勇者の野郎と元婚約者、あいつら全員ぶっ潰す

さとう

文字の大きさ
19 / 214

19・やさしいともだち

しおりを挟む
 家に帰ろう。
 母さん、謝れば許してくれるかな……。
 父さん、こんなバカな息子でゴメンなさい……。

「はぁ、はぁ……っぐ」

 左腕が黒くなり、二の腕だけでなく肩まで黒くなっていた。少しずつ、少しずつ、寝食が広がっている。
 毒のような黒、人間ではあり得ない色だ。全身が熱を帯びているような、気怠さと目眩と吐き気が俺を襲う。
 こんなのが俺の《ギフト》なのか……? 模擬戦のときに放った光とはまるで違う。

「はぁ……はぁ……」

 身体を引きずりながら、地下牢を出る。
 守衛も兵士も騎士もいない。城の中はカラッポだ。戴冠式のせいなのか? でも、守衛すらいないのはおかしい。
 でも、チャンスだ。
 あのまま地下牢にいてもリンが来るだけだ。俺は家に帰る、帰るんだ。

「は、ぁ…………は、ぁ…………」

 無人の廊下を進む。
 城は毎日歩いてる。外に出る道も、あまり使われない道も知っている。
 外の喧噪はここまで聞こえてくる。勇者レイジの戴冠式で盛り上がってるんだろう……。
 身体を引きずりながら、あまり使われない道を進み……。

「……ライト?」
「…………え」

 声が聞こえた。
 ボンヤリとした目で前を見ると……。

「と……とう、さん?」

 父さんだ。
 これは、夢なのかな?
 
「ライト、お前……その手はどうした!? なにがあった!!」
「とう、さん……俺、俺……帰りたいんだ」
「帰る?」
「うん、家に、帰りたいんだ……」

 涙が溢れた。
 力が抜け、崩れ落ちる……だけど、父さんが、がっしりした身体の父さんが、俺を支えてくれた。
 強く逞しい、父さんの腕が、俺の身体を支えてくれた。

「ああ、帰ろう。家に帰ろう、母さんも待ってる」
「ん……」

 帰れるんだ、家に……。

 ◇◇◇◇◇◇

 父さんは、戴冠式よりも仕事を優先したそうだ。
 俺を背負い、ゆっくりと歩いている。
 
「リリカやセエレのことでお前が怒る理由もわかる。勇者に向かった理由も仕方ない……」
「ごめん……」
「オレも母さんも、お前を信じている。実はな、仕事を辞めてファーレン王国を出ようと話をしていたんだ。仕事の引き継ぎも終えたし、引っ越しの準備も進んでる」
「え……?」
「今回の件でお前は国外追放になる。オレや母さんも、お前を捨てたこの国に未練はない。どこか平和な村や町で、防具屋でも開いて暮らそうと思ってな」
「……そう、なんだ」
「ああ。だからライト、安心しろ。お前と一緒だ」
「……ぅっ、うぅ」
「泣くな。それでも俺の息子か?」
「っく、うん……」

 父さん、母さんは……俺を見捨てていなかった。
 国を捨てて、俺と一緒にいてくれる。

「はは、ライト。どこにいきたい? ファーレン王国以外だと、東のヤシャ王国か、西のウェールズ王国か、南のワイファ王国か、北のフィヨルド王国か……フィヨルド王国はナシだな。あそこは年中雪が降って寒いしなぁ。行くならワイファ王国なんてどうだ? ワイファ王国は海沿いの綺麗な国でな……」

 父さんは、俺を背負いながら楽しそうに話す。
 子供みたいに、これからの冒険に胸を躍らせて。

「……」
「ライト、しっかりしろ。腕は大丈夫なのか?」
「うん、なんとか……父さん、これ、なんのギフトなの? こんな苦しいなんて」
「……わからん。肉体変化系のギフトだと思うが」
「治るかな……」
「大丈夫だ。肉体変化系のギフトは慣れるまで身体に負担が掛かる。落ち着けば治るさ」
「うん……」

 そういえば、レグルスとウィネも苦労したって言ってたな。
 レグルスは、全身を硬化したまま解除できず、丸2日岩のような状態で過ごしたり、ウィネなんて液状化が制御出来ず、素っ裸のまま町中に出たこともあったとか言ってた。
 この炭化した左腕が俺のギフトなら、どんなギフトなんだ?

