35 / 58
2章 ミュラー青春の謳歌
夢のダービー③
しおりを挟む
皐月記念、三大クラシックの最初の一冠であり、もっとも速いニワトリが勝つと言われるレース。芝2000メートルの中距離レースである。
このレースで上位に入着した闘鶏はダービーへの優先出走権が手に入る。
最初のクラシックG1レースにその年の若鶏が集う。
ミュラー、オルマ、クロエも当然参戦する。
しかも三人の乗るニワトリが上位人気を占めていた。
1番人気 羅王 オッズ 3.4倍
2番人気 空星 オッズ 5.2倍
3番人気 鈴鹿 オッズ 8.5倍
ミュラーの羅王の戦績からすれば、当然であろう。
しかも前走のレースは負けたとはいえ、ほぼ同着であった。
もう一度走れば羅王が勝つ。
大衆は羅王に切符を賭けた。
そして前走でその羅王に土をつけたオルマの空星にも期待が集まった。
ここまで無敗で駆け抜けたニワトリだ。
この不敗神話がどこまで続くか、皆が注目した。
そして前走の弥生ステークスでは惨敗してしまったクロエの鈴鹿の人気も高かった。
今まで大差で逃げ切り続けたのだ。
弥生ステークスも騎乗ミスがなければどうなっていたかはわからない。
このニワトリの逃亡劇に観客達は魅せられていた。
クロエは内心思った。
一番人気は入らない、欲しいのは一着なんだ。
レース本入場の時、羅王に跨ったミュラーがオルマに険しい顔で話しかけようとした。
ミュラーは勝つためなら手段を選ばない。
例え一番人気になっても、クロエの燃えるような闘志を見抜き、万全を期すため、あらゆる布石を打つ。
鈴鹿が前走で負けた最大の原因、そして致命的な弱点である極端なまでの臆病な気性を見破っていた。
「オルマ、仕掛けるぞ。スタートで全力で前にいけ、俺はクロエに並んで競り合う。削るだけヤツの体力を削る。二人で挟み込むんだ。絶対にクロエに自分の闘鶏をさせるな、ヤツが鶏群に沈んでか勝負するぞ」
オルマは深く頷く。
二人は知っていた。クロエの鈴鹿の底力を。
そして、恐れていた。
それだけパドックで鈴鹿に乗っていたクロエの気迫は鬼気迫るようなものだったのだ。
全てのニワトリがゲート入りし、ファンファーレが響きわたった。
そしてゲートが開く。
先頭に踊りでたのはミュラーの羅王だった。
一瞬場内はどよめく、出遅れ気質のニワトリが好スタートを切ったことに驚きを隠せないでいた。
そしてそれにオルマの空星も続く。
二人はマークしようとした相手を確認しようと振り返る。
瞬間、白い影が二人の愛鶏を抜き去った。
まるでゴール目前のような激しい手綱捌きでクロエが追うように先頭を駆け抜けてしまった。
その瞬間を見たオルマは悪寒が走った。
クロエと鈴鹿の気迫に怯んでしまったのだ。
こうなっては後ろで控えるレースをせざるえなくなる。
だがミュラーは違った。
羅王に何度も鞭を入れ、クロエの鈴鹿に競り合う形で先頭争いをする。
こうなっては当初の作戦は台無しだが、羅王の底力を信じ、体力の削り合いを選択したのだ。
ミュラーは隙あらば羅王の身体をぶつけるつもりで、並走していた。
しかしいくらぶつけても、クロエは平然としていた。
鈴鹿はこゆるぎもしなかったのだ。
スタートから1200メートルを走りきった時、最初にレースの違和感に気付いたのは、クロエから少し離れた後方に位置にいる先行したオルマだった。
ペースやばくない? ひょっとしてヤバいくらいのハイペースなんじゃ……?
ブシュロンは時計を見て驚愕した。
1200メートルを一分5秒だと!?
コースレコードを遥かに超えている!
こんなハイペースは前代未聞だ!
このままだと三羽とも潰れるぞ!!
