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18・黒く焼けた左腕
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「…………え!?」
リンは、いつの間にかテラスにいた。
レイジ、リリカ、セエレ、アルシェ、アンジェリカ姫が驚いている。
「リン? おいお前、なんでここに?」
「……」
わかるわけがなかった。
リンは自室で旅の支度をしていた。それなのに……声が聞こえたと思ったら、テラスにいた。
自室には、間違いなく1人だった。誰もいなかったし、入れた覚えもない。
それなのに聞こえた声……。
「…………まさか」
リンは、上空に佇む祝福の女神フリアエを見た。
フリアエは、リンを見て優しく微笑む……同性なのに、心がときめくような笑みだった。
だが、リンは冷や汗が止まらない。
「……」
「おいリン、おーい?」
「……へんなリン」
「申し訳ないが、用がないなら去ってくれ。ここはリンがいる場所じゃないよ」
「リンさん?」
何故だろう、あの笑顔を見ていると……寒気が止まらない。
まるで、得体の知れないバケモノを見ているような。
すると、女神フリアエは笑った。
『ようやく、五本の聖剣が揃いましたね』
レイジ、リン、リリカ、セエレ、アルシェの手に、それぞれのギフトの象徴である『剣』が現れる。
祝福の聖剣は、淡く美しい光を放っていた。
レイジの『神剣グラディウス』は黄金、リンの『斬滅』は白銀、リリカの『鬼太刀』は真紅、セエレの『雷切』は紫電、アルシェの『壊刃』は青海に輝いた。
「おぉ……すっっげぇぇ!!」
「きれー……」
「これは、女神様の祝福……?」
「美しい……」
レイジはゲラゲラ笑い、リリカは見とれ、セエレは驚愕し、アルシェは魅入る。
リンは、不吉な予感が拭えなくなり、思わず剣から手を離してしまう。
『斬滅』の太刀は床に転がり、それを見たレイジは咎めた。
「おいリン、なにやってんだよ!! 聖剣を落とすなんて罰当たりだぞ!!」
「え、あ……」
ゾワリと、奇妙な視線がリンを貫く。
ゆっくりと顔を上げると、女神フリアエがリンを見ていた。
『どうしたの?』
「あ……う」
『剣を取りなさい』
「ひ……」
なぜ、自分はこんな恐怖を感じているのだろうか。
なぜ、目の前の女神がバケモノに見えるのだろうか。
なぜ、レイジたちは違和感を感じないのだろうか。
『どうしたの?』
「う……」
リンは、ゆっくりと後ずさり始めた。
ここにいてはいけない。本能が、そう感じていた。
咎めるような視線で見るレイジたちはどうでもいい。ここから逃げなくては……。
『ああ……貴女、怯えているのね?』
祝福の女神フリアエは、ゆっくりと降りてきた。
そして、未だ興奮が冷めない国民を背に、レイジたちからほんの数メートルの位置で浮遊する。
『怖いのなら、もう戦わなくていいわ。怯えなくていい、もう貴女に力は必要ない。貴女は、普通の少女になりなさい』
「え……」
すると、床に転がっていた『斬滅』がゆっくり浮き、グニャグニャと形を変えて小さな銀の玉になる。
そしてその玉はフヨフヨと浮き、アンジェリカの元へ。
「え、あ、あの」
『勇者レイジの伴侶。この剣は貴女に相応しい』
「え……きゃぁっ!?」
銀の玉は、アンジェリカの体内に吸収され、アンジェリカの前に一本の太刀が現れた。
まぎれもなくそれは、リンが愛用した『斬滅』であった。
「う、うそ。わ、わたくしが……」
「マジか!! おっほほ、アンジェリカがリンの剣を!? すっげぇ!!」
レイジは興奮し、リリカたちはアンジェリカを抱きしめる。
一方のリンは、剣よりも目の前の女神に怯えていた。
「…………」
間違いない。
この女神は、味方ではないと。
