勇者の野郎と元婚約者、あいつら全員ぶっ潰す

さとう

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48、不本意すぎて顔が歪む

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 ライトは、身体をよじって苦しむマリアを見てだいぶスッとした。
 手を放してやると、汗びっしょりでライトを睨むマリアと目が合う。

「お前は、俺より下だ。もう負ける気はしないし、逃げるつもりもない。喧嘩を売るなら買ってやる。次は……死ぬまで抱きしめてやるよ」

 ライトは両手を広げ、マリアに覆いかぶさる。
 知らぬ者が見れば恋人同士がベッドで行うような行為に見えるが、そこに愛などない、あるのは憎悪だけ。
 マリアは動けなかった。『百足鱗ムカデウロコ』を出そうものならライトはマリアに抱き着くだろう。そうなれば、脳が焼かれ硫酸が流し込まれるような激痛が全身を駆け巡ることは間違いない。

「いいか、もう二度とリンに」
「いい加減にしなさいっ!!」
「あっだぁっ!?」

 すると、リンがフライパンでライトをブッ叩いた。
 パガン!! といい音がしてライトはマリアから離れ、リンを睨む。

「いっでぇなこの野郎!! なにすんだ!!」
「あのね、女の子を虐めて楽しい? 痛いところをチクチクつついて」
「あのな、こいつは」
「私はもう許してるって言ったでしょ。もう仲良くしろとは言わないけど、殺しあうのだけはやめて、さもないと……」
「あぁ?」

 すると、リンが持っていたフライパンがライトに向けて放られた。
 投げつけられたなら避けるが、軽くパスされたので思わず受け取ろうと手を伸ばしてしまう。
 そして、一瞬でリンは背後に回り────────。

「私も、いじめちゃうからね」
「────────っずぁっがァァァァァァァァァァァァァァッ!?」

 激痛がライトを襲う。
 リンの持っていた短剣が、ライトの背中に押し当てられたのだ。
 マリアと同じように苦しむライト。そしてマリアは聞いた。

「誓約……」
「そ、ライトの誓約は『刃物や剣に触れることができない』っていう誓約なの。覚えておいて」
「ふざ、けんっな!!」

 すると、マリアの顔がニタァ~っと歪む。
 そして、マリアの手には何本もの歪な羽が生み出された。

「うふふ、ではこれで試してみましょうか。この歪な刃も刃物として認識されるのかしらねぇ?」
「お、おもし、れぇ……やってやろうじゃねぇか」

 互いの弱点を知ったライトとマリアは、再び殺意をみなぎらせる。
 マリアは殴られたことや撃たれた痛みに対する復讐。ライトはリンを弄ばれた復讐。互いが互いを憎みあった状況だ……が。

「はいはい、そこまで」
「は……っぎゃぁぁぁぁっぐがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「え……っぐゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 マリアの羽を一瞬で奪いライトの身体に張り付け、そのまま背を押されマリアを押し倒したライト。
 互いが誓約で苦痛の叫びを上げていると、リンは言った。

「あのね、たぶん私が最強だよ? 私の言うことちゃんと聞いてね」

 マリアとライトは、初めてリンに恐怖した。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 苦痛から解放された二人は、肩で息を吐きながら大人しくなった。
 リンはスープをよそい、マリアに差し出す。

「おなか、減ってるでしょ?」
「…………」

 マリアは受け取り、木のスプーンでスープを掬い、そのまま口へ。
 塩味で野菜が少ないスープだが、じっくりと身体にしみこんだ。

「マリア、私とライトはワイファ王国に向かうつもり。よければ……あなたも一緒に来て」
「……どうしてかしら?」
「え!? あ、いや……旅の仲間が増えると嬉しいし、女の子同士だし」
『ケケケケケケケケッ、女同士で慰めあうのにハマったようだぜぇ?』
「カドゥケウス、ちょっと黙って。その……どう?」

 リンの思惑が見えなかった。
 心を操ったのは間違いない。今は支配を逃れているが、条件さえ整えばいつでも支配に置くことは可能なのだ。だが……リンは恐怖を感じないのだろうか。

「あなた、わたしに何をされたのか覚えてるでしょ? 心と体を弄ばれて、そんなわたしを仲間に? そっちの【暴食】さんはどう思っているのかしら?」
「俺は反対、と言いたいが……お前の大罪神器が欲しい。お前から引き剥がして俺の物にするまでは連れて行ってもいい」
「あら、わたしのシャルティナを奪うですって?……そんなことできると思って?」
「カドゥケウスが喰えばな」

 再び、険悪なムードに。 
 そんな二人を押さえ、リンは言った。

「マリア、あなた……家族が欲しいんでしょ?」
「…………シャルティナ」
『別にいいでしょ? リンちゃんはマリアのこと大事に思ってくれるわよ』
「確かに、私は家族にはなれない。でも……友達ならなれるわ。私、あなたとお喋りした時間、とっても楽しかった。リリカやセエレみたいにレイジのご機嫌取りばかりの会話じゃなくて、その……友達として話せて……ええと」
 
 リンは口ごもってしまう。
 ライトは何も言わずに水を飲んでいた。

「と、とにかく!! 一緒に来て!!」
「……強引なのね。でも、嫌いじゃないわ」

 マリアはリンの隣に座り、そっと肩に寄り掛かる。

「ま、いいわ。どうせやあることもないし、リンと一緒は楽しいしね♪」

 そして、手を顔に這わせ……。

「ひっ……あ、あと、エッチなのは禁止!! その、身体をまさぐったりするのはダメ!!」
「えぇ~……それくらいいいじゃない♪」
「駄目!! ダメ!!」
「ふぅん、いけず……」
「ちっ……気持ち悪いヤツ」
「あら、女を知らない童貞坊や、なにか言ったかしら?」
「あぁ? 男に愛されることもできない、女に逃げた女が何言ってんだ?」
「…………死にたいの?」
「お前がな」
「もう! 喧嘩すんなってば!!」

 こうして、マリアが仲間になった……ライトは仲間と認めず、マリアもライトを敵視したままだが。

 だが、この先……ライトとマリアが否が応でも協力しなくてはならない事態に陥ることになるとは、誰も予想できなかった。
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