勇者の野郎と元婚約者、あいつら全員ぶっ潰す

さとう

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11・騎士ライトの誕生

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 「………う、ぅ」

 頭が痛ぇ………なんか、夢見てたような気分。
 俺は起き上がり、周囲を見回す。
 
 「………ここ、医務室……?」

 どうやら、修練場の医務室らしい。
 部屋は広く、いくつものベッドが並んでる。1つ1つがカーテンで区切られ、俺は窓際のベッドで上体を起こして窓の外を見た。
 外は夕焼けが広がり、時刻は夕方を過ぎて夜になりかけている。

 「試験は………あれ、俺は……勝った、のか? あれ?」

 思い出せない。
 確か《魔剣士》の人と戦ってた。そんで背中を切られて、倒れて、立ち上がって………それで、頭が白くなって、右手が熱くなった。そして意識を失った……?
 俺は勝ったのか、負けたのか。何も分からない。

 「はは………」

 何か笑える。
 右手を見るが何もない。何かが飛び出したような気がしたが、あれが俺の《ギフト》なのだろうか。
 右手を見つめてると、医務室のドアが開いた。

 「起きたか」
 「ふ、副団長……」

 俺によく稽古を付けてくれた副団長だった。
 いつもと変わらない表情で、ゆっくりと俺の側に来た。
 
 「身体の調子はどうだ?」
 「あ、いや……平気です。あの、一体何が……」
 「お前の《ギフト》が土壇場で覚醒したんだ。どうだ、意識を自分の内に向けてみろ」
 「………え」

 そんなコト言われても、何も浮かばない。
 まだ混乱してるのだろうか、モヤが掛かったような……わからん。

 「ふむ。まだ覚醒が不完全なのかもしれん。まぁ直にわかるだろう」
 「は、はい」
 「それと、気になってると思うが心配するな。お前は……見事に勝利した」
 「え」
 「誇って良いぞ。お前は今日から騎士ライトだ」
 
 それはつまり、俺が勝ったということ。
 つまり、騎士の試験に合格し、正式な騎士として認められたと言うことか。

 「お前の友人2人も合格した。今年は一期生が5人も合格したのでな、私たちも少々驚いてるよ。だが、騎士として合格した以上、これからは私の部下だ。今まで以上に厳しく指導するから覚悟しておけ」
 「は………は、い」
 「ふ、まだ実感が沸かぬか。だが……直ぐに分かる」
 
 そう言って副団長は立ち上がり、俺を見下ろしていった。
 
 「明日は入団式がある。正騎士の制服を部屋に届けさせてあるから、詳細はレグルスに聞け」
 「は、はい」
 「動けるようなら部屋に戻れ。以上」

 俺の返事も待たず、副団長は去って行った。
 俺はボーゼンとしたまま、考えていた。

 「騎士………俺が、騎士………じゃあ、合格したんだ」

 他人事のような感覚だった。
 まだ実感が沸かない。取りあえず……身体は動くし、部屋に戻るか。


 俺は立ち上がり、医務室を後にした。


 **********************
 

 俺は部屋に戻り、自室のドアを開ける。

 「レグルスっ、レグルスぅぅっ!!………あ」
 「ウィネっ!! サイコーだっ!!………あ」
 「あ」

 俺は全裸でウィネに跨がるレグルスと目が合った。
 しかも2人の結合部までバッチリ見てしまった。なんてこった。
 この2人、また部屋でヤッてやがる。たぶん俺が帰ってくるなんて思わなかったんだろうな。
 15分ほど部屋のドアの脇で蹲ってると、静かにドアが開いた。

 「………よう」
 「お、おお。さぁ入れよライト、今日はめでたい日だぜ!!」
 
 誤魔化すように笑ってる。まぁ俺もノックしなかったの悪いし、ここは触れないでおこう。
 さっそく部屋に入ると、ウィネが顔を赤くして手を振ってた。

 「や、やっほーライト、そんでおめでとう!!」
 「ああ、ありがとな。それとお前達も……」
 「聞いたのか? 今年度の合格者は一期生が5人もいるって」
 「さっき副団長に聞いた。俺たち3人は合格だろ?」
 「おう、へへへ……まさか合格できるとはなぁ……」
 「あたしも。正直負けると思ってたけど、なんとか勝てたからね」
 「それが実力だろ?」

 俺のベッドの上に、畳まれた服が置いてあった。
 キレイな装飾や刺繍が施された、正騎士の制服だ。
 
 「明日は入団式か……まだ実感沸かないな」
 「同じく。まさか夢じゃないよな?」
 「もう、さっきも同じこと言ってたじゃん」
 「そ、そうだっけ? あぁ!? それよりライトお前、ギフトに覚醒したのか!?」
 「あ!! あたしも思った!!」
 「い、いや……実は、まだわからん」

 嘘じゃない。何も浮かばないし、正体も不明だ。
 右手が熱くなったのは覚えてる。何かが生まれたような、不思議な感覚も覚えてるが、具体的なことはわからない。

 「そうなのか? でもよ、間違いなく攻撃系のギフトだ。羨ましいぜ」
 「だよね~……相手の人は吹っ飛んじゃったしね」
 「ああ……」
 「ま、そのうち自在に使えるだろ。それより明日の入団式……楽しみだぜ」
 「そうだね。でも緊張するかも」
 「でも、これで俺たちは騎士……なんだよな」
 「ああ。へへへ……」

 レグルスもウィネも俺も、騎士になった。
 これでリリカやセエレとの約束は果たした。あとは2人が帰って来るのを待って……結婚を申し込もう。
 

 リリカやセエレの事を思い出した途端、騎士になった実感が沸いた。


 **********************


 翌日。正騎士の服に着替えた俺たちは、騎士団へ入団した。
 騎士団長シュトルンバッハからありがたいお言葉を頂き、陛下の前で敬礼をして王国に忠誠を誓う。
 入団式はつつがなく終わり、騎士団の宿舎で食事会が開かれた。

 「騎士レグルス!! いっきまーーすっ!!」

 レグルスは調子に乗り、エールの一気飲みをしてる。どうも自分からやり始めたらしく、先輩騎士たちは面白がって誰も止めずに煽ってる。そのうちぶっ倒れそうだ。
 俺も混ざりつつ、絶妙な距離で観戦していた。

 「全く、レグルスのヤツ」
 「ありゃマズいね。潰れるよ」
 「そん時は俺が部屋まで引きずってく。ルームメイトだしな」
 「うん。迷惑かけるね」

 ウィネと飲みながら、そんな話をする。

 「なぁ、お前らって結婚すんの?」
 「ぶっふっ!? ら、ライト?」
 「俺は2人が帰ってきたらプロポーズするけど、お前らはどうすんのかなって」
 「え、えっと……まだ早いよ、騎士になったばかりだし」
 「そんなもんか?」

 よくわからんが、2人には2人のペースがあるんだな。
 それにしても、リリカ達は今、どこで何をしてるのか。魔刃王とやらは倒せたのだろうか……気になるな。早く帰ってこないかな。


 この時はまだ、俺は何も知らなかった。
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