105 / 214
第106話、雪景色の中で
しおりを挟む
御者は、交代で行っている。
基本は半日で交代。状況に応じて変化するが、フィヨルド王国に入ってからは、一時間おきの交代となっていた。
理由は簡単……寒いのだ。
「っくし!……うぅ、さっむ」
雪景色の中を馬車は進む。
ライトが手綱を握る手は、手袋越しでも冷たい。ファーレン王国の冬とは比べ物にならないくらい、フィヨルド王国の冬は寒かった。
「お前ら、寒くないのか……?」
『ぶるる』『ヒッヒィィン!!』
先輩と後輩は、ライトに『寒い? なんだそれ?』と言っているように聞こえた。
先輩は元々寒さに強く、防寒装備をしたら寒さなど感じていないかのごとく、除雪された街道を進み、寒さに強い品種の後輩は、雪などお構いなしに元気だった。というか、後輩の身体は熱を持ったように熱く、寒さに強い秘訣はこの体温の高さだった。
「後輩、今夜一緒に寝ないか?」
『ブルルヒィィィンン!!』
「……いやなのか」
なんとなく、『一人で寝ろ』と言っているような気がした。
◇◇◇◇◇◇
「ライト、交代」
「ああ、頼む」
リンと御者を交代し、ライトは荷車の中へ。
中は温かい。荷車に内蔵されている『魔石』に魔力を流し込むと、じんわりとした熱が発生し、荷車の中を温めるのだ。
冬用の馬車にはこの魔石が搭載されている。ちなみに夏用馬車は逆に冷たくなる。
中に入ると、自然と気が抜ける。温かい車内はそれだけで幸せだ。
「お茶、飲みますか?」
「ああ、もらう」
なんと、マリアがライトにお茶を煎れてくれた。
国境の町で買った保温水筒に入ったお茶を、熱が伝わりやすい金属のカップに入れてライトへ。ライトはマリアの手に触れないように受け取った。
「ふぅ……温まるな」
「まさか、これほどの雪とは思いませんでしたわ」
「そういや、お前は雪を見たことないんだな」
「ええ」
それだけで、マリアはファーレン王国とフィヨルド王国出身じゃないとわかる。そういえば、マリアの出生を何も知らない。もちろん、どうでもいいが。
お茶を啜り、外の景色を見る。
「雪、か……」
雪がしんしんと降っている。
フィヨルド王国は年中冬の領土。毎日毎朝、フィヨルド王国の除雪部隊が街道を除雪している。だが、半日もすれば雪はどっさり積もってしまうので、除雪部隊が休むことはない。
木々に葉はなく、枝には雪が積もり、山々は純白に染まっている。ヤシャ王国を出てからそんなに日は経っていないのに、景色の変わりようがすごい。
「お昼を過ぎて二時間ほどですわね」
「ああ。そろそろ野営場所を探すか」
マリアが言うと、ライトは頷く。
ヤシャ王国と違い、フィヨルド王国は日が暮れるのが速い。なので、野営場所は早めに探さないといけない。
フィヨルド王国に入って数日。日の暮れる速さに驚き、街道で野営を↓ことは忘れない。
「横穴でもあれば最高なんだけどな……」
ライトとマリアは、左右の窓から野営できそうな場所を探す。
街道沿いには林や岩場も多い。一時間もしないうちに、いい感じの横穴を見つけた。
「リン、少し早いけど」
「うん、野営だね」
街道から外れ、深い雪をガッポガッポと馬は進む。そして、横穴に到着した。
馬二頭、荷車がスッポリ入る大きさに、焚き火の跡も残っている。冒険者が野営に使ったのかもしれない。
ライトたちは野営の支度をする。
「リン、火を頼んでいいか?」
「うん。火属性はあんまり得意じゃないけど」
リンの手のひらに、ハンドボールサイズの火球が生み出され、焚き火の跡にフヨフヨと浮遊した。木がなくても魔術の炎なら消えることはない。
馬具を外し、シートを敷くと、馬はそこに座り休む。あとはエサと水をたっぷり与えれば、馬はその内寝るだろう。
「食事の支度をしますわ」
「ああ、頼む」
「マリア、手伝うよ」
マリアとリンに食事の支度を任せ、ライトはテントを準備する。
火球のおかげで洞窟内は暖かく、一時間もしないうちに外は暗く、雪の勢いも増してきた。
今日の食事は、焼いた肉を挟んだパンとスープだ。塩味の効いた肉は美味く、スープも温まる。あっという間に完食した。
「リン、お湯をお願いしますわ」
