勇者の野郎と元婚約者、あいつら全員ぶっ潰す

さとう

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第210話・ライトとリン

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 ライトとリンは、ファーレン王城へ到着した。
 不気味なくらい静まり返った王城内。城の関係者や兵士たちが倒れ、幸せそうに寝息を立てている。中にはイビキをかいたり、寝言でふにゃふにゃ言っているのもいた。
 ライトは、門兵を軽く蹴飛ばす。

「っち……平和そうな顔で寝やがって」
「…………生きてるんだよね」
「ああ。町の住人と同じだ。妙な力で眠らされている。それに、この重苦しい感じ……お前にもわかるか?」
「うん。怖いとか、逃げたいとかじゃない。なんだろう、身体の内側に墨汁でも流されたような不快感……」
「ぼくじゅう?……ともかく、碌なことにならない。さっさと女神フリアエを始末するぞ」
「…………」

 ライトは王城内へ向かって走り出そうとしたが、リンに腕を掴まれた。
 そんなに強い力ではないのに、なぜか振りほどけない。

「……なんだよ。行くぞ」
「待って。最後に確認させて……ライト、あなたは女神フリアエをどうするの」
「……決まってる。これまでのツケは」
「違う。なんとなくわかる……あなた、迷ってるでしょ」
「…………」
「パティオンが言ってたこと、胸の中に残ってる……リリカに復讐して気が晴れたんでしょ? レイジはともかく、あなたはフリアエをそんなに憎んでいない」
「だったら? レイジを始末してフリアエを見逃せって?」
「私は、そうするべきだと思う。確かにレイジはやりすぎた……あなたに殺されても文句は言えない。でもフリアエは違う。フリアエはあなたが直接手を下すほどあなたに酷いことをしていない」
「…………」
「ライト。お願い……私はずっと思ってたの。この世界に【ギフト】は必要ない。ヒトが住む世界に神様なんていらない。女神フリアエを止めて、もう女神がこの世界に干渉できないようにするのが、あなたのすべきことだって」
「…………」
「女神フリアエをパティオンとブリザラに任せる。それがあなたの最後の復讐にして……全て終えて、またみんなで冒険しましょう?」
「…………」

 ライトは、手首を掴むリンの手を振りほどく。
 そのまま、無言で王城内に進んでいった。

「…………」

 セエレを殺した。
 アルシェを殺した。
 アンジェラは後悔し、悔い改めた。
 リリカは人として死に、ツクヨミのオモチャとなった。
 最後、レイジ……。

「…………」

 そう、最後。
 ライトは、レイジで最後だと思ってしまった。
 パティオンには強気で言った。リンには何も答えなかった。
 そもそも、フリアエが異世界召喚などしなければこんなことにはならなかった。勇者レイジを呼ばなければ、親友や家族が死ぬこともなかった。
 だけど、それは違う。

 女神フリアエの目的は、異世界の人間を素体に母なる女神テレサを蘇らせること。そのための器を作るためにレイジたちを鍛えた。
 信仰心を集め人間界に顕現し、それを止めるために魔界の勇者が現れ、レイジたちの格好の的となり魔刃王と呼ばれ討伐された。
 フリアエはレイジたちを鍛えただけ。ライトのことなどどうでもよかったはずだ。
 全ての責任は、増長した勇者レイジとその仲間にあった。

「…………」

 女神フリアエを殺すことは、正しいのか。
 ただ、母に会いたいだけ。そのために全てを犠牲にしようとしている女神に、ライトは銃口を向けることができるのか。
 ライトも同じだ。
 復讐のために全てを犠牲にしようとした。
 でも、もうそれはできない。

「…………」

 復讐よりも大事なものが、できてしまったから。

『ああ、そうだな。リンの嬢ちゃんには感謝しねーとな』
「…………」
『相棒。オレは最後まで相棒に任せるぜ。オレの最後の力、真の切り札、人間には過ぎた力、女神の肉を媒介にした最後の力……』

 王城を進む。
 カドゥケウスの声がライトの脳裏に響く。

『あーあ。認めちまった……仕方ねぇな。これで完成だ。ラスラヌフの肉体がオレに吸収された。喰ったんじゃなくて喰われちまった……この【暴食】、カドゥケウス・グラトニー様の最後の力としてな』

 リンが、ライトを気にしながら付いてくる。
 向かう先は言わずともわかっていた。女神フリアエがいる大聖堂だ。

『ホントは、ラスラヌフの肉を媒介にして無理やり発動させるつもりだったんだけどよ……ま、結果オーライだ。肉は美味しくいただいたぜ?』

 まもなく、到着する。
 間違いなく、最後の戦いになる。
 そして、女神フリアエのために作られた部屋……大聖堂へ到着した。
 ライトは、大聖堂の扉にゆっくり手を添える。

『さぁ、最後といこうか相棒……第七階梯【暴食神による最後の晩餐グラトニー・オブ・サタナエル】を見せてやるぜ』

 そして、扉が開かれる────。
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