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愛こそすべて

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 レイピアーゼ王国から戻ったササライは、水着に着替えて海へ向かy。
 ササライは、水着姿でフルーツパフェを頬張るパレットアイズに言う。

「トリステッツァ、死んだよ」
「へ?」

 パレットアイズは、ポロリとスプーンを落とした。
 意味がわからず、ササライを驚愕の眼差しで見つめている。
 ちなみに、ササライも水着だ。
 ここは、魔界にあるササライのプライベートビーチ。
 人間のリゾート地を参考に作った娯楽場。今は、弱体化したパレットアイズと共に、水着姿でビーチチェアに寝そべる。
 
「聖剣士五人に殺されたようだね。いや~……まさか、負ける可能性はちょっとだけあったけど、トリステッツァ自身が殺されるなんて思いもしなかったよ」
「じょ、冗談……」
「本当だよ」
「……うそ」

 トリステッツァが死んで悲しいのではない。
 魔王が、人間の聖剣士に殺された。それが信じられないのだ。
 長く、不動だった四大魔王の地位に、亀裂が入った瞬間でもあった。
 パレットアイズは、ビーチチェアから立ち上がる。

「……殺さなきゃ」
「ん?」
「聖剣士を殺さなきゃ!! 七聖剣士、全員殺す!!」
「ちょ、ちょっと待ってよ。いきなりどうしたんだい?」
「トリステッツァが殺されたのよ!? 魔王を殺すなんて……やっぱり、今の聖剣士はヤバい。あの聖剣、あたしたちが知らない何かがある」
「まぁまぁ落ち着いてよ。それに、次の手番はバビスチェだろ?」
「そうよぉん?」
「うきゃぁ!?」

 なんと、愛の魔王バビスチェがパレットアイズの背後に現れ、水着に手を突っ込んで胸を触ってきたのだ。これにはパレットアイズも驚いた。

「な、なにすんのよ!!」
「だからぁ……次は私の手番。邪魔しちゃダメよ?」
「だったら、さっさと聖剣士殺しなさいよ!! あんたもわかるでしょ? トリステッツァが殺されたのよ!?」
「そうねぇ。トリステッツァのこと、監視してたけど……ふふ、すっごく面白い情報を手に入れたの。ね、パレットアイズにササライ、知りたい?」
「……興味深いね」
「もったいぶるんじゃないわよ!! てか触んな!!」

 パレットアイズに突き飛ばされ、バビスチェは離れた。
 長い金色のロングウェーブヘア、露出の多いドレスに、お尻には尻尾も生えている妖艶な女。
 愛の魔王バビスチェ。
 バビスチェは前かがみになり、胸の谷間を強調させ、お尻を振って尻尾を揺らしながら言う。

「八咫烏───ふふ、この子が七聖剣士たちを援護した結果、トリステッツァが死んだ。つまり……この子には、何かがあるのよねぇ♪ 私の手番では、この子を徹底的に追い詰めてみようと思うの」
「……八咫烏かぁ。確かに、妙な聖剣士だね」
「そんな雑魚より、聖剣士なんとかしなさいよ」
「ふふ。まぁ、見てて♪ 私の『愛』で、八咫烏を包み込んであげるわ♪」

 愛の魔王バビスチェが、動きだす。
 
 ◇◇◇◇◇◇
 
「よおロイ!! いやー、すっげえことになったな!!」
「お、おお」

 観光都市ラグーン。
 レイピアーゼ王国を出て、オルカとユイカを迎えに行ったロイたち。向かった先はユイカの親戚が経営する宿屋で、オルカとユイカが出迎えてくれた。
 エレノアが、かなり気味悪そうに言った。

「オルカ、あんた……大丈夫?」
「ん、ああ。けっこう痩せたけど問題ないぜ!! むしろ、大ニュースに大興奮!!」

 オルカは、こげ茶色に日焼けし、さらに過酷な労働でげっそり痩せて別人のようだった。だが、大ニュースを聞いて目がキラキラしており、それが逆に気味が悪い……といった感じだ。
 宿屋の手伝いの厳しさを、ロイたちは知った。
 ユイカも日焼けしていたが、オルカほどではない。

