勇者の野郎と元婚約者、あいつら全員ぶっ潰す

さとう

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第106話、雪景色の中で

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 御者は、交代で行っている。
 基本は半日で交代。状況に応じて変化するが、フィヨルド王国に入ってからは、一時間おきの交代となっていた。
 理由は簡単……寒いのだ。

「っくし!……うぅ、さっむ」

 雪景色の中を馬車は進む。
 ライトが手綱を握る手は、手袋越しでも冷たい。ファーレン王国の冬とは比べ物にならないくらい、フィヨルド王国の冬は寒かった。
 
「お前ら、寒くないのか……?」
『ぶるる』『ヒッヒィィン!!』

 先輩と後輩は、ライトに『寒い? なんだそれ?』と言っているように聞こえた。
 先輩は元々寒さに強く、防寒装備をしたら寒さなど感じていないかのごとく、除雪された街道を進み、寒さに強い品種の後輩は、雪などお構いなしに元気だった。というか、後輩の身体は熱を持ったように熱く、寒さに強い秘訣はこの体温の高さだった。

「後輩、今夜一緒に寝ないか?」
『ブルルヒィィィンン!!』
「……いやなのか」

 なんとなく、『一人で寝ろ』と言っているような気がした。

 ◇◇◇◇◇◇

「ライト、交代」
「ああ、頼む」

 リンと御者を交代し、ライトは荷車の中へ。
 中は温かい。荷車に内蔵されている『魔石』に魔力を流し込むと、じんわりとした熱が発生し、荷車の中を温めるのだ。
 冬用の馬車にはこの魔石が搭載されている。ちなみに夏用馬車は逆に冷たくなる。
 中に入ると、自然と気が抜ける。温かい車内はそれだけで幸せだ。

「お茶、飲みますか?」
「ああ、もらう」

 なんと、マリアがライトにお茶を煎れてくれた。
 国境の町で買った保温水筒に入ったお茶を、熱が伝わりやすい金属のカップに入れてライトへ。ライトはマリアの手に触れないように受け取った。

「ふぅ……温まるな」
「まさか、これほどの雪とは思いませんでしたわ」
「そういや、お前は雪を見たことないんだな」
「ええ」

 それだけで、マリアはファーレン王国とフィヨルド王国出身じゃないとわかる。そういえば、マリアの出生を何も知らない。もちろん、どうでもいいが。
 お茶を啜り、外の景色を見る。

「雪、か……」

 雪がしんしんと降っている。
 フィヨルド王国は年中冬の領土。毎日毎朝、フィヨルド王国の除雪部隊が街道を除雪している。だが、半日もすれば雪はどっさり積もってしまうので、除雪部隊が休むことはない。
 木々に葉はなく、枝には雪が積もり、山々は純白に染まっている。ヤシャ王国を出てからそんなに日は経っていないのに、景色の変わりようがすごい。

「お昼を過ぎて二時間ほどですわね」
「ああ。そろそろ野営場所を探すか」

 マリアが言うと、ライトは頷く。
 ヤシャ王国と違い、フィヨルド王国は日が暮れるのが速い。なので、野営場所は早めに探さないといけない。
 フィヨルド王国に入って数日。日の暮れる速さに驚き、街道で野営を↓ことは忘れない。

「横穴でもあれば最高なんだけどな……」

 ライトとマリアは、左右の窓から野営できそうな場所を探す。
 街道沿いには林や岩場も多い。一時間もしないうちに、いい感じの横穴を見つけた。

「リン、少し早いけど」
「うん、野営だね」

 街道から外れ、深い雪をガッポガッポと馬は進む。そして、横穴に到着した。
 馬二頭、荷車がスッポリ入る大きさに、焚き火の跡も残っている。冒険者が野営に使ったのかもしれない。
 ライトたちは野営の支度をする。

「リン、火を頼んでいいか?」
「うん。火属性はあんまり得意じゃないけど」

 リンの手のひらに、ハンドボールサイズの火球が生み出され、焚き火の跡にフヨフヨと浮遊した。木がなくても魔術の炎なら消えることはない。
 馬具を外し、シートを敷くと、馬はそこに座り休む。あとはエサと水をたっぷり与えれば、馬はその内寝るだろう。

「食事の支度をしますわ」
「ああ、頼む」
「マリア、手伝うよ」

 マリアとリンに食事の支度を任せ、ライトはテントを準備する。
 火球のおかげで洞窟内は暖かく、一時間もしないうちに外は暗く、雪の勢いも増してきた。
 今日の食事は、焼いた肉を挟んだパンとスープだ。塩味の効いた肉は美味く、スープも温まる。あっという間に完食した。

「リン、お湯をお願いしますわ」
「うん。あっちで身体拭いて着替えよっか」
「俺は先に寝る。6時間後に起こしてくれ」
「わかった」

 現在、夕方の5時。
 6時間後に起こしても夜の11時だ。リンたちには規則的な生活をさせ、野営はライトが担当することが多かった。
 ライトはテントに入り、服を着替える。
 そのまま毛布を被り、三分もしないうちに眠ってしまった。

「ライト、洗濯……あ、寝てる」
「もう、洗濯物があるなら出せばいいのに!」
「まぁまぁ。あ……」

 ライトは、ぐっすり眠っている……。

 ◇◇◇◇◇◇

 6時間後、ライトは起こされた。
 着替えると、リンとマリアは荷車の中に飛び込むように行ってしまった……首を傾げると、その理由がわかった。

「くそ、あいつら……」

 洞窟の壁に、ライトの肌着や下着が洗って干してあった。
 洗濯物の下には火球がいくつか燃えており、その熱で乾かしている。このまま放置すれば、数時間で乾くだろう。
 小さく溜息を吐き、ライトは火球の近くに座ってお茶を飲む。

『相棒、何考えてる?』
「ん、ああ……ここではどんな面倒ごとに巻き込まれるかなーって」
『ケケケケケッ、祝福弾を作るチャンスってことか』
「はは、そうかもな」
『…………相棒、気を付けろ』
「あ?」
『勝ち続きだからって油断すんなってこった』
「わかってるよ」

 ライトはお茶を注ぎ、ゆっくり飲み始めた。

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