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2章 ミュラー青春の謳歌
夢のダービー②
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三羽の育成は困難を極めた。
まず騎手との相性が良くない。
相性といっても折り合いが悪いわけではなく、その騎乗スタイルに合っていなかったのだ。
ミュラーが強引な逃げでレースのペースを握り、ラストの直線では親の仇といわんばかりに鞭を放ち、勝ちをもぎ取る。
それで数多のレースを勝ってきたのだ。
だがミュラーの羅王はゲート難があり、とにかくスタートが悪い。
必然的に後方からのレースになるのだが、前に行きたがるミュラーが道中、ニワトリと喧嘩し、全く走る気を見せない。
ミュラー自慢の風車鞭も羅王には全く通じない。よく鞍から放り出されている。
そんなことなら後方の競馬を覚えてくれと、ブシュロンは頭を抱えた。
オルマはそつなくレースを運ぶことができ、逃げ、先行、差し、追い込みとどれも器用にこなせられるが、ミュラーのような強引さはなく、無難な闘鶏を好む。
ニワトリに合わせて走っていると言えば、折り合いをつけるのが一見上手いように見られるが、オルマの空星は賢い、賢すぎるのだ。
調教では基本的に息をするかのように手を抜く。
気が向いた時は目を疑うような走りを見せるが、おそらく訓練で疲れるのを嫌っているのだろう。
オルマはニワトリの顔を伺うような騎乗をするから、完全に舐められてしまっている。
こういうニワトリには厳しい手綱捌きが必要なのだ。
こいつがミュラーに乗ればいいのにと、ブシュロンは溜息をつく。
クロエはレースでのペース配分が非常に上手い。
ハイペースだろうが、スローペースだろうが自分の闘鶏ができている。
クロエが勝つパターンは道中でマークした有力馬を直線でかわすというのが多い。
しかしクロエの鈴鹿は臆病過ぎる。
鶏群の中に入るのをとことん嫌う。
単走ならいいタイムをもっているのに、混みあっている中をクロエが入り込もうとすると、容赦なく振り落とす。
これではレースができない。
クロエの持ち味も発揮できない。
しかしクロエは何度も騎乗し、鈴鹿に闘鶏を教える。
ネックは臆病なところ、そしてクロエが厳しいレースができないことだ。
クロエが地面に投げつけられるたびに、ブシュロンは冷や汗を掻く。
三羽の共通は気性難なところだ。
いいところもある、とにかく丈夫だ。
ブシュロンのどんな調教にも耐えられている。
坂路を走らせれば他のニワトリの数倍の数をこなせる。
これなら素晴らしい瞬発力をつけられるだろう。
気性難についてはこのニワトリの個性とみなそう、そうブシュロンは判断した。
もちろん最大限改善させるつもりだが、三人の騎乗スタイルに合わせるには無理がある。
ミュラーには、いっそ後方からのレースをしてくれと助言した。
最後方を直線で一気に抜き差す闘鶏の醍醐味を伝え、なるべくニワトリに合わせて走ってくれと言ったら、しぶしぶミュラーは承諾した。
オルマには、とにかくニワトリの機嫌をとってくれと頼んだ。
正直どんな走りをするか気まぐれだが、オルマの器用さなら合わせられると伝えた。
そしてレースでは鞭をふるうタイミングに気をつけるようにアドバイスした。
気合が入れば、空星は負けない。
オルマも強引なレース運びはいい勉強になるはずだ。
最後にクロエについてだが、この際、逃げの作戦をとってくれと頼んだ。
先頭を走れば、混みあいのレースもないし、何より鈴鹿の臆病な性格を逆手にとり、先頭を気持ちよく走らせ、レース終盤で鶏群が迫ってくる恐怖から逃げるように先頭を走り抜けてくれるだろう。
優しいクロエには常に鞭を振るうレースを強いられてしまうがこれも仕方なし。
クロエは最初顔を曇らせたが、先頭の景色を譲るなと激励したら、強く、意思が固まった顔をして頷いた。
そしてクラシックの時期が訪れた。
この三羽はデビュー勝ちはおろか、ブシュロンの重賞をプレゼントしてくれた。
こんなに強い闘鶏をしてくれるとはブシュロンの予想もつかなかった。
ミュラー 羅王号 12戦12勝
オルマ 空星号 4戦 4勝