第四コーナーを抜けて、最後の直線400メートルになった時、バテバテの鶏群を連れ、オルマの空星が猛追する。
しかしその脚は伸びなかった。
心臓破りの坂がオルマ達に立ちふさがる。
残り200メートル、二頭の叩き合いが繰り広げられた。
当然クロエの鈴鹿も体力は限界だった。
だが底抜けの精神力と鈴鹿のずば抜けた肺活量が二の足、三の足を使い、先頭をひたむきに走らせることができたのだ。
ミュラーも負けまいと風車鞭を放つ、しかし羅王は限界だった。
嘴から泡を吹き、ミュラーを放り投げ、レースから脱落してしまった。
ターフに叩きつけられたミュラーが思わず呟く。
「……あれは化け物だ、殺す気か……」
クロエの鈴鹿はゴール板を駆け抜き、最後まで先頭の景色を譲らなかった。
荒い息を全力でする鈴鹿をクロエは優しく撫でる。
ガッツポーズもせず、辛いレースをしてくれた鈴鹿を労い続けた。
後に狂気のハイペースと呼ばれる、伝説のレースとなった。
コースレコードを記録し、皐月記念のトロフィーをクロエの鈴鹿はブシュロンにプレゼントした。
そしてブシュロンは確信した。
クロエと鈴鹿なら、次走のダービーどころか、三冠だってとれる!
クロエは嬉しさの余り泣き崩れた。
自慢の愛鶏が誰よりも速いことが証明できたことに感極まったのだ。
この子とずっと先頭の景色を見続けるんだという熱い想いがこみ上げた。
そんなクロエの様子を見かねた鈴鹿は嘴で優しくクロエの髪を撫でる。
そして迎えた闘鶏ダービー当日、一番人気をもぎ取った鈴鹿は飛ぶ鳥の勢いでスタートから先頭をひた走る。
ミュラーもオルマも策は捨てた。
ただ自分の闘鶏に徹しようと。
騎乗するニワトリの力を信じた。
遠くで先頭を走るクロエと鈴鹿が眩しく思えた。
クロエと鈴鹿は先頭の光景を眺めながら、実に伸び伸びとしたレースをしていた。
まるで闘鶏を楽しんでいるかのように。
ミュラー、オルマは離されながらも必死に前方集団へと位置する。
流石にクロエの鈴鹿をマークすることはできないが、前回のような失態を犯すまいと、レースペースを守り、愛鶏の脚を温存し、互いのニワトリの力を信じた。
逃亡を続けたクロエ達はさらに後方を遥か彼方まで引き離した。
小さく見えなくなるまで。
今回も前回のレースに迫るハイペースなのに、その逃亡劇は実に華麗なレースをしていた。
観衆の誰もが見惚れた。
そして誰もがダービーは鈴鹿のものだと確信していた。
第二コーナーでミュラーの手綱が動く、まるで直線一気の豪脚が爆発する。
これで離されたクロエとの距離を縮めようとする。
しかしそれは叶わなかった。
いくらミュラーが追っても、その差は縮まらない。
クロエの鈴鹿は道中なのに二の足で大飛びをし、柔らかいフォームで勢いよく前を先行し、その差をさらに広げる。
そのレースぶりにを後ろで見たミュラーとオルマは驚嘆する。
まるで走ってる次元が違う。
その悠然とした走りに観客は激しい歓喜の声を上げる。
誰もが今回のダービーは鈴鹿が取る。
誰もが確信した。
しかし悲劇は第四コーナーで起きた。
クロエの鈴鹿が急に失速し、慌てて、クロエがその背を降りる。
しかし今はレース中だ。
このままでは他のニワトリに激突される。
それでもクロエは鈴鹿を庇うように寄り添った。
異変に気付き、ミュラーとオルマも手綱を締め、クロエを守る形で二羽で壁を作った。
他のニワトリたちが二羽を避けて、ラストの直線まで走り抜けたところで二人がクロエに駆けつける。
ブシュロンも観客席から飛び出し、クロエの元へと走り寄る。
なんと鈴鹿の片方の前脚が折れていたのだ。
ブシュロンの顔が青ざめた。
ニワトリの骨折は死を意味する。
二足歩行が出来なくなったニワトリは身体の機能に異変を起こし、苦しみながら死ぬ。
だからすぐ安楽死処分される。
鈴鹿も例外ではない。
クロエは大粒の涙を流しながら、鈴鹿を抱きしめた。
そして謝罪の言葉をうわごとのように何度も繰り返す。
「ごめんね……ごめんね……ごめんね……ごめんね……」
そんな悲しい顔をしたクロエをまた慰めるように鈴鹿はその大きな嘴で顔を撫でる。
ブシュロンは驚愕した。
本来骨折したニワトリはその痛みに耐えられず、暴れたり、喚いたりするものだが、鈴鹿は違った。
もう自分がクロエと長くいられないことを悟っていたのだ。
そしてクロエを励ますように優しく寄り添った。
ありえない。
こんな光景は見たことがない!
