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プロローグ 始動

鍛錬あるのみ 2

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午前10時 第一作戦室
 「よし、みんな揃ったみたいだな。今回の研修を務めるローレンス・ナイマンと、」
 「毎度お馴染み、イアンだ。」
 「まあ、みんな最初だろうし、色々勉強してもらうことも多い。…一番大事なのは仲間を知ること。そこで、これだ。」
 椅子に座った3人にどさっと大量の資料と、履歴書のようなものが渡された。
 「その資料には俺たちHACの全メンバーのこれまでの経歴と実績が残されている。後ろの方に戦闘記録などの参考資料も載せておいた。」
 確かに、膨大な量だ。4~6時間ぐらいはかかるだろうか。
 「それをもう一つ渡した履歴書の用紙の方に分析、考察した記録を記入してくれ。…時間は問わないし、内容も自由だ。書く内容は少なくていいから、資料を読むことを専念してほしい。終わった者から休憩に入れ。…なあに、どうせそんな差がつかないことは分かっているから安心しろ。」
 3人は「わかりました。」と頷いて作業を始める。
 「そうそう、赤のラベリングがしてある人は君たちのチームメンバーだから、覚えといて。ヴィクターの場合はないけどね。」
 そう言うとイアンは部屋を出ていった。ローレンスはノートパソコンで作業をしている。

 クリップで留められた履歴書の用紙をパラパラとめくる。赤で印づけられた紙を前の方に揃えた。名前と顔、全身の写真は既に貼り付けられていてあるのでありがたい。
 …最初は自分から始めることにしよう。その方が勝手がわかる。
 マックス・ベル。出身はイギリス南西部ウェールズのアベルマイス村。母親は他界し、父親は現在行方不明。
 (そう…父が行方不明になった2013年からずっと親戚のおばさんに育てられたんだよな。)
 2013年と言うと分裂した共和制ロシアとロシア民政国の間にある国、ネジバージで起きた事件があった。

 ネジバージ動乱。ネジバージは第二次世界大戦後にできた国で、資本主義のヨーロッパと共産主義の中国・共和制ロシア、どちらの陣営に着くかの決断を強いられていた。ネジバージ政府は資本主義陣営に支援してもらうために、イギリスに石油資源の共同開発を行うことを決める。
 しかし、政府内に共産主義派が潜んでおり、中国側と密かに石油資源に関する協定を結ぶ。
 そのことが原因で内戦が勃発。両陣営も石油だけではなく基地に適した地形、豊富な土壌などを理由に両陣営は支援を行うが内戦は長期化。2015年、両陣営は撤退を決断。しかし、現在も停戦はしておらず、局地的な戦闘が継続されている。
 
 父がこの事件に関係しているのかはわからない。父は僕をしっかり育ててくれた。今、ここに僕がいるのも父の教育の賜物だ。
 しかし、父の本業は未だに知らない。あんな辺鄙な町にある射撃場などいつ潰れてもおかしくないのに、今まで不自由ない生活を送れていた。父を疑いたくないが、裏があったとしか思えないのが事実だ。それ以上のことは全く分からない。

 そんなことを思いながらペンを走らせる。
 ハーグランド国立士官学校では紅隊に所属。全ての能力が高水準だが、中でも秀でているのが咄嗟の状況判断能力。
 基地を襲撃された想定の緊急訓練では的確な指示をチームに出し、敵を殺害、捕獲にも成功している。
 欠点は多少強引な作戦を立案すること。完璧な任務遂行を求めるあまりチームメンバーの能力以上のことを要求してしまう。
 性格は真面目で訓練以外では基本的に自室で過ごしていた。
 こんなものか。…にしても、本当に詳しい資料だ。4年間の成績から試験のデータまで全てがまとめられている。読むのに数十分費やすほどだ。
 モーガン・ライナー。母親と父親は13歳の時に離婚し、母親の元で暮らすこととなった。
 ハーグランド国立士官学校で紅隊に所属。マックスと同期に当たるがグループが異なっていたので交流は今までなかった。
 射撃の能力は群を抜いて高いが、感情を優先して行動することがあり、損害は出なかったものの命令違反として1週間の出席停止を命じられた。
 仲間想いで応急処置に精通しており、戦闘訓練にて事故が発生した際に一般訓練生3名、教官1名の救助に当たり、賞状を授与されている。
 今まで知らなかったが、すごい射撃精度だ。
 狙撃試験で射手、観測手共に高得点を叩き出している。これは単純に射撃技術が高いわけではなく、観測手は観察力、集中力などが求められるので、そういった能力があるということだ。ありとあらゆる状況で対応できるというのは動かしやすい。
 
 さて、次は…スティーヴンか。
 
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