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共闘、そして
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「......で、状況は?」
俺はアルファスに尋ねる。
上空の邪龍を目印にここまで来たものの、アルファスの疲弊は予想以上だった。他の奴らはともかく、デュークと一緒にいないのもおかしい。
「状況は、最悪だ。最高なことにな」
アルファスは軽口混じりに、手短に説明した。
その内容は予想を大きく裏切るものだったが、あり得ないことではなかった。アンジェラの言っていた「リントヴルムの子供」説が正しいならば、親の形見を持ったデュークに従うのも、動物の本能としてはおかしな話ではない。
もっとも、邪龍は一般的な動物とはかけ離れているが。
「リントヴルムを一撃で倒した俺の異能なら、多分そいつも倒せると思う。場合によっては、デュークごと。......その代わり、リントヴルムと今回の邪龍、二匹分の手柄は俺にくれ」
俺は鞄から薬瓶を取り出した。もう一度あの異能が使えるという確証はないが、そうでなければ二人とも死ぬだけだ。
だが、アルファスは首を振った。
「てめぇ、もう寿命ねぇだろ。俺はそれについて罪悪感なんて一切ねぇが、てめぇの命と引き換えに助けられるなんて反吐が出る」
「無理するな。そんなこと言ってる場合じゃないだろ」
俺が諌めた瞬間、アルファスは俺を突き飛ばした。俺は尻餅をつく。
「......舐めんなよ。俺はまだやれる。生きる気がねぇなら、黙って見てろ!」
精一杯の強がり......には、見えなかった。
アルファスは本気で、二人で生きて帰る気でいる。それは、俺が思ってもみなかった道筋だった。
それと同時に、これまでになかった考えが頭に下りてくる。
この場所が、俺に異能をくれたあの声が、俺を生かそうとしているように感じた。
「わかったよ。ギリギリまで粘ろう。......そのために、一つ考えがある」
「何だ」
意外にも、アルファスはあっさり聞く姿勢を見せた。これまでなら、決してあり得なかった光景だ。
俺は思わずにやけてしまい、立ち上がりかけたところをまたアルファスに殴られた。
鬱蒼とした木々の中に、一つの咆哮が轟く。
邪龍は羽音を立て、ゆっくりと上空から下りてきた。
「......まさか、お前が来るとはな」
「意外か?俺は意外じゃない、デューク。お前なら、いつかアルファスを裏切ると思っていた」
デュークは眉尻を下げ、警戒を露わにする。
アルファスは俺の後ろで、今にも倒れそうになりながらデュークを睨みつけている。
鬼気迫るようなその眼に、流石にデュークも俺たちがただ死ぬつもりはないことに気づいたらしい。
「でもお前は、利口な奴だ。そうだろ?俺はリンドヴルムを一撃で仕留めた、魔術が撃てる。それを使えば、お前は終わりだ」
「だがそれを使えば、お前の寿命は一年縮む。残り僅かな、寿命がだ」
そう言いながら、デュースは邪龍から降り、少し距離をとった。
表情は動かないが、彼の心中は穏やかではないはずだ。彼にとって、俺は何をしでかすか予想がつかない危険人物なのだから。
「そうだ。だから、俺もできれば魔術なんて使いたくない。......その角をこちらに渡せ。今なら、何もかも邪龍のせいにできる。俺たちが黙っていればいい話だ」
俺は手のひらをデュークに向ける。
この交渉に応じてくれれば、それが一番いいに違いない。デュークは別のやり方で上を目指すべきだった。姑息でも卑怯でもいいから、こんなに血が流れないやり方で。
だが、デュークは眉間に皺を寄せ、首を振る。
「それはできない。これは、俺の力だ。今更手放せるものか」
そうくるだろうな、とは思っていた。
実際、デュークは俺の魔術そのものを見ているわけではない。ただのハッタリと思っているのかもしれないし、リントヴルムより強い邪龍とデュークの異能なら、どうにかなると考えているのかもしれない。
「......デューク、お前は、勘違いしてる」
「何?」
俺は弓を構えながら、じりじりと後ずさる。
その動きを察知したのか、デュークは大胆にも少しずつ間合いを詰めてきた。
「気づいてるんだろ?その邪龍がお前に従うのは、お前の力なんかじゃない。その角は、俺のものだ。つまりお前のその力は、俺からの借り物ってことになる」
「......黙れ。これは、俺が手に入れた、俺の力だ!」
「人から借りた力で世界が獲れると思うか?お前は、そこまで馬鹿になっちまったのか!?」
「——!!」
デュークの眉間に、いくつもの皺ができる。
それでも、彼は動きそうになる足をぐっと堪えた。
「御託はいい。死にたくなければ、お前の魔術を使ってみせろ。使えるものならな」
「......分かったよ」
俺は薬瓶を取り出した。
勢いよく蓋を開け、内容物を口に含もうとした、その時。
——キシャアアアアアッッ!!
