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第一章
エンシェントドラゴン
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目を覚ますと、周囲が明るくなっていた。
そして、気付く……怪我が、治っていた。
「あ、あれ……?」
『わしが、治しておいた』
エンシェントドラゴンが、頭をムクッと起こす。
濁った眼を僕に向け、口を歪めたように見せる。
そして、首を伸ばして近くの木に突っ込むと、大きな赤い果実を咥えて戻ってきた。
『食え。力が付くぞ』
「…………なんで?」
『人は食わねば生きられん。わしのようなドラゴンは食わんでも生きていけるがのぉ』
「違う。もう、食う必要はない……死ぬから」
『全てを失ったから、か?』
「…………」
何も言えなかった。
赤い実を見ていると、腹がグゥグゥ鳴る。こんな時でも腹は減る。
エンシェントドラゴンは、頭を地面に置いた。
『少し、わしの話をしてよいか?』
「…………うん」
『ふふ。同族でも、わしのような強大なドラゴンの話を聞くやつはおらん。わしはな、この森に……死にに来たんじゃよ』
「え……死ぬ?」
『ああ。寿命じゃ……もうすぐ、わしは死ぬ』
「…………」
『若かりしころ……まだ人間がそんなにいないころじゃな。けっこう無茶もした。同族一万体を相手に戦ったこともあった。いつの間にかわしの傍には、誰もいなくなった……長い間、ずっとひとりじゃった。最初はどうということもなかったが、ある日気付いたんじゃ……ああ、寂しいと』
「ドラゴンが、寂しい……」
『わしらも、感情はある。ここではない中央諸国に行けばわかる。人に手を貸すドラゴンや、人を従えるドラゴン、暴れ回るドラゴンも多い。みな、わしが中央を離れたせいでもあるがの……』
「…………」
『わしは、死ぬ。最後……ひっそりと。だが、おぬしが来た』
「……俺は」
『死ぬために、じゃな。ははは……わしと同じじゃ。不思議と、おぬしはわしを恐れなかった。リュウキ……わしはな、嬉しかったんじゃ』
「……あ」
エンシェントドラゴンの目から、涙が落ちた。
僕は、無意識のうちにエンシェントドラゴンに手を伸ばし、頭を撫でていた。
『おお、気持ちええのぉ……』
「……ぅ、うう」
僕も、涙がこぼれた。
なぜだろう。どうして、僕の周りには『死』が多いんだ。
エンシェントドラゴンは、言う。
『リュウキ。死ぬな』
「え……?」
『わしは、お前に死んでほしくない。これを食え』
エンシェントドラゴンは、自分の尻尾の先端を食い千切る。
そして、口の中で小さくブレスを吐いて焼き、僕の前に置いた。
『これはドラゴンの肉。わしの意志で、お前に食わせる。お前が喰えば、お前の身体はドラゴンの器として整うだろう……さぁ、食え』
「…………あ、む」
嫌悪はなかった。
淡白で、鳥肉のような味……美味かった。
一口齧るたびに、身体の調子がよくなっていく。
大汗が流れる。まるで、身体の毒が燃えるような。
肉を完食すると、頭が物凄くスッキリしていた。
眠気も消え、快適そのものだ。
『整ったな。さぁ、最後にこれを……』
エンシェントドラゴンは、口の中から小さな宝石を出した。
キラキラ光る飴玉のような宝石だ。
僕は迷うことなく、飲み込んだ───……次の瞬間。
「───ッ!? う、おぉぉぉっ!!」
物凄く熱い蒸気が頭から噴き出したような気がした。
実際には何も出ていない。だが、間違いなく出ている。
魔力ではない。もっと濃密な何か。
『それは「闘気」……人間でいう魔力のようなもの。ドラゴンにしか扱えない「闘気」じゃ』