クロエ 鈴鹿号 5戦 5勝
流石にミュラーにレースを連闘させ過ぎるとブシュロンは叱った。
このままじゃニワトリが故障する。
しかしミュラーはドヤ顔で返答した。
「問題ない、レースで羅王は鍛える。調教は軽めにしてくれ」
そんな言葉にブシュロンは深く溜息をついた。
しかしブシュロンの目を光らせたのはクロエの鈴鹿だ。
何より勝ち方がいい。
先日のレースでは作戦通り、先頭を走り続け、そのままゴールした。
ただの逃げ勝ちではない。
鈴鹿は確かに直線ラスト200メートルで二の脚を使い、再度加速させ他鶏を置き去りにしてレースを支配した。
クロエの腕にも感服した。通常のペース配分ではなく、鈴鹿の底力を信じてのペース配分だ。
今年こそダービーが取れるかもしれない。
ブシュロンの胸は高まった。
次走の弥生ステークスが楽しみだ。
今回はこの三羽が勝負を競うわけだからな。
弥生ステークス、2000メートルの中距離レース。クラシック有力鶏の殆どが参加するトライアルレースである。
その結果はオルマの空星の逃げ切り勝利であった。
レース後半にある坂でできるだけ脚を温存し、登りきったところでオルマは鞭を振るい、空星の勝負根性を遺憾なく発揮させた。
後方から直線一気に迫り来るミュラーの羅王とゴールまで叩きあいを演じるが鼻差での勝利をもぎ取った。
クロエの鈴鹿はというと、最後着であった。
クロエの騎乗ミスが原因だ。
ゲートで嘴をぶつけ、大きく出遅れてしまった。
スタートのタイミングをわずかではあるがクロエはミスしてしまったのだ。
どんなにクロエが追っても、鈴鹿の臆病な性格では鶏群の中にさえ入れない。
最初から最後まで後方にポツンとした寂しい闘鶏をしてしまったのだ。
クロエは鈴鹿の前で涙し、その嘴をさすりながら、何度も謝罪した。
「ごめんね、勝たせてあげられなくて……」
鈴鹿を抱き締め、激しく咽び泣いた。
しかし鈴鹿は優しい瞳をしながら、穏やかな鳴き声でクエっと囁き、その嘴でクロエの髪を撫でた。
己を責めているクロエを慰めるように。
その光景を見たブシュロンは思わず涙を流してしまった。
ブシュロンは初めて見たのだ。
人とニワトリが心を通わせている光景に。
まず騎手との相性が良くない。
相性といっても折り合いが悪いわけではなく、その騎乗スタイルに合っていなかったのだ。
ミュラーが強引な逃げでレースのペースを握り、ラストの直線では親の仇といわんばかりに鞭を放ち、勝ちをもぎ取る。
それで数多のレースを勝ってきたのだ。
だがミュラーの羅王はゲート難があり、とにかくスタートが悪い。
必然的に後方からのレースになるのだが、前に行きたがるミュラーが道中、ニワトリと喧嘩し、全く走る気を見せない。
ミュラー自慢の風車鞭も羅王には全く通じない。よく鞍から放り出されている。
そんなことなら後方の競馬を覚えてくれと、ブシュロンは頭を抱えた。
オルマはそつなくレースを運ぶことができ、逃げ、先行、差し、追い込みとどれも器用にこなせられるが、ミュラーのような強引さはなく、無難な闘鶏を好む。
ニワトリに合わせて走っていると言えば、折り合いをつけるのが一見上手いように見られるが、オルマの空星は賢い、賢すぎるのだ。
調教では基本的に息をするかのように手を抜く。
気が向いた時は目を疑うような走りを見せるが、おそらく訓練で疲れるのを嫌っているのだろう。
オルマはニワトリの顔を伺うような騎乗をするから、完全に舐められてしまっている。
こういうニワトリには厳しい手綱捌きが必要なのだ。
こいつがミュラーに乗ればいいのにと、ブシュロンは溜息をつく。
クロエはレースでのペース配分が非常に上手い。
ハイペースだろうが、スローペースだろうが自分の闘鶏ができている。
クロエが勝つパターンは道中でマークした有力馬を直線でかわすというのが多い。
しかしクロエの鈴鹿は臆病過ぎる。
鶏群の中に入るのをとことん嫌う。
単走ならいいタイムをもっているのに、混みあっている中をクロエが入り込もうとすると、容赦なく振り落とす。
これではレースができない。
クロエの持ち味も発揮できない。
しかしクロエは何度も騎乗し、鈴鹿に闘鶏を教える。
ネックは臆病なところ、そしてクロエが厳しいレースができないことだ。
