勇者の野郎と元婚約者、あいつら全員ぶっ潰す

さとう

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第200話・最後の戦場ファーレン王国へ

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「で……ツクヨミと寝たのですね」
「あ、ああ……」
「――――♪」

 ライトは、マリアにきつい目で睨まれていた。
 昨晩、ツクヨミと一夜を共にした。魔獣だの『八相』だの女神だの言われているが、身体の造りは人間と同じだった。
 昨夜、マリアはライトの部屋に向かった。すると……聞こえてくるのはツクヨミの嬌声。部屋を覗くと、ライトがツクヨミを抱いていたのだ。
 不機嫌なマリアは、ライトに引っ付いたままのツクヨミに聞く。

「あなた、ライトのことを愛してますの?」
「うん――――好き」
「……はぁ、そうですか。わたしはお役御免ということですわね」
「お、おい」
「わたしに飽きた、そう一言だけ言って下さらない? あなたの口から聞ければ、わたしはもう満足ですから……」
「…………」

 ライトは何も言わなかった。
 そんなこと、言えるワケがない。
 ツクヨミはツクヨミ、マリアはマリアだ。マリアとは性欲の発散というだけの付き合いだが、たった一言で切り捨てることはできない。それに……。

「おいマリア、お前に飽きたとかそんなんじゃない。いいか、お前は俺のだ。俺はお前の物だ。俺たちが身体を重ねるのはそういう契約みたいなもんだろ。諦めるとか、飽きたとかじゃないんだよ」
「…………」
「それともお前……嫉妬でもしてんのか?」
「なっ……ば、馬鹿なことを!! わたしは、別に……」

 マリアは歯軋りをした。すると、ツクヨミがライトから離れマリアの隣へ。そして、マリアの頭を撫でた。

「あなたからも―――ライトの匂いがする。いっぱい抱かれたんだね―――私と一緒―――これからも一緒に―――愛されよう?」
「…………ツクヨミ」
「……はぁ、わかりましたわ。ではこうしましょう。順番を決ること、あなたがよければ三人一緒でも構いませんわ。ふふ、本当はリンと一緒がいいけど……この白い身体をわたしが赤く染めてあげたい、そんな気持ちもありますの」
「―――?」

 マリアはツクヨミの顎をクイッと持ち上げ、うっとりとした目で見る。
 そういえばマリアは女好きだった……今さらそんなことを思うライト。

「ライト、今夜はわたしの番ですから」
「はいはい……」

 こうして、ライトの夜の相手が一人増えた。

 ◇◇◇◇◇◇

「……あんたたち、声が丸聞こえなのよ」

 リンがジト目で朝食の支度をしていた。
 どうやら、ライトとツクヨミとマリアの会話は全て聞かれていたようだ。

「あぁん。リンってばいつわたしと一緒に愛されてくれるの? わたし、ライトだけじゃ満足できませんわ……」
「バカ言ってないで手伝ってよ……」

 リンは影からマルシアを呼び、朝食を食べさせていた。
 メリーは相変わらず床に転がっている。シンクはまだ起きてないのかと思ったら。

「ふぅ……」

 シャワールームから全裸で出てきた。
 濡れた髪をタオルでゴシゴシ拭い、裸体を隠さずライトの前を横切る。

「シンク!! 服を着なさいって言ってるでしょ!?」
「べつに構わない。水飲む」
 
 シンクもだが、メリーも羞恥心が殆どない。育った環境が男女という概念を持たない場所だから仕方ないことだが。
 シンクと違うのは、言われるとちゃんと服を着るところだ。
 朝から面倒なことが続き、リンはため息を吐く。

 朝食まで、まだ時間が必要そうだった。

 ◇◇◇◇◇◇

 朝食を食べ、ライトは別荘近くに借りた厩舎へ向かった。
 そこには、先輩と後輩と名付けた二頭の馬がいる。そろそろワイファ王国から出発するので、そのことを伝えに来た。

「またよろしくな」
『ブルルン……』『ヒィイン!!』

 二頭を撫で、ブラッシングをして、餌箱に新鮮な野菜をたっぷり入れておく。
 身体が鈍らないように、数日に一度町の外で運動させていた。いい食事と運動が相まって、以前よりもたくましくなっている。
 荷車の手入れも済ませてある。出発準備は万全だ。

「っと、あつはあいつらが買い物から帰って来ればいいのか」

 リンたちは、ツクヨミを連れて買い物へでかけた。
 ツクヨミの服や下着、旅の食料や道具を買い込み、ファーレン王国へ出発する準備をしている。

「…………待っていろ」

 もうすぐ、全てが終わる。
 大罪神器を全て揃えることは敵わなかった。だが、それに見合う戦力であるツクヨミを確保できたのは大きい。
 レイジとリリカを殺す役目はライト。女神フリアエを殺すのもライト。それ以外の不測の事態はマリアたちに対処させる。本来、大罪神器に任せるべきことをツクヨミに……きっといける。