ブシュロンは驚きと同時に胸を打たれた。
溢れる涙を堪えながら、鈴鹿を処置室へと運んだ。
最後までクロエを気遣うかのように鈴鹿は優しく鳴き声を上げ続けた。
クロエは泣き叫び続けた。
鈴鹿の最後の姿を見ながら心が枯れるまで泣き続けた。
鈴鹿はそれを諭すように優しく鳴いていた。
その鳴き声にその場にいた四人だけでなく、観衆の全員が心を動かされた。
そして皆が沈黙し、溢れた涙をこぼした。
一月後、鈴鹿の眠る墓にクロエは鎮魂の祈りを捧げていた。
クロエはショックのあまり、あれ以来騎乗することができないでいた。
誰も声をかけることができなかった。
だが空気を読まないミュラーは違った。
鈴鹿の墓前で菊のトロフィーを供えていた。
「お前がいないおかげで勝てたぞ」
と神経を疑うような言葉を放つ。
クロエはひたすら無視し、祈り続けた。
すると鈴虫の鳴き声が聞こえ始めた。
まるで鈴鹿の鳴き声かと思うくらい似ていた。
辛かった、だがそれ以上に楽しく、嬉しいひと時を懐かしんだ。
その鈴の鳴る声でクロエは立ち上がる。
そしてミュラーに勇んだ声を弾ませ、告げた。
「来年はダービーのトロフィーを鈴鹿に供えるわ」
クロエは雲の彼方を見げた。
あの空で元気に鈴鹿は走っているんだろうと、願いを込めて想いを馳せる。
鈴の鳴く音がクロエの心に明かりを灯した。
このレースで上位に入着した闘鶏はダービーへの優先出走権が手に入る。
最初のクラシックG1レースにその年の若鶏が集う。
ミュラー、オルマ、クロエも当然参戦する。
しかも三人の乗るニワトリが上位人気を占めていた。
1番人気 羅王 オッズ 3.4倍
2番人気 空星 オッズ 5.2倍
3番人気 鈴鹿 オッズ 8.5倍
ミュラーの羅王の戦績からすれば、当然であろう。
しかも前走のレースは負けたとはいえ、ほぼ同着であった。
もう一度走れば羅王が勝つ。
大衆は羅王に切符を賭けた。
そして前走でその羅王に土をつけたオルマの空星にも期待が集まった。
ここまで無敗で駆け抜けたニワトリだ。
この不敗神話がどこまで続くか、皆が注目した。
そして前走の弥生ステークスでは惨敗してしまったクロエの鈴鹿の人気も高かった。
今まで大差で逃げ切り続けたのだ。
弥生ステークスも騎乗ミスがなければどうなっていたかはわからない。
このニワトリの逃亡劇に観客達は魅せられていた。
クロエは内心思った。
一番人気は入らない、欲しいのは一着なんだ。
レース本入場の時、羅王に跨ったミュラーがオルマに険しい顔で話しかけようとした。
ミュラーは勝つためなら手段を選ばない。
例え一番人気になっても、クロエの燃えるような闘志を見抜き、万全を期すため、あらゆる布石を打つ。
鈴鹿が前走で負けた最大の原因、そして致命的な弱点である極端なまでの臆病な気性を見破っていた。
「オルマ、仕掛けるぞ。スタートで全力で前にいけ、俺はクロエに並んで競り合う。削るだけヤツの体力を削る。二人で挟み込むんだ。絶対にクロエに自分の闘鶏をさせるな、ヤツが鶏群に沈んでか勝負するぞ」