クロエが地面に投げつけられるたびに、ブシュロンは冷や汗を掻く。
三羽の共通は気性難なところだ。
いいところもある、とにかく丈夫だ。
ブシュロンのどんな調教にも耐えられている。
坂路を走らせれば他のニワトリの数倍の数をこなせる。
これなら素晴らしい瞬発力をつけられるだろう。
気性難についてはこのニワトリの個性とみなそう、そうブシュロンは判断した。
もちろん最大限改善させるつもりだが、三人の騎乗スタイルに合わせるには無理がある。
ミュラーには、いっそ後方からのレースをしてくれと助言した。
最後方を直線で一気に抜き差す闘鶏の醍醐味を伝え、なるべくニワトリに合わせて走ってくれと言ったら、しぶしぶミュラーは承諾した。
オルマには、とにかくニワトリの機嫌をとってくれと頼んだ。
正直どんな走りをするか気まぐれだが、オルマの器用さなら合わせられると伝えた。
そしてレースでは鞭をふるうタイミングに気をつけるようにアドバイスした。
気合が入れば、空星は負けない。
オルマも強引なレース運びはいい勉強になるはずだ。
最後にクロエについてだが、この際、逃げの作戦をとってくれと頼んだ。
先頭を走れば、混みあいのレースもないし、何より鈴鹿の臆病な性格を逆手にとり、先頭を気持ちよく走らせ、レース終盤で鶏群が迫ってくる恐怖から逃げるように先頭を走り抜けてくれるだろう。
優しいクロエには常に鞭を振るうレースを強いられてしまうがこれも仕方なし。
クロエは最初顔を曇らせたが、先頭の景色を譲るなと激励したら、強く、意思が固まった顔をして頷いた。
そしてクラシックの時期が訪れた。
この三羽はデビュー勝ちはおろか、ブシュロンの重賞をプレゼントしてくれた。
こんなに強い闘鶏をしてくれるとはブシュロンの予想もつかなかった。
ミュラー 羅王号 12戦12勝
オルマ 空星号 4戦 4勝
クロエ 鈴鹿号 5戦 5勝
流石にミュラーにレースを連闘させ過ぎるとブシュロンは叱った。
このままじゃニワトリが故障する。
しかしミュラーはドヤ顔で返答した。
「問題ない、レースで羅王は鍛える。調教は軽めにしてくれ」
そんな言葉にブシュロンは深く溜息をついた。
しかしブシュロンの目を光らせたのはクロエの鈴鹿だ。
何より勝ち方がいい。
先日のレースでは作戦通り、先頭を走り続け、そのままゴールした。
ただの逃げ勝ちではない。
鈴鹿は確かに直線ラスト200メートルで二の脚を使い、再度加速させ他鶏を置き去りにしてレースを支配した。
クロエの腕にも感服した。通常のペース配分ではなく、鈴鹿の底力を信じてのペース配分だ。
今年こそダービーが取れるかもしれない。
ブシュロンの胸は高まった。
次走の弥生ステークスが楽しみだ。
今回はこの三羽が勝負を競うわけだからな。
弥生ステークス、2000メートルの中距離レース。クラシック有力鶏の殆どが参加するトライアルレースである。
その結果はオルマの空星の逃げ切り勝利であった。
レース後半にある坂でできるだけ脚を温存し、登りきったところでオルマは鞭を振るい、空星の勝負根性を遺憾なく発揮させた。
後方から直線一気に迫り来るミュラーの羅王とゴールまで叩きあいを演じるが鼻差での勝利をもぎ取った。
クロエの鈴鹿はというと、最後着であった。
クロエの騎乗ミスが原因だ。
ゲートで嘴をぶつけ、大きく出遅れてしまった。
スタートのタイミングをわずかではあるがクロエはミスしてしまったのだ。
どんなにクロエが追っても、鈴鹿の臆病な性格では鶏群の中にさえ入れない。
最初から最後まで後方にポツンとした寂しい闘鶏をしてしまったのだ。
クロエは鈴鹿の前で涙し、その嘴をさすりながら、何度も謝罪した。
「ごめんね、勝たせてあげられなくて……」
鈴鹿を抱き締め、激しく咽び泣いた。
しかし鈴鹿は優しい瞳をしながら、穏やかな鳴き声でクエっと囁き、その嘴でクロエの髪を撫でた。
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その光景を見たブシュロンは思わず涙を流してしまった。
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