「と、闘気……」
『さぁ、身体強化を使ってみろ。魔力と同じやり方じゃ』
「……ッ」
僕は立ち上がり、全身に魔力───……ではなく、闘気を漲らせる。
「う、ぁぁぁぁぁ!?」
爆発するような闘気が全身を駆け巡る。
やばい。制御できない。
それだけじゃに───……僕の腕に、鱗が生えていた。
『抑えろ。常に十分の一以下で強化するように心がけるんじゃ』
「じゅ、じゅうぶんの、いちって……」
『わしの力を完全に開放すれば、お前も持たん。リュウキ、己を鍛えよ。力と技を磨き、強くなれ。新しい人生を生きるのじゃ』
「新しい、人生……」
『うむ。闘気は普通の人間から見ると魔力にしか見えん。人の世界で学び、強くなれ』
「……え、待った。身体が」
エンシェントドラゴンの身体に、亀裂が入る。
エンシェントドラゴンは、口をモゴモゴさせると、牙を何本かへし折って吐き出した。
『持っていけ。売れば金になる』
「待った、待った!! 身体が、崩れて」
『ははは。寿命と言ったじゃろ? 最後に、楽しい会話ができた───……』
「エンシェントドラゴン……っ」
僕は、エンシェントドラゴンに抱きついた。
頭を撫で、抱擁する。
『ああ……温かいのぉ』
「ありがとう、ありがとう……」
『ふふふ、リュウキの未来に、幸あれ……』
エンシェントドラゴンは砕け散り……その身体は、灰となり風に乗って消えた。
僕は、風になったエンシェントドラゴンを見送る。
「ありがとう、エンシェントドラゴン……僕、頑張るよ」
僕の身体には、闘気が満ちている。
大賢者なんて比じゃない、ヒトと比べることすらおこがましい、膨大な闘気。
「学び、鍛えろ……か。それに、中央諸国……エンシェントドラゴンが住んでいたところ」
そこに行くのもいいな。
それに、今なら何でもできそうだ。
でも、その前に。
「……ロイの埋葬と、ジャコブに『お礼』しないとな」
そして、気付く……怪我が、治っていた。
「あ、あれ……?」
『わしが、治しておいた』
エンシェントドラゴンが、頭をムクッと起こす。
濁った眼を僕に向け、口を歪めたように見せる。
そして、首を伸ばして近くの木に突っ込むと、大きな赤い果実を咥えて戻ってきた。
『食え。力が付くぞ』
「…………なんで?」
『人は食わねば生きられん。わしのようなドラゴンは食わんでも生きていけるがのぉ』
「違う。もう、食う必要はない……死ぬから」
『全てを失ったから、か?』
「…………」
何も言えなかった。
赤い実を見ていると、腹がグゥグゥ鳴る。こんな時でも腹は減る。
エンシェントドラゴンは、頭を地面に置いた。
『少し、わしの話をしてよいか?』
「…………うん」
『ふふ。同族でも、わしのような強大なドラゴンの話を聞くやつはおらん。わしはな、この森に……死にに来たんじゃよ』
「え……死ぬ?」
『ああ。寿命じゃ……もうすぐ、わしは死ぬ』
「…………」
『若かりしころ……まだ人間がそんなにいないころじゃな。けっこう無茶もした。同族一万体を相手に戦ったこともあった。いつの間にかわしの傍には、誰もいなくなった……長い間、ずっとひとりじゃった。最初はどうということもなかったが、ある日気付いたんじゃ……ああ、寂しいと』
「ドラゴンが、寂しい……」
『わしらも、感情はある。ここではない中央諸国に行けばわかる。人に手を貸すドラゴンや、人を従えるドラゴン、暴れ回るドラゴンも多い。みな、わしが中央を離れたせいでもあるがの……』
「…………」
『わしは、死ぬ。最後……ひっそりと。だが、おぬしが来た』
「……俺は」
