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第四章 帝国の象徴〈承〉
17 舞台の終幕
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── 帝城・執務室 ──
西日が差し込み、書類の山に影を落としていた。
静まり返った執務室に、黒髪をまとめ上げた侍女が音もなく進み出て、深く一礼する。
「陛下。……本日の件、王女に果物ナイフを隠し持たせてしまったのは、私の落ち度にございます。申し訳ありません」
その声音は震えも取り乱しもなく、ただ事実を報告するように淡々としていた。
机上のペンが止まり、静寂が落ちた。
やがて、ダリオスは口元に薄い笑みを浮かべる。
「……だが結果としては、なかなか見応えのある舞台になった。あの刃がなければ、あの舞台は生まれなかった」
ミレイユの瞳が一瞬だけ揺れたが、すぐにまた無表情へ戻る。
ダリオスはその様子を見やり、わずかに目を細めた。
「ならば――お前の落ち度もまた、悪くはなかったということだ」
ミレイユは静かに顔を上げる。
その黒瞳に感情の色はなく、ただ短く一礼した。
「御意」
ダリオスはその様子に、ふっと苦笑した。
── 帝城・大広間 ──
高天井に広がる重厚な装飾。
石造りの柱が連なり、冷えた空気がひそやかに流れている。
帝国の旗がずらりと掲げられた玉座の前に、亡国の者たちが鎖に繋がれ、跪かされていた。
磨かれた石床にひざをつく音、鎖の軋む音だけが、空間に淡く響く。
左右に整列した兵士たちが無言で睨みを利かせ、
その後方では貴族らが静かに並び、好奇と侮蔑と冷淡を綯い交ぜにした視線を向けている。
かすかな衣擦れすら耳につくほど、場は張り詰めていた。
その一角。
飾り気のない衣を纏った王女が、孤独に立っていた。
ただまっすぐ、玉座の前を見据えている。
罪状が読み上げられる声が、石壁にくぐもって反響する。
「帝国の秩序を乱そうと企てた罪」
「武力をもって陛下の威光を傷つけようとした罪」
その一言ごとに、空気が一段深く沈み込んでいく。
「これらの罪は極めて重罪であり、本来であれば――死罪に処すべきものである」
場に、一瞬の静寂。
そして、玉座から低く、重々しい声が響いた。
「だが――この者たちの命は奪わぬ。労役に服させ、罪を贖わせる」
ざわ、と広間が揺れる。
貴族たちが顔を見合わせ、兵士らが眉を動かす。
誰もがその言葉の意味を計ろうとし、
やがて視線は一斉に、傍らの王女へと向けられた。
そのとき、広間の片隅――柱の陰に控えていた一人の侍女が、わずかに瞬きを止める。細く添えられていた指先が、一瞬だけかすかに強ばり、すぐにまた静けさへと戻った。
進み出るように命じられた王女は、静々と進み出て、
硬い石の上に膝をついた。
そして、ゆるやかに頭を垂れる。
「……皇帝陛下の慈悲に、深く感謝申し上げます」
その声が空間に静かに反響する。
澄んだ響きは、まるで鐘の音のように――帝国の威光を高らかに刻み込んでいった。
――第一幕・了――
西日が差し込み、書類の山に影を落としていた。
静まり返った執務室に、黒髪をまとめ上げた侍女が音もなく進み出て、深く一礼する。
「陛下。……本日の件、王女に果物ナイフを隠し持たせてしまったのは、私の落ち度にございます。申し訳ありません」
その声音は震えも取り乱しもなく、ただ事実を報告するように淡々としていた。
机上のペンが止まり、静寂が落ちた。
やがて、ダリオスは口元に薄い笑みを浮かべる。
「……だが結果としては、なかなか見応えのある舞台になった。あの刃がなければ、あの舞台は生まれなかった」
ミレイユの瞳が一瞬だけ揺れたが、すぐにまた無表情へ戻る。
ダリオスはその様子を見やり、わずかに目を細めた。
「ならば――お前の落ち度もまた、悪くはなかったということだ」
ミレイユは静かに顔を上げる。
その黒瞳に感情の色はなく、ただ短く一礼した。
「御意」
ダリオスはその様子に、ふっと苦笑した。
── 帝城・大広間 ──
高天井に広がる重厚な装飾。
石造りの柱が連なり、冷えた空気がひそやかに流れている。
帝国の旗がずらりと掲げられた玉座の前に、亡国の者たちが鎖に繋がれ、跪かされていた。
磨かれた石床にひざをつく音、鎖の軋む音だけが、空間に淡く響く。
左右に整列した兵士たちが無言で睨みを利かせ、
その後方では貴族らが静かに並び、好奇と侮蔑と冷淡を綯い交ぜにした視線を向けている。
かすかな衣擦れすら耳につくほど、場は張り詰めていた。
その一角。
飾り気のない衣を纏った王女が、孤独に立っていた。
ただまっすぐ、玉座の前を見据えている。
罪状が読み上げられる声が、石壁にくぐもって反響する。
「帝国の秩序を乱そうと企てた罪」
「武力をもって陛下の威光を傷つけようとした罪」
その一言ごとに、空気が一段深く沈み込んでいく。
「これらの罪は極めて重罪であり、本来であれば――死罪に処すべきものである」
場に、一瞬の静寂。
そして、玉座から低く、重々しい声が響いた。
「だが――この者たちの命は奪わぬ。労役に服させ、罪を贖わせる」
ざわ、と広間が揺れる。
貴族たちが顔を見合わせ、兵士らが眉を動かす。
誰もがその言葉の意味を計ろうとし、
やがて視線は一斉に、傍らの王女へと向けられた。
そのとき、広間の片隅――柱の陰に控えていた一人の侍女が、わずかに瞬きを止める。細く添えられていた指先が、一瞬だけかすかに強ばり、すぐにまた静けさへと戻った。
進み出るように命じられた王女は、静々と進み出て、
硬い石の上に膝をついた。
そして、ゆるやかに頭を垂れる。
「……皇帝陛下の慈悲に、深く感謝申し上げます」
その声が空間に静かに反響する。
澄んだ響きは、まるで鐘の音のように――帝国の威光を高らかに刻み込んでいった。
――第一幕・了――
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