アウトロー ~追憶~

白川涼

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2章 ミュラー青春の謳歌

新歓コンパ

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 ミュラーは樽にたっぷりと浸さていた蒸留酒を一気飲みしていた。

 ミュラーの故郷の酒とは違い、ジャガイモと穀物を原料とした非常に度数の高い酒である。

 口内が刺すような痛みと焦熱感を包む。
 胃が燃え盛っているかのように熱さを覚える。
 体内に巡る血液が沸騰しているかのような錯覚を感じる。
 身体中が熱くたぎる。
 脳内は大地震に揺さぶられたかのように激震が走っている。
 自身の身体が酒で壊れていくのを実感した。

 しかしひたすら飲み続けても樽の中にはたっぷりの蒸留酒がまだ満たされている。
 これを飲み干すまで倒れることは許されない。
 それは敗北を意味する。

 ちらりと隣のジラールを見る。
 ジラールも顔真っ赤にしながらひたすら酒樽を一気飲みしている。
 しかし身体の震えから限界が伺える。

 二人は同じことを思った。

 早く酔いつぶれろ!

 そしてこうも思った。

 どうしてこうなったんだ!?

 時は逆上り、最終訓練を終え、ゴバ草原からベガスの街に無事帰還したミュラー、ジラール、オルマ、クロエの四人。

 チームの拠点である酒場、無法者の楽園で待っていたのは酒宴であった。

 ミュラーは戸惑った。
 無理もない、あれだけ生死をくぐり抜けた修羅場から宴が開かれるなど頭が追いつけなかったのだ。

 すぐに重傷だったフェンディの安否を確認する。
 ミュラーの心配をよそに彼女は何事も無かったかのように当たり前のように果実酒を飲んでいた。
 無くなった腕もなんと再生していた。

 ありえないと衝撃を受ける。
 無くなった腕を再生させるなんて、どんな魔法なのだろう。
 事情を聞いたら一言。
「治してもらった」
 その一言ですませ、宴席に四人を案内した。

 会場の中では屈強な男たちが杯を交わしあっていた。
 まだ服を着ていることから、まだ宴は始まったばかりだと理解した。

 その中心にはブシュロンが大きな盃から酒を豪快に飲み干していた。
 そしてミュラーたちの姿に気が付く。
 「研修終了おめでとう諸君! 改めて挨拶だ、ここのハンターチームのマスターをしているブシュロンだ。これからは同じハンターとして諸君の活躍に期待している。まずはチームメイトの紹介だな、アーペル来たまえ」
 すると黄金色の髪を腰まで伸ばした美女が姿を現した。
 エルフ特有の長耳と意思の強そうな太い眉が特徴的であった。
「サブマスターのアーペルだ。ポジションは後衛で、未熟だが魔法師だ。今後ともよろしく頼む。今日は災難だったな、存分に宴を楽しんでくれ」
 アーペルがそう自己紹介すると、酔った隻眼の男が割って入る。
「今日の主役の登場だ! そら! 一人、一人挨拶してくれや! おーい! 全員乾杯の挨拶するぞーー!!!」
 そう言われて、盃を持たされ、それに酒がそそがれていく。
「デルヴォーだ! 中衛で弓を担当してる! ああ、それと怪我したら俺に言えよ、複体修術で傷治してやるかんな!」

 ミュラー達四人はこの場にいる全員に注目される。

 どうしていいかわからない四人に代わって、フェンディが気を効かせて、代わりに乾杯の音頭をとる。
「今日ここに新たなハンター、アウトローが加わったわ! これから狩りの苦楽を共にする。途中で倒れる者もいるかもしれない。けどこの新たな仲間達のことは決して忘れないために今夜は盛大に祝い、忘れられない夜をここに刻もう! 乾杯!」

 そして渡された盃を口にする。
 酒が強いせいか、口当たりに強烈な刺激を与え、喉から胃の中まで焼きつける感覚に陥る。
 酒が染み渡り、身体を火照らせる。
 ミュラーとジラールは張り合うように、盃を飲み干す。
 オルマとクロエは一口飲んだだけだ。
 ミュラーの故郷の様な果物を原料に発酵させたものとは違い、透明な水のような酒だ。
 しかし酒の強さはケタ違いなのは今の一献でわかった。

 ジラールが語りかける。
「うちの国じゃエールって言って麦を発酵させたやつなんだが、こりゃ効くなぁ! 冷たいはずなのに飲むと口から火がでそうになる!」
 ジラールは酒を飲んで酔いが回り上機嫌に笑顔がこぼれる。
 対してミュラーはこの宴席で不安を感じていた。

 この男、見栄を張って一気飲みしたが実は下戸である。

 しかしミュラーも男であった。

 自分の弱みを曝け出すわけにはいかない。
 特に隣の男には。

 この宴会なんとしてでもやり過ごす!

