追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう

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第一章

龍の森

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 雨が、降っていた。

「…………ォ、え」

 口の中が、血でいっぱいだ。
 胸に穴が空いている。だが、奇跡なのか……僕は、生きている。
 痛くて死にそうだし、血がいっぱい出てる。

「…………」

 身体を起こすと、すでに辺りは真っ暗だ。
 不思議と、恐怖はなかった。
 隣には、ロイの死体がある。
 荷物を漁られていた。金目のものは、全部奪われていた。

「…………ぅ」

 なぜか、涙が出た。
 ロイの死。僕には、あまりにも理不尽で……胸が抉られた。
 僕は、立ち上がる。
 なぜか立てた。胸の血は、固まっているように見えた。
 どうやら、ジャコブの槍は僕の内臓を避けて通ったらしい……。

「……借りていくね」

 僕は、落ちていたロイの剣を腰に差す。
 ジャコブのナイフを手に、歩きだした。
 ロイの埋葬はしなかった。
 できなかった。
 腕に力が入らないし、歩くのに精いっぱいだった。
 森を出ると、空一面が星に覆われていた。

「あぁ……」

 世界はこんなにも美しい。
 なのに、どうして……どうして、この世は理不尽なんだろう。
 魔力がないだけで追放され、せっかく信頼できる人が、友人ができるかもしれないと思ったら……この有様だ。何もかも奪われ、僕は大地に立っている。
 
「もう───……疲れた」

 いろんな思いが駆け巡る。
 父上、イザベラ、キルト、プリメラ。そしてジャコブ……ロイ。
 信じていたものが、何もかも崩れ落ちた。

「…………」

 ふと、気付く。
 龍の森の雲が、晴れていた。
 
「…………」

 僕は、歩きだす。
 龍の森へ。危険地帯へ。
 何もかも、終わらせるために。

 ◇◇◇◇◇

 龍の森。
 不思議な森だった。
 ジャコブが言うような凶悪さは、全く感じない。
 あの黒い雲がないからだろうか……? 
 入口には『危険』の立て札があった。だが、僕はそれを無視し、中へ。
 真っ黒な森なのに、中は星明りがとても綺麗に照らされ、歩きやすい。
 何も考えずに歩いていると……大きな岩がある広場へ出た。

「…………」

 僕は、岩を背にずるずると地面に座りこむ。

「綺麗な、星だ……」

 僕はジャコブのナイフを投げる。
 そして、ロイの剣を抜き、ナイフに向けて叩きつけた。

「ロイ……あいつのナイフ、へし折ってやったぞ」

 何の意味もない復讐……でも、少しだけ満足した。
 砕けたナイフに目もくれず、僕はロイの剣を首に添える。

「もう、疲れた……母上」

 涙が出た。
 母上に、会いたかった。
 僕を生んでくれた母上。病で亡くなり、最後まで僕のことを愛してくれた。
 父は、母を愛していなかった。
 継母のイザベラを愛し、僕を愛しているように見て才能しか見ていなかった。
 
「死んじまえ、くそ……死んじまえ」

 涙が出た。
 死んでほしかった。初めて、人を呪った。
 そして、幼馴染にして婚約者のプリメラ。
 仲良くできてると思ってたのに……そう思っていたのは、僕だけだった。

「もう……疲れた。ごめんなさい、母上」

 もう、全部終わりにして『うるさいのぉ……』……え?

『うるさいのぉ。最後くらい、静かに過ごしたいんじゃ』
「…………は?」

 岩が、喋った。
 僕が持たれかかっていた岩から、細い何かが伸びる。
 それは、首。蛇のような首。
 首の先には頭がある。そして───……雲がかかっていた月が見えた。星明りだけでなく、月明かりが広場を照らす。

『人間か……実に、久しぶりじゃ』
「…………え」

 それは、くすんだ白い表皮を持つ、ドラゴンだった。
 身体を丸めているようだ。さらに、身体の鱗が所々剥がれ落ち、至る所にシミのような跡もある。
 顔はしわだらけで、体毛も少し生えている。
 目はエメラルドグリーン。だが、ひどく濁っているように見えた。

「ドラゴン……」
『ふむ、驚かんのか』
「うん。どうせ、死のうと思ってたし……」
『……そうか』

 そう言い、ドラゴンは僕の傍に頭を置いた。
 不思議だ。ゴブリンすら怖かったのに、ぜんぜん怖くない。
 むしろ、優しさするら感じる。

「僕はリュウキ。あなたは?」
『……名はない。人はワシを『真龍エンシェントドラゴン』と呼んでいたがな』
「エンシェントドラゴン……」

 あはは。おとぎ話に出てくる最強にして最古のドラゴンじゃないか。
 夢でもうれしい。こんなドラゴンに会えるなんて。

『お前さん、魔力を感じないな。む……これは、呪いか? 魔女の呪い……』
「……魔女?」
『うむ。人間の魔法使いの到達点の一つ。魔法を昇華させた『呪』じゃ』
「……イザベラ。あいつ、魔女だったのか」
『この呪いは「略奪」の呪い。そうか、お前さん……魔力を奪われたのじゃな? しかも、この器に残っている量からして、ざっと千人分ってところかの……才能ある若者が、なぜボロボロで、この森に?』
「……ぜんぶ、奪われたから」
『……そうか』

 エンシェントドラゴンはそれ以上何も言わず、頭を寄せてきた。
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