オルマは深く頷く。
二人は知っていた。クロエの鈴鹿の底力を。
そして、恐れていた。
それだけパドックで鈴鹿に乗っていたクロエの気迫は鬼気迫るようなものだったのだ。
全てのニワトリがゲート入りし、ファンファーレが響きわたった。
そしてゲートが開く。
先頭に踊りでたのはミュラーの羅王だった。
一瞬場内はどよめく、出遅れ気質のニワトリが好スタートを切ったことに驚きを隠せないでいた。
そしてそれにオルマの空星も続く。
二人はマークしようとした相手を確認しようと振り返る。
瞬間、白い影が二人の愛鶏を抜き去った。
まるでゴール目前のような激しい手綱捌きでクロエが追うように先頭を駆け抜けてしまった。
その瞬間を見たオルマは悪寒が走った。
クロエと鈴鹿の気迫に怯んでしまったのだ。
こうなっては後ろで控えるレースをせざるえなくなる。
だがミュラーは違った。
羅王に何度も鞭を入れ、クロエの鈴鹿に競り合う形で先頭争いをする。
こうなっては当初の作戦は台無しだが、羅王の底力を信じ、体力の削り合いを選択したのだ。
ミュラーは隙あらば羅王の身体をぶつけるつもりで、並走していた。
しかしいくらぶつけても、クロエは平然としていた。
鈴鹿はこゆるぎもしなかったのだ。
スタートから1200メートルを走りきった時、最初にレースの違和感に気付いたのは、クロエから少し離れた後方に位置にいる先行したオルマだった。
ペースやばくない? ひょっとしてヤバいくらいのハイペースなんじゃ……?
ブシュロンは時計を見て驚愕した。
1200メートルを一分5秒だと!?
コースレコードを遥かに超えている!
こんなハイペースは前代未聞だ!
このままだと三羽とも潰れるぞ!!
第四コーナーを抜けて、最後の直線400メートルになった時、バテバテの鶏群を連れ、オルマの空星が猛追する。
しかしその脚は伸びなかった。
心臓破りの坂がオルマ達に立ちふさがる。
残り200メートル、二頭の叩き合いが繰り広げられた。
当然クロエの鈴鹿も体力は限界だった。
だが底抜けの精神力と鈴鹿のずば抜けた肺活量が二の足、三の足を使い、先頭をひたむきに走らせることができたのだ。
ミュラーも負けまいと風車鞭を放つ、しかし羅王は限界だった。
嘴から泡を吹き、ミュラーを放り投げ、レースから脱落してしまった。
ターフに叩きつけられたミュラーが思わず呟く。
「……あれは化け物だ、殺す気か……」
クロエの鈴鹿はゴール板を駆け抜き、最後まで先頭の景色を譲らなかった。
荒い息を全力でする鈴鹿をクロエは優しく撫でる。
ガッツポーズもせず、辛いレースをしてくれた鈴鹿を労い続けた。
後に狂気のハイペースと呼ばれる、伝説のレースとなった。
コースレコードを記録し、皐月記念のトロフィーをクロエの鈴鹿はブシュロンにプレゼントした。
そしてブシュロンは確信した。
クロエと鈴鹿なら、次走のダービーどころか、三冠だってとれる!
