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第196話・大罪神器の所有者と女神のトーク
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「そ、粗茶ですが」
「ありがとう」
「どもども。あ、お菓子ない? 甘めのクッキーとか団子とかあれば「ブリザラ、黙りなさい」……へいへい」
希望の女神パティオンと白銀の女神ブリザラをリビングに通し、リンが淹れたお茶を啜るパティオンとブリザラ。茶菓子はクッキーで、ブリザラがさっそく手を伸ばしていた。
ブリザラは見ないように、考えないようにしているのだが……パティオンはそうはいかない。
目の前の光景に、本気で頭を抱えそうになった。
「あの、その子……どうしたの?」
「俺が聞きたい。なんだこいつは」
「――――」
闇夜の女神ツクヨミは……なぜかライトの膝の上に、無理矢理座っていた。
そして、クッキーをこりこり齧り、たまにライトの口元に持って行く。断りにくいライトは仕方なく口を開けてクッキーを受け入れた。すると、ツクヨミは嬉しそうに微笑むのだ。
ライトは全てを無視し、パティオンとブリザラに質問した。
「で、お前たちの話ってなんだ?」
「…………え、えっと」
さて、どうするべきか。
ライトの目的を聞くのがパティオンとブリザラも目的だ。もし「女神を全て滅ぼす」と言えば戦わざるを得ない。そのための保険がツクヨミだったのだが……なぜかライトに懐き、膝の上でクッキーを食べている。
いきなり切り札を失ったパティオンは、どうしていいかわからない。
「…………」
なので、半ばやけくそ気味に質問した。
「あ、あなた。あなたは、フリアエをどうするの? ヤッちゃうの?」
「は?」
ライトの目がギロリと険しくなった。
ブリザラはため息を吐き、パティオンを小突く。そして代わりに言った。
「あのさ、あんたの目的はフリアエでしょ?」
「違う。俺の目的は勇者レイジとリリカだ。フリアエはついでだ。ルールを無視して信仰心を集めてるらしいからな」
そう言って、カドゥケウスをテーブルの上に置く。
あからさまにパティオンは表情を変えた。
『よぉ。女神サマ』
「ぼ、暴食……」
『おめーら、人間界に手を出さないって暗黙の契約を破って力を上げてるみてぇじゃねぇか……』
「え、えっと」
そして、マリアが歪羽はピッとテーブルに投げ、メリーはペンダントを、真紅は義手の指を外してテーブルの上に置く。
『あたしら、大罪神器……魔神の恐ろしさを忘れたのかしら?』
『ふふ、どうやら我々の強さを知らないようですね……魔神は数こそ少ないが、個々の戦闘力では女神の数十、数百倍も違うと言う事を。母なる女神テレサは仰っていなかったのですか? 魔界の魔神を敵に回すなと』
『あはは。シャルティナにイルククゥ、あんまり脅かしちゃダメだって。殺るのはうちのメリーたちなんだから』
怖気のするような気配だった。
姿こそ見えないし、人間と契約しなければ力を使うことのできない魔神は、言葉だけで女神を圧倒する。
パティオンはダラダラと汗を掻く。
こんな状況なのに、自分たちを好きと言ったツクヨミはクッキーをのんびり齧っていた。
「こっちも聞くぞ。お前たち、何しに来た? で、こいつは……?」
「え、えと、その……私たちは、あなたたちの真意を聞きにきたの」
「真意?」
「……ふぅ。そうよ。あなたがリリティアとラスラヌフを喰い殺したと知ってね。次に狙われる女神が私やブリザラなら黙ってるわけにはいかない……でも、あなたの目的が復讐だけなら、私たちは手を出さない。その代わり、私たちを狙うのをやめて」
「……俺はお前たちのことを知らない。でも、こうして目の前にいる以上……」
「私は、ラスラヌフとリリティアが消滅したから来たの。フリアエの思惑もわからないし……あなたを始末するって理由でここに来てるけど、ハッキリ言ってあなたと戦っても私が喰われるだけ。正直、フリアエの人形になるつもりはないからこのまま引き下がるわ」
「…………」
「最後に確認するわ。あなたの目的は復讐……女神の抹殺ではないのね?」
「ああ。祝福の女神フリアエは始末する。フリアエが存在する限り、レイジやリリカを殺しても蘇っちまうらしいからな」
「そうね……なら、安心ね。私たちは神界に帰るわ。それで、その……ツクヨミのことだけど」
「…………」
ツクヨミは、クッキーをこりこり齧っていた。
今までの話を聞いていたのかいないのか。幸せそうな顔で。
「あなたが私たちを喰い殺す可能性があったから切り札として呼んだけど……なんでか、あなたに懐いてるわね」
「なんとかしろよ」
「無理。ツクヨミは神性を失ってるから神界には連れて行けない。悪いけど、面倒見て頂戴ね」
「はぁ!? おいこら、勝手なこと」
「じゃ、また来るわ……って、そうだ。いいこと教えてあげる」
パティオンは立ち上がり、にっこり笑った。
「あなたたちが探している【傲慢】……この国にいるわよ」
「え」
次の言葉を聞く前に、パティオンとブリザラは逃げるように去って行った。