『死ぬために、じゃな。ははは……わしと同じじゃ。不思議と、おぬしはわしを恐れなかった。リュウキ……わしはな、嬉しかったんじゃ』
「……あ」
エンシェントドラゴンの目から、涙が落ちた。
僕は、無意識のうちにエンシェントドラゴンに手を伸ばし、頭を撫でていた。
『おお、気持ちええのぉ……』
「……ぅ、うう」
僕も、涙がこぼれた。
なぜだろう。どうして、僕の周りには『死』が多いんだ。
エンシェントドラゴンは、言う。
『リュウキ。死ぬな』
「え……?」
『わしは、お前に死んでほしくない。これを食え』
エンシェントドラゴンは、自分の尻尾の先端を食い千切る。
そして、口の中で小さくブレスを吐いて焼き、僕の前に置いた。
『これはドラゴンの肉。わしの意志で、お前に食わせる。お前が喰えば、お前の身体はドラゴンの器として整うだろう……さぁ、食え』
「…………あ、む」
嫌悪はなかった。
淡白で、鳥肉のような味……美味かった。
一口齧るたびに、身体の調子がよくなっていく。
大汗が流れる。まるで、身体の毒が燃えるような。
肉を完食すると、頭が物凄くスッキリしていた。
眠気も消え、快適そのものだ。
『整ったな。さぁ、最後にこれを……』
エンシェントドラゴンは、口の中から小さな宝石を出した。
キラキラ光る飴玉のような宝石だ。
僕は迷うことなく、飲み込んだ───……次の瞬間。
「───ッ!? う、おぉぉぉっ!!」
物凄く熱い蒸気が頭から噴き出したような気がした。
実際には何も出ていない。だが、間違いなく出ている。
魔力ではない。もっと濃密な何か。
『それは「闘気」……人間でいう魔力のようなもの。ドラゴンにしか扱えない「闘気」じゃ』
「と、闘気……」
『さぁ、身体強化を使ってみろ。魔力と同じやり方じゃ』
「……ッ」
僕は立ち上がり、全身に魔力───……ではなく、闘気を漲らせる。
「う、ぁぁぁぁぁ!?」
爆発するような闘気が全身を駆け巡る。
やばい。制御できない。
それだけじゃに───……僕の腕に、鱗が生えていた。
『抑えろ。常に十分の一以下で強化するように心がけるんじゃ』
「じゅ、じゅうぶんの、いちって……」
『わしの力を完全に開放すれば、お前も持たん。リュウキ、己を鍛えよ。力と技を磨き、強くなれ。新しい人生を生きるのじゃ』
「新しい、人生……」
『うむ。闘気は普通の人間から見ると魔力にしか見えん。人の世界で学び、強くなれ』
「……え、待った。身体が」
エンシェントドラゴンの身体に、亀裂が入る。
エンシェントドラゴンは、口をモゴモゴさせると、牙を何本かへし折って吐き出した。
『持っていけ。売れば金になる』
「待った、待った!! 身体が、崩れて」
『ははは。寿命と言ったじゃろ? 最後に、楽しい会話ができた───……』
「エンシェントドラゴン……っ」
僕は、エンシェントドラゴンに抱きついた。
頭を撫で、抱擁する。
『ああ……温かいのぉ』
「ありがとう、ありがとう……」
『ふふふ、リュウキの未来に、幸あれ……』
エンシェントドラゴンは砕け散り……その身体は、灰となり風に乗って消えた。
僕は、風になったエンシェントドラゴンを見送る。
「ありがとう、エンシェントドラゴン……僕、頑張るよ」
僕の身体には、闘気が満ちている。
大賢者なんて比じゃない、ヒトと比べることすらおこがましい、膨大な闘気。
「学び、鍛えろ……か。それに、中央諸国……エンシェントドラゴンが住んでいたところ」
そこに行くのもいいな。
それに、今なら何でもできそうだ。
でも、その前に。
「……ロイの埋葬と、ジャコブに『お礼』しないとな」
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