182 / 182
動き出す、七人の魔剣士
しおりを挟む
魔界。
ササライ、トリステッツァ、バビスチェ、パレットアイズ。
四人の魔王が治めていた領地が一つになり、その中心地に新たな魔王国が作られた。
忘却の魔王ササライ改め、『至高魔王ササライ』となった、魔王の中の魔王。
魔界は『大魔帝国領地』と名を改め、大魔王国王都『シャングリラ』には、大勢の魔族が押し寄せた……これまで、ササライ以外の魔王に付いていた元・魔界貴族たちが、ササライの下で新たな魔界貴族となるべく押し寄せたのだ。
「魔族、いっぱいだね」
シャングリラ魔王城の最上階テラスにて、『炎魔剣イフリート』を振るう七魔剣士の一人、ヴェスタが王城前に殺到する魔族たちを眺めつつ言う。
すると、装飾の施された立派な椅子に座り、紅茶を楽しむ少女が言う。
「仕方ありませんわ。魔界貴族になれば新たな領地が貰える。今は、すべての領地がササライ様に没収された状態ですもの」
シルバーブルーのドレス、淡いブルーのロングヘアの少女がクスっと笑う。
傍には、いびつな形をしたレイピアが台座に載せられていた。
氷魔剣フェンリル。ヴェスタと同じく、七魔剣士の一人であるアイシクルミューゼの剣だ。
「ね、アミュ。わたしにもお茶ちょーだい」
「仕方ありませんわね……」
お嬢様のような雰囲気だが、意外と世話焼きなアイシクルミューゼは、ヴェスタのためにカップを用意する。すると、ドスドスと大柄で筋肉質な男が、なぜか丸太を片手にテラスへ来た。
「うわっはっは。参った参った。元侯爵級を五人も殺しちまって追い出されたわい。わっしでは試験管が務まらんと言われてしまったわ。わっはっは!!」
「グレコドローマ。お疲れ様」
「おつー、グレコおじさん、お茶飲む?」
「うむ、いただこう!!」
丸太を置き、椅子の代わりにして座る大男。
グレコドローマ。地魔剣アジ・ダハーカの使い手であり、ヴェスタはグレコおじさんと呼んでいる。
スキンヘッドに髭面、身体はがちがちの筋肉質で、アミュに渡されたカップをグイっと飲み干すと同時に、カップを握りつぶしてしまった。
「おお、やっちまった!!」
「馬鹿力……まったくもう」
「おじさん、不器用だね」
「わっはっは!! すまんな、すまんな」
それから、三人でお茶を楽しんでいると……テラスに二人入ってきた。
一人は真っ黒なローブを来た瘦せすぎの少女。胸元がゆるく、胸が見えている。だがそんなことはどうでもいいのか、大きな鎌を引きずっていた。
もう一人は、純白の鎧を装備し、真っ白な剣を腰に差した青年だ。
ヴェスタは言う。
「おつ、アークレイにヴェンデッタ」
「ああ、ようやく審査が終わった。やれやれ、魔界貴族といっても大したことがないな」
光魔剣トゥアハ・デ・ダナンの使い手アークレイ。七魔剣士のリーダーである彼は、さわやかな笑顔を浮かべてテラス席へ。すると、アミュがいいタイミングでお茶を出し、お礼を言って受け取った。
「新しい魔界貴族が決まれば、領地の経営も始まるだろう。ササライ様の手番が始まるまで、もう少しだ……全員、しっかり準備をしておくように」
「…………ククッ」
「ヴェンデッタ。聞いているのか?」
「…………ええ」
漆黒の少女ヴェンデッタはうなずく。
鎌をテラスの床に刺し、持ち手の棒部分に座ってニヤニヤしている。
闇魔剣ア・バオア・クーの使い手である少女は、七魔剣士の中でも異端だとササライは言っていた。
アークレイはため息を吐く。
「やれやれ。今更だが、大丈夫なのか? 七聖剣士はグレシャ島で相当な訓練を積んだと聞いているぞ。負けることはないと思うが、油断して『まさか』ということもある……」
「それは大丈夫でしょうね」
と、最後にテラスにやってきたのは、両目を閉じながら歩いてくる『サムライ』の青年だ。
腰には雷魔剣ホノイカヅチが差してあり、ヤマト国の衣装である着物をまとっている。すぐ後ろには風魔剣ルドラの使い手であるサスケが控えていた。
「ライハか。大丈夫とは?」
「いえ、サスケが雷の聖剣士と戦った時の話を聞く限り、問題ないということです。ねぇサスケ」
「はい。八咫烏の邪魔が入りましたが……あの時点では敵ではないでしょう。自分が戦ったアオイ・クゼの実力は、せいぜい公爵級程度。この場にいる魔剣士が負ける要素はありません」
「と、いうわけです。まぁ、訓練は続けるに越したことはないですが、ね」
ライハこと、ライハ・ドウミョウジはクスクス笑う。
男なのか女なのかわからない美貌だ。性別はこの場にいる誰にも明かしていない。知るのはササライだけという話もある。
この場に、ササライの配下である七人の魔剣士がそろった。
すると、ヴェスタは言う。
「早くエレノアと戦いたいな」
ヴェスタはエレノアを思う。
「私は、氷聖剣の方が気になりますわね」
アイシクルミューゼは、ユノを思う。
「…………光聖剣。アタシの闇が食べちゃう」
ヴェンデッタは、サリオスを思う。
「……アオイ・クゼはオレの獲物だ」
サスケは、アオイを思う。
「わっはっは!! わしは地聖剣のおなごに興味がある。相当なパワーを持つようだしの!!」
グレコドローマは、ロセを思う。
「皆さん、気になる相手がいるようで。私は風の聖剣士ですかね……サスケが雷を相手にするなら、私が風を相手にせねば」
ライハは、ララベルを思う。
「じゃあオレは残った闇聖剣かな。疑問に思うんだよな。闇の聖剣、光の魔剣……どちらが強いのか」
アークレイは、スヴァルトを思う。
そして、テラスの屋根に上って空を見上げていた白い少女、セレネはつぶやく。
「ロイ。みんな戦いたい相手が決まってる。私はみんなを援護する。あなたは七聖剣士の援護……そして最後、私との決着を」
セレネはそう言い、拳をギュッと握りしめた。
◇◇◇◇◇
ササライは、テラスの柱に寄り掛かり、七魔剣士の会話を一部始終聞いていた。
誰も、ササライに気づかない。だがササライは笑っていた。
「いいね、実にいい。七人の聖剣士と、七人の魔剣士。そして黒きカラスに、白きハクチョウが裏で戦う……観客は、人間界、魔界の住人達。く、ふははっ……面白い、面白いよ。本当に、最高のショーになる!! あぁ~……そしてラスボスはこのボク。素晴らしい、最高すぎる……デスゲイズ、見ているかい? 始まるよ、本当の闘いが。最高のショーが!!」
ササライは『演出家』だ。
場をセッティングし、最高に盛り上がる舞台を心ゆくまで『観戦』し、最後においしいところをかっさらうのが大好きだ。
新たな魔界の『仕込み』が終われば、いよいよ始まる。
「もうすぐ始めるよ。人間と魔族が奏でる、最高の『戦い』……最高の『ショー』を」
忘却の魔王改め、『至高魔王ササライ』の手番が始まるまで、残り二十日。
ササライ、トリステッツァ、バビスチェ、パレットアイズ。
四人の魔王が治めていた領地が一つになり、その中心地に新たな魔王国が作られた。
忘却の魔王ササライ改め、『至高魔王ササライ』となった、魔王の中の魔王。
魔界は『大魔帝国領地』と名を改め、大魔王国王都『シャングリラ』には、大勢の魔族が押し寄せた……これまで、ササライ以外の魔王に付いていた元・魔界貴族たちが、ササライの下で新たな魔界貴族となるべく押し寄せたのだ。
「魔族、いっぱいだね」
シャングリラ魔王城の最上階テラスにて、『炎魔剣イフリート』を振るう七魔剣士の一人、ヴェスタが王城前に殺到する魔族たちを眺めつつ言う。
すると、装飾の施された立派な椅子に座り、紅茶を楽しむ少女が言う。
「仕方ありませんわ。魔界貴族になれば新たな領地が貰える。今は、すべての領地がササライ様に没収された状態ですもの」
シルバーブルーのドレス、淡いブルーのロングヘアの少女がクスっと笑う。
傍には、いびつな形をしたレイピアが台座に載せられていた。
氷魔剣フェンリル。ヴェスタと同じく、七魔剣士の一人であるアイシクルミューゼの剣だ。
「ね、アミュ。わたしにもお茶ちょーだい」
「仕方ありませんわね……」
お嬢様のような雰囲気だが、意外と世話焼きなアイシクルミューゼは、ヴェスタのためにカップを用意する。すると、ドスドスと大柄で筋肉質な男が、なぜか丸太を片手にテラスへ来た。
「うわっはっは。参った参った。元侯爵級を五人も殺しちまって追い出されたわい。わっしでは試験管が務まらんと言われてしまったわ。わっはっは!!」
「グレコドローマ。お疲れ様」
「おつー、グレコおじさん、お茶飲む?」
「うむ、いただこう!!」
丸太を置き、椅子の代わりにして座る大男。
グレコドローマ。地魔剣アジ・ダハーカの使い手であり、ヴェスタはグレコおじさんと呼んでいる。
スキンヘッドに髭面、身体はがちがちの筋肉質で、アミュに渡されたカップをグイっと飲み干すと同時に、カップを握りつぶしてしまった。
「おお、やっちまった!!」
「馬鹿力……まったくもう」
「おじさん、不器用だね」
「わっはっは!! すまんな、すまんな」
それから、三人でお茶を楽しんでいると……テラスに二人入ってきた。
一人は真っ黒なローブを来た瘦せすぎの少女。胸元がゆるく、胸が見えている。だがそんなことはどうでもいいのか、大きな鎌を引きずっていた。
もう一人は、純白の鎧を装備し、真っ白な剣を腰に差した青年だ。
ヴェスタは言う。
「おつ、アークレイにヴェンデッタ」
「ああ、ようやく審査が終わった。やれやれ、魔界貴族といっても大したことがないな」
光魔剣トゥアハ・デ・ダナンの使い手アークレイ。七魔剣士のリーダーである彼は、さわやかな笑顔を浮かべてテラス席へ。すると、アミュがいいタイミングでお茶を出し、お礼を言って受け取った。
「新しい魔界貴族が決まれば、領地の経営も始まるだろう。ササライ様の手番が始まるまで、もう少しだ……全員、しっかり準備をしておくように」
「…………ククッ」
「ヴェンデッタ。聞いているのか?」
「…………ええ」
漆黒の少女ヴェンデッタはうなずく。
鎌をテラスの床に刺し、持ち手の棒部分に座ってニヤニヤしている。
闇魔剣ア・バオア・クーの使い手である少女は、七魔剣士の中でも異端だとササライは言っていた。
アークレイはため息を吐く。
「やれやれ。今更だが、大丈夫なのか? 七聖剣士はグレシャ島で相当な訓練を積んだと聞いているぞ。負けることはないと思うが、油断して『まさか』ということもある……」
「それは大丈夫でしょうね」
と、最後にテラスにやってきたのは、両目を閉じながら歩いてくる『サムライ』の青年だ。
腰には雷魔剣ホノイカヅチが差してあり、ヤマト国の衣装である着物をまとっている。すぐ後ろには風魔剣ルドラの使い手であるサスケが控えていた。
「ライハか。大丈夫とは?」
「いえ、サスケが雷の聖剣士と戦った時の話を聞く限り、問題ないということです。ねぇサスケ」
「はい。八咫烏の邪魔が入りましたが……あの時点では敵ではないでしょう。自分が戦ったアオイ・クゼの実力は、せいぜい公爵級程度。この場にいる魔剣士が負ける要素はありません」
「と、いうわけです。まぁ、訓練は続けるに越したことはないですが、ね」
ライハこと、ライハ・ドウミョウジはクスクス笑う。
男なのか女なのかわからない美貌だ。性別はこの場にいる誰にも明かしていない。知るのはササライだけという話もある。
この場に、ササライの配下である七人の魔剣士がそろった。
すると、ヴェスタは言う。
「早くエレノアと戦いたいな」
ヴェスタはエレノアを思う。
「私は、氷聖剣の方が気になりますわね」
アイシクルミューゼは、ユノを思う。
「…………光聖剣。アタシの闇が食べちゃう」
ヴェンデッタは、サリオスを思う。
「……アオイ・クゼはオレの獲物だ」
サスケは、アオイを思う。
「わっはっは!! わしは地聖剣のおなごに興味がある。相当なパワーを持つようだしの!!」
グレコドローマは、ロセを思う。
「皆さん、気になる相手がいるようで。私は風の聖剣士ですかね……サスケが雷を相手にするなら、私が風を相手にせねば」
ライハは、ララベルを思う。
「じゃあオレは残った闇聖剣かな。疑問に思うんだよな。闇の聖剣、光の魔剣……どちらが強いのか」
アークレイは、スヴァルトを思う。
そして、テラスの屋根に上って空を見上げていた白い少女、セレネはつぶやく。
「ロイ。みんな戦いたい相手が決まってる。私はみんなを援護する。あなたは七聖剣士の援護……そして最後、私との決着を」
セレネはそう言い、拳をギュッと握りしめた。
◇◇◇◇◇
ササライは、テラスの柱に寄り掛かり、七魔剣士の会話を一部始終聞いていた。
誰も、ササライに気づかない。だがササライは笑っていた。
「いいね、実にいい。七人の聖剣士と、七人の魔剣士。そして黒きカラスに、白きハクチョウが裏で戦う……観客は、人間界、魔界の住人達。く、ふははっ……面白い、面白いよ。本当に、最高のショーになる!! あぁ~……そしてラスボスはこのボク。素晴らしい、最高すぎる……デスゲイズ、見ているかい? 始まるよ、本当の闘いが。最高のショーが!!」
ササライは『演出家』だ。
場をセッティングし、最高に盛り上がる舞台を心ゆくまで『観戦』し、最後においしいところをかっさらうのが大好きだ。
新たな魔界の『仕込み』が終われば、いよいよ始まる。
「もうすぐ始めるよ。人間と魔族が奏でる、最高の『戦い』……最高の『ショー』を」
忘却の魔王改め、『至高魔王ササライ』の手番が始まるまで、残り二十日。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
355
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(4件)
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
面白かったので続きをお願いします
続きは無いのでしょうか?
楽しみにしているのですが…
ユノ・レイピアーゼの章が被ってますよ?