勇者の野郎と元婚約者、あいつら全員ぶっ潰す

さとう

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107・ありふれた雪の村

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 ライトたちは雪道を進み、小さな農村に到着した。
 手綱を握るライトは、背後の小窓を叩き、リンとマリアに言う。

「村に到着だ。補給はあまり期待できそうにないけど、食料を買えたら買おう」
「うん。久しぶりにベッドで寝たいなぁ……」
「わたしも、リンと愛し合うのに、硬い地面や馬車の中では……」
「いや、しないから」
「あぁん♪」

 ひっつくマリアを引き剥がし、リンは言う。

「フィヨルド王国の領土内だけど、これからどこに行こうか?」
「とりあえず、祝福弾集めと大罪神器の情報だな。カドゥケウス、残りはいくつだ?」
『残り四つだぜ。【傲慢】、【怠惰】、【強欲】、【憤怒】……どいつもこいつも曲者、いやクソ共だな』
「……それだけ聞くと、碌なモンじゃないな」
『だからクソだって。オレやシャルティナはまともな方なんだぜ?』
「…………ふーん」
『おい相棒、その目はさすがに傷付くぜぇ?』

 雪に包まれた村は、少し変わっていた。
 建物の屋根が三角形なのは、積もった雪が滑り落ちるようにとのことだろう。家の前には大きなスコップが置いてあり、大きな雪山に穴を空けた、簡易空間もあった。それ以外にも、丸めた雪を二つ、団子のように乗せた魔除け? がある。

「わぁ~、かまくらに雪だるまだぁ」
「なんだそれ?」
「雪で作る秘密基地と飾りみたいなものかな?」
「リン、物知りですわね」

 特に検問などなかったので、馬車のまま村に入る。すると、家の前で雪かきをしている住人がいた。馬車を止め、ライトは声をかける。

「あの、すみません」
「んん? ああ、旅人かい?」
「はい」

 初老の男性はライトと馬車を見ると、すぐに言う。

「村の中心に一軒だけ宿がある。その隣に商店があるから。お金でもいいけど、物々交換のがいいよ」
「え」
「旅人さん。ここは国境から最初の村だ。兄さんみたいな旅人が何を探してるかなんて、この年になればわかるもんさ」
「そ、そうですか……その、物々交換というのは?」
「ここじゃ金で買ってもすぐには使えないからね。肉や野菜なんかが喜ばれるよ」
「肉と野菜……」
「ここみたいな村はこの先いくつかあるけど、補給はあまり期待できないと考えた方がいいよ。次の村に向かうなら、道中で魔獣や動物を狩るといいさ」

 何度も同じことを繰り返してきたのか、老人の言葉は流暢だ。
 肉も野菜も備蓄が少ない。町や村で補給すればいいと考えていたが、考えが甘かったと認識する。
 
「フィヨルド王国なんかじゃ、でっかいテントの中で魔術を使った野菜栽培とかやってるみたいだね。まぁ、こんな田舎の村じゃなんの期待もできんがな」
「あの、じゃあ皆さんは、どうやって野菜を?」
「そりゃ、たまに来る商人から買ってるのさ」
「なるほど……ありがとうございます」
「ああ、今夜は……いや、今夜も冷えるから、あったかくな」
「はい」

 老人は雪かきを再開し、ライトたちは村の中心へ。
 聞いた通り、二階建ての宿と、その隣に小さな商店があった。宿には厩舎もあり、馬を休ませることができそうだ。
 
「じゃ、受付してくる」
「うん、よろしく」

 ライトは馬車を任せ、宿の中へ。
 一階は酒場になっているようで、受付には四十代ほどの女性がいた。

「ん……いらっしゃい。泊りかい?」
「はい。三人で一泊、食事付きで。あと馬が二頭いるんで、そいつらのぶんも」
「はいよ。うちの旦那のメシは美味いからね。期待してな」
「はい」

 女性はニッコリ笑い、三人部屋の鍵をライトへ。
 すると、リンとマリアが入ってきた。

「あったか~い!」
「ふぁぁ……温まりますわねぇ」
「おう、部屋を取ったぞ」
「うん。あ、厩舎に二頭入れてきた」
「ああ」

 マリアとリンを見た受付女性は、ライトを見て言う。

「替えのシーツはいるかい?」
「…………いりません!!」

 ニヤニヤしながら言う女性は、とても楽しそうに笑っていた。

 ◇◇◇◇◇◇

 部屋に入り、これからのことを話す。

「さっきも言ったが、祝福弾集めと階梯を上げる。祝福弾はともかく、マリアにとってもいい話だと思う」
「わたしは賛成ですわ。また盗賊狩りでもします?」
「そうだな……この辺で盗賊が出てないか聞いてみるか。あと、物々交換とか言ってたし、そのへんの魔獣もついでに狩るか」
「い、いいけど……相変わらず思考が似た者同士ね」
「「そうか(ですか)?」」
「ほら!!」

 この旅の目的は、祝福弾と階梯のレベル上げ、そして大罪神器の捜索だ。
 戦いまくれば強くなれる。最強の力を得て、勇者をぶっ殺すのがライトの目的。フィヨルド王国の環境、そしてきょうだいな敵と戦えば、きっと強くなれる。

「まずは情報収集か。村でいろいろ聞いてみるか」
「ええ。盗賊や危険な魔獣がいないか、ですわね」
「ああ。いたら討伐だ。いなかったら明日出発にすればいい」
「……なんか、私も慣れてきたわ」

 三人は、防寒着を着て村の中へ。

 ◇◇◇◇◇◇

 マリアとリンは隣の雑貨屋へ、ライトは外で雪かきをしている宿屋の女将に話を聞く。
 女将はライトに気付くと、雪かきを中断した。

「どうしたんだい? 夕飯にゃまだ早いけど」
「いえ、少し聞きたいことがありまして」
「ああ、泊りはあんたたちだけだから、声を出しても問題ないよ。あたしと旦那は一階にいるから、女の子の喘ぎ声が聞こえないからね」
「違います!! ってかあいつらとはそういう関係じゃないです!!」
「おやそうかい? ははははは、悪いねぇ」
「…………」

 なんとなく、やりにくい女将だった。
 ライトは息を整え、本題に入る。

「この辺りで、危険な魔獣とか盗賊団はいませんか?」
「……なんだい、あんたら冒険者かい?」
「ええ。ヤシャ王国から来たんですけど、こう見えてけっこう強いんです」
「ふぅむ……この辺りだとシルバーウルフの親玉かねぇ。ダイアウルフっていう巨大狼がいるんだけど、こいつが真っ白で厄介なんだと。村のハンターじゃ手も足も出ないし、早く討伐されればありがたいわ」
「ダイアウルフですね」
「あとは……ああ、盗賊も出るね。ここに来た商人が襲われたことがあったわ」
「ふむ、盗賊も」
「それと、この辺りじゃないけど、『八相』のうち『第二相』と『第三相』が出たって噂もあったねぇ」
「へぇ……」

 この時点で、ライトは嗤っていた。
 
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