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第8話 正義
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「これで負傷者は全員運べたな。」
俺とイヴは、かろうじて息のある隊員達を居住区として使われていた部屋に運び終える。負傷者の半数は応急処置も虚しく息を引き取った。
「残ったのはたったの数人か。」
部屋は負傷者の呻き声で溢れていた。手首から先が無くなった者、頸動脈を貫かれ出血多量で死んだ者。一瞬にしていくつもの命が失われた。
そんな地獄のような空間に、血だらけのガイルが戻ってきた。
「よく生き残った…お前ら。」
余裕そうな笑みを浮かべているが、息が上がっており明らかに重症だった。
「ガイルさん!」
彼は俺の目を見るなり、その場で体勢を崩して膝をついた。俺は慌てて彼の巨大な身体を支える。
「すまねぇな、お前ら。全部俺の責任だ。だが安心しろ、ターゲットはどっちもぶっ殺しといた。」
その言葉を聞いて俺は安堵のため息をつく。イヴがフェンタニル鎮痛剤をガイルに渡し、暗い表情で話す。
「すいませんガイルさん。負傷者のほとんどは助けられませんでした。」
それを聞いたガイルは、鎮痛剤を投与して少し笑いながら答える。
「何言ってんだよバカ野郎。衛生兵じゃあるめーし、少しでも救えただけ十分だわ。」
その言葉に、俺たちは少し救われたような気がした。
「さ、とっととずらかろうぜ。」
彼はそう言ってボロボロの身体で立ち上がる。
「こちらガイル、ミライ?聞こえてるか?」
復旧したての無線機から少し荒い音声が聞こえてくる。
「こちらミライ、聞こえてます。」
「悪いが基地まで車寄越してくれるか?」
5分後、俺たちは負傷者を連れて基地の入口まで移動する。その間も意識が途切れそうな隊員に声をかけ続ける。
ようやく車が入口までやってきた。
「隊長!どうしたんですかその怪我は!?」
車から降りてくるなり、彼女は急いでガイルの元へ駆け寄る。
「心配すんな、平気だ。」
「他のみんなは?」
その問いかけに、ガイルはしばし沈黙した。
「隊長?」
ミライが他の隊員に目を移すと、目を背けたくなるほどの怪我人ばかり。それで彼女はなんとなく察した。
「…隊長がご無事でよかったです。急いで基地に戻りましょう。救出した民間人は深刻な容態だったので、先に基地に送り届けました。」
「ああ、わかった。」
基地に帰還している間、車内は信じられないほど静寂に包まれていた。あの状況を目にして、話したいとも思わないが。
ようやく基地に戻ってこれた。今回も運良く生き残ることができた。俺はいつも何もできてない。あの時だって。
「クソ…ミッチェルの野郎どこだ。」
車から降りるなり、ガイルは血だらけのまま司令部テントへと急いで向かう。
彼が勢いよくテントの中に入り、ミッチェル大佐が座っている机を思い切り叩く。
「おい、ミッチェル。」
「なんだ。」
「なぜターゲットが夫婦だってことを伝えなかった。」
大佐はコーヒーを机に置き、眉をひそめる。
「何の話だ?」
「指輪だ、左手薬指。同じ刻印入りだった。ただの関係者じゃない。あれは夫婦だ。」
「ガイル、それは作戦を遂行するにあたって必要な情報なのか?」
「当たり前だ。」
大佐は深いため息を付いてガイルに言う。
「それよりもガイル、お前は今すぐに医療テントに行け。」
ガイルは怒りに体を震わせながらも、舌打ちをしてテントを後にした。1人になったテントで、大佐は独り言をつぶやく。
「わかっているさガイル。H.S.B.のやり方が気に食わないことくらい。私だって同じさ…」
そう言ってコーヒーを1口飲むのだった。
翌日朝早くに大佐に呼ばれ、俺とイヴは司令部テントへと向かった。