「うん。あっちで身体拭いて着替えよっか」
「俺は先に寝る。6時間後に起こしてくれ」
「わかった」
現在、夕方の5時。
6時間後に起こしても夜の11時だ。リンたちには規則的な生活をさせ、野営はライトが担当することが多かった。
ライトはテントに入り、服を着替える。
そのまま毛布を被り、三分もしないうちに眠ってしまった。
「ライト、洗濯……あ、寝てる」
「もう、洗濯物があるなら出せばいいのに!」
「まぁまぁ。あ……」
ライトは、ぐっすり眠っている……。
◇◇◇◇◇◇
6時間後、ライトは起こされた。
着替えると、リンとマリアは荷車の中に飛び込むように行ってしまった……首を傾げると、その理由がわかった。
「くそ、あいつら……」
洞窟の壁に、ライトの肌着や下着が洗って干してあった。
洗濯物の下には火球がいくつか燃えており、その熱で乾かしている。このまま放置すれば、数時間で乾くだろう。
小さく溜息を吐き、ライトは火球の近くに座ってお茶を飲む。
『相棒、何考えてる?』
「ん、ああ……ここではどんな面倒ごとに巻き込まれるかなーって」
『ケケケケケッ、祝福弾を作るチャンスってことか』
「はは、そうかもな」
『…………相棒、気を付けろ』
「あ?」
『勝ち続きだからって油断すんなってこった』
「わかってるよ」
ライトはお茶を注ぎ、ゆっくり飲み始めた。
基本は半日で交代。状況に応じて変化するが、フィヨルド王国に入ってからは、一時間おきの交代となっていた。
理由は簡単……寒いのだ。
「っくし!……うぅ、さっむ」
雪景色の中を馬車は進む。
ライトが手綱を握る手は、手袋越しでも冷たい。ファーレン王国の冬とは比べ物にならないくらい、フィヨルド王国の冬は寒かった。
「お前ら、寒くないのか……?」
『ぶるる』『ヒッヒィィン!!』
先輩と後輩は、ライトに『寒い? なんだそれ?』と言っているように聞こえた。
先輩は元々寒さに強く、防寒装備をしたら寒さなど感じていないかのごとく、除雪された街道を進み、寒さに強い品種の後輩は、雪などお構いなしに元気だった。というか、後輩の身体は熱を持ったように熱く、寒さに強い秘訣はこの体温の高さだった。
「後輩、今夜一緒に寝ないか?」
『ブルルヒィィィンン!!』
「……いやなのか」
なんとなく、『一人で寝ろ』と言っているような気がした。
◇◇◇◇◇◇
「ライト、交代」
「ああ、頼む」
リンと御者を交代し、ライトは荷車の中へ。
中は温かい。荷車に内蔵されている『魔石』に魔力を流し込むと、じんわりとした熱が発生し、荷車の中を温めるのだ。
冬用の馬車にはこの魔石が搭載されている。ちなみに夏用馬車は逆に冷たくなる。
中に入ると、自然と気が抜ける。温かい車内はそれだけで幸せだ。
「お茶、飲みますか?」
「ああ、もらう」
なんと、マリアがライトにお茶を煎れてくれた。
国境の町で買った保温水筒に入ったお茶を、熱が伝わりやすい金属のカップに入れてライトへ。ライトはマリアの手に触れないように受け取った。
「ふぅ……温まるな」
「まさか、これほどの雪とは思いませんでしたわ」
「そういや、お前は雪を見たことないんだな」
「ええ」
それだけで、マリアはファーレン王国とフィヨルド王国出身じゃないとわかる。そういえば、マリアの出生を何も知らない。もちろん、どうでもいいが。
お茶を啜り、外の景色を見る。
「雪、か……」
雪がしんしんと降っている。
フィヨルド王国は年中冬の領土。毎日毎朝、フィヨルド王国の除雪部隊が街道を除雪している。だが、半日もすれば雪はどっさり積もってしまうので、除雪部隊が休むことはない。
木々に葉はなく、枝には雪が積もり、山々は純白に染まっている。ヤシャ王国を出てからそんなに日は経っていないのに、景色の変わりようがすごい。
「お昼を過ぎて二時間ほどですわね」
「ああ。そろそろ野営場所を探すか」
マリアが言うと、ライトは頷く。
ヤシャ王国と違い、フィヨルド王国は日が暮れるのが速い。なので、野営場所は早めに探さないといけない。
フィヨルド王国に入って数日。日の暮れる速さに驚き、街道で野営を↓ことは忘れない。
「横穴でもあれば最高なんだけどな……」
