追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう

文字の大きさ
77 / 109
第七章

乗り込め、敵地

しおりを挟む
 ムーン公爵家の庭に、大きなドラゴン……ではなく、ワイバーンがいた。
 褐色の表皮、大きな翼、ドラゴンというよりは翼の生えたトカゲのような姿だ。ワイバーンはムーン公爵に顔を近づけると、甘えるように鼻をピスピス鳴らした。

「目的地はクルシュ王国、ウロボロス山脈だ。任せるよ」
『キュルルル……』

 ワイバーンの傍には、大きな取っ手が付いた籠があった。
 これに乗り込み、空を飛んで行く。
 ムーン公爵は、ワイバーンの鼻先を撫でながら言う。

「クルシュ王国まで、半日も飛べば到着するだろう。私の方で学園には届けを出しておくから、安心して行きたまえ。それと、死なないように気を付けて」
 
 俺たちは頷く。そして、運搬用の籠に乗り込む。
 いざ、出発……しようとしたら、誰かが走ってきた。
 俺たちの前で止まり、片手を上げる。

「やっほ。わたしも行く」
「り……リンドブルム!? おま、なんで」
「公爵に呼ばれた。手を貸してやれってお願いされたの」

 ムーン公爵を見ると、リンドブルムに一礼する。

「お久しぶりです。枢機卿」
「うん」
「リュウキくんたちの危機に、力を貸していただき、感謝します」
「いい。リュウキが戦いに行くなら、手伝う」

 リンドブルムは、よじよじと籠に乗り込む。
 そういえば、ムーン公爵家は真龍聖教の信者だった。リンドブルムと面識あるし、ドラゴンだって知っているだろう。
 俺は確認する。

「……敵は、ドラゴンだ。しかも二体」
「エキドナお姉さまと、テュポーンお兄さま、だよね。わたしじゃ勝ち目はないけど……ギガントマキアの構成員くらいなら、全部殺してあげる」
「あ、ああ」
「待った。全部はダメ、あたしたちもリベンジするから」
「わかった。じゃあ、そこそこ殺す」
「あのシモンとかいう奴は、オレにやらせろよ」

 レノが拳を打ち付ける。
 どうやら、やり返したい奴がいるようだ。アピアもレイも同じみたいだ。
 ムーン公爵がワイバーンの頬を撫でると、ワイバーンは浮かび、両足で籠の取っ手を掴んだ。
 ゆっくりと上昇───ムーン公爵が言う。

「全員、気を付けて───……」

 最後に何かを言ったような気がしたが、ワイバーンが飛び立ったので聞こえなかった。
 ワイバーンは上昇し、そのままクルシュ王国に向けて飛ぶ。
 なかなかの速度だ。でも、たぶん俺のが速いな……と。

「……みんな、どうした?」

 レノ、レイ、サリオ、アピアが籠の中で身体を低くする。

「お、おま……こ、怖くねぇのかよ」
「え、何で?」
「そ、そら……飛んでるね」
「ちょ、ちょっと怖いです……」
「りゅ、リュウキ。落ちないようにね」

 そっか。みんな、空飛んだことないんだな。
 平気なのは、俺とリンドブルムだけか。
 ワイバーンはなかなか速い。あっという間にクロスガルドを抜け、雲の上を飛んでいた。
 現在時刻は夕方……オークションがお昼だったから、けっこう時間が経過してる。
 そういえば、少し腹が減った。

「みんな、今のうちにメシ食おうぜ。半日で到着なら、深夜には到着するだろ。今のうちに休んでおこう」
「む、難しいわね……こんな上空で落ち着いて休めると思う?」
「でも、休む。戦いになるだろうしな」

 幸い、籠の中はけっこう広い。
 俺たち全員が横になれるくらいだ。
 俺は座り、魔導カバンから水と食料を取り出す。ムーン公爵が準備してくれた食料はカバンの中にたくさん入ってるからな。

「リュウキ、ちょーだい」
「いいぞ、いっぱい食え食え」
「うん。もぐもぐ」

 リンドブルムはパンをほおばる。
 ギガントマキアの構成員が何人いるかわからないけど、リンドブルムの力が必要になるだろう。
 すると、レノがパンに手を伸ばす。

「よっしゃ、慣れた!! オレも食うぞ!!」
「ああ、いっぱい食え」
「あのクソ野郎……今度は負けねぇ」
「……敵か?」
「ああ。クソ強い野郎だった……もう、負けねぇけどな」

 そして、アピアもパンを手に取る。

「私も、次は絶対に負けません。必殺の弾丸も用意しました。もう二度と、外さない……!!」

 バクバクとパンを食べ、牛乳で流し込む。
 サリオは、ブツブツ言いながら何かを確認していた。

「速度強化、防御強化、攻撃強化、魔法防御強化、魔法攻撃強化……バフはいくつも使えるな。レベル1だから持続力が20秒ほど。魔力はあるし、つねにかけ続ければいい。よし……いける」

 サリオもやる気満々だ。
 俺も、完全にエンシェントドラゴンの力を引き出さないと。
 下手をしたら、一対二の戦闘だ。
 双子のドラゴン。そういえば、情報がないな。

「な、リンドブルム。エキドナと、テュポーン……どんなドラゴンだ?」
「二人は、自分では戦わない。昔から、他の生物を使っていろいろやらせては楽しんでた。昔、言ってた……自分たちは観客、脚本家だって。舞台に上がるのは、自分たち以外だって」
「なんだそれ……」
「でも、強い。わたしじゃ歯が立たない。スヴァローグお兄ちゃんも勝てない」
「…………」
「リュウキ、リュウキなら……勝てるかも」
「勝つ。絶対に……」

 正直、自信はない。
 でも……引けない戦いってのは、あるんだ。
しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

処理中です...