勇者の野郎と元婚約者、あいつら全員ぶっ潰す

さとう

文字の大きさ
199 / 214

第201話・戦刃の女神と魔銃王

しおりを挟む
「真っ黒ね……ふふっ、『空刃くうじん』!!」
「…………」

 リリカは右の大太刀を振る。すると、空気の刃がライトを襲った。
 が、ライトは避けない。怒りに染まった赤い瞳でリリカを睨み、カドゥケウスに祝福弾を装填した。
 そして、空気の刃がライトを直撃……するが、ダメージはなかった。

「あれ?」
「第六階梯『悪衣悪食ダンテ・オブ・ファフニール』……能力は『飛び道具の完全無効化』だ」

 そう言って、ポケットから金属片を取り出して握る。

「装填」

 発砲。
 狙いはリリカの心臓、首、頭。とにかく死ねばいい。そんな願いを込めた銃弾が飛ぶが、リリカは左の小太刀で銃弾を容易く弾いた。
 同時に、ライトは左腕を膨張させ振り抜く。

「クイックシルバー」

 体感時間を引き上げる第三階梯『早喰いの悪食クイックシルバー・オブ・ラプラス』を使いリリカを左手で薙ぐが、リリカはすでに消えていた。
 ライトの背後から殺気。ライトは瞬間的に身体を捻るが、大太刀の切っ先が左腕を僅かに抉る。

「ああ、やっぱり。飛び道具は無効化できるけど斬撃は無効化できない。それに……誓約の痛みもあるみたい」
「……ッ」

 剣に触れることができない誓約がライトを苦しめる。
 だが、そんなことは気にならないくらい、ライトは怒っていた。
 ツクヨミの仇―――それが、ライトの痛みを打ち消す。

「ねぇ、あの子たち見てるだけじゃヒマでしょ? 遊び相手を作ってあげる……来たれ、『隷鬼レイキ』」

 大太刀の切っ先を地面に差すと、地面がボコボコと盛り上がる。
 そして、銀色の鬼が現れた。銀色の鬼は咆吼を上げ、リンたちに襲い掛かる。
 リンたちだけじゃない。鬼はライトにも襲い掛かった。

「この……っ!!」

 ライトは左手を巨大化させ薙ぎ払い……。

「ふふっ」
「あっがっ……っ!?」

 鬼に隠れるようにリリカが現れ、小太刀でライトを少しずつ切り刻む。
 カドゥケウスの照準を向けるが、そこにいるのは銀色の鬼だけ。しかも鬼は鬼でライトを狙い、殴りかかる。
 マリアたちが鬼と戦っている姿も見えた。

「一体一体は大したことがありませんわ!!」
「雑魚……四肢、狩る」
「うー……めんどい」
「みんな、目の前の鬼を倒して!! ライトがリリカを倒すまでやるわよ!!」

 銀色の鬼は、地面からいくらでも湧いてきた。
 リリカの力……鬼太刀の能力にこんなのはなかった。
 つまり、女神キルシュの力。女神を倒したのはライトだけではない。リリカもまた、人ならざる力を人の手で屠ったのだ。

「…………ふぅ」
『相棒。切り札使うか? あの女神もどき程度なら』
「ダメだ。こいつは俺が殺る」
『へいへい。ま、頑張れや』
「…………」

 ライトは、銀色の鬼に囲まれていた。
 一体の鬼の肩にリリカが座り、ライトを見下ろしている。
 かつての幼馴染みの姿は、醜悪な鬼の大将にしか見えない。
 これなら、遠慮はしない。最初からするつもりなんて欠片もないが。

「ふふ。女神の力を得た私はフリアエ様の忠実な部下……ライト、フリアエ様に手をかけようとするあんたは、ここで処刑する」
「……リリカ、勇者レイジは何している?」
「さぁ? でも、もうレイジはどうだっていい。私は人間を越えた女神、最強の女神を屠った存在!! ライト、セエレとアルシェの仇を取らせてもらうわ!!」
「……じゃあ俺は、家族と親友……そして」

『――――♪』

 一夜を共にした女神の笑顔がよぎる。

「ツクヨミの仇……取らせてもらう」

 戦術は固まった。
 怒ると逆に冷静になるライトは、戦術を組み立てていた。
 持てる全てを使い、リリカを倒す。

「いくぞカドゥケウス」
『おぉぉ……かっけぇよ相棒。マジで熱いぜ!!』

 ◇◇◇◇◇◇

「来い『神喰狼フェンリスヴォルフ』―――『群狼ウルフパック』!!」

 第一相『喰死の顎』マルコシアスの祝福弾を発射、漆黒のモヤもような狼が現れ、爆発するように分離。大型の狼が何頭も現れ、銀色の鬼に食らいつき始めた。
 それだけでおわらない。

「氷結、『嘆きの氷姫ブランシュネージュ》……周りの鬼を一掃しろ!!」
『はーいっ!!』

 クレッセンド幼女が現れ、リンたちと一緒に鬼を倒し始めた。
 その間、ライトは祝福弾を再装填。クイックシルバーを発動させリリカに向かう。

「早いけど、私と同じくらいね!!」
「……」

 クイックシルバーを使った速度とリリカは互角だ。
 ライトは剣に触れるだけで激痛が走る。だが、それら全てを無視した。
 左手を振りリリカの太刀を受け流し防御、通常弾を発砲して牽制、接近戦をリリカに挑むが、やはり接近戦ではリリカが上だ。徐々に太刀を浴び、血が流れていく。

「あははははははははっ!!」
「…………っ」

 リリカの剣速が上がっていく。
 三度目のクイックシルバーを発動させても追いつくのがやっと。
 だが、ライトはそれでよかった。

「喰らえ……『大飯喰らいガトリング・オブ・バアル・ゼブル』!!」

 銃をガトリングガンに変形させ、リリカに向けて弾丸をバラ撒く。
 だが、リリカは全ての弾丸を避けては躱す。
 大太刀をクルクル回転させ、弾丸全てを切り払った。

 が――。

「っ!?」

 ガクンと、剣が一瞬だけ重くなった。

「重量変化、父さんのギフトだ」

 切り払った弾丸の一つが、重量変化の祝福弾だったのだ。
 ガトリングガンに祝福弾を混ぜるアイデアは、リンたちですら知らない奥の手。
 リリカの剣は一瞬だけ重くなる。
 その隙を、ライトは逃さない。

「喰らえ」

 左手を巨大な爪に変化させ、リリカの肉体を引き裂こうとした。

「こ、んんおぉぉぉっ!!」

 リリカは大太刀を持ち上げ、バックで躱す。
 同時に、ライトは発砲。ジャンプした瞬間を狙っていたようだ。
 弾丸はリリカの頭に吸い込まれる……が、小太刀でガード……しようとして後悔した。

「ぐっぁあっ!?」

 弾丸が爆発した。そう、これも祝福弾だった。
 だが、一瞬警戒したおかげで爆発から身を守れた。
 着地し、全速でライトを両断することに決めたリリカ。
 大太刀も、重量変化の祝福弾から解放された。

「この、いい気に――――あれ?」

 ガクンと、身体が動かなかった。
 ライトは、ゆっくりと歩いてくる。
 左手が巨大な爪になっている。
 逃げなくては。
 だが、身体が痺れて動かない。

 そして、気が付いた。

「……な、に、これ」
「『天津甕星アマツミカボシ』……『爆発エクスプロージョン』と同時に撃ったんだよ。お前の着地位置を計算してな」

 リリカの足下には、小さなシャボン玉みたいなクラゲが浮いていた。
 第四相『海月翁』ジェリー・ジェリーの祝福弾。触れた相手を弛緩させる能力を持つ、罠タイプの祝福弾だ。

「さぁて」

 ライトは、動けないリリカの両足を左手で引き裂いた。

「ぐっぁぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「もう、お前の顔を見るのはウンザリなんだよ」

 復讐が、始まった。
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。

シトラス=ライス
ファンタジー
 万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。  十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。 そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。  おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。  夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。 彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、 「獲物、来ましたね……?」  下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】  アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。  *前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。 また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

処理中です...