敵ではないが、味方ではない。
関わってはいけない、本能で理解した。
◇◇◇◇◇◇
【ライト視点】
◇◇◇◇◇◇
「はぁ、はぁ、はぁ……うっ、っぐ……」
炭化した左手が、燃えるように熱かった。
本当に燃えてしまったのかもしれない。何度も嘔吐し、めまいで倒れてしまった。
こんな状態なのに誰も来ない。誰もいない。
「う、ぅぅぅ……」
右手は動く、足は動く……左手だけがダメだ。
助けを呼ばないと、死んでしまう……。
「っくぉ、うぅぅ……」
なんとか這いずることはできる。
右手で床を掴み、ほとんど感覚のない左腕を動かす、すると腕は動くが焼けるような熱さと痺れが全身を蝕む。
「いっづ……ちぎしょう、なんあだよごれ……!!」
あまりの痛みに涙が出た。
ワケが分からない。なんで俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだ。
なんとか鉄格子まで這いずり、力を込めて立ち上がる。
格子を両手で掴み助けを呼ぼうとして───────。
「た、たずけ、っっうわ!?」
左手で掴んだ鉄格子が、溶けて砕けてしまった。
ジュワァァッ……と音を立て、格子からブスブスと黒い煙まで出ている。
「なん、だよ……もう、何なんだよ!!」
こんな、得体の知れない黒い腕が、俺の《ギフト》なのか?
俺のギフトは装備系、武器を生み出すんじゃなかったのか?
レグルスやウィネみたいな、肉体変化系なのか?
頭の中が混乱する。
痛みとめまいで頭が燃えそうだ。
「とう、さん……かあ、さん」
帰りたい。家に帰りたい……。
ああそうだ、家に帰ろう。
父さんは騎士の装備倉庫かな、こんな時でも仕事をしてるのだろうか?
母さんは……帰って顔を見たいな。
「帰ろう、家に……」
もう、騎士なんてどうでもいい。
リンとの約束なんて、どうでもいい。
家に帰って……ゆっくり寝たい。
「かえ、ろう……」
俺は立ち上がる。
帰るために………。
家に、帰るために………。
リンは、いつの間にかテラスにいた。
レイジ、リリカ、セエレ、アルシェ、アンジェリカ姫が驚いている。
「リン? おいお前、なんでここに?」
「……」
わかるわけがなかった。
リンは自室で旅の支度をしていた。それなのに……声が聞こえたと思ったら、テラスにいた。
自室には、間違いなく1人だった。誰もいなかったし、入れた覚えもない。
それなのに聞こえた声……。
「…………まさか」
リンは、上空に佇む祝福の女神フリアエを見た。
フリアエは、リンを見て優しく微笑む……同性なのに、心がときめくような笑みだった。
だが、リンは冷や汗が止まらない。
「……」
「おいリン、おーい?」
「……へんなリン」
「申し訳ないが、用がないなら去ってくれ。ここはリンがいる場所じゃないよ」
「リンさん?」
何故だろう、あの笑顔を見ていると……寒気が止まらない。
まるで、得体の知れないバケモノを見ているような。
すると、女神フリアエは笑った。
『ようやく、五本の聖剣が揃いましたね』
レイジ、リン、リリカ、セエレ、アルシェの手に、それぞれのギフトの象徴である『剣』が現れる。
祝福の聖剣は、淡く美しい光を放っていた。
レイジの『神剣グラディウス』は黄金、リンの『斬滅』は白銀、リリカの『鬼太刀』は真紅、セエレの『雷切』は紫電、アルシェの『壊刃』は青海に輝いた。
「おぉ……すっっげぇぇ!!」
「きれー……」
「これは、女神様の祝福……?」
「美しい……」
レイジはゲラゲラ笑い、リリカは見とれ、セエレは驚愕し、アルシェは魅入る。
リンは、不吉な予感が拭えなくなり、思わず剣から手を離してしまう。
『斬滅』の太刀は床に転がり、それを見たレイジは咎めた。
「おいリン、なにやってんだよ!! 聖剣を落とすなんて罰当たりだぞ!!」
「え、あ……」
ゾワリと、奇妙な視線がリンを貫く。
ゆっくりと顔を上げると、女神フリアエがリンを見ていた。
『どうしたの?』
「あ……う」
『剣を取りなさい』
「ひ……」
なぜ、自分はこんな恐怖を感じているのだろうか。
なぜ、目の前の女神がバケモノに見えるのだろうか。
なぜ、レイジたちは違和感を感じないのだろうか。
『どうしたの?』
「う……」
リンは、ゆっくりと後ずさり始めた。
ここにいてはいけない。本能が、そう感じていた。
咎めるような視線で見るレイジたちはどうでもいい。ここから逃げなくては……。
『ああ……貴女、怯えているのね?』
祝福の女神フリアエは、ゆっくりと降りてきた。
そして、未だ興奮が冷めない国民を背に、レイジたちからほんの数メートルの位置で浮遊する。
『怖いのなら、もう戦わなくていいわ。怯えなくていい、もう貴女に力は必要ない。貴女は、普通の少女になりなさい』
「え……」
すると、床に転がっていた『斬滅』がゆっくり浮き、グニャグニャと形を変えて小さな銀の玉になる。
そしてその玉はフヨフヨと浮き、アンジェリカの元へ。
「え、あ、あの」
『勇者レイジの伴侶。この剣は貴女に相応しい』
「え……きゃぁっ!?」
銀の玉は、アンジェリカの体内に吸収され、アンジェリカの前に一本の太刀が現れた。
まぎれもなくそれは、リンが愛用した『斬滅』であった。
「う、うそ。わ、わたくしが……」
「マジか!! おっほほ、アンジェリカがリンの剣を!? すっげぇ!!」
レイジは興奮し、リリカたちはアンジェリカを抱きしめる。
一方のリンは、剣よりも目の前の女神に怯えていた。
「…………」
間違いない。
この女神は、味方ではないと。
敵ではないが、味方ではない。
関わってはいけない、本能で理解した。
◇◇◇◇◇◇
【ライト視点】
◇◇◇◇◇◇
「はぁ、はぁ、はぁ……うっ、っぐ……」
炭化した左手が、燃えるように熱かった。
本当に燃えてしまったのかもしれない。何度も嘔吐し、めまいで倒れてしまった。
こんな状態なのに誰も来ない。誰もいない。
「う、ぅぅぅ……」
右手は動く、足は動く……左手だけがダメだ。
助けを呼ばないと、死んでしまう……。
「っくぉ、うぅぅ……」
なんとか這いずることはできる。
右手で床を掴み、ほとんど感覚のない左腕を動かす、すると腕は動くが焼けるような熱さと痺れが全身を蝕む。
「いっづ……ちぎしょう、なんあだよごれ……!!」
あまりの痛みに涙が出た。
ワケが分からない。なんで俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだ。
なんとか鉄格子まで這いずり、力を込めて立ち上がる。
格子を両手で掴み助けを呼ぼうとして───────。
「た、たずけ、っっうわ!?」
左手で掴んだ鉄格子が、溶けて砕けてしまった。
ジュワァァッ……と音を立て、格子からブスブスと黒い煙まで出ている。
「なん、だよ……もう、何なんだよ!!」
こんな、得体の知れない黒い腕が、俺の《ギフト》なのか?
俺のギフトは装備系、武器を生み出すんじゃなかったのか?
レグルスやウィネみたいな、肉体変化系なのか?
頭の中が混乱する。
痛みとめまいで頭が燃えそうだ。
「とう、さん……かあ、さん」
帰りたい。家に帰りたい……。
ああそうだ、家に帰ろう。
父さんは騎士の装備倉庫かな、こんな時でも仕事をしてるのだろうか?
母さんは……帰って顔を見たいな。
「帰ろう、家に……」
もう、騎士なんてどうでもいい。
リンとの約束なんて、どうでもいい。
家に帰って……ゆっくり寝たい。
「かえ、ろう……」
俺は立ち上がる。
帰るために………。
家に、帰るために………。
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