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プロローグ 始動

鍛錬あるのみ 1

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 目が醒めた。部屋に備え付けられた時計は午前6時を示している。
 重い頭を起こしながら大きく欠伸をした。
 少し寝過ぎてしまったようだ。目を擦りながら自分の荷物を取り出す。
 ラップトップにスマートフォン、そしてスマートグラス。許可が降りないだろうと思っていたが、先日確認したら許可が取れた。
 それ以外は着替えと参考書、趣味のCDぐらいしか持ってきていない。
 それにしても口がカラカラだ。昨日寝たのが午後8時ぐらいなので10時間ほど水分をとっていないことになる。もっと言えば昨日の歓迎会の時もほとんど飲み物を口にしていないので12時間ほどか。
 紅隊では4日間永遠と歩き続ける訓練があったのでそれに比べれば大分マシだ。あの訓練で多くの人が脱落したことを今でも思い出す。あの時は辛かった。
 地図を見ると1階に食堂があるらしい。腹も減った。ドアを開け、鍵を閉めて食堂へと向かった。

 食堂は自由に使っていいと入り口に書いてあった。中に入ってみると、中は割と広い。長机が3つに自販機、そしてキッチン。
 幸いにもウォーターサーバーがあったので、棚からコップを取り出して注いで飲み干す。喉がひんやりと潤されていく。
 食堂内には誰もいない。朝日の光がガラスを通り抜けてよく当たる。大きく伸びをした。気持ちいい。すると、
 「…おはよう、マックス。」
 入り口の方を振り返るとモーガンがいた。
 「おはよう。水、いる?」
 と僕が聞くと、モーガンは言葉を出さずに頷いた。
 モーガンは椅子に座ってまだうとうとしている。
 モーガンの分の水を注いで渡そうとしたとき、ヴィクターがやってきた。
 「おはようございます…って、なんだ、2人しかいないじゃん。」
 「おはよう。」と2人も返す。
 確かに、普通このぐらいの時間だとみんな起きてきそうなものだが、人の気配がしない。学校でよく朝は躾けられたものだが…。
 「モーガン大丈夫?寝不足みたいだけど。」
 モーガンらしくない。昨日はイレギュラーな寝方だったとしてもこのぐらいになると頭は冴えるはずだ。
 モーガンが口を開く。
 「昨日、悪夢を見てな。詳しい内容は覚えてないんだが…それで夜中に目が醒めちまって。だからちょっと寝不足気味だ。」 
 全て0円の自販機からサンドウィッチを取り出しモーガンの隣に座って食べながら話す。
 「そりゃ…災難だね。今日から研修らしいけど…」
 モーガンは大きく背筋を伸ばして、
 「ああ。大丈夫だ。…やってやるさ。」
 そこにヴィクターがやってきて、
 「ならいいけど。集中しないとダメだよ?」
 そう言うとサンドウィッチを食べ始めた。
 そのあとは無言で朝食の時が流れた。
 僕が食べ終わりゴミを捨てようと立った瞬間、ドアが開いた。
 「やあ、みんな。おはよう。」
 イアンの声だった。
 「おはようございます。」
 「おはようでーす。」
 「…おはようごさいます。」
 相変わらずヘラヘラしている。しかし身だしなみはしっかり整えてきているようだ。
 「昨日一個伝え忘れたことがあってね。…今君たちが疑問に思っていることだよ。他の奴らはどこに行ったんだ?…あいつらなら今日は全員休みにしておいた。最近なかなか外出させてやれなかったからね。君たちは変わらず研修だよ。」
  何か変だとは思っていたが、まさか休みだったとは。
 「緊急事態になったらどうせ軍の方が出てくるんだから俺たちは関係ないよ。」
 モーガンはヴィクターに渡されたコーヒーで目が醒めたようで、すっかり元気になった。
 「イアンさん。今日の研修はいつからなんですか?」
 「あぁ、えーっと。午前10時から。研修って言ってもそんな厳しくはしないよ。君たちのことは信用してるから。じゃ、また数時間後。」
 話すだけ話してイアンは帰っていった。
 「…やっぱり、嵐みたいな人だね。イアンさん。」
 ヴィクターが苦笑いしながら言う。
 「はは…じゃあ、俺、飯も食い終わったし自分の部屋帰るわ。」
 僕はそう言うと、2つ並んだ食洗機にコップを入れた。ボタンの横に『食洗機はギリギリまで使用しないこと!』とメモが貼ってある。
 そうして2人に別れを告げ、自分の部屋へと戻っていく。
 幸いにも時間は多い。自分の部屋の整理をしておかなければ。荷物は昨日からずっとバッグにしまったままだ。
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