 戦いはもうすぐ始まる。そして……終わりも近い。

 ◇◇◇◇◇◇

 全ての準備が整い、ライトたちは出発した。
 ワイファ王国での滞在はとても長かった。最後に【傲慢】のアシュレーの元に挨拶してから出発した。
 馬車はワイファ王国を出て、ファーレン王国へ向かう街道に差し掛かる。
 手綱を握るのはライト。そして隣にはリン。荷車の中にはマリアたちがいる。

「リン、もうすぐ終わる……お前はどうする?」
「…………さぁね。まだ考えてない」
「じゃあ、俺たちと一緒に考えよう」
「……ふふ、ライトがそんなことを言うなんてね」
「ああ。復讐の先も考えないとな……っと」
「わわっ」

 馬車が揺れた。
 ガタガタと揺れている。どうやら、車軸に何か挟まったようだ。
 馬車を止め、ライトは荷車の下を覗く。すると……枝が挟まっていた。

「どうしたの―――?」
「ああ、枝が挟まってやがる……って、外に出なくていいぞ、中にいろよ」
「ん―――」

 ツクヨミが、ライトの様子を見に降りてきたのだ。
 ちょこんと前屈みになり、髪を手で押さえる姿は年頃の少女にしか見えない。 
 可愛いと、素直に思う。


 そんなツクヨミの胸から、細い何かが生えてきた。


「―――あ」
「え……?」

 金属の、細い何かだ。
 すぅーっと、音もなく生えてきた。
 ライトはポカンとして、ツクヨミも胸をジッと見つめている。
 そして。

「久しぶり―――ライト♪」

 ツクヨミの背後に、黒髪の少女が現れた。

「最強の女神、油断したわね?」
「――――」
「ふふ、恋しちゃって油断した? がら空きの背中、いただきました~♪」
「――――あ」

 リリカ。
 リリカが、ツクヨミの背後から【鬼太刀】を突き立てたのだ。
 剣が乱暴に抜かれ、ツクヨミの背中から真っ赤な血が噴き出す。
 胸からも血が噴き出し、ライトの顔を濡らす。
 ツクヨミは、ライトに覆い被さるように倒れた。

「お、おい……おい!!」
「あ―――」

 ツクヨミは、ライトの顔に手を伸ばし―――顔に触れることなく、あっけなく力尽きた。

 ツクヨミが、死んだ。

 ツクヨミの身体が、溶けるように消え……消滅した。

「…………」
「ふぅ、一番厄介なのが消えてくれたわね。フリアエ様から言われてたの、闇夜の女神ツクヨミとは絶対に戦うなって。それに……裏切った先輩女神たちも始末しなきゃ」
「…………」
「ねぇライト。悲しい? その気持ち、私にはよくわかる……セエレ、アルシェ、アンジェラ、仲間を喪った気持ち」
「…………」

 ここで、ようやくマリアたちが馬車から降りてきた。

「リリカ……っ!!」
「あ、リン。それと……大罪神器の所有者たち」
「あなた……ツクヨミをどうしましたの?」
「え、殺したよ?」

 リリカは、あっさりと言う。

「……ボク、きみの四肢を狩りたい」
「……あたしもー」

 ゾワリと、シンクとメリーの気配が変わる。
 マリアの背から、八本の百足鱗が伸び、まるで八岐大蛇のようにうねる。

「愛してさしあげる……いらっしゃいな」

 リンは刀を抜き、吹っ切れたようにリリカに向けた。

「リリカ……っ!!」
「あはは。みんな怒ってる……でもね、私だって強くなったんだよ? 女神キルシュを喰らって、私自身が女神になったの」

 リリカが【鬼太刀】を構える。
 
「舞い踊れ、【夜叉鬼刃・舞姫】……戦刃の女神リリカの名の下に」

 リリカが変身する。
 以前のような筋肉質ではなく、元の美しい姿のまま、頭部から二本の角が生え、召し物が着物のような装いに。 
 手には二本の大太刀と小太刀が握られていた。

「さぁライト、決着を付けましょう……私とあなたの因縁に」
「…………」

 ライトは、ゆるりと立ち上がる。

「…………カドゥケウス」
『ああ、いいぜぇ? 芳醇な怒りと憎しみを感じるぅ……はぁ、今日は何を魅せてくれるんだ相棒ぉぉっ!!』

 ライトも、変わる。
 漆黒のモヤがライトの身体を包み込み、まるでロングコートのような服になる。
 第六階梯『悪衣悪食ダンテ・オブ・ファフニール』を纏ったライトは、左腕を膨張させ、カドゥケウスをリリカに向けた。

「誰も手を出すな……」

 真っ赤な右目は、血の涙を流していた。

「俺の全てを賭けて……リリカ、貴様をぶっ殺す!!」
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