聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~

さとう

文字の大きさ
154 / 227

アナタの愛こそ私のすべて・愛の魔王バビスチェ⑤/きっと素敵なこと

しおりを挟む
 ササライは、ワイングラス片手に生徒会室から窓の外を眺めていた。

「バビスチェ、どうする?」
「んん~?」

 バビスチェも、ワイングラス片手にソファでだらけている。
 部屋の隅にいるヴェスタが大きく欠伸をし、バビスチェをチラッと見た。
 あまりにも、バビスチェは普通通りだった。

「侯爵級は全滅。アンジェリーナなんて、闇聖剣の使い手に襲われちゃったよ。もう、きみの元に戻れないね……それに、あのピンクの小さな虎も逃げちゃったし」
「そうねぇ」
「パレットアイズのこと、笑えないね。このままじゃ敗北だよ」
「そうねぇ~……くぁぁぁ」

 バビスチェは大きく欠伸し、どこか苦笑しているササライに言う。

「ササライ、勘違いしてるけどぉ……私はね、どうでもいいのよ」
「ん?」
「私の子たちが全滅しても、また別な子を愛せばいいだけ。聖剣士たちが頑張っても、私にとってはお遊びに過ぎないの……だから、私の手番は、もうすぐおしまい」
「ふーん」
「でもぉ、私の子たちを倒しちゃったお仕置きは、しないとねぇ?」

 バビスチェが指を鳴らすと、『聖域』の濃度が濃くなった。
 王都内に充満している薄い桃色の靄が、濃い桃色の靄となる。そして、ララベルの風では守り切れないほど強くなった靄が、エレノアたちを飲み込んだ。
 意識がほぼ奪われ、愛を求め彷徨う『愛し子』となった瞬間である。

「もう、誰も抗えない。大人も子供もみんな、私の『愛し子』になったわ。ふふ……愛を育んで、たぁ~っぷり楽しんでね?」

 始まるのは、男女の営み。
 バビスチェの手番で、本来なら最終段階に入った場合にのみ発動する『愛し子たちのララバイエターナル・ラヴァーズ』が発動した。
 きっと、愛し合うことで素晴らしい未来が待っている。男は女を愛し、女は愛の結晶を授かり、人は幸せに、愛にあふれることだろう。
 かつてフレム王国で人口爆発が起きた時も、国中が濃い桃色のモヤに包まれた。
 国中が愛に包まれたのは数か月……バビスチェが満足するまで。

「まぁ、好きにするといいよ。さーて、ボクもそろそろ準備しないとね」
「あらぁ? 行っちゃうの?」
「うん。数か月はボクの手番だ。ふふ……ボクの予想通りなら、きっと面白いことになる。そのための準備と、確認かな?」
「ふぅん? まぁ、頑張ってねぇ」
「うん。ああ、バビスチェ……ボクの部下を置いて行くよ。手は出させないからさ」
「ええ、お好きにどうぞぉ~」
「ヴェスタ、バビスチェの邪魔しないように見届けて。それと───外にいるあの子・・・・・・・の邪魔もしないように」
「はーい」

 ヴェスタは挙手し、ササライはにっこり笑って部屋を出た。
 バビスチェは、ソファに座り直してワイングラスを揺らす。

「さぁて……たっぷり楽しみましょうね、聖剣士たち。至上の《愛》を注いでアゲル♪」

 愛の魔王バビスチェが、本気で動き出した。

 ◇◇◇◇◇◇

 ロイ、アオイの二人が王都に近づくと、その異常性をすぐに察知した。
 二人は口を押さえ、王都を包み込む桃色の靄を注視する。

「な、なんだこれ……」
「うっ……こ、ここまで離れても臭う。甘ったるい、香水のような……ロイ殿、これはまずいぞ」
「ああ。おいデスゲイズ、これは……」
『決まってる。バビスチェが『聖域』の濃度を上げたんだ。奴の聖域の最終段階、『愛し子たちのララバイエターナル・ラヴァーズ』だな……意識を奪い、ただ異性を愛するだけの存在と化す聖域だ。まずいぞ……いくら七聖剣でも、この濃度では数分も耐えきれん』
「クソ、エレノアたちは……」

 すぐにでも王都へ飛び込みたいロイだが、さすがのロイもあの毒霧のような靄に飛び込むほど馬鹿ではない。すると、アオイが前に出た。

「デスゲイズ殿……あの靄は、妖術が付与してあるというだけで、モヤに変わりはないということか?」
『恐らくな。バビスチェが生み出したモヤということに変わりない。濃度がケタ違いだが』
「なら……拙者ならいける───ッハァ!!」

 バチン!! と、アオイの身体が紫電の雷に包まれた。

「『紫電雷人しでんらいと』……この技なら、纏わりつく靄を散らせる」

 確かに、アオイに纏わりつく靄が、雷の電熱によって焼け消えていた。
 ララベルのように風で拭き散らすのではない。これならバビスチェの靄にも耐えきれるだろう。
 すると、デスゲイズが言う。

