アウトロー ~追憶~

白川涼

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一章 ミュラー若かりし頃の過ち

失われた記憶①

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 城門から乱暴に衛兵によってつまみ出された。
 衣服だけ着せてくれたのは嬉しい。
 全裸で街中を散策されるかと、正直不安だった。

 しかしなんかボロボロで、カビ臭いな。

 「これ、囚人服なんじゃない......? なんか血の跡とかついてるよ......」
 狼女が聞きたくもない感想を告げた。
 そうだ、服だ。
 一昨日この街に来た時は、俺は故郷の軍服を着ていた。
 愛剣を携えて、新しく来たこの街を散策したのは覚えている。

 どこへいった?

 チンピラがゴブリンをぶん回しながら、喚き始める。
「会ったこともねー奴をこのだだっ広い城下町から見つけ出せだぁ!? ふざけんじゃねーぞ!」
 大声で叫んで、道端に落ちた石ころを拾い上げ、城に向かって投げつけた。

 なんて粗暴な奴だ、育ちの悪さがよく分かる行動だ。
 きっと子供の頃は野良猫とかを蹴っ飛ばしたりしたのだろう。
 とても仲良くできる奴には思えない。

 ん? 
 子供の頃? 
 そうだ致命的なことに気付いた!
 昨日の記憶がすっぽり抜け落ちてる!
 何一つ思い出せない!!

「誰か昨日のこと覚えている奴いるか? ささいなことでもいいんだ!」
 そう叫んで、二人に向かい合う。
 はっとした顔した二人は渋い顔をしながら、長い沈黙をして、無情にも首を横に振るった。

 嘘だろう!? 
 こんなことって普通あるか!? 

 俺は堪らず頭を抱えた。
 陰鬱した雰囲気の中、狼女が両手叩いて、明るい声で提案する。
「とりあえず、これから一緒に行動するんだし、状況整理も兼ねて自己紹介しようよ」


 どうやら狼女は、オルマという名で、獣族でこの街の生まれで、ここで漁師として暮らしているらしい。
 衝撃のあまり意識していなかったが、胸は妹たちより平らであった。
 自己紹介には無かったが、顔立ちから俺と同い年か、少し下の年齢だろう。
 正直俺好みなのだが、頭部にピンとたった獣族特有の耳が残念で仕方ない。
 この娘とは友達止まりだな、
 俺の恋愛対象外だ。

 一方チンピラの名はジラールという。
 汚らしく浅黒い肌、その風体から百姓育ちの平民出というのがよくわかる。
 寝ぐせも直しもしない。
 それにしてもみっともない無精髭だ。
 その印象通り下賤な傭兵で、この国で雇主を探すためにやってきた、俺と同じ外国人とのことだ。
 つまりはプーだな。
 詳しい年齢はわからない。
 しかし粗野な言動の節々から、とても大人らしさは感じられないため、多分同年代くらいだろう。


 オルマの勧めで彼女の職場でひとまず落ち着くことになった。
 ところでゴブリンがジラールに妙に懐いている。
 おそらく同族と勘違いしているのだろう。
 昼のベガスの町は人だかりが激しい。
 ずいぶんこの国は豊かで平和なのだろう。
 戦三昧の故郷とは大違いだ。
 世の中にはこんな土地もあったのか。
 そう思いふけって足を進めていたら、いつのまにか潮の薫りがしてきた。
 繁華街から海辺の町へと辿りつく。
 オルマがここに入れと言わんばかりに、寂びれた建物を親指で示した。

 『無法者の楽園』という看板が非常に気にかかったが、今はそんなことの脳みそを割くわけにはいかない。
 何しろ明日の昼には首がふっ飛ぶ。物理的に。

 ドアノブをひねり扉を開けた。

 目の前にはなぜか肌色の世界が広がっていた。
 もうもうと酒と汗のにおいがする湯気が立っている。
「「おー! それそれそれそれ! お前のいいトコ見てみたいッ! せーの! 一気! 一気! 一気! 一気!」」
「おいこら、ごちそうさまが聞こえないぞ!」
「「せーの! そ・そ・う! そ・そ・う!」」

 謎の野太い歓声が上がっている……。
 俺も詠唱はするが、こんな呪文は聞いたことがない……。
 なんて下品なかけ声だ......。
 正気を疑う。
 湯気が外に逃げると、その中で服も下着も一切身に着けず、全裸の集団が酒を酌み交わしていた。
 ちなみに全員、筋骨隆々で屈強そうな男たちだ。

 俺の脳内は真っ白になり、身体が硬直する。
 男たちがこちらを向き、その全ての視線が俺の身体を舐めたような気がした。
 数々の戦場をくぐり抜けてきたが、それとは別の恐怖感に心が折れそうになる。

 ぷるぷると震える俺の肩にジラールが手を置いた。
「これで俺たちが全裸だった謎が解けたな.....」
 呆然している二人をよそに、臆することなくオルマが生まれたままの姿の男達のもとへ駆け寄る。
「また、夜勤明けに飲んでるのー? せめて服は着てって言ったよね!?」
 裸の男達の一人が頭を搔きながらオルマに謝罪の言葉を放つ。
「すまん、すまん、昼勤組がいないとついなぁ」
 俺は口の中の水分を失い、かすれた声を出す。
「お前、こんな奴等と仕事してるのか?」
 その言葉に反応したオルマの目の前の全裸が俺に不満顔を向ける。
 前を隠さずに。
「こんなとは失礼な、これでもプロの漁師だ。一級のライセンスだってある」

 そんなことはどうでもいい、前をしまえ。前を! 

 オルマも抗議する。
「酒飲んで裸になるのはこいつらだけ! バイトで昼勤の女性陣がいないから、はしゃいじゃってんの!」
 それにジラールも反論する。
「こんな酒臭くて、男臭いところで落ち着いて話し合いなんてできるわけねーだろ!」
「二階のアタシの部屋に来てよ、そこならゆっくり話せるから!」

 俺は群がる肉塊をかきわけて、ふらつく足で二階への会談に向かう。


 前略、母上。このミュラーの旅には苦難が溢れているようです。
 故郷の清涼な山風が懐かしく思う、今日この頃です。
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