勇者の野郎と元婚約者、あいつら全員ぶっ潰す

さとう

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第117話・再会、バルバトス神父

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 ライトが入ろうとした鍋屋で、国境の町で知り合ったバルバトス神父と再会した。
 伸ばした手を引き、ライトは頭を下げる。
 身長は高いが華奢な印象で、帽子を外すと白い髪がはらりと揺れる。ライトにほほ笑みかける姿は、神父というより近所のお兄さんという印象を与えた。

「ふふ、鍋屋で再会とは……どうやら、君と私は食事という縁で繋がっているようだ」
「あはは……本当に偶然ですね」
「そうだね。よかったらまた一緒に。これも神のお導きだろう」
「……神」

 神、つまり……女神。
 この世界で言う神とは、祝福の女神のことを指す。全ての人間にギフトを与え、人が住みやすい世界の礎を作った女神。現在、ファーレン王国に降臨した女神は、人々の信仰の中心であり絶対的な存在と言われ、各国の信仰者たちはこぞってファーレン王国に祈りに行くとか。

「おや、どうしたのかな?」
「いえ、なんでもありません」

 間違いなく、ライトが異端なのだ。
 祝福の女神に感謝するのは当たり前だ。勇者レイジやリリカたちに『四大祝福剣』を与え、魔刃王を討伐させた張本人。だが、カドゥケウスの話は違う。
 信仰心が力となる『女神』は、不干渉が原則の『人間界』に干渉、ギフトの力を与え、人々の信仰心を集めている。それを阻止するため、『魔界』から来た英雄『魔刃王』が女神を止めるために人間界へ、そして勇者レイジたちに倒され、悪しき者として断罪された。

 カドゥケウスたち『大罪神器』は、女神を倒すために人間界へ。だが、信仰心を力とする『女神』と違い、カドゥケウスたち『魔神』は人々の負の感情をエネルギーとする。大罪神器の所有者は皆、心に傷を負った悲しい所有者……ということらしい。

「…………」
「悩みを抱えているね……? だが、その前に食事にしよう。再会を祝し、ここは私に奢らせてくれないか?」
「え? あ、いや……」
「さぁさぁ、いつまでも店の前では失礼だ。中へ」
「っと、は、はい」

 見た目と違い、強い力で背を押されたライトは、バルバトスと一緒に店内へ。
 中は空いていたが、同席で注文することにした。

「では、肉鍋を頼もう」
「あ、じゃあ俺は野菜鍋で」
「覚えていてくれたのかい?」
「まぁ、なんとなく」

 国境の町では逆だった。
 不思議と、バルバトス神父と喋っていると落ち着く。ライトは、難しいことを考えずに、食事に集中することにした。
 運ばれてきた野菜鍋は、肉は一切入っていない。山の幸がふんだんに使われた鍋で、キノコやイモ類が多く入っていた。
 バルバトス神父の肉鍋は、見た目通りの『肉』の鍋だ。胃もたれしそうなくらい濃い汁の中で、肉がグツグツと煮えている。

「こ、これはすごい……」
「国境の町とは違うボリュームですね」
「よ、よかったら一緒にどうかね?」
「じゃあ、俺の野菜鍋と一緒に。交互に食べればなんとかいけそうですね」
「う、うむ。ははは、誰かと分け合うなど久しぶりだ……ありがとう」
「いえ。では、いただきます」

 ライトもバルバトス神父も、腹が破裂しそうなくらい満足した鍋だった。

 ◇◇◇◇◇◇

 食事を終え、二人は店内へ。
 ライトは、不思議と名残惜しかった。バルバトス神父もなのか、帽子を取り和やかにほほ笑みながらライトに言う。

「私は、この町の教会にしばらく滞在します。時間があればお茶でも」
「は、はい」
「では。あなたに神のご加護がありますように」

 そう言って、バルバトス神父は去っていく。
 存在感のない背中は大きいのに、なぜか小さく見えた。

「なんか、落ち着く人だな」
『そうかぁ? ああいう奴ほど裏の顔があるんだよ』
「はいはい。それより、飯も食ったし帰って寝るか」
『相棒ぉ~、町を観光しようとか酒場で飲もうとか考えねぇのかよ? つまんないぜ』
「別にいいだろ。鍋を食ったんだしな」
『やーれやれ……娼館で女でも抱いてこいよ。溜まってんだろ?』
「別に」
『…………』

 ライトは、宿へ向かい歩き出した。

 ◇◇◇◇◇◇

 宿に戻りのんびりしていると、買い物袋をたくさん抱えたリンたちが戻ってきた。
 荷物はわかる、どう考えてもシンクの物だ。

「いやー買った買った。服に下着にコートにブーツに帽子に……いっぱいね」
「ボク、こんなきれいな服着たの初めて」
「ついつい熱くなってしまいましたわ。ねぇ?」
「うぅ……もう着せ替えはいやぁ……」
「お、おい! こらっ!」

 フラフラのシンクはなぜかライトの寝ているベッドに倒れ込む。
 刺繍入りセーターにスカート、ロングブーツを履き、ツインテールにした髪に合わせた帽子を被っている。どこからどう見ても、冬服を着た町の少女だ。
 ライトはシンクをどかして立ちあがる。

「買いすぎだろ……」
「私たちもその、買っちゃいまして……」
「うふふ、リンに似合うマフラーや帽子を買いましたの」
「マリアにはブーツを買ったの。見る?」
「…………」

 このパワーには付いて行けないライトだった。
 シンクは疲れたのかいつの間にか眠っている。

「さて、夕飯食べてこよっか。ライトは?」
「鍋屋で食べたからいらない」
「鍋屋! どこの鍋屋? ほらシンク、ご飯食べに行くよ」
「ごはん!」
「ねぇリン、わたしお酒が飲みたいですわ」
「いいね。ホットワインのお店ならあったから行こうか、シンクは何食べたい?」
「おなべ!」
「よし、じゃあ行こう!」
「はい!」
「いく!」
「…………」

 三人は、楽しそうに出て行った。
 女だけというのも辛い……ライトはため息を吐き、再びベッドに横になる。
 
 明日は冒険者ギルドで依頼探しと情報集め。今日くらい遊ぶのはいいかと思い、ライトは目を閉じた。

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