「ありがとう」
「どもども。あ、お菓子ない? 甘めのクッキーとか団子とかあれば「ブリザラ、黙りなさい」……へいへい」
希望の女神パティオンと白銀の女神ブリザラをリビングに通し、リンが淹れたお茶を啜るパティオンとブリザラ。茶菓子はクッキーで、ブリザラがさっそく手を伸ばしていた。
ブリザラは見ないように、考えないようにしているのだが……パティオンはそうはいかない。
目の前の光景に、本気で頭を抱えそうになった。
「あの、その子……どうしたの?」
「俺が聞きたい。なんだこいつは」
「――――」
闇夜の女神ツクヨミは……なぜかライトの膝の上に、無理矢理座っていた。
そして、クッキーをこりこり齧り、たまにライトの口元に持って行く。断りにくいライトは仕方なく口を開けてクッキーを受け入れた。すると、ツクヨミは嬉しそうに微笑むのだ。
ライトは全てを無視し、パティオンとブリザラに質問した。
「で、お前たちの話ってなんだ?」
「…………え、えっと」
さて、どうするべきか。
ライトの目的を聞くのがパティオンとブリザラも目的だ。もし「女神を全て滅ぼす」と言えば戦わざるを得ない。そのための保険がツクヨミだったのだが……なぜかライトに懐き、膝の上でクッキーを食べている。
いきなり切り札を失ったパティオンは、どうしていいかわからない。
「…………」
なので、半ばやけくそ気味に質問した。
「あ、あなた。あなたは、フリアエをどうするの? ヤッちゃうの?」
「は?」
ライトの目がギロリと険しくなった。
ブリザラはため息を吐き、パティオンを小突く。そして代わりに言った。
「あのさ、あんたの目的はフリアエでしょ?」
「違う。俺の目的は勇者レイジとリリカだ。フリアエはついでだ。ルールを無視して信仰心を集めてるらしいからな」
そう言って、カドゥケウスをテーブルの上に置く。
あからさまにパティオンは表情を変えた。
『よぉ。女神サマ』
「ぼ、暴食……」
『おめーら、人間界に手を出さないって暗黙の契約を破って力を上げてるみてぇじゃねぇか……』
「え、えっと」
そして、マリアが歪羽はピッとテーブルに投げ、メリーはペンダントを、真紅は義手の指を外してテーブルの上に置く。
『あたしら、大罪神器……魔神の恐ろしさを忘れたのかしら?』
『ふふ、どうやら我々の強さを知らないようですね……魔神は数こそ少ないが、個々の戦闘力では女神の数十、数百倍も違うと言う事を。母なる女神テレサは仰っていなかったのですか? 魔界の魔神を敵に回すなと』
『あはは。シャルティナにイルククゥ、あんまり脅かしちゃダメだって。殺るのはうちのメリーたちなんだから』
怖気のするような気配だった。
姿こそ見えないし、人間と契約しなければ力を使うことのできない魔神は、言葉だけで女神を圧倒する。
パティオンはダラダラと汗を掻く。
こんな状況なのに、自分たちを好きと言ったツクヨミはクッキーをのんびり齧っていた。
「こっちも聞くぞ。お前たち、何しに来た? で、こいつは……?」
「え、えと、その……私たちは、あなたたちの真意を聞きにきたの」
「真意?」
「……ふぅ。そうよ。あなたがリリティアとラスラヌフを喰い殺したと知ってね。次に狙われる女神が私やブリザラなら黙ってるわけにはいかない……でも、あなたの目的が復讐だけなら、私たちは手を出さない。その代わり、私たちを狙うのをやめて」
「……俺はお前たちのことを知らない。でも、こうして目の前にいる以上……」
「私は、ラスラヌフとリリティアが消滅したから来たの。フリアエの思惑もわからないし……あなたを始末するって理由でここに来てるけど、ハッキリ言ってあなたと戦っても私が喰われるだけ。正直、フリアエの人形になるつもりはないからこのまま引き下がるわ」
「…………」
「最後に確認するわ。あなたの目的は復讐……女神の抹殺ではないのね?」
「ああ。祝福の女神フリアエは始末する。フリアエが存在する限り、レイジやリリカを殺しても蘇っちまうらしいからな」
「そうね……なら、安心ね。私たちは神界に帰るわ。それで、その……ツクヨミのことだけど」
「…………」
ツクヨミは、クッキーをこりこり齧っていた。
今までの話を聞いていたのかいないのか。幸せそうな顔で。
「あなたが私たちを喰い殺す可能性があったから切り札として呼んだけど……なんでか、あなたに懐いてるわね」
「なんとかしろよ」
「無理。ツクヨミは神性を失ってるから神界には連れて行けない。悪いけど、面倒見て頂戴ね」
「はぁ!? おいこら、勝手なこと」
「じゃ、また来るわ……って、そうだ。いいこと教えてあげる」
パティオンは立ち上がり、にっこり笑った。
「あなたたちが探している【傲慢】……この国にいるわよ」
「え」
次の言葉を聞く前に、パティオンとブリザラは逃げるように去って行った。
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---
追記:2025/09/20
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