ライトとマリアは、左右の窓から野営できそうな場所を探す。
街道沿いには林や岩場も多い。一時間もしないうちに、いい感じの横穴を見つけた。
「リン、少し早いけど」
「うん、野営だね」
街道から外れ、深い雪をガッポガッポと馬は進む。そして、横穴に到着した。
馬二頭、荷車がスッポリ入る大きさに、焚き火の跡も残っている。冒険者が野営に使ったのかもしれない。
ライトたちは野営の支度をする。
「リン、火を頼んでいいか?」
「うん。火属性はあんまり得意じゃないけど」
リンの手のひらに、ハンドボールサイズの火球が生み出され、焚き火の跡にフヨフヨと浮遊した。木がなくても魔術の炎なら消えることはない。
馬具を外し、シートを敷くと、馬はそこに座り休む。あとはエサと水をたっぷり与えれば、馬はその内寝るだろう。
「食事の支度をしますわ」
「ああ、頼む」
「マリア、手伝うよ」
マリアとリンに食事の支度を任せ、ライトはテントを準備する。
火球のおかげで洞窟内は暖かく、一時間もしないうちに外は暗く、雪の勢いも増してきた。
今日の食事は、焼いた肉を挟んだパンとスープだ。塩味の効いた肉は美味く、スープも温まる。あっという間に完食した。
「リン、お湯をお願いしますわ」
「うん。あっちで身体拭いて着替えよっか」
「俺は先に寝る。6時間後に起こしてくれ」
「わかった」
現在、夕方の5時。
6時間後に起こしても夜の11時だ。リンたちには規則的な生活をさせ、野営はライトが担当することが多かった。
ライトはテントに入り、服を着替える。
そのまま毛布を被り、三分もしないうちに眠ってしまった。
「ライト、洗濯……あ、寝てる」
「もう、洗濯物があるなら出せばいいのに!」
「まぁまぁ。あ……」
ライトは、ぐっすり眠っている……。
◇◇◇◇◇◇
6時間後、ライトは起こされた。
着替えると、リンとマリアは荷車の中に飛び込むように行ってしまった……首を傾げると、その理由がわかった。
「くそ、あいつら……」
洞窟の壁に、ライトの肌着や下着が洗って干してあった。
洗濯物の下には火球がいくつか燃えており、その熱で乾かしている。このまま放置すれば、数時間で乾くだろう。
小さく溜息を吐き、ライトは火球の近くに座ってお茶を飲む。
『相棒、何考えてる?』
「ん、ああ……ここではどんな面倒ごとに巻き込まれるかなーって」
『ケケケケケッ、祝福弾を作るチャンスってことか』
「はは、そうかもな」
『…………相棒、気を付けろ』
「あ?」
『勝ち続きだからって油断すんなってこった』
「わかってるよ」
ライトはお茶を注ぎ、ゆっくり飲み始めた。
1
あなたにおすすめの小説
【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。
シトラス=ライス
ファンタジー
万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。
十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。
そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。
おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。
夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。
彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、
「獲物、来ましたね……?」
下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】
アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。
*前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。
また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる