勇者の野郎と元婚約者、あいつら全員ぶっ潰す

さとう

文字の大きさ
10 / 214

10・ギフトの燐片

しおりを挟む

 騎士選抜試験。レグルスとウィネは順調に勝ち上がっている。
 俺は第一グループの決勝で、出番までまだまだある。

 「はぁ………」

 緊張はマックスだ。だって負ければ終わり、勝てば騎士になれるようなもんだ。
 前日の筆記試験と礼儀作法は上手くいった。あとはこのトーナメント戦で勝てばいいだけ。
 騎士候補生は一期生で選ばれることは殆どない。それに、この試験で10回目……つまり、俺たちより10歳も年上の騎士候補生もいる。そんな人たちは当然勝ち上がるし、俺が当たっても勝てるかどうかわからない。
 でも、騎士になるためには乗り越えなくちゃいけない壁だ。

 「勝つ……絶対に」


 俺は自分に言い聞かせる。何度でも。


 **********************

 
 試合は順調に進む。
 全てのグループが決勝戦まで終わった。後は1戦ずつ騎士候補生全員の前で戦う事になる。
 レグルスとウィネは決勝まで勝ち上がり、相手は騎士候補生5年のベテランだった。
 休憩を挟み、試合まであと少し。俺たち3人は集まっていた。

 「来たぜ。へへへ、一期生で決勝なんてな」
 「それはあたしたちの実力でしょ? レグルス」
 「ああ、ウィネ、勝ったら……」
 「ええ、結婚しましょう」
 「お前ら……よそでやれよ」
 「おお、いたのかライト、すまんすまん」
 「レグルス……」

 レグルスとウィネは緊張してる。こうやって冗談でも言わないとプレッシャーに押しつぶされるのがわかる。それくらい緊張してる。

 「ライト、お前は緊張してないのか?」
 「……してる。だけど押さえつけてる」
 「そんなこと出来るの?」
 「ああ………ごめん嘘」
 「お前な……」
 「もう……ねぇ2人とも、あたしたち絶対……勝とうね」
 「当然」
 「ああ。勝って2人を祝福するよ、結婚式には呼んでくれ、友人代表で挨拶したいからな」
 「お、おい、それは冗談……」
 「あら、冗談なの?」
 「い、いや……」

 レグルスは照れてやがる。こんな姿を見るのは珍しい。
 俺は友人にも恵まれた。ここで3人合格して、騎士の門を叩いてやる。


 そしていよいよ、俺の戦いが始まった。


 **********************


 戦いは、第一グループが使ったステージで行われる。その周りに騎士候補生たちが全員集まっていた。
 俺の相手は、騎士候補生歴4年のベテラン。ギフトは確か……《魔戦士》だ。魔術と剣のバランスが優れた、オーソドックスな使い手。
 だが、万能なギフトだが成長が遅いという難がある。だからこそ時間を掛ければ恐ろしく強くなるギフトの1つとして挙げられている。

 「悪いな。お前が期待されてるのは分かるが……オレも負けられない」
 「はい。よろしくお願いします」

 お互い剣を抜き、構える。
 勝った者も負けた者も見守る中、選抜試験最後の戦いが始まる。
 結果は試験と礼儀作法と戦闘技術の総合で判断されるが、この戦闘技術で勝った者が騎士に選ばれるのが恒例となっている。つまり……負けられない。
 審判の騎士がステージに上がり、俺たちに合図を送る。

 「準備はいいか?」
 「お願いします」
 「いつでも」

 騎士が右手を挙げ、始まりの合図を出す。
 俺は全神経を集中させ、目の前の騎士へ注意を払う。

 「始めッ!!」
 「ジャッ!!」

 開始と同時に、相手が突っ込んできた。
 口元はブツブツ何かを呟いてる……魔術だ!!

 「オォォォッ!!」
 「ふっ!!」

 俺は身体をフルに使い、相手の剣に合わせる。
 練度もなかなかだが、俺ほどじゃない。こっちは副団長お墨付きの剣だ、というかそれしか出来ないから毎日死ぬ気で剣を振ってたんだからなっ!!

