもあるぞ」
「おお、それは楽しみです!」

 エレノアが嬉しそうに笑う。
 マリアに案内され、向かったのは会議場だ。ロイもいるが、マリアは何も言わない。
 会議場に入ると、サリオス、ロセ、スヴァルトがいた。

「やぁ、エレノア」
「サリオス? それに、ロセ先輩と……誰?」
「けっ、オレはスヴァルト。闇聖剣の持ち主だ」
「や、闇聖剣!?」

 エレノアは驚愕。スヴァルトはエレノアをジロジロ見た。

「なかなかいいモン持ってるな」
「へ?」
「まぁいい。で……お前、誰だ?」
「あ、ええと」

 流れでロイも普通に付いてきてしまった。
 マリアも苦笑している。仕方がないので、エレノアの隣に座らせてもらう。
 国王、グレン、ケイモン。そして国の重役たちに、七聖剣士たちがあつまる。
 さっそく、会議が始まった。

「では、私から。ワクチンサンプルの回収、ご苦労様でした。これほどまで迅速にサンプルを集められたのは、魔王の侵攻が始まって以来、初かもしれません」

 ケイモンが羊皮紙を見ながら説明する。

「ですが、悪い話が……ワクチンサンプルを四種、混ぜ合わせた途端、これまで治療系聖剣士の能力で対応できていた疫病が、活発な活動を始めました。ワクチンを混ぜることで疫病の進行が進むよう、魔法がかけられていたとしか思えません。最初期に発病した者の何名かは……すでに」

 全員、黙り込む。
 すると、エレノアが挙手。

「あの、ユノのお父さんが……」
「把握しています。調べたところ、ベアルド殿は発病から数日経過しています。それにもかかわらず、通常通りの生活をしていたというだけで驚きですが……恐らく、あと十日と持たないでしょう」
「そんな……」
「疫病は、一日十名というルールからも逸脱する可能性があります。魔界貴族たちからワクチンサンプルを『奪う』想定はしていても、『討伐』されるという考えはあちらになかったでしょう……どういう対応を取るか……」

 ケイモンは俯く。
 他も、似たような表情だった……が、スヴァルトが言う。

「くっだらねぇな。要は、最後のワクチンサンプルを手に入れればいいだけじゃねぇか。最後のサンプル……魔界貴族公爵、『疫病』のネルガルは、どこにいる?」
「…………」

 ケイモンは首を振った……そう、まだ居場所が掴めていないのだ。
 スヴァルトは舌打ちし、黙り込む。

『恐らく、そろそろだな』
「……?」
『ロイ、気を付けろ。恐らく、トリステッツァも動くぞ』
「!!」
『魔王のルールに、『侯爵級は四人』、『公爵級は一人』、それ以外は自由というルールがある。以前、パレットアイズが動いた時と同じだ……恐らく、トリステッツァも動く』
「…………」

 ロイにしか聞こえない声で、デスゲイズが言った。
 
『ネルガル。恐らく、奴は───……』
「一つだけ、可能性がある場所が」

 ケイモンが言う。
 全員の視線がケイモンへ向いた。

「次は直接、王都を狙う可能性が高いです。アイスウエスト、コールドイーストと失敗が続き、最初に疫病をばら撒いたここ、王都をもう一度攻める可能性が」
「フン。だったら、餌撒くか」
「餌?」
「オレらがここにいるって、大々的に見せつけるのよ。そうすりゃ、公爵級もオレらを病気にさせるために来るんじゃねーか?」

 スヴァルトが言うと、すっかり怪我の治ったロセが言う。

「単純だけど、効果はあるかもねぇ」
「だろ?」
「でも、危険もあるわ。私たち全員、病気で動けなくなる可能性も……」
「そんときは気合で戦えばいい。なぁ?」
「え、あ……は、はい」

 サリオスが振られ、ウンウン頷いた。
 エレノアがロイをチラッと見る。

『気合はともかく、ネルガルが王都を狙うというのは当たっているだろうな』
「…………」
『だが……マズイぞ。トリステッツァが動けば、パレットアイズの時と同様に、国中が奴の『魔王聖域アビス』に浸食される」
(マジか……)

 はっきり言っておく。
 デスゲイズの予想は、当たっていた。
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