14 / 214
14・牢獄の交渉
しおりを挟む
俺は、一日で全てを失った。
騎士の資格を剥奪され、地下牢獄へ投獄された。
臭く不潔な地下牢で、俺は頭を抱えて考えていた。
「なんで、なんで……リリカ、セエレ……勇者、聖剣の勇者……」
ボロの囚人服を着て、苔やカビが生えてる藁敷きに座り、爪を噛む。
俺は、約束通り騎士になった。騎士になって、部隊長補佐になって、給金もそこそこもらえるようになって、父さんも母さんも喜んでくれて……。
「…………」
リリカ、綺麗だった……セエレも、女の子の顔だった……。
俺と結婚の約束をした二人は、勇者レイジの女になっていた。
『ホントに悪いけど諦めてくれよ、な?』
軽いノリで謝る聖剣勇者。
魔刃王の討伐が過酷だったのは間違いない。魔刃王を倒したのも間違いない。でも……リリカとセエレは奪われた。
「……強かった」
しかも、リリカは桁違いに強くなっていた。
動きが見えなかった。何もできなかった。あざ笑うような笑みを浮かべ、ゴミを見るように俺を見た。
あの笑みは、俺のことなんてどうでもいいと思ってる笑みだ。
「ちくしょう……」
全て、失った。
何も残っていない。婚約者も、騎士の資格も、なにもかも。
そんな時だった。
「あの、少しいいですか……?」
「…………」
俺の牢の前に、1人の少女が立っていた。
◇◇◇◇◇◇
「初めまして。私は進藤鈴……リンとお呼びください。ライトさん」
「…………」
「私は、その……レイジの仲間、いえ、この世界に召喚された一人です」
「レイジ……レイジだと」
「……あなたの怒りはもっともです。あのバカ、もう私でも手が付けられないくらい増長してます。あなたの婚約者のことだって……」
俺は立ち上がり、牢屋の壁を思いきり殴った。
手の皮が捲れ血が出る。リンと名乗った少女がビクッと震え、俺を見た。
「リ、リリカとセエレの件は……」
「……もういい。帰ってくれ、あんたの謝罪はいらない。俺にはもう、何も残ってない」
「……ごめんなさい。私は何もできなかった。この国は勇者レイジの色に染まってる。リリカ、セエレ、アルシェは、レイジの婚約者として国中に周知され始め、私だけが勇者の寵愛を受け入れない異端とまで言われ始めています。レイジにあなたの件を取り消すように言いましたが……ダメでした」
「……俺はどうなるんだ」
「おそらく……国外追放」
「…………」
そうか……国外追放ね。
怒りもあるが、心に穴が空いたような空虚感があった。
「魔刃王は討伐され、勇者レイジがこの国の王となります。そして、これは極秘情報ですが……レイジは戴冠式の時に、魔刃王の死体を使って《祝福の神》を召喚します」
「……祝福の神。まさか、《ギフト》をくれた神か?」
「はい。魔刃王を討伐できたのも、この力のおかげですから。神に感謝をして祝福をしてもらい、レイジは国王になります。魔刃王の死体を持ち帰ると言った時は正気を疑いましたけどね」
「……そんなこと、可能なのか?」
「可能です。レイジの中にある《聖剣勇者》の知識の中に、召喚方法があると言ってました。リリカもセエレもアルシェも乗り気で……自分たちの未来を神に祝福してもらうとか」
「はっ……」
思わず、乾いた笑いが出た。
あんな自分勝手な勇者が、神に祝福されるとか……ふざけやがって。
「……私は、神なんて信じていません」
「……え」
「魔刃王のこともですけど、旅をしてる時からずっと違和感を感じてます。言葉にしにくいんですけど……その、違和感を」
「?」
「ええと、すみません。それと本題ですけど、私と一緒に旅に出ませんか?」
「……は?」
「魔刃王は討伐されましたけど、この世界の魔獣被害はまだまだ収まっていません。私は世界各地を回り、魔獣討伐をします。ライトさん、あなたの騎士としての実力を見込んでお願いします。どうか手を貸してください」
「…………」
この女、何を言ってるんだ?