邪龍が咆哮し、一瞬そちらに気をとられる。
視線を戻した時には、デュークが地面を蹴り、鉤爪でこちらの喉元を掻き切ろうとしているところだった。
(——早い!)
ガァン、と鈍い音がする。
手にした弓に鉤爪を引っ掛け、首筋に達する前に止める。
矢を射るだけが、弓術じゃない。
同時に、ぱりん、と音がした。薬瓶が割れ、中から液体が染み出している。
だがそれは無色透明で、すぐに地面に染み込んだ。
「......水?」
「やっぱり、そうなるよな」
デュークが何を考え、何をしてくるのかなんて全くわからない。対話、交渉、策謀、攻撃。あらゆる選択肢が、彼にはあった。
だが彼がどの選択肢を取るとしても、その目に映っているのは、俺・だ・け・だ・。
俺は弓から手を離した。
次の瞬間、デュークの顔面に強烈な衝撃が叩き込まれる。
「——がっ」
腑抜けた音が、彼の口から漏れた。
何発か入れれば邪龍すら殺せる衝撃。それをただの人間がもろに受ければ、確実に即死だ。
ふぅーっ、と大きく息を吐く。
本当に、俺の魔術を使わずにどうにかなった。不可能に見えることでも、信じさえすれば案外できることは多い。
——キシャアアアアアッッッ!
一拍おいて、邪龍が咆哮と共にじたばたと暴れ出した。
デュークの亡骸を見ると、衝撃で角も粉々になっている。
「おい、これどうすんだ!?」
アルファスが慌てふためく。流石に、俺たち二人にこの邪龍をどうにかする術はない。
その時、周りの木々から次々と矢が放たれ始めた。
「撃てーっ!」
「アルファスさん、バニティ、お疲れ!」
「デュークさえいなけりゃ、こいつはただの木偶の坊だ!皆、俺たちだけでぶっ殺すぞ!」
同時に、森中を埋め尽くす声たち。
ざっと五十、いやそれ以上の狩人が、この森に集結していた。
「......こいつら、お前が集めたのか?」
「そんな訳ないだろ。皆、アルファスの人望があったから来たんだよ」
アルファスたちがリンドヴルムを討伐し損なったという知らせを受けて、より人員が必要になるとみた狩人たちは続々とハルバラ村に集まってきていた。
だが来てみると、状況はより複雑だった。邪龍はいないかもしれない。いることを証明しに行ったアルファスはなかなか帰って来ない。挙げ句の果てに、さらなる正体不明の邪龍まで現れ、狩人たちは完全に二の足を踏んでしまっていた。
俺はそんな彼らに、話を持ちかけただけだ。
ひとまず俺の後ろをついて行って、実際のところ何が起きているか確かめる。予想以上に悪い状況だったなら、無理せず戻ればいい。
実際、リントヴルムより遥かに強く、デュークという頭脳を持った邪龍は狩人たちの手に余った。
だが彼らはデュークさえいなければ対処可能と判断し、わざわざ残って機をうかがっていたのだ。
そこに打算しかなかったとは、俺は思わない。彼らはアルファスと共に狩りをしたことのある者ばかりだ。出来ることなら助けたい、そういう思いがあったに違いない。
「疲れた。弓はこんなんだし、俺はもう無理だ。......お前はどうだ?」
俺は戦場から少し離れた地面に座り込むと、アルファスに尋ねた。
するとアルファスは勝ち誇ったように笑い、立ち上がる。
「もちろん、俺はまだまだ平気だぜ」
ふらつきながら前線に戻ろうとするアルファスに、俺は薬瓶を投げる。
「忘れ物だ」
「あぁ、悪いな」
どう見ても平気じゃないアルファスを、本当は止めるべきなんだろう。
でも、それが彼の生き様だ。理解はできないが、尊重くらいはしてやってもいいような気がした。
樹々の切れ目から、日が沈んでいくのが見える。
もうすぐ、家に帰る時間だ。
俺はアルファスに尋ねる。
上空の邪龍を目印にここまで来たものの、アルファスの疲弊は予想以上だった。他の奴らはともかく、デュークと一緒にいないのもおかしい。
「状況は、最悪だ。最高なことにな」
アルファスは軽口混じりに、手短に説明した。
その内容は予想を大きく裏切るものだったが、あり得ないことではなかった。アンジェラの言っていた「リントヴルムの子供」説が正しいならば、親の形見を持ったデュークに従うのも、動物の本能としてはおかしな話ではない。