『待て。確かに、風で散らすよりも効果的だ。だが……その状態はいつまで持つ?』
「…………」

 アオイの身体を包む紫電が消えた。

「恐らく、五分が限界……五分の間に、ケリを付ける」
「アオイ、お前……」
「ロイ殿。援護は任せる……拙者は信じているぞ」
「……ああ!!」

 ロイは魔弓デスゲイズを強く握り、桃色の靄に包まれた王都を見た。
 アオイは王都正門前へ移動し、ロイは王都郊外から最も近く、靄から遠い高台へシェンフーと移動する。
 仮面をかぶり、矢筒から矢を抜いて番え、『万象眼』でアオイと視界を共有。
 
「頼むぞ、アオイ」
「───……参る!!」

 アオイの全身が紫電に包まれた瞬間、アオイの姿が消えた。
 雷の如き速度で正門を超え、王都内へ。
 狙うは───愛の魔王バビスチェ、本体だ。

 ◇◇◇◇◇◇
 
「あら?」

 バビスチェは、王都にアオイが踏み込んだ時点で気付いた。
 『愛し子』へと変える靄が、アオイに触れる前に消滅している。
 
「なるほどぉ~……雷聖剣の雷で全身を覆い、靄を焼いてるのねぇ。なかなか器用な子」

 アオイは、まっすぐ学園を目指している。
 腰には日本刀形態のイザナギ。紫電を纏い駆ける速度は、七聖剣士最速。
 バビスチェは、生徒会室の会長椅子に座り、指をパチンと鳴らした。

「ふふ、お出迎えして遊んであげるのもいいけど───この子たちに相手をしてもらおうかしら」

 ◇◇◇◇◇◇

「───む!?」

 突如、アオイの前に『氷の壁』が現れた。
 アオイは急停止。すると、氷の壁を飛び越え、ロセとララベルが聖剣を手に向かってくる。

「会長殿、ララベル殿!? ───なっ!?」

 二人の眼が、桃色に染まっていた。
 
「おのれ、傀儡か───ッ!!」

 ロセの大剣を躱し、ララベルの双剣を日本刀形態のイザナギで受ける。
 高威力なロセの振りは容易く躱せるが、ララベルの風の如き連続攻撃は受けるのが至難。すると、氷の壁が砕けユノが刺突、反対側からエレノアが長剣を手に向かってきた。
 背後からロセが、正面にはララベルが。
 四方からの同時攻撃に、アオイは舌打ちする───が。

「「「「ッ!?」」」」

 同時に現れた四本の矢が、エレノアたちの持つ聖剣、その刀身部分に命中し剣を弾き飛ばす。
 アオイは驚くことなく跳躍し、建物を伝ってその場から離脱した。

 ◇◇◇◇◇◇

「『時空矢アイオーン』……悪いなエレノアたち。今は大人しくしてくれ」

 エレノアたちの剣を叩き落したロイは、再び矢を番える。
 空間を喰らい距離を無視した『時空矢アイオーン』を再び番え、アオイの視界を見ながら警戒する。エレノアたちは追って来ないようだ。

『す、すごいぞ……』

 シェンフーが、ロイの足に身体を擦り付ける。まるでネコのように。
 ロイは、シェンフーに構う暇がないのか、集中していた。

「もうすぐだ。アオイ……そのまま頼むぞ」

 バビスチェのいる『生徒会室』まで、もう少し。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです(完結)

わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。 対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。 剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。 よろしくお願いします! (7/15追記  一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!  (9/9追記  三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン (11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。 追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴
ファンタジー
【あらすじ】  普通に事務職で働いていた成人男性の如月真也(きさらぎしんや)は、ある朝目覚めたら異世界だった上に女になっていた。一緒に牢屋に閉じ込められていた謎のしゃべるうさぎと協力して脱出した真也改めマヤは、冒険者となって異世界を暮らしていくこととなる。帰る方法もわからないし特別帰りたいわけでもないマヤは、しゃべるうさぎ改めマッシュのさらわれた家族を救出すること当面の目標に、冒険を始めるのだった。 (しばらく本人も周りも気が付きませんが、実は最強の魔物使い(本人の戦闘力自体はほぼゼロ)だったことに気がついて、魔物たちと一緒に色々無双していきます) 【キャラクター】 マヤ ・主人公(元は如月真也という名前の男) ・銀髪翠眼の少女 ・魔物使い マッシュ ・しゃべるうさぎ ・もふもふ ・高位の魔物らしい オリガ ・ダークエルフ ・黒髪金眼で褐色肌 ・魔力と魔法がすごい 【作者から】 毎日投稿を目指してがんばります。 わかりやすく面白くを心がけるのでぼーっと読みたい人にはおすすめかも? それでは気が向いた時にでもお付き合いください〜。

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

処理中です...