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第1章 転生したら村人Dだっただ

転生したら村人Dだっただ Part1

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「おはよう、天井くん。今日も良い朝だね。」
職業 引きこもりニートの鈴村 輪太郎(すずむら りんたろう)は、現実世界に友達がいない。
中学生の頃にいじめられた事が原因で学校に行けなくなり、28歳になった今現在まで家の自室から出られなくなった。
だから今挨拶をしたのは文字通り自分の部屋の天井だ。
天井は目が醒めたら1番最初に会う友達だから欠かさず挨拶をしている。
いわゆる空想上の友達(イマジナリーフレンド)だ。
「よう、輪太郎‼︎今日は何するんだ?」
天井が元気よく頭の中で語りかけてくれる。
「うーん、デルトラストで遊ぶかなあ。」
最近輪太郎がはまっているオンラインファンタジーRPGだ。
「そっかそっか、あれは面白そうだからな。おれも身動き取れたら遊びてぇくらいだ。」
天井が羨ましそうにしている。彼も築後30年ずっと同じ姿勢で過ごしてるんだ。
退屈にもなるだろうなと考えていると、話しを聞いていた新型ゲーム機プレイスペース5が優しいセクシーなお姉さん口調で語りかけてきた。
「ねえ、輪ちゃん。デルトラストでもいつもパーティ組まないで独りで遊んでるけど、お友達作ってみたら?ボイチャとかも出来るゲームなんでしょ?」
「うん、考えてみるよ。でも独りの方が自由だし楽なんだよね。」
そう言うと輪太郎はプレイスペース5を起動した。
輪太郎自身もこのままではいけないと心の何処かでは思っている。
いつまでも公務員として共働きをしている優しい両親の脛をかじる訳には行かないし、せめてオンライン上だけでも人と交流して、いずれは家の外に出れるようになりたいと思っている。
恩返しを兼ねて親孝行をしたいと思っている。
だけど中学時代に受けたトラウマがどうしても人と関わる事を拒絶してしまう。
「とりあえず、飯食いながらデルトラストやるか。」
いつも両親が仕事に行く前に部屋の外に食事を用意してくれている。
今日は大好物の納豆餅だ。
お餅の上に納豆をかけただけの物だが、ご飯と一緒に食べるよりも納豆の粘り気と餅のモチモチ感が混ざり合い絶妙なハーモニーを奏でてマジで美味い。
「さて、このお決まりなBGM流れてるし、そろそろボスが近い頃かな?」
餅をほおばりながら恐る恐る主人公を操作する。
「がぁぁぁぁぁぁ‼︎‼︎」
突然画面アップに恐ろしい姿をしたゾンビのようなモンスターが現れた。
「うぐっ」
輪太郎は警戒していたとはいえ、あまりの迫力の演出に驚いて頬張っていた餅を喉につまらせてしまった。
苦しい。
「輪太郎‼︎麦茶を飲め‼︎」
天井がアドバイスをくれ気が付き、コップに注がれていた麦茶に手を伸ばそうとするも
慌ててたため手を滑らしお茶を全てこぼしてしまった。
「うぐぅぅぅぅぅ」
ヤバイ、苦しい。死ぬ。こんなとこで俺死ぬのか。
部屋からまた出れるようになりたかったな。
自由に外の世界へ。でも死んだら天国で自由に走り回って冒険出来るのかもな。
意識が段々薄れてゆく中、輪太郎はそんな事を漠然と考えていた。
頭が真っ白になり、視界は真っ黒になった。
「みつけた。」
突然頭の中に声が響いた。老人の声だろうか。聴いた事の無いしわがれた男の声だ。
天井でもプレイスペース5でも他の友達の声でも無い。
死ぬ間際に新しい友達が出来たのだろうか?
「錬成開始。ボディー適合がかなり良い数値だ。アンチRP数値も期待出来る。これならもしや。」
何を訳が解らない事を言ってるんだ。
「イーリスにようこそ、わしの可愛い人形。」
その声が、僕が輪太郎として聴いた最後の声だった。

part2に続く







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