クロエは嬉しさの余り泣き崩れた。
自慢の愛鶏が誰よりも速いことが証明できたことに感極まったのだ。
この子とずっと先頭の景色を見続けるんだという熱い想いがこみ上げた。
そんなクロエの様子を見かねた鈴鹿は嘴で優しくクロエの髪を撫でる。
そして迎えた闘鶏ダービー当日、一番人気をもぎ取った鈴鹿は飛ぶ鳥の勢いでスタートから先頭をひた走る。
ミュラーもオルマも策は捨てた。
ただ自分の闘鶏に徹しようと。
騎乗するニワトリの力を信じた。
遠くで先頭を走るクロエと鈴鹿が眩しく思えた。
クロエと鈴鹿は先頭の光景を眺めながら、実に伸び伸びとしたレースをしていた。
まるで闘鶏を楽しんでいるかのように。
ミュラー、オルマは離されながらも必死に前方集団へと位置する。
流石にクロエの鈴鹿をマークすることはできないが、前回のような失態を犯すまいと、レースペースを守り、愛鶏の脚を温存し、互いのニワトリの力を信じた。
逃亡を続けたクロエ達はさらに後方を遥か彼方まで引き離した。
小さく見えなくなるまで。
今回も前回のレースに迫るハイペースなのに、その逃亡劇は実に華麗なレースをしていた。
観衆の誰もが見惚れた。
そして誰もがダービーは鈴鹿のものだと確信していた。
第二コーナーでミュラーの手綱が動く、まるで直線一気の豪脚が爆発する。
これで離されたクロエとの距離を縮めようとする。
しかしそれは叶わなかった。
いくらミュラーが追っても、その差は縮まらない。
クロエの鈴鹿は道中なのに二の足で大飛びをし、柔らかいフォームで勢いよく前を先行し、その差をさらに広げる。
そのレースぶりにを後ろで見たミュラーとオルマは驚嘆する。
まるで走ってる次元が違う。
その悠然とした走りに観客は激しい歓喜の声を上げる。
誰もが今回のダービーは鈴鹿が取る。
誰もが確信した。
しかし悲劇は第四コーナーで起きた。
クロエの鈴鹿が急に失速し、慌てて、クロエがその背を降りる。
しかし今はレース中だ。
このままでは他のニワトリに激突される。
それでもクロエは鈴鹿を庇うように寄り添った。
異変に気付き、ミュラーとオルマも手綱を締め、クロエを守る形で二羽で壁を作った。
他のニワトリたちが二羽を避けて、ラストの直線まで走り抜けたところで二人がクロエに駆けつける。
ブシュロンも観客席から飛び出し、クロエの元へと走り寄る。
なんと鈴鹿の片方の前脚が折れていたのだ。
ブシュロンの顔が青ざめた。
ニワトリの骨折は死を意味する。
二足歩行が出来なくなったニワトリは身体の機能に異変を起こし、苦しみながら死ぬ。
だからすぐ安楽死処分される。
鈴鹿も例外ではない。
クロエは大粒の涙を流しながら、鈴鹿を抱きしめた。
そして謝罪の言葉をうわごとのように何度も繰り返す。
「ごめんね……ごめんね……ごめんね……ごめんね……」
そんな悲しい顔をしたクロエをまた慰めるように鈴鹿はその大きな嘴で顔を撫でる。
ブシュロンは驚愕した。
本来骨折したニワトリはその痛みに耐えられず、暴れたり、喚いたりするものだが、鈴鹿は違った。
もう自分がクロエと長くいられないことを悟っていたのだ。
そしてクロエを励ますように優しく寄り添った。
ありえない。
こんな光景は見たことがない!
ブシュロンは驚きと同時に胸を打たれた。
溢れる涙を堪えながら、鈴鹿を処置室へと運んだ。
最後までクロエを気遣うかのように鈴鹿は優しく鳴き声を上げ続けた。
クロエは泣き叫び続けた。
鈴鹿の最後の姿を見ながら心が枯れるまで泣き続けた。
鈴鹿はそれを諭すように優しく鳴いていた。
その鳴き声にその場にいた四人だけでなく、観衆の全員が心を動かされた。
そして皆が沈黙し、溢れた涙をこぼした。
一月後、鈴鹿の眠る墓にクロエは鎮魂の祈りを捧げていた。
クロエはショックのあまり、あれ以来騎乗することができないでいた。
誰も声をかけることができなかった。
だが空気を読まないミュラーは違った。
鈴鹿の墓前で菊のトロフィーを供えていた。
「お前がいないおかげで勝てたぞ」
と神経を疑うような言葉を放つ。
クロエはひたすら無視し、祈り続けた。
すると鈴虫の鳴き声が聞こえ始めた。
まるで鈴鹿の鳴き声かと思うくらい似ていた。
辛かった、だがそれ以上に楽しく、嬉しいひと時を懐かしんだ。
その鈴の鳴る声でクロエは立ち上がる。
そしてミュラーに勇んだ声を弾ませ、告げた。
「来年はダービーのトロフィーを鈴鹿に供えるわ」
クロエは雲の彼方を見げた。
あの空で元気に鈴鹿は走っているんだろうと、願いを込めて想いを馳せる。
鈴の鳴く音がクロエの心に明かりを灯した。
10
あなたにおすすめの小説
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
勇者の隣に住んでいただけの村人の話。
カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。
だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。
その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。
だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…?
才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる