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15・親友
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「……ライト、メシだ」
「ああ。ありがとな、レグルス」
「……おう」
臭い地下牢に相応しい、臭い飯だ。
硬いパンに冷めたスープ、コップ一杯の水。騎士の宿舎で食べた食事がもう懐かしい……。
レグルスは、俺を見て悲痛な表情をしていた。隣に立つウィネも同じく……。
「ライト、オレ……部隊長補佐に任命された」
「え、マジで!? すげぇじゃんレグルス、出世かよ」
「お前の後釜だよ……っくそが」
「レグルス、やめなよ……」
俺は、本気で悔しがるレグルスと、レグルスの肩に手を置くウィネを見た。
こんな状況でも、この二人は俺の親友でいてくれる。
俺が勇者レイジを嫉妬から襲い、返り討ちにあったと騎士団では伝わっているらしい。もちろん噓だが、騎士団ではそれが真実として伝わっていた。
だが、レグルスとウィネは信じなかった。
俺への食事係に立候補し、毎日2人で食事を届けてくれる。勇者に対する怒りもあるようで、おかげで俺は冷静になれた。
この二人には、リンと旅に出ることは伝えていない。
戴冠式まであと一日……。
「ちっくしょう……ライト、このままだとお前、国外追放だぞ。何度も副団長に掛け合ってるんだけど……」
「無理すんなって。それより、父さんと母さんは?」
ウィネに聞くと、顔を伏せながら言う。
「二人とも無事よ。父親のほうはいつも通り仕事をしてるけど……母親のほうはショックで寝込んだみたい」
「……そうか。悪いけど、気にしてやってくれないか」
「うん……」
ウィネは、力強く頷いた。
この二人は誰より信用できる。騎士の姿を見るたびに、胸が締め付けられるような気持になるが、この二人ならきっと立派な騎士になるだろう。
結婚式には出れないな……それだけが残念だ。
「ちくしょう!! やっぱりもう一度副団長に……いや、こうなったら団長に」
「バカ!! 団長がお前の話を聞くわけないだろ。それに、勇者レイジの決定に異を唱えたら、騎士団長もここにぶち込まれる。いまの勇者は国王より権力があるんだ……」
「くっ……でもライト、お前、騎士はいいのかよ」
「……仕方ないよ。国外追放されたら旅でもして、傭兵にでもなろうかな。なぁなぁ、武者修行ってどう思う?」
「…………バカ野郎」
「ライト……」
精一杯の笑顔で言うが、どうもダメみたいだ。
付き合いが長いとわかっちまう……俺が無理してるってことに。
「二人とも、今までありがとう。俺……レグルスとウィネに会えてよかった」
「ライト……」
「うっ……ひっく」
「結婚式には出れないけど、祝福するよ。幸せにな」
俺は、格子から手を伸ばし、レグルスとウィネの手を取る。
しっかりと握る。ここでできた親友の手を。
「ちくしょう……」
「ライト、ごめんね……」
「おいおい、泣くなって。明日は戴冠式なんだろ? 騎士の務めをしっかり果たすように!」
「バーカ、言われなくてもそうするわ!」
「ふふっ……もちろんよ」
ようやく、レグルスとウィネは笑ってくれた。
◇◇◇◇◇◇
翌日。
牢屋で最後の食事を終えた。あとは戴冠式が終わればこの国の王は勇者レイジになる。
リリカとセエレも、勇者レイジの妻としてこの国を支えていくはずだ……。
「はぁ……」
魔獣退治の旅、か。
国外追放されても行く当てなんてない。目的があるならいい……そして、この国の思い出も、旅の中で吐き出せてしまえたら……。
「……」
ふと、頭の中によぎる。
俺は今まで、なんのために騎士を目指してきたのか。
それは、幼馴染二人との結婚のため。その目的が消えたということは、騎士になる理由も消えたということ。
なら……これからどうする。魔獣退治に残りの人生を捧げるのか。
命の危険もある旅だ……。
「探すしかない……俺が生きる新しい目的を」
この旅はきっかけだ。
俺の、新しい人生を歩くための。
なら、リンのためにできることをやろう。
「うん……がんばろう」
少しだけ、立ち直れた気がする。
窓のない牢屋だから外の様子は見えない。でも、外では戴冠式が行われているだろう。
祝福する気にはなれない。というかもうどうでもいい。
「さっさと終わってくれないかな……」
今は、リンが迎えに来るのを待つしかないな。
◇◇◇◇◇◇
次の瞬間、俺の中の《何か》が脈動した。
「ああ。ありがとな、レグルス」
「……おう」
臭い地下牢に相応しい、臭い飯だ。
硬いパンに冷めたスープ、コップ一杯の水。騎士の宿舎で食べた食事がもう懐かしい……。
レグルスは、俺を見て悲痛な表情をしていた。隣に立つウィネも同じく……。
「ライト、オレ……部隊長補佐に任命された」
「え、マジで!? すげぇじゃんレグルス、出世かよ」
「お前の後釜だよ……っくそが」
「レグルス、やめなよ……」
俺は、本気で悔しがるレグルスと、レグルスの肩に手を置くウィネを見た。
こんな状況でも、この二人は俺の親友でいてくれる。
俺が勇者レイジを嫉妬から襲い、返り討ちにあったと騎士団では伝わっているらしい。もちろん噓だが、騎士団ではそれが真実として伝わっていた。
だが、レグルスとウィネは信じなかった。
俺への食事係に立候補し、毎日2人で食事を届けてくれる。勇者に対する怒りもあるようで、おかげで俺は冷静になれた。
この二人には、リンと旅に出ることは伝えていない。
戴冠式まであと一日……。
「ちっくしょう……ライト、このままだとお前、国外追放だぞ。何度も副団長に掛け合ってるんだけど……」
「無理すんなって。それより、父さんと母さんは?」
ウィネに聞くと、顔を伏せながら言う。
「二人とも無事よ。父親のほうはいつも通り仕事をしてるけど……母親のほうはショックで寝込んだみたい」
「……そうか。悪いけど、気にしてやってくれないか」
「うん……」
ウィネは、力強く頷いた。
この二人は誰より信用できる。騎士の姿を見るたびに、胸が締め付けられるような気持になるが、この二人ならきっと立派な騎士になるだろう。
結婚式には出れないな……それだけが残念だ。
「ちくしょう!! やっぱりもう一度副団長に……いや、こうなったら団長に」
「バカ!! 団長がお前の話を聞くわけないだろ。それに、勇者レイジの決定に異を唱えたら、騎士団長もここにぶち込まれる。いまの勇者は国王より権力があるんだ……」
「くっ……でもライト、お前、騎士はいいのかよ」
「……仕方ないよ。国外追放されたら旅でもして、傭兵にでもなろうかな。なぁなぁ、武者修行ってどう思う?」
「…………バカ野郎」
「ライト……」
精一杯の笑顔で言うが、どうもダメみたいだ。
付き合いが長いとわかっちまう……俺が無理してるってことに。
「二人とも、今までありがとう。俺……レグルスとウィネに会えてよかった」
「ライト……」
「うっ……ひっく」
「結婚式には出れないけど、祝福するよ。幸せにな」
俺は、格子から手を伸ばし、レグルスとウィネの手を取る。
しっかりと握る。ここでできた親友の手を。
「ちくしょう……」
「ライト、ごめんね……」
「おいおい、泣くなって。明日は戴冠式なんだろ? 騎士の務めをしっかり果たすように!」
「バーカ、言われなくてもそうするわ!」
「ふふっ……もちろんよ」
ようやく、レグルスとウィネは笑ってくれた。
◇◇◇◇◇◇
翌日。
牢屋で最後の食事を終えた。あとは戴冠式が終わればこの国の王は勇者レイジになる。
リリカとセエレも、勇者レイジの妻としてこの国を支えていくはずだ……。
「はぁ……」
魔獣退治の旅、か。
国外追放されても行く当てなんてない。目的があるならいい……そして、この国の思い出も、旅の中で吐き出せてしまえたら……。
「……」
ふと、頭の中によぎる。
俺は今まで、なんのために騎士を目指してきたのか。
それは、幼馴染二人との結婚のため。その目的が消えたということは、騎士になる理由も消えたということ。
なら……これからどうする。魔獣退治に残りの人生を捧げるのか。
命の危険もある旅だ……。
「探すしかない……俺が生きる新しい目的を」
この旅はきっかけだ。
俺の、新しい人生を歩くための。
なら、リンのためにできることをやろう。
「うん……がんばろう」
少しだけ、立ち直れた気がする。
窓のない牢屋だから外の様子は見えない。でも、外では戴冠式が行われているだろう。
祝福する気にはなれない。というかもうどうでもいい。
「さっさと終わってくれないかな……」
今は、リンが迎えに来るのを待つしかないな。
◇◇◇◇◇◇
次の瞬間、俺の中の《何か》が脈動した。
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