上 下
1 / 109
第一章

魔力ゼロ

しおりを挟む
「リュウキ、残念だ……お前を、この家から追放する」
「そんな!! 父上、僕は!!」
「黙れ!!」

 いつも温厚な父上が、執務机をドンと叩く。
 その剣幕に、僕はビクッと震えてしまった。
 そして、父の傍に立つ継母のイザベラが、クジャクという魔獣の羽で作った扇を広げ、口元を隠しながら言う……断言してもいい、あの扇の下の口は、歪んでいる。

「まさか、当主の座欲しさに、キルトを毒殺しようとするなんてねぇ……」
「知らない!! 僕がそんなことするわけがない!!」
「では、あなたの部屋から見つかった毒瓶はなにかしら?」

 勝ち誇ったように言うイザベラ。
 父上の執務机の上に、毒の入った小瓶が置かれている。
 当然、僕はこんなもの知らない。

「魔力を失ってしまった腹いせをするなんて、ねぇ……姉上の子は卑しいですわ」
「……なん、だと」
「よせ、イザベラ」
「ああ、申し訳ございません、旦那様」

 魔力を失った。
 違う。
 僕は叫びたかった。
 
「ふふ、大賢者に匹敵する魔力を持つ神童だった頃が懐かしいですねぇ」
「……っ」
「イザベラ、もうよすんだ。リュウキ……残念だが、お前はこのドラグレード公爵家から追放する。理由はもう言わなくてもわかるな?」
「……僕が、魔力を失ったから、ですか」
「そうだ」

 父上は、きっぱり断言した。
 魔力とは、全ての力の源だ。魔法を使うエネルギーであり、魔道具という魔力で動く道具も魔力がないと使えない。
 だが、僕は……その魔力がない。
 ある日、魔力を全て失ってしまったのだ。
 でも、僕は覚えている。魔力を失った原因を。

「ふふふ……」

 イザベラ。
 この女が、僕の魔力を全て奪った。
 そして……義弟のキルトに、僕の魔力を全て移したのだ。

「リュウキ。いくらかの金貨を渡す。それで王都に行き、職を見つけ暮らすがよい。以上だ」
「ち、父上……」
「以上だ」

 それっきり、父上はもう僕を見ていなかった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

あなたの世界で、僕は。

BL / 連載中 24h.ポイント:1,307pt お気に入り:53

転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:4,180pt お気に入り:1,464

ふたつの時

現代文学 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

過労死社畜は悪役令嬢に転生して経済革命を起こす

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:2,522

可笑しなお菓子屋、灯屋(あかしや)

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:511pt お気に入り:1

レベルガチャ~ハズレステータス『運』が結局一番重要だった件~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:1,544

処理中です...