そもそも、勇者の仲間なら俺なんかよりずっと強いだろう。一人で……。
「一人でできることなんて、たかが知れてます」
「っ」
「きっと、勇者の仲間なら自分より強いだろ? って思ってるような気がして」
「……」
「それと、魔刃王は討伐しましたが、多くの謎は残っています。レイジのバカは気づいてないし、リリカたちはレイジに酔ってるで話にならない。それに……」
「わかった」
「え?」
「魔獣退治、やるよ。婚約者も騎士の資格も失った。残ってるのは剣の腕くらいだ……俺にはもう、戦うくらいしかできない。だからやる」
すると、リンは頷いた。
なぜか薄く微笑んでる……。
「ありがとうございます。出発は戴冠式の後になります。申し訳ないですが、戴冠式まで4日、ここで過ごしてください……」
「いいよ。もう慣れたから」
「それと、手を」
リンは、格子の隙間から手を伸ばし、俺の手に触れた。
「『治癒』……私、回復魔術は得意なんです」
淡い光が俺の手を包み、捲れた皮膚が回復した。
すごい、これが魔術……。
「では、戴冠式後に迎えに来ます」
「……ああ」
リンは、頭を下げて去っていった。
4日後の戴冠式……かつて、結婚を誓った幼馴染たちが、勇者レイジと結婚する日でもある。
だが……俺はまだ、知る由もなかった。
この国の、真の危機に。
騎士の資格を剥奪され、地下牢獄へ投獄された。
臭く不潔な地下牢で、俺は頭を抱えて考えていた。
「なんで、なんで……リリカ、セエレ……勇者、聖剣の勇者……」
ボロの囚人服を着て、苔やカビが生えてる藁敷きに座り、爪を噛む。
俺は、約束通り騎士になった。騎士になって、部隊長補佐になって、給金もそこそこもらえるようになって、父さんも母さんも喜んでくれて……。
「…………」
リリカ、綺麗だった……セエレも、女の子の顔だった……。
俺と結婚の約束をした二人は、勇者レイジの女になっていた。
『ホントに悪いけど諦めてくれよ、な?』
軽いノリで謝る聖剣勇者。
魔刃王の討伐が過酷だったのは間違いない。魔刃王を倒したのも間違いない。でも……リリカとセエレは奪われた。
「……強かった」
しかも、リリカは桁違いに強くなっていた。
動きが見えなかった。何もできなかった。あざ笑うような笑みを浮かべ、ゴミを見るように俺を見た。
あの笑みは、俺のことなんてどうでもいいと思ってる笑みだ。
「ちくしょう……」
全て、失った。
何も残っていない。婚約者も、騎士の資格も、なにもかも。
そんな時だった。
「あの、少しいいですか……?」
「…………」
俺の牢の前に、1人の少女が立っていた。
◇◇◇◇◇◇
「初めまして。私は進藤鈴……リンとお呼びください。ライトさん」
「…………」
「私は、その……レイジの仲間、いえ、この世界に召喚された一人です」
「レイジ……レイジだと」
「……あなたの怒りはもっともです。あのバカ、もう私でも手が付けられないくらい増長してます。あなたの婚約者のことだって……」
俺は立ち上がり、牢屋の壁を思いきり殴った。
手の皮が捲れ血が出る。リンと名乗った少女がビクッと震え、俺を見た。
「リ、リリカとセエレの件は……」
「……もういい。帰ってくれ、あんたの謝罪はいらない。俺にはもう、何も残ってない」
「……ごめんなさい。私は何もできなかった。この国は勇者レイジの色に染まってる。リリカ、セエレ、アルシェは、レイジの婚約者として国中に周知され始め、私だけが勇者の寵愛を受け入れない異端とまで言われ始めています。レイジにあなたの件を取り消すように言いましたが……ダメでした」
「……俺はどうなるんだ」
「おそらく……国外追放」
「…………」
そうか……国外追放ね。
怒りもあるが、心に穴が空いたような空虚感があった。
「魔刃王は討伐され、勇者レイジがこの国の王となります。そして、これは極秘情報ですが……レイジは戴冠式の時に、魔刃王の死体を使って《祝福の神》を召喚します」
「……祝福の神。まさか、《ギフト》をくれた神か?」
「はい。魔刃王を討伐できたのも、この力のおかげですから。神に感謝をして祝福をしてもらい、レイジは国王になります。魔刃王の死体を持ち帰ると言った時は正気を疑いましたけどね」
「……そんなこと、可能なのか?」
「可能です。レイジの中にある《聖剣勇者》の知識の中に、召喚方法があると言ってました。リリカもセエレもアルシェも乗り気で……自分たちの未来を神に祝福してもらうとか」
「はっ……」
思わず、乾いた笑いが出た。
あんな自分勝手な勇者が、神に祝福されるとか……ふざけやがって。
「……私は、神なんて信じていません」
「……え」
「魔刃王のこともですけど、旅をしてる時からずっと違和感を感じてます。言葉にしにくいんですけど……その、違和感を」
「?」
「ええと、すみません。それと本題ですけど、私と一緒に旅に出ませんか?」
「……は?」
「魔刃王は討伐されましたけど、この世界の魔獣被害はまだまだ収まっていません。私は世界各地を回り、魔獣討伐をします。ライトさん、あなたの騎士としての実力を見込んでお願いします。どうか手を貸してください」
「…………」
この女、何を言ってるんだ?
そもそも、勇者の仲間なら俺なんかよりずっと強いだろう。一人で……。
「一人でできることなんて、たかが知れてます」
「っ」
「きっと、勇者の仲間なら自分より強いだろ? って思ってるような気がして」
「……」
「それと、魔刃王は討伐しましたが、多くの謎は残っています。レイジのバカは気づいてないし、リリカたちはレイジに酔ってるで話にならない。それに……」
「わかった」
「え?」
「魔獣退治、やるよ。婚約者も騎士の資格も失った。残ってるのは剣の腕くらいだ……俺にはもう、戦うくらいしかできない。だからやる」
すると、リンは頷いた。
なぜか薄く微笑んでる……。
「ありがとうございます。出発は戴冠式の後になります。申し訳ないですが、戴冠式まで4日、ここで過ごしてください……」
「いいよ。もう慣れたから」
「それと、手を」
リンは、格子の隙間から手を伸ばし、俺の手に触れた。
「『治癒』……私、回復魔術は得意なんです」
淡い光が俺の手を包み、捲れた皮膚が回復した。
すごい、これが魔術……。
「では、戴冠式後に迎えに来ます」
「……ああ」
リンは、頭を下げて去っていった。
4日後の戴冠式……かつて、結婚を誓った幼馴染たちが、勇者レイジと結婚する日でもある。
だが……俺はまだ、知る由もなかった。
この国の、真の危機に。
3
あなたにおすすめの小説
【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。
シトラス=ライス
ファンタジー
万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。
十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。
そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。
おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。
夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。
彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、
「獲物、来ましたね……?」
下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】
アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。
*前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。
また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる