勇者の野郎と元婚約者、あいつら全員ぶっ潰す

さとう

文字の大きさ
210 / 214

第212話・零士と鈴

しおりを挟む
 別に、仲がいいというわけじゃなかった。
 同じ学校、同じクラスというだけで、陽気で人気者の零士とクラスでも平凡な鈴は話したことなんて殆どない。
 この世界に来なければ、一緒に行動したり話をすることもなかっただろう。

 リンは、零士レイジが好きでも嫌いでもなかった。
 お調子者なところもあるけど、魔刃王討伐の旅ではいいところもあった。
 魔獣に襲われてる人を助けて感謝されたり、飢餓に陥った村のために身銭を切って食料を買い付けて無償で配ったりした。
 
 レイジは、人々の賞賛の声に酔っている節があった。でも……誰かのために頑張る姿は素直に評価できた。もちろん、恋などではない。
 リリカやセエレ、アルシェなどは、そんなレイジに惹かれていた。
 交代で抱かれ、将来を誓い合った。リリカとセエレはライトという幼馴染がいたはずだが、レイジの眩しさに惹かれたのだと思った。

 アンジェラと婚約し、ファーレン王国の次期国王に指名され、レイジは益々増長していったように見える。
 ラノベのように、現代知識を異世界で役立てると息巻いていた。だが、現実はそんなに甘くないとリンは思っていた。
 自分はこの国を救った英雄。少なくともレイジはそう思っていたようだが……リンから見ると、調子に乗って主人公に《ざまぁ》される勇者にしか見えなかった。

 だから、止めようとも考えた。
 リリカとセエレに手を出さないように忠告した。付け焼き刃の知識で政治を行うなと注意した。勇者だから許されることではない、何度も何度も注意した……が、レイジは全く聞かなかった。
 
 ライトの復讐も当然だと考えた。
 両親と親友に手をかけたレイジは、もう勇者ではなかった。
 それを止めることもできず、リンは傍観……あまつさえライトと行動を共にし、復讐の手助けをした。
 リンは、ずっとぶれていた。
 自分は、レイジを救いたいのか、ライトの復讐に手を貸すのか。明確な意思のないまま最後まで来てしまった。

 だから、決めた。
 レイジの……異世界の勇者、九条零士くじょうれいじの始末は、同じ異世界から来た進藤鈴しんどうりんがつけると。
 全力でレイジを倒す。リンは自分がどうなろうと終わらせるつもりでいた。

「レイジ……いくよ」
『リィィィンぁぁぁ~』
 
 今や、レイジは肉塊だった。
 フリアエのために尽くした姿。あまりにもみじめで……哀れだった。
 リンは『雷切』と『壊刃』を構える。
 二刀流───不思議と、手になじんだ。

 ◇◇◇◇◇◇

 リンは身体能力強化の魔術を発動させ、レイジに向かって切り込んだ。
 レイジは思考しているのかいないのか。ブクブクに太った腕をぶらぶらさせ、リンの接近をまんまと許してしまう。

「風雷!! 壊剣!!」
『オッパェェェヤァァァッ!?』

 両の剣に風と雷をまとわせ、『壊刃』の力の一つである『転移』でリンは高速で瞬間移動を繰り返しながらレイジを切りつける。
 肉が落ち、血が噴き出す。
 
「っぐ……!!」

 リンは、涙がこらえきれなかった。
 なぜ、なぜ……レイジの笑顔がちらつくのだろうか。
 かつての仲間を、同郷の日本人を、クラスメイトを、自らの手で切り裂いている。
 レイジを殺せば、リンはこの世界にただ一人の日本人になるだろう。
 
 きっとリンは、一人ぼっちが嫌なのだ。
 だからレイジを止めるべきだった。何をしてもライトに謝るべきだった。でも、もう遅い。けじめをつけるために、こうして戦っている。
 レイジに戦う機能はないのか、ただ生きているだけなのか……フリアエの言葉が嘘だったのか。レイジの命が尽きていく感触。
 血が噴き出したレイジは倒れた。

『あ、あ……おれ、し、死……』
「レイジ……」
『り、ん……おれ、死、シ』
「…………」

 リンは跪き、レイジの顔を撫でる。
 不思議と、気持ち悪いとは思わなかった。
 
「ごめんね、レイジ……私、私」
『…………』
「私、あなたを止めるべきだった。戦ってでも、止めるべきだった。でも……私は傍観してた。止めるべきだった……っ!!」

 リンは、涙を流していた。
 その涙は、レイジの目にどう映ったのか。

『り、ん……』
「……レイジ?」
『オレ、帰りたい……家、にほん、がっこう……』
「うっ……うん。帰る。帰れる……帰ろう?」
『ああ……ごめん、なぁ……ライト……謝り、たい』
「謝ろう。私も一緒に謝るから。一緒に……」

 レイジの目から、光が失われていく。
 命が、尽きようとしている。
 
『ライト、悪かっ……』

 そして、消えた。
 こうして、勇者レイジは死んだ。
 女神に翻弄された異世界の少年は、間違いなく悪だった。
 でも、少しは救われたのかもしれない。

「うっ……うぁぁぁぁっ……うぁぁぁぁんっ!!」

 リンの泣き声が、悲しげに響き渡った。
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。

シトラス=ライス
ファンタジー
 万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。  十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。 そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。  おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。  夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。 彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、 「獲物、来ましたね……?」  下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】  アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。  *前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。 また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

処理中です...