 そんな二人のやりとりをみて、仲間の男たちが挨拶まじりに酌をそそぐ。
 それをジラールは豪快に飲み干す。
 その姿に感嘆の声が溢れる。
「今回の新人はずいぶん強いな」「これは期待できる」「まさに未来のハンターだ」

 隣にいたミュラーに焦りが走る。

 ここで弱みをみせるわけにはいかない、ジラールに負けまいと盃を一気に空にする。

 一同は喝采をあげる。

 それを見たデルヴォーは服を脱ぎだし、叫ぶ。
「ようし、先輩の威厳をみせてやんぜ! 俺とマスターに樽を用意しろ! 飲み比べてやんぜ!」
 こうして男たちは我も負けまいと服を脱ぎだし、樽を抱えての飲み比べが始まる。
 後にひけなくなったミュラーは無謀で不毛な闘いに身を投じる。

 対して、女性陣は果実酒を嗜み、酒場の端に座る若い男に酌をしていた。
「このたびは怪我を治して頂きありがとうございました、賢者様」
「カインで構わないよ。しかしブシュロンたちは相変わらずだな」
 フェンディとアーペルが深く頭を下げる。
「きつく言っておきます。今日は組合からの要請ですか?」
「それもあるけど、ベガス観光と友達に会いにね」
 カインは果実酒の匂いを嗅ぎながら、料理に手をつけた。
 フェンディに促されてクロエとオルマも酌をする。
「こんな美人さんの席を独占させてもらえるなんて、ブシュロンにはマジ感謝だよ。弟子にとってよかった」
 そう言われてアーペルは胸を撫でおろした。

 無理もない、目の前の青年は世界で三人しかいないといわれる賢者の一人。

 創世の魔術師カインなのだから。

 粗相があればハンター組合が瓦解するほどの力を持っている。
「君がオルマだっけ」
 カインがおそるおそる酌をするオルマの瞳をまじまじと見つめる。
「君には強い運命線を感じる。この激動の世界でも揺れない、強い運命を」
 オルマが不思議そうに首をかしげていた。
 フェンディは、またカインのナンパが始まったと顔をしかめる。

 すると突然裸のミュラーとジラールが現れる。

 四人の女性が急に険しい顔をするが、カインは涼しい表情を崩さない。
 裸の二人がグラスを差し出す。
「酔い覚ましに水をどうぞ」
「ああ、気が利くな」
 カインは二人に渡されたグラスを一気に飲み干した。
 刹那、カインの身体が震えだし、顔が真っ赤に染まり手に取ったグラスを落としてしまう。
「……何をした……?」
「とっておきのカクテルだ、この店で一番強い蒸留酒とニワトリの興奮剤を混ぜておいた」
「……この……クソガキ……」
 カインは力無く倒れ伏した。
 ジラールは彼を担ぎ上げ、男達の集団へと消えていく。
 泥酔したミュラーが呟く。
「全く、宴の席で服を着ているとは何事だ! ジラール! 裸にひん剥いて、踊り飲みをさせてやれ」
 ミュラーの言動と姿にクロエが溜息をつく。
「ずいぶん楽しんでるわね、ジラールとも仲良くなったみたいで」
 ミュラーにはクロエの言葉が届かない。

 ご機嫌な笑顔でミュラーは語りかける。
「ところでお前たちはいつまで服を着ているつもりだ?」

 場が凍り付く。

 そしてミュラーは力に任せてクロエのスカートを脱がそうとする。
 その行動にクロエは悲鳴を上げながら抵抗する。
 すかさずフェンディの回し蹴りがミュラーの後頭部に炸裂し、ミュラーは倒れ伏した。
「酒は飲んでも、飲まれるな! オルマもクロエも気を付けなさい。こいつらは草原の猛獣より厄介だから。マスター!粗相したこのアホに樽三杯飲ませておいて!」
 そしてミュラーもまた男たちの宴の中へと放り込まれる。

 酒宴は大いに猛る炎のようにおおいに盛り上がった。



 気が付くと俺は砂浜でこれから昇ろうとする水平線の朝日を眺めていた。
 深淵のように黒く染まった海を光の粒が輝かせながら、海原を徐々に青色へと変えていく。

 綺麗だ。

 振り向くと仲間達がその壮大な景色を並んで見ていた。
 ブシュロンが肩に手を置く。
「美くしいだろ? 私はね、思うんだ。この景色を見るために、この厳しいハントを続けていくんだと」
 デルヴォーが頷く。
「ああ、ここには毎日新しい世界が広がってやがんぜ」

 ミュラーも同じ想いを感じた。

 今まで見れなかった世界がここには無限に広がっている……。

 旅に出た意味はあったかもしれない。

 ジラールが盃をよこす。
「新世界に乾杯だ」
 二人でその美酒を味わう。

 美味かった。

 壮観な景色をただ身体で感じた。

 気持ちいいな……。

 刹那、全員の後頭部に衝撃が走った。
「いーかげん服を着ろ!!!!!」
 鬼の形相のアペールたちが仁王立ちしていた。

 俺達は逃げるように海中の中に潜った。

 青く透き通った海水は心地良さを与えてくれた。

 そのまま水底まで潜った。

 海に身体の全てを委ねて、自由と青春を謳歌した。
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