もっとも、邪龍は一般的な動物とはかけ離れているが。
「リントヴルムを一撃で倒した俺の異能なら、多分そいつも倒せると思う。場合によっては、デュークごと。......その代わり、リントヴルムと今回の邪龍、二匹分の手柄は俺にくれ」
俺は鞄から薬瓶を取り出した。もう一度あの異能が使えるという確証はないが、そうでなければ二人とも死ぬだけだ。
だが、アルファスは首を振った。
「てめぇ、もう寿命ねぇだろ。俺はそれについて罪悪感なんて一切ねぇが、てめぇの命と引き換えに助けられるなんて反吐が出る」
「無理するな。そんなこと言ってる場合じゃないだろ」
俺が諌めた瞬間、アルファスは俺を突き飛ばした。俺は尻餅をつく。
「......舐めんなよ。俺はまだやれる。生きる気がねぇなら、黙って見てろ!」
精一杯の強がり......には、見えなかった。
アルファスは本気で、二人で生きて帰る気でいる。それは、俺が思ってもみなかった道筋だった。
それと同時に、これまでになかった考えが頭に下りてくる。
この場所が、俺に異能をくれたあの声が、俺を生かそうとしているように感じた。
「わかったよ。ギリギリまで粘ろう。......そのために、一つ考えがある」
「何だ」
意外にも、アルファスはあっさり聞く姿勢を見せた。これまでなら、決してあり得なかった光景だ。
俺は思わずにやけてしまい、立ち上がりかけたところをまたアルファスに殴られた。
鬱蒼とした木々の中に、一つの咆哮が轟く。
邪龍は羽音を立て、ゆっくりと上空から下りてきた。
「......まさか、お前が来るとはな」
「意外か?俺は意外じゃない、デューク。お前なら、いつかアルファスを裏切ると思っていた」
デュークは眉尻を下げ、警戒を露わにする。
アルファスは俺の後ろで、今にも倒れそうになりながらデュークを睨みつけている。
鬼気迫るようなその眼に、流石にデュークも俺たちがただ死ぬつもりはないことに気づいたらしい。
「でもお前は、利口な奴だ。そうだろ?俺はリンドヴルムを一撃で仕留めた、魔術が撃てる。それを使えば、お前は終わりだ」
「だがそれを使えば、お前の寿命は一年縮む。残り僅かな、寿命がだ」
そう言いながら、デュースは邪龍から降り、少し距離をとった。
表情は動かないが、彼の心中は穏やかではないはずだ。彼にとって、俺は何をしでかすか予想がつかない危険人物なのだから。
「そうだ。だから、俺もできれば魔術なんて使いたくない。......その角をこちらに渡せ。今なら、何もかも邪龍のせいにできる。俺たちが黙っていればいい話だ」
俺は手のひらをデュークに向ける。
この交渉に応じてくれれば、それが一番いいに違いない。デュークは別のやり方で上を目指すべきだった。姑息でも卑怯でもいいから、こんなに血が流れないやり方で。
だが、デュークは眉間に皺を寄せ、首を振る。
「それはできない。これは、俺の力だ。今更手放せるものか」
そうくるだろうな、とは思っていた。
実際、デュークは俺の魔術そのものを見ているわけではない。ただのハッタリと思っているのかもしれないし、リントヴルムより強い邪龍とデュークの異能なら、どうにかなると考えているのかもしれない。
「......デューク、お前は、勘違いしてる」
「何?」
俺は弓を構えながら、じりじりと後ずさる。
その動きを察知したのか、デュークは大胆にも少しずつ間合いを詰めてきた。
「気づいてるんだろ?その邪龍がお前に従うのは、お前の力なんかじゃない。その角は、俺のものだ。つまりお前のその力は、俺からの借り物ってことになる」
「......黙れ。これは、俺が手に入れた、俺の力だ!」
「人から借りた力で世界が獲れると思うか?お前は、そこまで馬鹿になっちまったのか!?」
「——!!」
デュークの眉間に、いくつもの皺ができる。
それでも、彼は動きそうになる足をぐっと堪えた。
「御託はいい。死にたくなければ、お前の魔術を使ってみせろ。使えるものならな」
「......分かったよ」
俺は薬瓶を取り出した。
勢いよく蓋を開け、内容物を口に含もうとした、その時。
——キシャアアアアアッッ!!
邪龍が咆哮し、一瞬そちらに気をとられる。
視線を戻した時には、デュークが地面を蹴り、鉤爪でこちらの喉元を掻き切ろうとしているところだった。
(——早い!)
ガァン、と鈍い音がする。
手にした弓に鉤爪を引っ掛け、首筋に達する前に止める。
矢を射るだけが、弓術じゃない。
同時に、ぱりん、と音がした。薬瓶が割れ、中から液体が染み出している。
だがそれは無色透明で、すぐに地面に染み込んだ。
「......水?」
「やっぱり、そうなるよな」
デュークが何を考え、何をしてくるのかなんて全くわからない。対話、交渉、策謀、攻撃。あらゆる選択肢が、彼にはあった。
だが彼がどの選択肢を取るとしても、その目に映っているのは、俺・だ・け・だ・。
俺は弓から手を離した。
次の瞬間、デュークの顔面に強烈な衝撃が叩き込まれる。
「——がっ」
腑抜けた音が、彼の口から漏れた。
何発か入れれば邪龍すら殺せる衝撃。それをただの人間がもろに受ければ、確実に即死だ。
ふぅーっ、と大きく息を吐く。
本当に、俺の魔術を使わずにどうにかなった。不可能に見えることでも、信じさえすれば案外できることは多い。
——キシャアアアアアッッッ!
一拍おいて、邪龍が咆哮と共にじたばたと暴れ出した。
デュークの亡骸を見ると、衝撃で角も粉々になっている。
「おい、これどうすんだ!?」
アルファスが慌てふためく。流石に、俺たち二人にこの邪龍をどうにかする術はない。
その時、周りの木々から次々と矢が放たれ始めた。
「撃てーっ!」
「アルファスさん、バニティ、お疲れ!」
「デュークさえいなけりゃ、こいつはただの木偶の坊だ!皆、俺たちだけでぶっ殺すぞ!」
同時に、森中を埋め尽くす声たち。
ざっと五十、いやそれ以上の狩人が、この森に集結していた。
「......こいつら、お前が集めたのか?」
「そんな訳ないだろ。皆、アルファスの人望があったから来たんだよ」
アルファスたちがリンドヴルムを討伐し損なったという知らせを受けて、より人員が必要になるとみた狩人たちは続々とハルバラ村に集まってきていた。
だが来てみると、状況はより複雑だった。邪龍はいないかもしれない。いることを証明しに行ったアルファスはなかなか帰って来ない。挙げ句の果てに、さらなる正体不明の邪龍まで現れ、狩人たちは完全に二の足を踏んでしまっていた。
俺はそんな彼らに、話を持ちかけただけだ。
ひとまず俺の後ろをついて行って、実際のところ何が起きているか確かめる。予想以上に悪い状況だったなら、無理せず戻ればいい。
実際、リントヴルムより遥かに強く、デュークという頭脳を持った邪龍は狩人たちの手に余った。
だが彼らはデュークさえいなければ対処可能と判断し、わざわざ残って機をうかがっていたのだ。
そこに打算しかなかったとは、俺は思わない。彼らはアルファスと共に狩りをしたことのある者ばかりだ。出来ることなら助けたい、そういう思いがあったに違いない。
「疲れた。弓はこんなんだし、俺はもう無理だ。......お前はどうだ?」
俺は戦場から少し離れた地面に座り込むと、アルファスに尋ねた。
するとアルファスは勝ち誇ったように笑い、立ち上がる。
「もちろん、俺はまだまだ平気だぜ」
ふらつきながら前線に戻ろうとするアルファスに、俺は薬瓶を投げる。
「忘れ物だ」
「あぁ、悪いな」
どう見ても平気じゃないアルファスを、本当は止めるべきなんだろう。
でも、それが彼の生き様だ。理解はできないが、尊重くらいはしてやってもいいような気がした。
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