「エレノア、ユノっ!! 魔王討伐おめでとう!」
「ありがと、ユイカ」
「ありがとね。まぁ、大変だったわ……」
「ね、ね。お昼まだでしょ? みんなで食べに行こっ!!」

 五人は、ユイカおすすめの大衆料理店へ向かい、個室を借りた。
 オルカとユイカが奢るというので、遠慮なく料理を食べる。

「いやー、エレノアとユノすっごいよな。魔王を退治しちまうなんて」
「あたし的には、あんたの変貌のがすごいと思うけど……仕事、そんなにヤバいの?」
「まあね。朝は三時起き、夜は十二時終了でずっと働いてたからな!! 一日中外仕事して焼けちまうし、汗ダラダラでゲッソリしちまうし、もう大変よ!!」
「「「…………」」」

 魔王討伐より過酷なオルカの夏季休暇に、ロイとユノとエレノアは何も言えない。なぜこんなにキラキラしてニコニコしているのかも、不思議だった。
 ロイはユイカに言う。

「ユイカ……少しは休ませてやったほうがいいんじゃ」
「や、休みはちゃんとあげたよ? でも、休まないんだもん!!」
「はっはっは。宿屋っていいな。オレ、聖剣士やめてここで働きたいぜ」

 とりあえず、オルカについてもう何も言うことはなかった。
 お昼を食べ、再び飛行船に乗る。
 トラビア王国手前で一泊し、翌日にはトラビア王国王都に到着した。
 夏季休暇終了二日前。
 ロイは、エレノアとユノに聞く。

「お前たち、これから報告とかあるんだろ?」
「ええ。まっすぐ王城行って謁見してくるわ。あとでロセ先輩やスヴァルト先輩も合流する予定……あーあ。ゆっくりしたいけど、無理っぽいわね」
「……大変」

 そう言い、飛行場に迎えに来た兵士たちと一緒に行ってしまった。
 ロイ、オルカ、ユイカの三人は、荷物を抱えて聖剣レジェンディア学園へ。
 正門前で、オルカは言う。

「帰ってきたぜ。母校によ!!」
「お前、そのテンションどうしたんだよ」
「これ、休み終わったら燃え尽きるヤツね。ま、いいけど」

 ユイカは言う。

「じゃ、あたしはここで」
「ああ。ユイカ、ラグーンではいろいろありがとな」
「いいって。短かったけど、みんなで遊べたしね。それと、秋季休暇はみんなで遊ぶ予定あるから、ちゃんと空けときなさいよ!」
「ああ」
「ユイカ、給料ありがとな!! ぐへへ、いっぱい稼いじゃったぜ」
「はいはい。じゃ、新学期にね~」

 ユイカは女子寮へ。
 ロイとオルカも男子寮へ入り、部屋の前で別れた。
 ロイは自分の部屋に戻り、荷物を投げ捨て、ようやく肩の力を抜いた。

「あ~……やっと、帰って来たぁ」
『さすがに、疲れたな』
「……お前も疲れるとかあるのか?」
『当たり前だ』
「あ~……喉乾いた。水……ないな」

 ずっと休みだったので、部屋が少し埃っぽい。水差しも空っぽだ。
 ロイは水差しを持ち、部屋を出た。
 水道へ向かい、水を汲んで部屋に戻ろうとすると。

「うおっ」
「む……失礼」

 振り向くと、長い黒髪をポニーテールにした男子生徒がいた。
 いきなり現れたので驚いた。
 
「……そなた、この寮の者か?」
「え、ええ。男子寮ですし」
「そうか。少し質問があるが……厠はどこだ?」
「かわや?」
「……『といれ』のことだ」
「ああ、トイレ。トイレはあそこです」
「かたじけない」

 少年はペコっと頭を下げ、トイレに入って行った。
 なんとなく、ロイはその後姿を見送った。

「なんか、見たことない人だったな……しかも、すっごい美少年」

 漆黒の髪に、鳶色の瞳。
 伝統的な衣装、といえばいいのか、この辺りでは見ない服を着ていた。
 顔は小さく、きりっとした眉と切れ長の眼が、不思議と印象に残っていた。

「ま、いいや。さーて、少し寝ようかな」

 ロイは、自分の部屋に戻り、水を飲んでそのまま熟睡するのだった。
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