 「ちぃぃっ!!」
 「逃がさないっ!!」

 相手が俺の剣の勢いに負け、少しずつ後退してる。
 俺はチャンスと思い、一気に……。

 「甘い」
 「っつ!?」

 突如、俺の身体が痺れて動きが止まった。
 これは……電撃の魔術。俺の身体に電気を流したんだ!!

 「終わりだっ!!」
 「ッッッだぁぁぁっ!!」
 「なにっ!?」

 俺は気合いと根性で身体を動かし、何とか距離を取る。
 ビリビリと身体が痺れるけど……動ける。当然やれる。
 魔術には気を付けないと。魔術師じゃない剣士が魔術を使うなんてそうはない。いい経験になった。

 「………」
 「チッ!!」

 ヤバい、また相手の口が動いてる。
 魔術の詠唱を辞めさせないと、また痺れるのはゴメンだ!!

 「はぁぁぁぁぁっ!!」
 「………」

 スピードと剣技はこっちが上。なら、このままごり押しで魔術を使う隙を与えない!!
 攻撃魔術なら耐えてやる。炎でも氷でも雷でも、痛いのなら耐えられる!!
 俺は剣を構えながら、来る攻撃に覚悟を決めて突っ込んだ。
 だが、相手の姿が急に消えた。

 「え」
 「オレの魔術は攻撃だけじゃない」


 俺の背中から、鮮血が飛んだ。


 **********************


 「う、ぐぅ……あ」
 「悪いな。今のは一瞬だけスピードを倍にする強化魔術だ。身体に負担が掛かるから、最後の切り札として用意しておいたが………まさか使うことになるとは思わなかった。誇っていいぞ」

 スピードアップ。
 つまり、攻撃と見せかけて身体強化。そして一瞬で俺の背後に回ったのか。
 ヤバい、ダメージが大きい。背中は隙だらけで、そこを狙われた。

 「降参しろ。ルールでは降参と気絶じゃないと試合が終わらない」
 「い、やだ……」
 「その傷ではもうオレには勝てん。お前は一期生だろ? また来年があるさ」
 「ダメだ……今年じゃないと、ダメなんだ……」
 「………何故だ?」
 「約束、したんだ……騎士になるって、2人が帰って来るまで、騎士になるって……」

 俺は剣を支えにして立ち上がる。絶対に降参なんかしてたまるか。
 
 「………そうか。じゃあ……ここで終わらせる」
 「……っ!!」

 相手は剣を構えた。きっと……トドメだ。
 だけど、俺だって負けない。ここで負けたら……リリカ達に笑われる。


 《──────》


 絶対に負けない。俺は勝つ。
 背中が、身体が熱い。まるで燃えてるように。

 「では、敬意を表して……全力で終わらせる!!」
 「………」

 俺が動けないのを良いことに、堂々と詠唱を始めた。
 どんなのが来るか分からない。でも、きっと避けれない。


 《──────》


 「これで終わりだ!!」
 「来い……」

 相手の剣は、真っ赤に燃えていた。
 あれが必殺技なのだろう。喰らえば負け……死ぬかも。


 《──────》


 背中、いや……胸が、心臓が熱い。
 何かが生まれるような、湧き上がるような、ヘンな感覚だ。
 血を流しすぎたのだろうか……意識も飛びそうだ。


 《──────》


 「喰らえぇぇぇぇぇっ!!」
 「………」

 炎の剣が、目の前に迫ってる。
 不思議だ………ゆっくりと、止まってるように見える。
 右手が熱かった。剣を左手に持ち、無意識で右手を突き出した。


 《──────ン》


 **********************










 「…………………………え」










 気が付くと、相手は反対側の壁に叩き付けられていた。
 どうやら吹き飛ばされたらしい。意味が分からない。

 「な、何が……」

 ふらりと、膝をつく。
 そしてボーゼンとしていた審判の騎士が、ノロノロと手を挙げた。

 「しょ……勝者、ライト……」


 その言葉と同時に、俺は気を失った。
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。

シトラス=ライス
ファンタジー
 万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。  十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。 そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。  おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。  夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。 彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、 「獲物、来ましたね……?」  下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】  アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。  *前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。 また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

処理中です...