勇者の野郎と元婚約者、あいつら全員ぶっ潰す

さとう

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第119話・アバランチ討伐

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 大型危険魔獣『アバランチ』。
 その正体は、全長10メートルほどの『ゴリラ』だった。
 真っ白な体毛、顔や五指など皮膚の見えるところは紫色をして、五指から伸びる爪や口から生える牙は鋭利で凶悪だ。
 
そんなアバランチは、大きなシカをボリボリと食っていた。その数、実に10頭を超える。
 アバランチの討伐理由は、餌を食いすぎて生態系を崩しているから。アバランチ一匹が一日に食べるシカの数は、三十頭を超える。しかも、シカだけでなく、狼や他の魔獣も食べてしまう……いわば、悪食の魔獣だ。

「悪食、ね……」
『オレを差し置いて悪食たぁ許せねぇなぁ……相棒』
「はいはい。それより、生態系が荒らされている方が問題だ。このままじゃ、狩りで生計立てている猟師が仕事を失うぞ」
「で、どうしますの?」
「決まってる」

 ライトとマリアは、アバランチから後方、風下の藪の中で、アバランチの食事を見ていた。
 捕らえたシカを骨ごと食いちぎる姿はおぞましく、マリアは露骨に顔をしかめる。
 ライトは、ポケットから祝福弾を取り出す。

「『液状化』で頭を狙い撃ちしますの?」
「そんな勿体ないことはしない。あれほどの相手を真正面から倒せないようじゃ、これから先の戦いもきついだろうしな」

 『硬化』・『液状化』・『重量変化』・『強化』・『鑑定』
 『浮遊』・『調理師』・『爆破』・『筋力増強』・『分身』
 そして、『神喰狼フェンリスヴォルフ』・『天津甕星アマツミカボシ』。
 合計11発の祝福弾。これがライトの戦力。それ以外に、カドゥケウスの能力がある。

「使ってないのは……『筋力増強』か」

 ワイファ王国で倒した『海坊主』のギフトだ。
 使うと筋力増強効果があるはずだが、海坊主がこのギフトを使用すると、筋肉が膨張して身長も伸びた。正直、かなり気持ち悪い。
 リンに使おうとしたが、本気で拒絶されたので、お蔵入りになっていた祝福弾だ。

「…………」
「なんですの?」
「あ、いや……なんでもない」

 一瞬、マリアに使おうか考えたが却下。もし使えば殺されるような気がした。
 使い勝手のいい『硬化』と『強化』の組み合わせで行くか、『浮遊』で空から近付いて不意打ちするか、それともやはり『筋力増強』を使うか……。

「あの、早く決めないとわたしが出ちゃいますわよ?」
「ま、待て。う~ん……わかった。こいつでいくよ」

 ライトは『筋力増強』の祝福弾を装填した。

 ◇◇◇◇◇◇

『ゴォルルルル……』
「よお」

 ライトは、アバランチの前に堂々と姿を現した。
 アバランチは振り向き、キョロキョロと周囲を見て、自分の足下に小さな人間がいることにようやく気が付き、アリでも踏みつぶすかのように足を上げて振り落とす。
 怒りも困惑もない。ただ、目の前にいたから潰しただけ。
 アバランチは踏み潰したモノを確認しようと─────。

「おぉ……確かに、筋力あがってるな。それに、海坊主ほど膨張していない」

 ライトは、『筋力増強』の祝福弾で己を強化し、アバランチの踏み潰しを受け止めた。
 これは、『筋力増強』のテスト。実戦でどれほど強化されるのか、その実験。
 
「じゃあ……脚力と腕力、同時に……っだらぁぁぁっ!!」

 ライトはアバランチの顔目がけてジャンプし、ゴリラのような顔を全力でぶん殴った。
 殴られたアバランチの片方の眼球が飛び出し、アバランチはゴロゴロ転がる。

「き、気持ちいぃ……これで勇者レイジをぶん殴ったらもっとキモチイイかも」

 殴った感触が腕に、拳に、全身に伝わる。
 劣化しているはずだが、かなりの能力だ。肉弾戦で『強化』を併用すれば、凄まじい破壊力が出るに違いない。
 筋力増強できるのは、腕力と脚力のみ。細かいコントロールができず、かなり極端なところが弱点と言えば弱点だ。

『グァァァァオォォォォッ!!』
「これ、使えるな。近距離戦闘の要になりそうだ」
『グォルルルルルッ!!』
「あ、ご苦労さん。もういいよ」

 ライトはカドゥケウスを構え発砲……アバランチの頭が吹き飛んだ。
 『爆破』の祝福弾。まさに、必殺の一撃だった。
 ずっと様子を見ていたマリアがライトに近づく。

「わたしも暴れたかったですわ」
「悪いな。今回は俺に譲ってくれて」
「別に。それで、どうですの?」
「ああ、使える」

 祝福弾の検証。それが、魔獣討伐の本当の目的。
 もはや、A級以上の危険魔獣でも、ライトの敵ではなかった。
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