「……ライト、静かにしろ。誰か来る」
「え……」
「…………」

 父さんと歩いているのは、人通りが少ない通路だ。
 食料運搬や業者が出入りする通路で、この時間帯は誰も来ない。戴冠式の最中なら尚更だ。
 父さんは警戒し、俺を背負ったまま物陰に隠れようとして……。

「やっぱここか。ったく、いきなり消えるなよ」
「って、ライト、どうしたのよその腕!?」

 レグルスとウィネに遭遇した。

 ◇◇◇◇◇◇

「二人とも、なんで……?」
「決まってんだろ。戴冠式で盛り上がってる最中に、お前を逃がそうと思ってな」
「それで、配置換えの隙に抜け出してきたの。それで地下牢に行ったらもぬけのカラだし、もしかしてライトは逃げたんじゃないか? って思ってさ、もしライトが逃げるならこの道を使うだろうって思ってね」
「レグルス、ウィネ……」
「国外追放って言っても、準備出来ると出来ないじゃ違うだろ? さっさと抜け出して行っちまえ……って、ら、ライトの親父さん!?」
「わぉ、もしかして先越された?」

 父さんは苦笑して言う。

「いい友人を持ったな、ライト」
「うん……」

 本当に、俺なんかに勿体ない友人だ。
 レグルスとウィネは、俺の腕を見ながら言う。

「なんだこれ……焼け焦げたみたいだ」
「肉体変化系のギフトだね。あたしやレグルスと同じ、初期状態だから安定してないみたい」
「なぁ、治るのか……?」
「大丈夫。身体が慣れれば自然と元に戻るよ。あたしも最初は寝込んだりしたもん」
「オレは思い出したくないぜ……」

 肉体変化系はいろいろ苦労がありそうだ。
 これから俺も、その苦労に付き合わなくちゃいけないみたいだけど。 

「とりあえず、家まで行くんだろ? 地下牢はお前以外の囚人はいないから、入口のドアを細工しておいた。地下牢の鍵を内側から掛けて開かないようにしたから、数日は安心だぜ」
「どうせ囚人のことなんて考えてないからね。数日入口が開かないからってドアを壊してまで入ろうとはしないでしょ」
「その間に、出発準備して行っちまえ。後の事はオレとウィネで誤魔化してやるからさ!」
「………」

 本当に、俺なんかには勿体ない友人だ。

「お、おいライト、泣くなよ……ったく、こっちまで」
「ホントよ……もう」

 温かい気持ちが胸に染みた。

 ◇◇◇◇◇◇

 運搬用通路を抜けると、城の裏に出た。
 
「すっげぇ騒ぎだな……勇者レイジが国王って、そんなにすごいことなのかね」
「そりゃ魔刃王を討伐した勇者だし……」
「これからはオレらが守らなきゃいけないのか……なんか複雑だぜ」
「ふふ、国王であり勇者、守らなくても強いからね」

 レグルスとウィネの声を聞きながら、俺は熱にうなされていた。
 こんなに苦しいのは子供の時以来かな……。

「ここまででいい。レグルスとウィネ、本当にありがとう、助かったよ」
「気にしないでください。それより、ライトをお願いします!」
「ああ、任せてくれ」
「ライト、元気でね。また会いましょう」
「……ああ」

 ウィネが、俺の頭に手を乗せた。
 子供かよとツッコみたいが、その手が優しく気持ち良かった。




 ───────────そして、この日最大級の怖気が、俺を襲った。




 ◇◇◇◇◇◇

 ぞわぞわ、ぞわぞわ、ぞわぞわ。

「───────────え」
「───────────な、なんだ?」

 レグルスとウィネが驚愕した。

 ぞわぞわ、ぞわぞわ、ぞわぞわ。
 ぞわぞわ、ぞわぞわ、ぞわぞわ。

「な……こ、ここは」

 父さんが、目を見開いていた。

 ぞわぞわ、ぞわぞわ、ぞわぞわ。
 ぞわぞわ、ぞわぞわ、ぞわぞわ。
 ぞわぞわ、ぞわぞわ、ぞわぞわ。
 ぞわぞわ、ぞわぞわ、ぞわぞわ。

 背中が、冷たかった。
 冷や汗が、止まらなかった。

「あぁ?」
「え?」
「ん?」
「あら?」

 見知った顔が、俺たちを見ていた。

 ぞわぞわ、ぞわぞわ、ぞわぞわ。
 ぞわぞわ、ぞわぞわ、ぞわぞわ。
 ぞわぞわ、ぞわぞわ、ぞわぞわ。
 ぞわぞわ、ぞわぞわ、ぞわぞわ。

「うそ───────────」

 リンが、俺を見ていた。

 ぞわぞわ、ぞわぞわ、ぞわぞわ。
 ぞわぞわ、ぞわぞわ、ぞわぞわ。
 ぞわぞわ、ぞわぞわ、ぞわぞわ。
 ぞわぞわ、ぞわぞわ、ぞわぞわ。

 ゾワゾワが、止まらない。
 その原因は……イヤでもわかった。




『見つけた───────────』




 空を飛ぶ、天使のような……女神のような女が、こちらを見ていた。




 そして、聞こえた。




『喰エ───────────』
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。

シトラス=ライス
ファンタジー
 万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。  十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。 そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。  おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。  夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。 彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、 「獲物、来ましたね……?」  下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】  アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。  *前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。 また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

処理中です...