「おはよう、よく眠れたかな?」
大佐はポットから熱々のコーヒーを入れ席に着く。
「君たち2人は、ケイル奪還作戦に大きく貢献し、そして生き延びた。よって、直ちにダールマイトに行き、授神式に出るんだ。」
「え、それってつまり…」
「ああ、君たちはデイヴァナイトだ。」
俺は今すぐに喜びたい思いをぐっと押し殺す。
「ヘリは用意してある。準備が終わり次第声をかけるといい。君たちの今後の活躍に期待する。ご苦労であった。」
そう言って大佐は敬礼した。
「光栄であります!」
俺たちも敬礼し、テントを後にした。
「ようやくだな…!」
「ああ、そうだな。」
そう言ってイヴも小さくガッツポーズした。
準備を終えた俺たちは、基地を去る前にガイルの元へ向かうことにした。
「ガイルさん。」
「おう、お前らか。」
「怪我の方は大丈夫ですか?」
そう聞くと、彼は腕をバシッと叩いて答える。
「あたりめぇだろ?それよりどうしたんだ、見舞いになんか来なくていいんだぞ?」
「俺たち、デイヴァナイトになれるんです。もうすぐここを去ります。」
そう言うと、彼の表情が少し暗くなった。
「お、おお…そうか。よかったじゃねぇか!」
「色々とお世話になりました!」
俺たちは深々と頭を下げて礼を言う。
「ああ、こっちこそ部下を救ってくれて助かったぜ。」
「次会う時は、デイヴァナイトになって…もっと立派な姿で戻ってきます。それでは、お身体にお気を付けて。」
「お前らも、死ぬなよ。」
敬礼し、医療テントを後にしようとした時、ガイルから呼び止められる。
「ゼン、イヴ。」
振り返ると、彼は怒りのような、寂しさのような表情をしてこう言った。
「正義を信じるな。」
その言葉がどういう意味なのか、ヘリの中でずっと考えていた。だがどれだけ考えても結局わからなかった。
よく正義とはなにかと聞かれるが、俺の答えは決まっている。大切な人を守り、それに危害を加えようとする者なら誰であろうと排除する…それが、俺にとっての正義だ。
俺とイヴは、かろうじて息のある隊員達を居住区として使われていた部屋に運び終える。負傷者の半数は応急処置も虚しく息を引き取った。
「残ったのはたったの数人か。」
部屋は負傷者の呻き声で溢れていた。手首から先が無くなった者、頸動脈を貫かれ出血多量で死んだ者。一瞬にしていくつもの命が失われた。
そんな地獄のような空間に、血だらけのガイルが戻ってきた。
「よく生き残った…お前ら。」
余裕そうな笑みを浮かべているが、息が上がっており明らかに重症だった。
「ガイルさん!」
彼は俺の目を見るなり、その場で体勢を崩して膝をついた。俺は慌てて彼の巨大な身体を支える。
「すまねぇな、お前ら。全部俺の責任だ。だが安心しろ、ターゲットはどっちもぶっ殺しといた。」
その言葉を聞いて俺は安堵のため息をつく。イヴがフェンタニル鎮痛剤をガイルに渡し、暗い表情で話す。
「すいませんガイルさん。負傷者のほとんどは助けられませんでした。」
それを聞いたガイルは、鎮痛剤を投与して少し笑いながら答える。
「何言ってんだよバカ野郎。衛生兵じゃあるめーし、少しでも救えただけ十分だわ。」
その言葉に、俺たちは少し救われたような気がした。
「さ、とっととずらかろうぜ。」
彼はそう言ってボロボロの身体で立ち上がる。
「こちらガイル、ミライ?聞こえてるか?」
復旧したての無線機から少し荒い音声が聞こえてくる。
「こちらミライ、聞こえてます。」
「悪いが基地まで車寄越してくれるか?」
5分後、俺たちは負傷者を連れて基地の入口まで移動する。その間も意識が途切れそうな隊員に声をかけ続ける。
ようやく車が入口までやってきた。
「隊長!どうしたんですかその怪我は!?」
車から降りてくるなり、彼女は急いでガイルの元へ駆け寄る。
「心配すんな、平気だ。」
「他のみんなは?」
その問いかけに、ガイルはしばし沈黙した。
「隊長?」
ミライが他の隊員に目を移すと、目を背けたくなるほどの怪我人ばかり。それで彼女はなんとなく察した。
「…隊長がご無事でよかったです。急いで基地に戻りましょう。救出した民間人は深刻な容態だったので、先に基地に送り届けました。」
「ああ、わかった。」
基地に帰還している間、車内は信じられないほど静寂に包まれていた。あの状況を目にして、話したいとも思わないが。
ようやく基地に戻ってこれた。今回も運良く生き残ることができた。俺はいつも何もできてない。あの時だって。
「クソ…ミッチェルの野郎どこだ。」
車から降りるなり、ガイルは血だらけのまま司令部テントへと急いで向かう。
彼が勢いよくテントの中に入り、ミッチェル大佐が座っている机を思い切り叩く。
「おい、ミッチェル。」
「なんだ。」
「なぜターゲットが夫婦だってことを伝えなかった。」
大佐はコーヒーを机に置き、眉をひそめる。
「何の話だ?」
「指輪だ、左手薬指。同じ刻印入りだった。ただの関係者じゃない。あれは夫婦だ。」
「ガイル、それは作戦を遂行するにあたって必要な情報なのか?」
「当たり前だ。」
大佐は深いため息を付いてガイルに言う。
「それよりもガイル、お前は今すぐに医療テントに行け。」
ガイルは怒りに体を震わせながらも、舌打ちをしてテントを後にした。1人になったテントで、大佐は独り言をつぶやく。
「わかっているさガイル。H.S.B.のやり方が気に食わないことくらい。私だって同じさ…」
そう言ってコーヒーを1口飲むのだった。
翌日朝早くに大佐に呼ばれ、俺とイヴは司令部テントへと向かった。
「おはよう、よく眠れたかな?」
大佐はポットから熱々のコーヒーを入れ席に着く。
「君たち2人は、ケイル奪還作戦に大きく貢献し、そして生き延びた。よって、直ちにダールマイトに行き、授神式に出るんだ。」
「え、それってつまり…」
「ああ、君たちはデイヴァナイトだ。」
俺は今すぐに喜びたい思いをぐっと押し殺す。
「ヘリは用意してある。準備が終わり次第声をかけるといい。君たちの今後の活躍に期待する。ご苦労であった。」
そう言って大佐は敬礼した。
「光栄であります!」
俺たちも敬礼し、テントを後にした。
「ようやくだな…!」
「ああ、そうだな。」
そう言ってイヴも小さくガッツポーズした。
準備を終えた俺たちは、基地を去る前にガイルの元へ向かうことにした。
「ガイルさん。」
「おう、お前らか。」
「怪我の方は大丈夫ですか?」
そう聞くと、彼は腕をバシッと叩いて答える。
「あたりめぇだろ?それよりどうしたんだ、見舞いになんか来なくていいんだぞ?」
「俺たち、デイヴァナイトになれるんです。もうすぐここを去ります。」
そう言うと、彼の表情が少し暗くなった。
「お、おお…そうか。よかったじゃねぇか!」
「色々とお世話になりました!」
俺たちは深々と頭を下げて礼を言う。
「ああ、こっちこそ部下を救ってくれて助かったぜ。」
「次会う時は、デイヴァナイトになって…もっと立派な姿で戻ってきます。それでは、お身体にお気を付けて。」
「お前らも、死ぬなよ。」
敬礼し、医療テントを後にしようとした時、ガイルから呼び止められる。
「ゼン、イヴ。」
振り返ると、彼は怒りのような、寂しさのような表情をしてこう言った。
「正義を信じるな。」
その言葉がどういう意味なのか、ヘリの中でずっと考えていた。だがどれだけ考えても結局わからなかった。
よく正義とはなにかと聞かれるが、俺の答えは決まっている。大切な人を守り、それに危害を加えようとする者なら誰であろうと排除する…それが、俺にとっての正義だ。
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